米欧の断裂、「最悪」への覚悟 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「米欧の断裂、「最悪」への覚悟」です。





米欧関係の危機をここまで率直に記した文書は見たことがない。

「最悪のシナリオに備えなければならない」。欧州連合(EU)首脳会議を前にポーランド出身のトゥスクEU大統領が27日に域内首脳に出した書簡は、トランプ大統領が率いる米国との著しい緊張関係をこう表現した。

7カ国(G7)首脳会議(シャルルボワ・サミット)を早退しながら、欧州各国や議長国カナダの批判に憤って首脳宣言への署名を拒んだトランプ氏。傍若無人な振る舞いで戦後70数年の同盟関係に及ぼした亀裂は、修復しがたい断裂に変わりつつある。

トゥスク氏が覚悟する「最悪」とはなにか。私は米国と欧州の関係悪化と同時に、トランプ政権によるEUという超国家の枠組みの切り崩しが複合的に起きていく事態なのではないかと考える。

「ドイツの対米感情はジョージ・W・ブッシュ元大統領の時期よりも悪化した」。ベルリンやミュンヘンを最近訪れた元ホワイトハウス当局者はこう話す。「さらに深刻なのは、米政権がそれで構わないと思っていることだ」

端的な例がある。トランプ氏の肝煎りで起用されたグレネル駐ドイツ大使は着任早々の5月、米国が欧州の反対を無視して決めたイラン核合意の離脱を受け、すぐに「ドイツ企業は直ちにイランビジネスを中止すべきだ」とツイッターでつぶやいた。

指先から命令調のメッセージを送るという、トランプ流の手法を踏襲した大使。米右派メディアの取材には、極右と組んで政権を樹立したオーストリアのクルツ首相を「ロックスター」と称賛した。「欧州の保守勢力の復活を心から望んでいる」とも述べた。

2003年、ブッシュ政権によるイラク戦争への参加をドイツとフランスが拒否し、米欧の関係は冷え切った。当時の米議会はフレンチフライを「フリーダム・フライ」と改称し、国防長官は独仏を「古い欧州」と批判した。それでも当時は自由貿易や多国間主義といった価値観は共有できていた。

トランプ政権はその価値観すら顧みず、旧来秩序をひっくり返すことで「米国第一」の路線をひた走ろうとする。具体的には、過去に例のない3つの圧力を欧州の代表格であるドイツを中心にかけている。

筆頭はもちろん貿易を巡る対立。関税による輸入制限の応酬で始まった摩擦を、通商問題の本丸である自動車分野にまでエスカレートさせていく展開だ。

トランプ氏は大統領への就任時から「ニューヨークの5番街にメルセデスやBMWの車がひしめいている」とドイツ車の流入に再三不満を述べてきた。EUが報復関税を導入すると「貿易障壁をなくさなければ輸入車に20%の関税を課す」とツイートで主張した。最大の打撃を被るのはドイツだ。

第二は安全保障だ。北大西洋条約機構(NATO)に加わるドイツの国防費は国内総生産(GDP)比で約1%にすぎない。米国の3%半ばをはるかに下回るドイツの「過少負担」をトランプ氏は重ねて批判する。EU内にもドイツの負担が小さいとの不満の声はくすぶる。7月中旬に開くNATO首脳会議で米欧首脳がG7サミットのような混乱を再演すれば、埋めがたい溝ができてしまう。

第三は移民問題だ。「移民問題で揺らぐ弱い連立政権にドイツの人々は背を向けている」。トランプ氏は18日、地方選を控えた姉妹政党から弱腰を批判されて政権維持の正念場にあるメルケル政権の移民政策の「失敗」を強調するようなツイートを投稿した。反移民で強権的な政権を率いるハンガリーのオルバン首相とも電話会談するなど、移民政策でEUを露骨に揺さぶっている。

多国間の体制を嫌い、一対一の取引を志向するトランプ氏。最近の動きはEUという枠組みの結束を乱し、貿易や安全保障を巡る取引で有利な立場を得ようとする意図がにじむ。

「米国第一」の要求に応じる国は持ち上げ、そうでない国には圧力をかけて優位に立とうとする。米政権の新しい外交は世界の「常態」になりつつある。

G7サミットを「G6+1」という孤立の構図にしてでも自らの国益確保にまい進する米国。国際社会はやりたい放題に動くトランプ政権を嘆くだけでは意味がなく、困難を打開する戦略の練り直しが急務になっている。

多国間ルールを無視してトランプ大統領が繰り出す無理難題の要求には、利害をともにする国々が連携して毅然と反論し、拒否をしなければならないのは当然だ。同時に、トランプ政権の誕生をもたらした米国社会の感情変化にも、目配りをする必要がある。

トランプ大統領の欧州批判は西側同盟が抱える問題の核心を突いている――。こんな論考を、独ツァイト紙のビットナー氏が20日の米ニューヨーク・タイムズ紙で展開した。「戦後体制を保つ人的、資金的な負担を米国は過剰に負わされていると感じている」。防衛のコストを免れながら大学無償化や手厚い医療を実現してきた欧州の「ただ乗り」を突いたものだ。

自由主義や西洋の民主主義といった当たり前の概念が一斉に再検証の時を迎えている。米国に安全保障を依存する日本は何を負担し、地球規模の課題解決でどう貢献するのか。欧州が「最悪のシナリオ」を想定し始めたいま、日本も欧州とともに、米国との向き合い方を見直す必要がある。



世論調査考 安倍内閣 強さともろさ(4) 立民支持層 反政権で純化 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「世論調査考 安倍内閣 強さともろさ(4) 立民支持層 反政権で純化」です。





野党の支持率が伸び悩んでいる。日本経済新聞社の22~24日の世論調査では、政党支持率は自民党が44%なのに対し、衆院で野党第1党の立憲民主党は9%にとどまる。共産党は4%、日本維新の会は1%ともっと低く、5月に結党した国民民主党に至っては0%だ。野党の支持基盤の薄さが安倍内閣の強さにつながっている面もある。

不祥事に厳しく

2017年10月の衆院選で立ち上がった立憲民主党は、選挙直後の同年11月の支持率が14%。その後は9~14%で推移する。内閣支持率が大きく落ち込んだ18年3~5月も同党の支持率はほとんど増えていない。

どんな人が立憲民主党を支持しているのか。17年11月上旬の立憲民主支持層の内閣支持率は14%、不支持率は85%だった。不支持率が上回る傾向は最近はさらに強まっている。18年5月には内閣支持率はわずか1%、不支持率は98%に達した。6月も9割以上が不支持にまわったままだ。

このことは、同党支持層内の安倍内閣に対する主張が均質になり、政権批判という点で党内の純化が進んでいることを表している。第2次安倍内閣発足時の12年12月、当時の野党第1党の民主党を支持する層では3~4割が内閣を支持した。当時は野党支持層のなかにも安倍内閣の支持層が一定数いたことがわかる。

立憲民主支持層は政権の不祥事に対する姿勢も厳しい。学校法人「森友学園」への国有地売却問題が決着したかを聞いた今月の質問で「決着していない」は全体の75%に対し、立憲民主支持層では9割を超えた。学校法人「加計学園」の問題に関する首相と加計孝太郎理事長の主張についても、立憲民主支持層は9割超が「納得できない」とした。

立憲民主党は支持層の声に応え、安倍政権への追及を強めている。ただ先鋭化するほど、穏健路線も探る国民民主党などとの温度差が鮮明になり、野党全体としてはまとまりを欠く。

政権との徹底対決か、それとも時に協調か。どこまで他の野党と共闘するか。野党は自ら進むべき道を常に悩んできた。

小沢一郎氏らが1994年12月につくった新進党は発足当初の政党支持率が15%。結成からの平均は12%で、解党した97年12月は5%だった。橋本内閣との連携を探ったこともあり、党内をまとめきれず、瓦解した。

民・由合併で上昇

09年に政権交代する民主党の場合、98年発足時の支持率は10%。高支持率の小泉内閣下だった01~03年も10%台から抜け出せなかったが、浮上のきっかけが03年9月の自由党との合流だった。同年12月の調査で支持率が28%に上昇すると、その後は20%を割りにくくなり、07年の第1次安倍内閣末期で44%を記録。初めて自民党の支持率を超えた。

非自民勢力が結集すれば、安倍内閣をおびやかす存在になり得る。

=おわり

おわり

甲原潤之介、白岩ひおなが担当しました。



「一帯一路」対抗、ソフトパワーで 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「「一帯一路」対抗、ソフトパワーで」です。





中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」は世界を席巻する勢いだ。巨額のインフラ投資と並行し、南シナ海やインド洋などでも軍事的なプレゼンスを高めており、経済面だけでなく、政治・軍事的な勢力拡大への野心に世界が複雑な視線を投げ掛けている。

こうした事態をさらに複雑にしているのが「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領の外交姿勢だ。4月の電撃的な中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とインドのモディ首相との非公式会談は、トランプ氏が仕掛けた米中貿易紛争を色濃く投影している。

「中印対立」を軸に描かれてきたアジアの地政学的な勢力図は大きく変貌しつつあるようだ。約3500キロもの国境線を抱える中印両国は潜在的に敵対する宿命を背負う。だが両国は、悪化した関係を平衡状態に戻すための新たな道筋を探り始めたようにも見える。

背景にあるのは孤立主義を強める米国の国際的な影響力低下だ。中印の人口はともに13億人以上で世界人口の3分の1超を占める。今後10年前後で中国は米国の経済規模を抜き、2050年ごろにはさらにインドが米国を抜いて世界2位になると予測されている。

そんな両国は国境線を巡る軍事的対立を棚上げし、経済交流に取り組むことが双方にメリットが大きいと判断したわけだ。第2次大戦後の世界秩序は転換期を迎えている。各国は激変するパワーバランスの行方を慎重に見極めながら、是々非々で対応するしかない。

とはいえ、中国が推し進める一帯一路の構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)への警戒感はインドでも根強い。中国が開発するパキスタンやスリランカ、バングラデシュ、ミャンマーなどの港湾をつなげると、まさにインドを包囲し、海洋覇権を握ろうという野心が浮かび上がる。こうした脅威は世界各地で広がっている。

中国の圧倒的な物量攻勢を必要とする途上国は多いし、民主化の度合いを考慮しない支援を歓迎する国も少なくない。だが巨額融資を足がかりに港湾運営権を取得したり、大量の労働力を本国から供給したりする強引な手法には批判が集まる。入札の透明性、事業の持続可能性などにも不安が残る。

このままでは中国の影響力の拡大に歯止めをかけにくい状況が続くだろう。だからこそ中国の暴走をけん制し、多国間の協力メカニズムを機能させる必要がある。注目したいのはインフラ整備だけでなく、人材育成やライフスタイル、まちづくりなどのソフト面も大胆に取り込んだ開発援助だ。

たとえば日本の新幹線輸出が良い手本になる。新幹線の建設は経済発展を支える基幹交通インフラの整備だけではない。沿線の工業団地や宅地開発、人材供給なども含めた莫大な経済的恩恵を地元にもたらす。軍事的な野心を伴わず、純粋なソフトパワーを生かした経済支援にほかならない。

日本はすでに台湾への新幹線輸出の実績があり、インドでは23年完成予定でムンバイ―アーメダバード間の約500キロに新幹線方式を採用することが決まった。事業費は9800億ルピー(約1兆6千億円)だ。新幹線の運行手法のほか、サービス産業の誘致やソフト開発、大きな雇用も生み出す。

早くもインド工科大学(IIT)や私の大学などでは、こうした日本方式のソフトパワーを学ぼうという機運が高まっている。安倍晋三首相が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」を後押しする有効な手段にもなるはずだ。

国際関係の変化はめまぐるしい。「米国1強」のバランスは大きく揺らぎ、世界は米中やロシア、欧州、インドなどを軸とする「多極化」の様相を一段と強めつつある。さらに、米国の中東外交や対北朝鮮制裁の転換など世界情勢を動かす変数は増えるばかりだ。

ただ保護主義が各地に台頭しているとはいえ、日米欧豪にインドを加えた民主主義国が多国間主義を守っていくことの重要性は、基本的に変わらないと考える。特にアジアでインドと歴史的に文化や価値観を共有してきた日本の果たすべき役割は大きい。

(談)

 Nagesh Bhandari マハトマ・ガンジー記念医大卒。「私立のインド工科大(IIT)」を目指して2012年に同大学を創設。日本、ドイツなどと産学連携にも取り組む。61歳。

Nagesh Bhandari

存在感示す処方箋

存在感示す処方箋

経済、軍事面で急速に存在感を高める中国とどう向き合うかは難しい問題だ。一帯一路の沿線国は約70。AIIBに加盟する国・地域は86に増え、先進7カ国(G7)で加盟していないのは米国と日本だけだ。

半面、一帯一路には深刻な課題も山積している。工事が予定通りに進まず、膨大な債務に苦しんでいる事案も予想以上に目立つ。コスト競争はあるにせよ、「相手国に本当に寄与するのはソフトパワーを生かした支援」と実感する国は決して少なくないだろう。

インドは民主主義など価値観を共有する戦略パートナーであり、教育の現場からの声は示唆に富む。遠回りなようでも無理に手を広げず、地道に実績を積み上げることが日本の存在感を示し、世界を安定させるための一つの処方箋になる。

(編集委員 小林明)



若田部・日銀副総裁「金融政策に限界なし」 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「若田部・日銀副総裁「金融政策に限界なし」」です。





大規模な金融緩和を求める「リフレ派」として知られた日銀の若田部昌澄副総裁が3月に就任して以降、初めての単独インタビューに応じた。大規模緩和を5年以上続けても2%の物価安定目標を達成できず、手詰まり感が漂うが「金融政策に限界はないといまも思っている」と強調した。物価が伸び悩む状態が続き「デフレに戻る危機があるなら政策調整をやらざるを得ない」と追加緩和の必要性にも言及した。

――就任前は物価目標の早期達成に向けて追加緩和の必要性すら訴えていた。しかし就任後の金融政策決定会合では現行政策の維持に賛成票を投じた。持論を修正したのか。

持論の修正ない

「基本的な考えは変わっていない。日本経済が持続的に成長するために日銀は物価目標を達成すべきだ。必要な政策は大規模な金融緩和だ。日銀ではより深いデータが得られる。日本経済、世界経済の動向、金融市場、金融機関の情報を総合的に勘案することが必要だ。政策効果を検討したうえで、現時点では現行政策に賛成票を投じている」

――大規模な金融緩和を続けても物価は思うように上がらない。金融政策だけでは限界ではないのか。

「金融政策には限界がないといまも思っている。極端な話、世界中のものを買っても物価が上がらないというのは考えられない。実際は制度面などの制約はあり、為替目的で外債を購入することはできない。もちろん金融政策だけがデフレ脱却に貢献するわけではない。機動的な財政政策、成長戦略というアベノミクスの考えはデフレ脱却の手段としていまだに有効だ」

――3月の就任会見で「必要ならばちゅうちょなく追加緩和をすべきだ」と話していたが、どのような時に必要になるのか。

「物価がトレンドとして下がっていく感じで、デフレに戻る危機があるなら政策調整をやらざるを得ない。必要であればちゅうちょなく追加緩和すべきだ。金利を操作するか、資産購入の対象を増やすか、資産の購入額を増やすか。この3つの戦略でのぞめばよい」

「量先行」は誤解

――以前は金融緩和によるマネーの供給量にこだわっていたように思える。副総裁の今でも金利操作より量が効果的と考えるか。

「リフレ派の考え方が多少誤解されていると思う。量の先行は誤解だ。マネーの役割はフェーズで違う。名目金利を低く維持し予想インフレ率を上げることが基本的なロジックだ。金利と量は裏腹の関係。(日銀は)2016年9月に長短金利操作を導入した。金利を操作するには背後で量を買わないといけない」

――需給が引き締まっても物価は伸び悩んでいる。

「7月の(経済・物価見通しを示す)展望リポートに向けて、もう一度物価がなぜ上がらないのか問題意識を持って分析する。グローバルな供給能力の高まりや、アマゾン効果のネット消費など様々な仮説が出ているなかで、説得力ある形で提示できるかが重要だ」

「デフレが長年続いたのが出発点で、人々にデフレ心理が染みついて物価が上がりにくくなっている。ただ政策当局者としてデフレ心理がまん延しているという説明だけでは終われない。政策がどのように影響を及ぼし、どう対応すれば物価が上がるのかを分析しないといけない」

若田部 昌澄氏(わかたべ・まさずみ)87年早大政経卒、トロント大博士課程単位取得退学。05年から早大教授。18年3月から現職。神奈川県出身。53歳。

若田部 昌澄氏



中印、打算の雪解け 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「中印、打算の雪解け」です。





【北京=永井央紀、ニューデリー=黒沼勇史】中国とインドが融和路線を加速している。モディ首相は26日、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)総会に出席し、連携強化を訴えた。4月と6月には立て続けに訪中して習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談したばかり。1年前、中印とブータンの3カ国国境地帯で軍同士が2カ月以上もにらみあいを続けた状況が一変している。

「AIIBによるインフラ投資は、何十億という人々の生活に好影響を与えるだろう」。モディ氏はムンバイで開かれたAIIB総会で、中国色の濃さが指摘される国際機関を高く評価した。加盟国への融資総額について「2025年までに1千億ドル(約11兆円)になるよう願う」とも述べ、中国出身の金立群総裁としっかりと握手した。国境紛争を抱えて長年対立してきた中印関係に何が起きているのか。

最初に動いたのは習氏だった。昨年12月、水面下でモディ氏に春先の非公式会談を持ちかけた。ちょうど米トランプ政権が対中強硬路線へとかじを切った時期だ。習氏は経済成長の鈍化や高齢化という深刻化する国内課題に対処するため、対外関係の安定を目指すと打ち出している。対米関係の悪化が確実になるなか、西に位置するインドとの二正面作戦を避ける必要があった。

広州、昆明、武漢……。中国が提案した会談場所はいずれも北京ではなく、中国中・南部の都市だった。対等な話し合いという形式にするため首都である北京を避け、なるべくインドに近い場所にするとの配慮だった。

「軍の動きに気付くのが遅れた」。インド側の説明によると、4月に武漢で実現した首脳会談で習氏は昨年の国境地帯での対立についてモディ氏に率直に説明した。事の発端となった国境地帯での人民解放軍による道路建設は、現場の軍が与えられた権限の範囲内で動いたものであり、中央政府の指示ではなかったと強調。今後は軍の動きを抑えるとも約束した。

モディ氏は中国軍の拠点を後方に下げるよう要求した。習氏がどう応じたかは不明だが、両首脳は再発防止へホットラインを開設することで合意した。

続く6月、両首脳は山東省青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて再び顔を合わせた。習氏は「中印は武漢会談を新たなスタートとし、互恵協力を全面的に展開していきたい」と述べた。インド外務省によると、2国間貿易額を20年までに1千億ドルに引き上げる目標設定までモディ氏に提案。領土紛争にフタをして、経済協力を進める姿勢を鮮明にした。

中国軍関係筋は4月の会談について、対立の現場となったドクラム地域の気象状況をふまえた措置だと説明する。現地は標高が高いため、秋から春は厳しい寒さと雪に閉ざされる。昨秋に中印両軍が撤退したのも、気象条件の悪化を奇貨とした面があった。関係者は「軍の展開が可能になる夏を迎える前に関係を安定させる必要があった」と明かす。

一方のモディ氏は1年後の総選挙も視野に、経済的な成果を狙ったとの見方が多い。インド経済のアキレス腱(けん)であるインフラ整備には多額の資金が必要で、AIIBや中国からの投資に期待がある。中国の14億人市場の開拓という思惑もある。中国は26日、改定した貿易協定に沿ってインドからの大豆輸入関税をゼロにすると発表した。貿易摩擦の対抗手段として関税を引き上げる米国産大豆の代替品という位置づけだ。

ただ、国境紛争の火種が消えたわけではない。モディ氏はAIIBを称賛しつつ、インドとパキスタンの係争地でのプロジェクトを抱える中国主導の経済圏構想「一帯一路」への参加は拒否したまま。SCO首脳会議でも加盟8カ国のなかでインドだけが「一帯一路」支持を表明しなかった。

米中二大国はインドをめぐって綱引きをする状況にあり、インドはそれを利用しようとしている節もある。対米けん制を狙う中国と、総選挙にらみで経済協力を目指すインド。両国の戦略的な「休戦」という構図が続く限り、融和路線は短期的なものに終わるリスクをはらむ。



コンパクトシティを考える(7)経済的インセンティブ活用 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「コンパクトシティを考える(7)経済的インセンティブ活用」です。





立地適正化計画(以下は計画)は縮退化に有効でしょうか。都市中心部への集積を促す仕組みを備えている点で優れていますが、郊外開発を抑制する手段は持たないため、縮退化の効果が減殺されかねません。

郊外開発の抑制は都市計画法のゾーニングに基づく規制的手法の役割になります。都市計画区域は、市街化を促す「市街化区域」と、開発行為が原則として抑制される「市街化調整区域」に大別されます。計画の下で集積を促す「都市機能誘導区域」と「居住誘導区域」は市街化調整区域を含まないので、「集約化は計画、郊外開発抑制は市街化調整区域」の役割分担が可能です。

ところが本紙(4月21日朝刊)によれば、2017年末までに計画を作った自治体は、誘導区域外で開発が届け出られても過半のケースで対応していません。勧告権限の行使は1件のみ、情報提供・調整して開発計画の変更に至った事例は皆無でした。積極的に権限を活用し、縮退化へ誘導しようとはしていません。

それどころか自治体は、都市計画法に基づく条例を制定すれば、市街化調整区域内でも開発を許容することができます。本紙の調査によれば、計画を持つ自治体の約3割がこうした規制緩和を実施しています。

以上のように規制的手法は実効性を欠いています。これを経済的手法で補い、規制の実効性を高められないでしょうか。富山市が採用した移転補助金は、中心部への移転に経済的インセンティブを与える点で経済的手法の一種といえます。逆に郊外開発の抑制が目的の経済的手段として「開発負担金制度」があります。

フランスでは開発に対して一定以上の密度を求め、満たされない場合は「低密度税」を課すという経済的手法を導入しています。日本でも規制を柔軟化する一方、縮退化には正の経済的インセンティブを、郊外開発には負の経済的インセンティブを付与するように設計できれば、合理的意思決定の結果として縮退化が選択されるはずです。



セクハラ ゼロへの道(上) 「男子文化」がそぐ活力 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「セクハラ ゼロへの道(上) 「男子文化」がそぐ活力」です。





財務省事務次官の辞任など一連のセクハラ問題を受けて、政府は6月12日、研修強化などの対策をまとめた。セクハラは重大な人権侵害で、被害者に多大な負担を強いる。被害者の大半は女性だ。企業への損失も大きく、日本経済を覆うリスクとなっている。

(画像:明治安田生命の女性営業職は防犯ブザーを持ち歩く(東京都千代田区))

大企業でも発覚

「ミニスカート姿が見たいな」。京都府は2017年秋、女性に性的なLINEのメッセージを送った男性職員を戒告処分にした。処分は上司にまで及び、課長が譴責(けんせき)となった。直接関係していなくても、管理責任が問われた。

1月には日本ハムの執行役員がセクハラ発言で辞任し、同席の社長も退任に追い込まれた。当事者でなくても責任が問われる時代。もはや見て見ぬふりは許されない。セクハラは人ごとではない。

セクハラを巡る初の裁判は1989年。問題視されると対策が進み、07年の男女雇用機会均等法改正で企業は防止に必要な措置が義務付けられた。対策は一段落とみられていたが、一連の事件は意識が変わっていないことを示している。

ひとたび発覚すると、セクハラは経営を揺るがす。

米スポーツ用品大手のナイキ。3月以降、次期最高経営責任者(CEO)候補を含む10人以上の幹部が辞任した。女性社員への性的な嫌がらせが内部告発で判明したのがきっかけだ。「『男子文化』がはびこっていた」。マーク・パーカーCEOは5月、本社内に全社員を集めて陳謝した。

投資家も選別

米国ではセクハラがあった企業の株を排除する「反セクハラ上場投資信託(ETF)」が3月に登場。セクハラ疑惑で創業者が辞任したカジノ大手、ウィン・リゾーツの株価が報道後3日で15%下げるなど、投資家の選別も加速している。

人材流出、賠償金、士気低下、ブランド毀損……。セクハラの影響は多岐に及ぶ。米国ではこれらが企業に与える損失は1社約15億円との見方もあるが、明確な試算はない。「リスクの大きさを示す必要がある」。労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員らは研究会を立ち上げ、本格的な試算に乗り出した。

「セクハラはすべてのステークホルダーの信頼を失う経営問題」(三菱地所の吉田淳一社長)。日本経済新聞社が実施した「社長100人アンケート」では、9割近い社長がセクハラ対策を強化したと答えた。

ただ現場はどうか。「怖くて断れなかった」。早稲田大学4年の女子学生は今年の就職活動中、大手金融機関のリクルーターから何度も食事に誘われた。トップの危機感が浸透しないとセクハラはなくならない。

女性の活躍は企業の生命線だ。明治安田生命保険は3万人を超える女性営業職全員に防犯ブザーを配布。顧客先などでの万一のセクハラリスクから社員を守る姿勢を打ち出す。セクハラを許さないという社内外へのメッセージでもある。

17年の女性就業者は約2900万人と均等法施行の86年から500万人増加。15~64歳の女性の就業率は67%と右肩上がり。多様な人材こそが革新を生む。すべての人が不自由なく力を発揮する企業社会をつくるのが経営者の責務だ。

(電子版「FT記者が見た英の男社会」▼トップ→経済・政治→経済)

(電子版「FT記者が見た英の男社会」▼トップ→経済・政治→経済)



創業家 経営関与の功罪 2018/06/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「創業家 経営関与の功罪」です。





出光興産と昭和シェル石油の統合は創業家がどこまで経営に関与し続けるべきかという課題を投げかけた。特定の「正解」があるわけではなく、ケース・バイ・ケースで考えないといけないテーマだ。自動車業界一つとっても創業者の孫にあたる豊田章男社長の率いるトヨタ自動車もあれば、ホンダ創業者の本田宗一郎氏のように「世襲」を嫌い、自分の子供を入社させなかった人もいる。(1面参照)

1面参照

今から40年前のことだが、石油ショックによる業績悪化の責任をとって創業家の3代目社長が退任し、それを機に経営の主導権が銀行などに移ったマツダの例もある。

一つ言えるのは、日本では創業家がその会社のオーナーであり続けるのはなかなか難しいということだ。トヨタでも豊田家の持ち株比率は1%程度とされ、創業家ではあっても会社の所有者とは言えない。企業の成長過程で株式数が増大し、創業家の持ち分が薄まったり、相続に際して保有株の処分を迫られたりするのがその理由である。

トヨタに限らず、パナソニックにおける松下家やソニーにおける盛田家でも事情は似ている。創業者が健在の間はともかく、何代にもわたり創業ファミリーが経営の中軸にいるためには実績を上げ続けるしかない。それに失敗すれば経営の「非同族化」が一気に進み、いわゆるサラリーマン経営に移ることになる。

一方で米国では創業者やファミリーが1株につき複数の議決権のある「種類株」を保有し、持ち株比率は低下しても、経営の支配権を握り続ける場合がよくある。フォード・モーターにおけるフォード家がそれに当たり、新興勢力ではフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が2012年に株式上場した後も過半数の議決権を保持しているといわれる。

「1株1議決権」にこだわる日本流と、融通むげにも映る米国流のどちらがいいのか、これも一概に言えない。特定の個人(家)が支配権を握り続ければ、外からのけん制が利かず、経営が一度暴走を始めると、止める手立てがない。

一方で創業家の「金看板」が組織の求心力を高める効果もある。「会社は自分のモノ」というオーナーシップ感覚があれば、経営に向き合う真剣さもおのずと違ってこよう。京都産業大学の沈政郁准教授は「日本では同族経営企業のほうが非同族会社に比べて明らかに成績がいい」と指摘する。

ただし何事にも例外はある。出光・昭シェル統合合意に至るまでの出光家の振る舞いが適切なものだっただろうか。

(編集委員 西條都夫)



コンパクトシティを考える(6)富山市は公共交通沿線に誘導 2018/06/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「コンパクトシティを考える(6)富山市は公共交通沿線に誘導」です。





前回に述べた立地適正化計画の導入に影響を与えたと考えられるのが富山市の縮退政策です。その基本方針は、(1)一極集中ではなく多極的なコンパクト化を目指す(2)公共交通機関を充実させ、中心部や市内各拠点へのアクセスを向上させる(3)住民の居住地選択の自由を尊重し、集団移転などの強制的手法はとらない(4)中心部への移転は規制強化よりも誘導的手法を採用――などです。一見、緩い政策にみえますが、都市計画のコントロール力が弱い日本の実態を踏まえれば現実的で、着実に成果を上げうるアプローチだと考えます。

富山市の縮退政策の出発点はLRT(次世代型路面電車)を採用した2006年の富山ライトレール開業です。以後、同市は公共交通に積極的に投資して路線網を充実させてきました。また、富山地方鉄道やJR高山線の運行本数を増やしたり、列車の発着に合わせて路線バスを運行したりするなど乗客の利便性の向上にも力を入れてきました。

富山市が公共交通機関に注力するのは、一極集中ではなく、市内各拠点を生かした「多極型コンパクトシティ」を目指しているからです。市内の複数拠点を公共交通でしっかり結ぶことが、縮退する都市の一体性を保つうえで重要になります。輸送力が高く、定時性のあるLRTはこの目的に最適です。欧州では一般的になったLRTですが、日本でも「ネットワーク型コンパクトシティ」を掲げてLRT導入を目指す宇都宮市のような事例が出てきたことは注目に値します。

富山市の縮退政策の第2の特徴は、市中心部や拠点への住民の移住を、集落ごとの一斉移転や強制移転ではなく誘導的手法により実現しようとしている点です。具体的には、公共交通沿線の「居住推進地区」内に共同住宅を建設する事業者向けの補助や、戸建て・共同住宅を購入する市民向けの補助などがあります。

こうした政策の結果、居住推進地区の人口は、この政策が開始される05年時点の約11万8千人(総人口の約28%)から、16年には約15万5千人(同約37%)へと大きく増加しました。これは経済的インセンティブによる誘導手法が有効であることを示しています。



忖度生む土壌 官邸へチェック利かず 2018/06/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「忖度生む土壌 官邸へチェック利かず」です。





――首相官邸の力が強くなりました。

「自民党は2012年に政権を奪還し、13年の参院選にも勝利したが、当時は安倍政権がどこまで続くか政も官も半信半疑だった。だが集団的自衛権の閣議決定後の14年の衆院選で勝って変わった。政権が長期化するという見通しが強まり、おごりや忖度(そんたく)が生じた。森友・加計学園など一連の問題は14年末以降に発生した」

――野党の弱さは官邸の強さにつながりますか。

「野党へ政権が移る危機感が自民党にあればもう少し違ってくるはずだ。私は二大政党制の実現には懐疑的だ。野党が再生して政権交代が起きる可能性は当面ない。自公と野党には2つ違いがある。厚い支持基盤と結束力だ。野党は弱く、緊密な連携もできない。勝つハードルが非常に高い」

――官僚も与野党の力の差を認識しています。

「そう見ているから、官僚は強い方に近づく。自民党は過去の政権転落の経験から、二度と同じ失敗を繰り返すまいと安倍晋三首相のもとで結束している」

「もともと小選挙区制の導入を軸とする政治改革は、首相官邸に権力を集中させる一方で、二大政党間の政権交代によってチェックを働かせるというものであったが、そうなっていない。野党の低迷で、制約なき官邸主導に陥っている」

――過去の長期政権と現政権の違いは何ですか。

「小泉政権は自民党内の抵抗勢力を使ってエネルギーにした。現政権は違う。敵は野党勢力であり、党内は結束している。安倍首相は各派領袖を閣僚や党役員に起用し、派閥取り込みに成功している。党内の多元性が弱まり、この面でも官邸へのチェックが利かなくなってきている」

「いまは首相の秘書官や補佐官ら『官邸官僚』が個別案件に関わり各省に指示を出す。その影響力が極めて大きいのが現政権の特徴だ。官邸官僚が持つ各省へのパイプが、政治主導を補完する形で機能している。その結果、政権存続という考慮が各省の判断に入り忖度が起きたのではないか」

――官邸官僚が生まれる原因は何でしょうか。

「2つある。1つは安倍政権の特殊性だ。第1次政権が1年で崩壊しながら、それでも安倍氏から離れなかった政治家や官僚が結束して再起を果たした。コアが固い政権だ。もう1つは内閣人事局の創設だ。首相官邸が幹部官僚の人事をテコに各省をコントロールする度合いを格段に強めた」

――官邸主導のマイナス面をどうみますか。

「公文書の改ざんなどはあり得ないことだ。官僚が守るべき最低限の原則まで曲げてしまう現状は危うい。日本では官僚と政治家が、それぞれの持ち分の上で協働してきた。財務省なら財政規律など、各省には所管する政策に不可欠な機関哲学がある。それを官邸が上から圧し過ぎるのは行政上のデメリットだ」

――新たな改革が必要な局面と思いますか。

「いまの政と官の融合の仕方を考えると、官邸主導が強く利きすぎだ。国民にも自民党にもマイナスだ。政と官の明確な分業が難しい以上、少し旧来型の方向に戻した方がバランスがとれる」

「幹部官僚の人事は、官邸の基本方針のもと、原則として各省の閣僚が決める方がいい。少なくとも内閣人事局が扱う幹部官僚の範囲を狭くすべきだ」

(1面参照)

1面参照

 なかきた・こうじ 大阪市立大助教授、立教大教授などを経て現職。49歳

なかきた・こうじ

7月4日付朝刊で関連特集を予定しています。