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グローバルオピニオン トランプ氏米の地位脅かす フラン シス・フクヤマ氏 米スタンフォード大シニアフェロー 2017/12/1 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン トランプ氏米の地位脅かす フランシス・フクヤマ氏 米スタンフォード大シニアフェロー」です。





 トランプ米大統領が当選した時は、米国の民主的な制度の弱体化や誤った政策の相次ぐ実現を心配する声が多かった。だが、今のところ、それは杞憂(きゆう)にとどまっている。

 捜査当局は大統領選挙に絡むロシア疑惑解明を粛々と進めているし、メディアも大統領の誤った言動を厳しく追及している。米民主主義の根幹であるチェック・アンド・バランスは機能している。メキシコ国境との壁づくりは進まず、医療保険制度改革法(オバマケア)も廃止されていない。

Francis Fukuyama ハーバード大博士。世界秩序のあり方や米国の政治思想、外交政策について幅広く分析、発言している。著書に『歴史の終わり』など。65歳。

 大きなダメージを受けているのは米国の政治文化である。保守対リベラルという政治・社会の2極分化は政権誕生前から起きていたが、トランプ氏は人びとの怒りをあおる発言をすることで、これをさらに深めようとしている。

 一例は人種差別に抗議するため、国歌斉唱の際に起立しなかったアメリカンフットボールの黒人選手を非難したことだ。国をまとめるどころか、むしろ意図的に自身の支持層が抱く不満の矛先を選手に向けた。主流メディアを連日のようにたたくのも、支持層受けするのがわかっているからだ。

 政党にも大きな影響を与えている。まず古い共和党を崩しつつある。自由貿易を擁護し、国際的な秩序形成に積極的にかかわるのが党の伝統的な基本路線だった。それがトランプ氏が支配者になったことにより、ポピュリズムの方向に転換させられようとしている。民主党の左旋回も促している。(クリントン氏と民主党大統領候補の指名を争った)サンダース氏のように大企業を攻撃する左派が、党を支える活動家の間で勢いを増している。これも危険なことだ。

 反政権派の間では「問題だらけの大統領だから、弾劾はないにせよ1期で終わり」との声が多いが楽観的すぎる。トランプ氏を嫌う住民はニューヨーク州など沿岸部に集中するが、決め手になるのは、昨年の選挙でトランプ氏を支持した内陸部の白人労働者層だ。失業率低下など経済の改善傾向は追い風になる。2020年の大統領選で再選の公算は十分ある。

 政策面で最も心配なのは外交だ。トランプ氏は指導者としての信頼や尊敬を勝ち得ておらず、そのことだけですでに米国の立場を弱めている。目の前の問題では、北朝鮮との軍事衝突の可能性が過小評価されていると感じる。株式市場の動向を見てもこのままですむとみているようだが、危うい。

 北朝鮮の核開発には強い対抗措置が必要ではあるが、トランプ氏は過激な物言いを繰り返すだけだ。その発言が自身を追い込むことになる恐れがある。北朝鮮が(核実験の継続など)挑発的な行為を止めなければトランプ氏は愚か者に見える。これを嫌がって行動に出るかもしれない。逆に何もしなければ、トランプ氏の脅しは口先だけと侮られるリスクもある。

 国際的に強い指導力を発揮するより自国第一を掲げる政権の姿勢は、米国から中国への影響力のシフトを促す要因にもなろう。大統領候補としては中国に厳しいことを言っていたが、実際のところは何もしていない。国際社会に向けて人権や民主主義について語らないどころか、むしろロシアのプーチン大統領をはじめ専制的な指導者を好んでいるように見える。

 米国第一主義はトランプ氏だけでうまれたわけではない。世界同時テロ後のアフガニスタンやイラクでの戦争が失敗と受け止められ、グローバル化による敗者が不満の声をあげるなかで醸成されてきた。その意味ではベトナム戦争後の1970年代の米国と似ている。ただ、その後レーガン大統領が登場し、米国は世界と再び関わりを深めるようになる。外交はトップの指導力次第で人びとを納得させることができる分野であり、米国第一主義の流れが不可逆的というわけではない。

 米国再生には社会の分断を止めねばならないが、それをあおるトランプ氏のままでは難しい。まず民主党がトランプ氏を支持した白人労働者層の気持ちに訴えられる候補を立て、18年の中間選挙に勝つ努力をするのが重要だ。

(談)

修正力は働くか

 民主主義ほど混乱が見えやすい制度はない。特に経済や社会に矛盾が生じたとき、選挙や言論を通じた人びとの異議申し立ては激しさを増し、対立も先鋭化する。既得権益層やそれが後押しする政策への不満が政治の正面に出てきた米国の姿は、民主主義が機能した結果であり、美点ともいえる。だがその先に分岐点がある。

 冷静な問題分析と対話を通じて解決策を見つけ出すのか。それとも政敵への中傷や極論が幅をきかせる社会になるのか。後者なら、フクヤマ氏が『歴史の終わり』で優位性を説いた、自由民主主義の世界での磁力は失われかねない。

 米国は建国以来、革命や専制に陥ることなく、民衆の意をくみ態勢を立て直す自己修正能力を見せてきた。その底力が再び試されている。

(編集委員 実哲也)



Financial Times AI 中国決断と米の油断 ワシントン・ コメンテーターエドワード・ルース 2017/11/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「Financial Times AI 中国決断と米の油断 ワシントン・コメンテーターエドワード・ルース」です。





 60年前、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げて世界を驚かせた。この時、トランプ米大統領は11歳の少年だった。ソ連の優位性を見せつけられた米国は衝撃を受け、科学技術開発にソ連を上回る予算を注ぎ込んだ。そのことがやがて、インターネットや全地球測位システム(GPS)を生み出すことにつながった。

 中国が7月、2030年までに世界の人工知能(AI)産業でトップに立つという計画を明らかにしたことは、今日のいわば「スプートニク・ショック」といえる。だがあの時とは全く異なり、この中国の発表は71歳になったトランプ米大統領の耳をあっさり素通りしたようだ。恐らくツイッターの投稿に忙しすぎて気づかなかったのだろう。

 だが、AIに懸ける中国の野望は、長期的には米国の安全保障にとって北朝鮮の核兵器が米国本土を射程に収める以上に重大な脅威となる。北朝鮮政府は、核を使えば自国が確実に壊滅することになると明言すれば恐らく抑え込める。だが、「米国をりょうがする」という中国の目標には、特に目立つ障害は存在しない。

 ロシアのプーチン大統領は9月に、「誰であれ(AIの分野で)リーダーになった者が世界の支配者になる」と発言した。これは、中国政府が7月にAIの分野で20年までに米国と肩を並べ、25年までに追い越し、その5年後には世界のAI産業を支配するとの長期計画を発表したことを受けた発言だった。

 

6月、中国の全国統一大学試験「高考」の数学の問題に中国のAI「AI‐MATHS」が挑戦したところ、22分で終え150点中105点を記録した=ロイター

 米国の先端をいく技術者たちは、中国は野望を恐らく実現するとみている。米グーグルの親会社である米アルファベットのエリック・シュミット会長は11月1日、「ちょっと立ち止まって考えてほしい。中国政府がそう言った以上、彼らはやるということだ」と述べた。

 スプートニク打ち上げの時と異なり、中国が特定の何か一つをなし遂げたら米国を抜いたことになるわけではない。だが両国の動向を注意深く追っている者には、中国と米国の動きは極めて好対照だ。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、テレビで中国がAIで優位に立つことは戦略的目標だと語ったが、トランプ氏が米国の大志について語ったことはない。だが彼の予算案を見れば何を考えているかは分かる。米国の情報システムに投じる公的資金を11%減らし、連邦政府全体の研究開発費を20%削減したいと考えている。米航空宇宙局(NASA)の予算も縮小される。

 同様にトランプ氏は合法的に流入する移民数も半減させたいと考えている。これは世界最高峰の研究者を集めてきた米国の力に大打撃を与えるだろう。有能な研究者には永住権を与える方が、はるかに理にかなっている。グーグルが主催するプログラミングのコンテストでも中国人学生が優勝することが多い。

 「中国の教育システムでは、私が今話しているような革新的発想ができる学生は生まれない、という偏見をもっているとしたらそれは間違っている」とシュミット氏は指摘した。

 

 米国は、トランプ氏の近視眼的な思考を乗り越えて優位を維持できるだろうか。十分にあり得ることではある。米国のIT(情報技術)大手は今なお世界をリードしている。しかし中国との差は縮まりつつある。

 中国には強みが2つある。まず、オンライン決済されている経済の規模が米国より大きい。世界の電子商取引の40%が中国国内でなされており、その大半はアリババ集団、騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)という中国IT大手3社経由の取引だ。これら大手は、取引を通じて入手した膨大なデータを、法的な制限をほぼ受けずに好きなように扱える。

 中国のIT大手は規模も圧倒的に大きい。騰訊の時価総額は20日に5000億ドル(約56兆円)を突破し、その後米フェイスブック(FB)をも抜いた。オンライン決済や画像認識、音声ソフトウエアなど一部の分野では、中国のIT各社は既に米シリコンバレーのライバル企業を抜いている。自動運転技術でも猛スピードで米国に追いつきつつある。こうした技術は、ほぼすべて軍事目的に転用可能だ。AIを使い大量のドローン編隊を組めば兵器にもなる。

 中国の第2の強みは、官民が一体化している点だ。徹底した自由主義経済を求める者には、欠点に映るかもしれないが、思い出してほしい。シリコンバレーの興隆は、アイゼンハワー大統領(当時)が莫大な資金を投じたことが大きい。中国政府も同様に今、ディープラーニング(深層学習)技術で卓越した立場を確保しようと助成金を投入している。

 しかも、中国のデジタル分野はますます自己完結しつつある。マイクロプロセッサーだけは今なお米国がリードしているものの、ほとんどの電子機器は中国内で生産しているため、世界のサプライチェーンに何か問題が起きても影響を受けにくくなっている。仮に世界で貿易戦争が発生しても、中国はさほど影響を受けずに着々とAI開発を推進できるだろう。つまり、中国がグーグルやFB、ツイッターなどを国内から締め出していることには理由がある、ということだ。

 

 航空宇宙技術の開発についても同じことがいえる。米国の核兵器の責任者、ハイテン戦略軍司令官は18日、大統領からの「違法な命令」は拒否すると発言し、物議をかもした。だがこれは、規則に定められていることを述べたにすぎない。同氏の発言でより衝撃的だったのは、21世紀に入って以降、中国の軍事技術が飛躍的な進歩を遂げているというコメントだ。

 中国の航空宇宙技術開発力については、かつてのソ連のミサイル装備と同様に「実は大したことはない」ということではないかと問われた際、ハイテン氏はこう答えた。「私の見る限り(中国とロシアは)、宇宙においては米国が全く太刀打ちできなくなりそうなほど積極的に軍事力を高めている」

 各国の政策の優先順位を知りたければ、その国の予算を見ればいい。トランプ氏が何より熱望しているのは、米国の法人税率を20%に下げることだ。アイゼンハワー時代の所得税の限界税率は90%に達していた。それでも、米国は官民とも創意の足を止めることなく、ソ連との主導権争いを続けた。

 今日、米国は世界の技術を主導する立場にある。だが、トランプ氏が操縦席に座っている限り、将来はかなり異なった風景になる可能性がある。(23日付)

 英フィナンシャル・タイムズのコラムや記事を翻訳し、月曜、木曜付で掲載します。電子版▼国際・アジア→FT



時論 人類史から見通す近未来 ジャレド・ダイアモンド氏 作家・地理学者 2017/11/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「時論 人類史から見通す近未来 ジャレド・ダイアモンド氏 作家・地理学者」です。





 アジア、とりわけ中国が存在感を増す中で、世界の経済や政治、社会はどう変わっていくのか。日本に求められる役割はどう変化するか。文明や民族の攻防、勢力の逆転現象などを数百万年の時間軸で俯瞰(ふかん)した「銃・病原菌・鉄」「昨日までの世界」の著者で地理学者のジャレド・ダイアモンド氏に、人類史から見た西洋と東洋の「近未来」について聞いた。

■独裁中国 米に追いつけず

 ――数百万年という時間の流れの中から人類史を見つめた著作が多いです。その前提で言えば「現在」とはどんな時代でしょう。

 「語りだしたら、7時間は要するテーマだ。1つだけ言うなら、技術の進歩が急速で、それが国家の発展をも速めている特徴がある。一方で、政治や経済、環境面で問題が急速に増えたり、広がったりしていて、人間社会にとっては致命的な結果をもたらす懸念も膨らんでいる。このペースで問題が拡大していったとしたら、今後30年以内に我々の未来が生きる価値があるものかどうかの決着がつくだろう」

 「重要なのは、過去の社会から学ぶことが多いということだ。人類は600万年の歴史を持ち、金属、文字などの現代的特徴を持ち得たのはわずか1万1千年前のことだ。経験や英知は『昨日までの世界』の方が豊富な蓄積がある。高度な技術を使わなくても問題が解決できた時代の方が圧倒的に長かったわけだ」

 ――アジア、とりわけ中国の存在感が急激に強まっています。人類史的にはどんなことが言えますか。

 「最近の中国は強力で、中央集権的で、意思決定能力が高く見える。これに対し、米国は意思決定に際して裁判や議会というプロセスも入るため、迅速さに欠ける場面が増えてきた。だから我々米国人は偏執狂的というか、中国を過剰に恐れる傾向を強めている」

 「中国の経済が急激に拡大しているのは事実だ。だが理由の多くは少し前までの中国が貧しい国であり、豊かな国より速いスピードで経済力を拡大できる点だ。インドも似ている。もしかしたらインドは中国よりも貧しいところから発展が始まった」

 ――15、16世紀ごろは経済的な豊かさという点で中国と欧州が同水準にあったとの指摘もあります。欧米と中国は再び肩を並べる、ということでしょうか。

 「豊かさの尺度によるが中国と欧州は1400年代の方が経済的に同等に近かったのは事実だ。その後、欧州は中国の先を行った。その理由を私は自著『銃・病原菌・鉄』のエピローグで考察している。歴史家の間ではまだ未解明の問題で、今も異なる解釈がある。だが、私は地理学者だ。地図で中国を見ていたらわかる。中国の沿岸部は滑らかな線になっているが、欧州の地形は半島が多い。だから、イタリア、スペイン、ギリシャの各半島は、異なる言語を持つ、異なる国家になった。異なる『実験』が進んだのだ」

 「また欧州には大きな河川が多い。それらはアルプス山脈から流れ、ライン川やローヌ川、ポー川、ドナウ川が異なる社会を持つ国家を生んだ。一方、中国には主要な河川が(長江と黄河の)2つしかなく、2千年以上前に運河でつながった。結果として、欧州は政治的に断片化していき、中国は紀元前221年に政治的に統合された」

 「統一は強みだ、と考える人が多いだろう。しかし弱みにもなった。強みは1人の指導者の下で大きな事業が実現し、経済が飛躍することだが、一方で指導者に問題があった場合には、国全体が危機にさらされやすかった」

 「中国について言えば、15世紀には技術的にも欧州と同水準にあり、1430年代には世界最大の艦隊と大きな船舶を持っていた。中国の船舶は東南アジアや中東を超え、アフリカに到達した。アフリカの後は欧州を征服しようとするかに見えたが、結局、そうはならなかった」

 「理由は中国で『統一の弱み』が表れたからだった。最高位に就いた皇帝が、艦隊は金の無駄遣いだとの決定をした。実際、艦隊は莫大な出費を伴う。欧州でも金の無駄だと言い切った国王がいたが、有用な出費だと考えた国王もいた。コロンブスは後者だったスペイン国王の支援を得て大西洋を渡った。彼の3隻の船は中国の船舶に比べると半分くらいの小さなものだったが、新世界を発見したのは欧州だった」

 ――中国は「一帯一路」政策を進めて、欧州に延びる一大経済圏を創る構えです。中国と米欧、あるいは東洋と西洋の力関係の今後をどう見ますか。

 「中国はさらに強大になるだろう。だが、米国のような軍事的、経済的、政治的権力を獲得する見込みがあるかというと、そうは思わない。基本的な問題が立ちはだかるからだ。彼らは歴史上、一度も民主主義を経験していない。それは中国にとって致命的だ。一党独裁による政治は意思決定のスピードが速い。だが、多数の意見を戦わせる機会が少なく、民主主義国家のように新しいことを試すことが難しい。総合力で米国に追いつく可能性は、私にはあるとは思えない」

■日本、危機克服に多様性

 ――日本の今後の役割とは何でしょう。

 「とても興味がある問題だ。私が今、執筆中の本は過去に起こった、あるいは今起きている、国家の政治危機に関するものだ。日本は過去に危機を迎えた。例えば1853年のペリー来航以降、日本は中国のように西洋に圧倒される危険性があったが、迅速かつ選択的な変革をして、経済的、政治的、軍事的に国家を強固にした顕著な例になった。1800年代の危機を乗り越えたのだ」

 「だが現在の日本は問題を抱える。第1に政府債務の問題だ。日本の国内総生産(GDP)と比べた国債発行規模の大きさは際立っている。2つ目は出生率の低下だ。日本は世界で最も高齢化が進み、若年労働人口に対する高齢者人口の比率が最も高い。一方で、日本の女性の役割は非常に限定的だ。今回日本に来て企業の会合に出たが、出会った人の95%は男性だった。これは米国では考えられない。女性の活用が進んでいない懸念がある。移民を受け入れない姿勢を打ち出している以上、それ以外のところでダイバーシティー(多様性)のモデルとなるケースを示す必要が日本にはある。私は日本の危機克服に、非常に興味がある」

 「もう1つ感じるのは国際的資源の持続可能な使用に関する問題で、指導力を発揮していない点だ。日本は資源輸入に依存しており、漁業や林業などの分野の外国資源の持続可能な管理体制づくりに強い関心を示すことを期待されている。ところが現実的には期待に応えられていない。例えば寿司だ。日本人はマグロが大好きだが、最も上質なマグロは地中海産のクロマグロだ。日本は地中海産クロマグロの保存に高い関心を払うべき国だと期待されるはずだが、実際は保存に対する大きな『障害』になっている懸念がある」

 「最後に、中国、韓国との関係だ。3カ国は今も良好な関係にあるとは言えない。解決策が真剣に議論されているわけでもない。こうした問題はどこか他の国が解決してくれるものではない。日本が自らの手で解決する機会を常に見つけていかなければならない」

 ――インターネットなどテクノロジーの発達をどうみていますか。

 「私に答える資格があるかどうかは疑問だが、強いて言えば、技術には大きな利益をもたらすものもあるということだ。例えば、太陽光発電だ。より効率的にエネルギーを生産できるのなら、原子力や化石燃料に頼らなくてよくなる」

 「技術も問題解決の一助にすぎないと思う。問題は我々の振る舞いだ。私たちがエネルギー消費削減の努力をすれば、直ちに多くの問題を解決することができる。日本というより、エネルギーの無駄遣いが多い米国の同胞に向かってよく言っていることなのだが」

「欧州人の優位性」に反論 Jared Diamond 「銃・病原菌・鉄」「文明崩壊」など日本語に訳された著作は数多い。生物学や生理学の学位を取る一方で、進化論や地理学の研究も進め、ニューギニアなどでフィールドワークを始めた。ピュリツァー賞受賞の『銃・病原菌・鉄』はその成果。ニューギニア人との対話で得た「なぜ欧州人がニューギニア人を征服し、逆はなかったか」という疑問から書かれた代表作は「単なる地理的要因」という仮説を提示した。欧州人の優位性という人種差別的な偏見に反論を投げ掛け、世界的に反響を呼んだ。現在、米カリフォルニア大ロサンゼルス校教授。ボストン出身。80歳。今回は日立製作所のイベントに合わせて来日した。

◇  ◇

〈聞き手から〉「一帯一路」歴史的大転換に

 ジャレド・ダイアモンド氏が指摘する15世紀の中国の遠征中止とは、海禁政策や朝貢貿易にカジを切った明の洪武帝以降の時代を指しているようだ。明代には鄭和という宦官(かんがん)出身の武将が艦隊を率い、東南アジアやアフリカまで遠征した時期もあった。ところが1434年に鄭和が死去すると、その後は遠征が止まってしまう。

 歴史家の間では、当時の王朝の決断が欧州との明暗を分ける節目になったとの指摘が多い。大航海時代を経た欧州は新世界から大量の銀などを獲得し、商業や金融業を発展させていく。一方の中国は自国の貿易船ネットワークを実質的に放棄し、朝貢貿易の相手国の船にヒト、モノ、カネの移動を依存していった。物流の大動脈をあっさりと明け渡してしまったのだ。

 理由は「当時の中国が欧州と比べても豊かで、わざわざ外に出かけていく必要がなかったからだ」と物流の歴史に詳しい京都産業大の玉木俊明教授は話す。一方、欧州は地理的、気候的な問題などから、中国よりも食料や資源が少なく、「必然的に大西洋を渡って、新世界の発見に向かわざるを得ない状況にあった」という。

 現代中国の新経済圏構想「一帯一路」はそうした意味で歴史的大転換と言える一大イベントだろう。今後の経済成長の根幹が物流ネットワークにあると考え、ユーラシア大陸全体のヒト、モノ、カネの中心に座ろうとの国家プロジェクトだ。日本の経済界にとっても見逃せない節目が迫っている可能性がある。

(本社コメンテーター 中山淳史)



米国が早める「偉大な中国」本社コメンテーター秋田浩之 2017/11/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「米国が早める「偉大な中国」本社コメンテーター秋田浩之」です。





 米国を再び、偉大にしてみせる。トランプ米大統領はこう豪語する。だが、このままいけば、彼は米国ではなく、中国が「偉大な国家」になるのを助けることになってしまう危険がある。

 そんな予兆を漂わせたのが、11月5~14日のアジアへの旅だ。北朝鮮問題では日米韓の連携を締め直し、中国から改めて協力を取りつけることに成功した。

 この旅にはさらに大切な目標があった。アジア太平洋地域で中国主導の秩序が生まれないよう、米国の影響力を立て直すことだ。

 残念ながら、こちらでは成果どころか、トランプ氏の限界があらわになった。最大の注目点だったアジア戦略に関する演説が、不成功に終わってしまったからだ。

 なぜそうなったのか。米政権の舞台裏に光を当てながら、今後、トランプ氏に世界はどう向き合えばよいのか、考えてみたい。

 アジア歴訪を控えた10月半ば、米ホワイトハウスで極めて重要な出来事があった。どんな包括戦略でアジア太平洋に関与するのか。このテーマに特化した初の閣僚級の国家安全保障会議(NSC)がひそかに開かれたのだという。

 マクマスター大統領補佐官やマティス国防長官、ティラーソン国務長官らも交えた議論の末、「自由で開かれたインド太平洋」戦略をアジア外交の中核とし、推し進めていくことを申し合わせた。

 その後、詳しい説明を受けたトランプ氏も、これを米政権の看板戦略にすると決定。11月10日にベトナム・ダナンで演説し、大々的に発表することにした。

 この戦略は太平洋からインド洋にまたがる地域に「法の支配」と市場経済を根づかせるため、賛同する国々と経済、安全保障の両面で協力を深めようというものだ。昨年8月に安倍政権が提唱した構想にトランプ政権が乗った。

 この地域では中国もインフラを整え、独自の経済圏「一帯一路」を築こうとしている。これに対し、日米豪印などが主導して自由な秩序をつくろうというわけだ。

 トランプ政権は1月の発足後、アジア政策の全体像を示せないままでいた。ダナン演説はこうした局面をがらりと転換し、インド太平洋戦略を世界に打ち上げる跳躍台になるはずだった。

 しかし、ふたを開けてみると、演説は各国を拍子抜けさせた。「自由で開かれたインド太平洋の夢を、皆さんと共有したい」。前半でこう呼びかけたまでは良かったが、後半は米国第一主義のオンパレードになったからだ。

 米国を縛る多国間協定には加わらない。そう宣言したうえで「私はいつも、米国を第一に考える」と断言。公正で互恵的な通商に応じる国に限って、2国間の貿易協定を結んでいくと強調した。

 トランプ氏は14日、日中ロや東南アジア諸国連合(ASEAN)など18カ国が集う東アジア首脳会議も欠席し、帰国した。開始が2時間近く遅れたためだ。

 「トランプ氏はやはり、アジア外交でも国内最優先を押し通すつもりなのだ」。東南アジアの当局者からは、米国は頼りにならないという声が漏れた。

 こうしたなか、11月16日、21日にそれぞれ公表されたASEAN首脳会議と東アジア首脳会議の議長声明も、中国に半ば、屈した内容になった。中国が南シナ海で軍事拠点を築いている問題について、ASEANは昨年より批判の表現を和らげてしまったのだ。

 この流れが続けば、米国主導のアジア秩序が退き、中国による秩序がこの地域を染めかねない。

 なぜトランプ氏の歴訪はこんな結末になったのか。2つの仮説が考えられる。第1は彼がインド太平洋戦略にさほど関心がないか、あったとしても、中国に遠慮して演説の歯切れが悪くなってしまったという説だ。第2は、国内のトランプ支持者を喜ばせるため、あえて米国最優先の通商方針を強調したという説である。

 このうち、前者の要素はゼロではないにしても、決定的ではないように思える。トランプ氏は安倍晋三首相からもインド太平洋戦略の説明を受けており、その意義は十分、頭に入っていたらしい。

 対中配慮はあったとしても、重要演説を弱めてまで、機嫌をとるほどではないと思う。トランプ氏は習近平(シー・ジンピン)国家主席を「偉大なリーダー」と称賛してやまないが、中国観は険しくなっている。「彼は大したやつだが、中国という国家は問題が多い」。トランプ氏はしばしば、周辺にこう漏らすという。

 こう考えると、第2の仮説が正しいとみるべきだろう。つまり、外遊先でも彼の頭の多くが内政で占められているということだ。

 アジア歴訪中、米国内ではトランプ氏を悩ます事態が続いた。米大手紙の世論調査で支持率が最低の37%に下落。バージニア州知事選は共和党候補が大敗した。目玉公約の減税法案も正念場だ。

 共和党支持者の約8割がなおトランプ氏を支持しているとはいえ、この岩盤を崩さないためにも、トランプ氏は外遊先で「米国最優先」を唱えざるを得ないのだ。

 来年秋の米中間選挙に向け、その傾向は強まるだろう。「米国第一」の公約は果たせるだろうが、同時に「偉大な中国」の実現を早めることにもなりかねない。

 トランプ政権が国内に引きこもらないよう、アジア各国は働きかけを強めるしかない。トランプ氏の「親友」であり、インド太平洋戦略を発案した安倍氏の役割は、さらに重くなる。



複眼 捨てられる不動産どう解決 2017/11/14 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「複眼 捨てられる不動産どう解決 」です。





 持ち主が分からない土地、増え続ける空き家、再開発が思うに任せないまま進行する「都市のスポンジ化」……。かつての「土地神話」が崩れた日本では、有効利用されない資産が経済成長の足かせになりつつある。人口減少時代の「捨てられる不動産」に、我々はどう向き合うべきか。

◇  ◇

■登記の義務化 罰則も 元総務相 増田寛也氏

 誰の所有かわからない土地があり、道路建設などの支障になっていることは、岩手県知事の頃から認識していた。問題が顕在化したのは東日本大震災後だ。高台に移転用の宅地を整備しようと思っても土地所有者がわからず、進まなかった。こんな状態で万一、首都直下型地震が発生したら東京はどうなるのか。そんな問題意識があり、民間有識者で研究会を立ち上げた。

 地籍調査などのデータをもとに地目ごとに分類・推計したところ、所有者が不明な土地は2016年時点で九州の面積を上回る410万ヘクタール程度あるとわかった。40年には約720万ヘクタールと北海道本島に近い面積まで増えかねない。

 人口減少と少子化で使い道のない土地が増えたうえ、地価は上がるという土地神話が崩れたことが問題を深刻にした一因だ。土地を持っていると税金がかかるし、維持管理するように求められるから、相続時に登記しない人が増えた。世代交代する度に相続人が枝分かれし、誰か1人でも行方不明になると、その土地全体が利用できなくなる。

 所有者を把握する手段として不動産登記があるが、民法学者によると、登記は第三者に対して所有権を示す制度で現時点での所有者を表す台帳ではないという。登記簿には2億3千万筆の土地が記載されているそうだが、所有者が死亡している場合がかなりある。自治体が固定資産税を課税する際に使う台帳も、小さな土地は対象にしていない。

 対策としてまず考えられるのは不動産登記を義務化し、罰則も設けることだ。それが難しいなら、フランスのように土地取引をする際に必ず資格者を通す仕組みにすれば、登記が今よりも進む。代わりに登録免許税は下げ、手続きに必要な手数料も安くする。相続放棄された土地を預かる受け皿も考えるべきだろう。

 所有権と切り離して、利用権を設定することも考えられる。農地や山林ではすでにそうした仕組みがあり、宅地にも広げる。後日、所有者が名乗り出た場合は金銭の支払いで解決する。そのためにも新法をつくって、土地所有者には管理する義務があることを明記すべきだろう。義務を果たしていないから、所有権を制限したと整理すればいい。

 利用権を設定できる対象は国や自治体の事業に限定せず、民間の事業にも広げるべきだ。公共性があるかどうかで判断すればいい。首都直下型地震の後に素早い復興に取り組むためにも、あらかじめ要件を広げた方がいい。

 最終的には土地情報を一元化した新たなデジタル台帳を整備すべきではないか。登記簿の情報のほか、不動産鑑定士や司法書士の協力も得て、「地理空間情報」に所有者を書いていく。それをマイナンバー制度とも結びつける。

 空き家では、利用可能な物件は例えばシェアハウスや外国人向けの宿泊施設などに活用する。老朽化が著しく、所有者がわからない物件は土地と一体で考えることになる。

 これから多死社会に入り、相続放棄が増えれば手遅れになる。残された時間はせいぜい十数年。今ならまだ間に合う。

(聞き手は谷隆徳)

 ますだ・ひろや 77年東大法卒。旧建設省を経て95年から岩手県知事を12年務めた。自民党政権で総務相。現在は野村総合研究所顧問のほか、東大客員教授などを務めている。65歳

◇  ◇

■機能集約で地価向上を 三菱地所執行役専務 谷沢淳一氏

 不動産事業で土地の所有者が分からず隣地との境界を画定できない問題は、現実に起きている。現在の案件はたまたま地方が中心だが、今後は東京や大阪などの都市圏でも発生しうる。最近では再開発事業が活発だが、権利変換の際に土地の特定ができないという事態から開発スケジュールが滞るケースもある。

 相続を繰り返したことで所有者が分からない土地はねずみ算的に増えている。最近は先祖伝来の土地という意識も薄くなった。解決策としての登記の義務化は中長期的には必要だと思うが、所有者は資産価値が無い土地に費用をかけてまで登記はしたくない。自治体による地籍調査にしても膨大な労力と費用がかかるため難しい。まずは不明土地をこれ以上増やさないという視点で、できる部分から手をつけることが大事だ。

 仲介手数料の見直しはその一つになる。現在は一定の範囲で決められているが、仲介者は資産価値の低い不動産については動いてくれない。手数料を多くして諸経費に上乗せできるなど、そういう制度変更があればいいと思う。

 また閲覧制限がある固定資産課税台帳について一定のルールに基づき情報開示できる仕組みを考えてはどうか。当社の地方での再開発案件で所有者が分からない雑草が生い茂った土地があり、自治体に台帳を調べてほしいと頼んだが、個人情報の関係で断られたケースもあった。台帳を見ればかなりの確率で所有者が判明する場合がある。管轄権が異なる農地基本台帳などを含めて縦割りをなくし、連携できればかなり解決する。

 不在者財産管理制度でも実際に使えるケースは限られているうえ、いざ制度を利用しても裁判所が入ると半年も時間がかかる場合がある。そんな時間的な問題を解消する取り組みも必要かもしれない。

 民間企業としては市場性がある不動産については様々な面で貢献できる。問題が顕在化している空き家についてもリフォームをすることで、物件そのものだけでなく、空き家がないことで周辺の資産価値を高められる。資産価値の向上につながる住宅や商業施設、病院や大学などを集積したエリアマネジメント、コンパクトシティ化の取り組みについても民間デベロッパーはノウハウを持つ。様々な機能を集約して街のダウンサイジング化を進め、地価を高めれば、結果的に不明土地が増えないということになる。

 不明土地を増やさない取り組みに加え、土地を所有するのではなく利用するという観点も大事だ。民間企業が市場性がないと判断しても、地元の人が使いたがる土地というのは必ずある。イベントを開催する広場として暫定的に活用するなどの使い方もあるかもしれない。地方自治体がNPO法人などを活用しながら利活用を進められればいい。

 米国では公共団体が使われていない土地の利用権を付与する「ランドバンク」という制度がある。管理放棄された土地を公共団体が希望者に売却したり、リースしたりする仕組みだ。日本では難しい面もあるだろうが、一考する価値はあるかと思う。

(聞き手は加藤宏一)

 たにさわ・じゅんいち 81年東京都立大(現首都大学東京)経卒、三菱地所入社。ビルアセット開発部長や経営企画部長、常務執行役員などを経て17年4月から現職。59歳

◇  ◇

■人口減の直視 なお不足日本大学教授 中川雅之氏

 日本の都市政策や住宅政策は大きな転換点にある。日本の空き家率は13.5%にのぼるという調査が2014年に発表された。それ以来、まず空き家問題がクローズアップされるようになってきた。

 空き家が増えると、草木が繁茂して景観を損なったり、治安が悪くなったりするという直接的な問題が出てくる。だが、それ以上に「人口減少社会の中で都市がうまく縮小できていないのではないか」という問題意識で注目されるようになっていると思う。

 日本の新築住宅着工数は1980年代には年間170万戸にのぼった。今は年間90万戸とほぼ半分になったが、人口1万人当たりの住宅数でみると日本は欧米よりはるかに多い。人が減っているのに、住宅が過剰に供給され空き家を発生させている。日本の不動産市場が、縮小社会に対応できていないことの表れだ。

 都市の縮小に向かい合うのは日本が初めてではない。旧東ドイツはベルリンの壁が崩壊した後、急激な人口流出に見舞われた。空き家が大量に発生したことを受けて、街の縮小政策を進めた。自治体と開発事業者、市民らが協定を結び、家を計画的に壊したり、空き地を緑地やコミュニティー拠点に活用したりした。

 日本もそんな縮小政策が必要になってきたが、成果を上げられていないのが現状だ。

 危険な空き家を自治体が取り壊せるとか、将来の人口減を見据えて病院や学校などの公共施設を再配置するといった政策はそれなりに出そろいつつある。だが、分権化の流れもあり、すべてのトリガー(引き金)をひくのは市町村だ。彼らがそれを使いかねていることに問題がある。

 例えば、コンパクトシティーを目指すための「立地適正化計画」。「ここは住宅地として位置づけるけれども、その他のところは移転してください」とお願いするような仕組みだ。しかし住民や開発事業者が反発すれば、市町村側はちゅうちょしてしまう。住民との距離が近い市町村には痛みを伴う改革は難しい。

 今ある様々な政策メニューを、いつどうやってどの自治体が使うべきなのか。国や都道府県など市町村より上のレベルで、人口推計などをもとに客観的な基準を定めるほうがいいのではないだろうか。

 もう一つ重要なのは、国も自治体も、これからの人口減少に正面から向き合えていないという事実だ。

 政府が掲げる「地方創生」は「地方の消滅を防げ」という掛け声から始まった。地域を活性化しなければいけないという問題意識はわかるが、地域活性化という一発逆転ホームランを打てれば、人口減少に向かい合わなくていいとの意識が潜んでいると思う。自治体ごとの地方創生戦略をみても、高めの出生率を想定しているところが多い。

 だが今後すべての地域で人口が増えていく状態は考えにくい。それなのに自分の街の人口が減ることに、市町村はいまひとつ向き合えていない。国は地方創生という名の下にバラマキを続けている。こんな意識では都市を縮めることはとうていできない。

(聞き手は福山絵里子)

 なかがわ・まさゆき 京大経卒。旧建設省、国交省まちづくり推進課都市開発融資推進官などを経て04年から現職。空き家問題や都市政策が専門で国の審議会委員も歴任する。56歳

◇  ◇

〈アンカー〉今こそ現代版「検地」の時

 全国の住宅の8戸に1戸は空き家で、空き地は香川県の面積の8割に相当する。九州の広さに相当する土地は所有者すらわからない。日本の様々な制度や政策がいい加減だったとしか言いようがない。

 地方は中心部すら駐車場だらけなのに郊外開発が止まらない。都市部でも老朽化した家屋を放置し、周辺農地に住宅が建っている。海外では土地取引要件に登記を義務付けている国が少なくないが、日本の登記制度は穴だらけだ。

 日本のように国土の半分程度しか地籍調査が終わっていない国は先進国では少数派。谷沢氏や中川氏が指摘する街の「縮小政策」を進めるためにも、増田氏が言う土地情報を一元化したデジタル台帳が必要だ。できない理由を並べるのはやめ、戦国時代の豊臣秀吉ではないが、現代版の「検地」に今すぐ取り組むべきだ。

(編集委員 谷隆徳)



グローバルオピニオン ドルには代わらぬ人民元英王立国際問題研 究所シニアリサーチフェローパオラ・スバッキ氏 2017/11/3 本日の日本 経済新聞より

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 SFサスペンス映画「ブレードランナー2049」が描く米ロサンゼルスは、現在の中国の巨大都市のようにみえた。大気汚染がひどく、けばけばしいネオンの看板と建造物が立ち並んでいた。映画の観客には、ネオンで宣伝している商品がどの通貨で取引されているかはわからない。49年には、米ドルが依然として支配的なのだろうか。中国の人民元が取って代わっただろうか。それとも、別の通貨が基軸通貨になっているだろうか。

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 トランプ米大統領は、米国が世界のリーダーの地位から、少なくとも一部退くことを固く決意しているようにみえる。だが第1次大戦と第2次大戦の間の英国のポンドのように、国が経済や金融、地政学的な覇権を失った後も基軸通貨の地位にとどまる場合はある。

 ドルは今後も長期にわたり、貿易の決済などに使われる主要な通貨であり続けるだろう。問題は、米カリフォルニア大バークレー校教授のバリー・アイケングリーン氏が予測するドル一極体制の終わりが、中国による元の台頭を意味するかどうかだ。中国の政策決定者は1990年代以降、地政学的な立場の強化を目指し、国際金融における元の役割を拡大しようとしてきた。

 しかし元建ての金融は、ドル金融のライバルになるどころか、競争のスタート地点にすら立っていない。元は、各国の通貨当局が対外債務の返済などに備えて持つ外貨準備の通貨としては引き続きドルやユーロ、円、ポンドにおくれをとる。今世紀半ばまでに元主導の国際通貨の体制が実現するのは、「ブレードランナー」のようなディストピア(反理想郷)が現実になってしまうのと同様、可能性が低いだろう。

 元が国際金融において弱い通貨なのは、10年以降かなり前進はみられたものの、国際通貨として中途半端であることが一因だ。元は流動性が低く、指定されたオフショア市場以外では通用しない。このため国際的な投資家のポートフォリオにおける元の比重は、極めて低い。

 中国自体、貿易で元を利用する比率は低く、国際金融ではドル建てが主流といえる。中国の優良企業であるネット大手のアリババ集団や百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)は米国か香港に上場している。株価は米ドルか香港ドル建てとなる。急拡大する中国の融資や海外投資の多くも米ドル建てのようだ。

 もっとも、元が支配的な国際金融の体制が近く実現すると予想されない最大の理由は、中国の指導部が元をドルに代わる通貨にするという持続的な決意を示していないからだ。むしろ、国際通貨の体制は一つの通貨に依存すべきでないと主張し、国際通貨の改革に協力的な姿勢をとっているようにみえる。中国は元の限られた流動性を克服する一つの方法として、主要な金融センターでのオフショア市場の開発に取り組んでいる。

 中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は09年、(国家とつながっていない基軸通貨の創設は、国際通貨の体制を改革する目標だとして)米国だけがドルを通じ国際通貨の体制を保証できるという考えに挑戦する論文を出した。中国は国際通貨の体制の将来について、複数の通貨が決済などにおける選択肢を提供することで、国内政治の影響をあまり受けないようにすべきだと考えているようだ。

 ただし、複数の基軸通貨が並立する体制を構築するためには、国際機関の幅広い改革が必要になる。基軸通貨としてのドルの地位は、第2次大戦後のブレトンウッズ体制に支えられている。国際通貨の体制の改革は、多国間の金融機関の改革を意味する。

 複数の通貨が並立するようになったとしても、元主導の体制にはならないだろう。中国の国際金融での本質的な弱さによるものか、真の国際通貨は市場原理に基づく通貨でなくてはならないという理解によるものかは別にして、中国でさえ元の時代が近く到来するとは予想していない。

((C)Project Syndicate)

 Paola Subacchi イタリア出身。英調査機関オックスフォード・エコノミック・フォーキャスティングを経て04年、王立国際問題研究所(チャタムハウス)入り。17年に現職。

リスク回避を優先

 中国の政策には見過ごせないパターンがある。必要と思えばいつでも豹変(ひょうへん)することだ。5月には人民元の基準値の決め方を、相場の流れと距離を置く方向に改めた。

 国際通貨基金(IMF)が人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えたときは、自由化が加速するとの予測が強まった。だが資本流出への懸念などから相場への監視を強化。元の存在感を高めたい政権のメンツ以外には成果を享受できていない。

 中国の成長率は今は6%台後半で安定しているが、いずれ下降局面に入る。そうなれば相場が不安定になるリスクが高まり、自由化にますます慎重になるだろう。経済規模では米国を猛追している中国だが、スバッキ氏の指摘のように元主導の通貨体制は見通しにくい。

(編集委員 吉田忠則)



トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

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TPP離脱やNAFTA再交渉などの経済政策には、国内からも異論が噴出している=ロイター

 トランプ米大統領が11月5日の来日を手始めにアジアを初めて歴訪する。「米国第一」を掲げ、大統領選に勝って1年。今年1月の就任後は、保護主義的な経済政策や北朝鮮、イランとの対決的姿勢で世界を揺るがせ、不規則発言が波紋を広げる。型破りな大統領は米国をどこへ導こうとしているのか。政権移行チームを担った共和党のアド・マチダ氏と、民主党系シンクタンクのエミリー・サスマン氏に聞いた。

◇  ◇

■来年夏には安定軌道に 元政権移行チーム 政策立案責任者 アド・マチダ氏

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 ――政権発足後、フリン補佐官(国家安全保障担当)、プリーバス首席補佐官、バノン首席戦略官とホワイトハウスの中枢幹部が相次ぎ辞任する異例の事態になりました。

 「新政権ができると、選挙戦スタッフの労に報いるためホワイトハウスに登用する。ただ、選挙戦の心理状態のまま、急に政権を管理する仕事は難しい。選挙戦は混乱した状況のなかで、それぞれが主体的に仕事をしてきた。それに適応した人が、管理をする側で仕事をしなければならないのは、退屈で苦しい」

 「ホワイトハウスのスタッフは本来、大統領が就任した年の8月から10月にかけて辞め、新しい顔ぶれが10月から翌年春にかけて入ってくる。これはホワイトハウスで働いた経験がある人たちが主だ。トランプ政権も来年の夏頃には安定してくるだろう」

 ――トランプ氏の長女イバンカ氏とその夫クシュナー氏が補佐官や上級顧問として政権入りしました。2人に対する周囲の遠慮が混乱の要因になったと指摘されます。

 「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」

 「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

 ――外交では北朝鮮の核開発問題で、トランプ政権は過度な中国頼みという、過去の政権の失敗の轍(てつ)を踏んでいるようにみえます。

 「北朝鮮は核開発で18カ月以内に何らかの成果を出すのではないか、と指摘されている。その段階になって話し合うのでは遅い。米国が自ら動くのであれば、中国は(協力して)対応するか、批判するかの二者択一しかない」

 ――経済制裁の効果が出なかった場合、次のステップは何でしょうか。

 「それはかなり難しい。日米韓はどう出るべきで、中国やロシアに何を求めるのか。トランプ氏はオバマ前政権がレッドライン(許容できない一線)を設けたことを批判している。(相手に手の内を示すのは)戦略的におかしく、意味がない。現政権はレッドラインを公表したりしない」

 ――経済政策では、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなどの公約実行が物議を醸しています。

 「評価していい。減点部分を挙げるなら医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止がうまくいかなかったことだ。廃止で浮く費用を税制改革の財源に充てるつもりだった」

 ――法人税は20%へ引き下げる方針を打ち出しました。

 「重要なのは連邦税の減税だ。選挙戦時に考えていたのは法人税の35%から15%への引き下げだった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は20%強。米国の場合は州税が加わるので、企業が支払う税を国際標準にするには連邦税を15%程度にする必要があった。その数字をもとに議会と調整したのだろう」

 ――トランプ氏は中西部などの製造業の白人労働者を念頭に、米国に雇用を取り戻すと約束しました。自動化で工場における単純労働が減る時代に逆行していませんか。

 「『仕事は創ります。でもあなた方が待つ炭坑作業はもう戻りませんよ』というメッセージを伝えなければいけない。米国も今やサービス産業が主流だ。アメリカンドリームを追うのなら、仕事がある場所へ移らないといけない」

 「トランプ氏の仕事は(労働者の)意識改革を主導することだ。大統領が国民に広く語りかける手段は、昔はラジオ放送だった。今は集会での演説とツイッターであり、トランプ氏は効果的に国民へ訴えかけている」

(聞き手は政治部次長 吉野直也)

 Ado Machida トランプ政権への移行チームで政策立案の総責任者を務めた。3月からコンサルティング会社を共同経営。53歳。

◇  ◇

■不信感が政治参加促す アメリカ進歩センター キャンペーンディレクター エミリー・サスマン氏

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 ――トランプ大統領の政権運営をどうみていますか。

 「成果は極めて乏しい。共和党は上下両院の多数派で、大統領は何でもできる可能性がある。だが彼は統治能力の欠如をさらけだし、いつも自ら危機を作り出している」

 ――政権運営を家族や元軍人に頼っています。

 「有権者が彼に票を投じた理由の一つは、優れたビジネスマンであり、素晴らしく能力のある人たちを政権に引き込むと信じたからだ。ところが取り巻きに置いたり、閣僚に選んだりしたのは、行政府のなんたるかを理解せず、本来の使命とまったく逆のことを信じている人たちだ。例えば環境保護局(EPA)のプルイット長官は環境保護の重要性を全く信じていない」

 「政権から次々にスタッフが去っているのは、彼の気質によるところが大きい。彼は中身の真偽はともかく、自分にとっていいことをいう人間が好きだ。耳を傾けるのは自らが信用する人間だけ。彼が聞きたくないことを報告するには、称賛も交えなければいけない。大統領と率直に話せないのは憂慮すべきことだ」

 ――トランプ氏が攻撃的な言動を繰り返す対北朝鮮政策では、オバマ前大統領にも「問題を放置した」との批判があります。

 「北朝鮮との対立をエスカレートさせている理由の一つに、戦時は大統領が高い支持率を得やすいことがある。トランプ氏はより多くの支持を得るために我々を戦争に導こうとしている。ある調査によると、米国民の72%が米国は今後4年以内に戦争するかもしれないという懸念を抱いている。それに対してオバマ氏の言動は適切だった」

 「トランプ氏はオバマ氏のレガシー(政治的遺産)を否定したいだけの理由で、イランとの核合意も認めない。多くの政権高官は合意から離脱すべきではないと主張している。彼はオバマ氏のレガシーを否定できるなら、いつもその道を選ぶ。(地球温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定からの離脱もそうだ。合意順守を主張したマティス国防長官やティラーソン国務長官も大統領への影響力を持たない。意思決定でトランプ氏は圧倒的に強い権限がある」

 ――保険料高騰の問題を抱えるオバマケアの見直しを訴えるトランプ氏に、民主党は協力すべきではないですか。

 「民主党は見直しの余地があることは認識してきたが、廃止議論なら協力はしない」

 ――トランプ氏に流れた白人労働者の支持を、民主党はどう取り戻すつもりですか。

 「白人の単純労働者たちの仕事は、特に製造業の自動化や海外移転で消えつつある。民主党はこの問題への対応を現実的に議論しようとしている。労働者を再訓練し、給料を支払い、米国が向かう経済に沿うようにするプログラムを考えることだ。(トランプ氏が訴える雇用創出のような)10年前と変わらない経済の話をするのはたくさんだ」

 「彼らはトランプ氏が自分たちを理解し、助けてくれるかのように感じた。本当は何の提案もないし、彼がやろうとしていることは暮らしをより困難にしている。だから多くの人たちは、彼が自分たちのための政治をしていないと気づき始めるだろう」

 ――来年は中間選挙があります。トランプ氏への評価はどうなっているでしょうか。

 「彼に行動が伴っていないと感じた支持者は、失望することになるだろう。大統領選まで中立的だったり、受動的だったりした多くの人たちは自ら行動するようになっている。現政権に国のかじ取りを任せられないと考えているからだ。『トランプが大統領になれるのなら、自分もどこかの市長になれる』と考え、政治的な経験がなくても公職に意欲を持つ例が増えている」

 ――次期大統領選で再選を狙うトランプ氏への対抗馬が民主党には見当たりません。

 「まだ時間がある。昨年の大統領選で候補指名をヒラリー・クリントン元国務長官と争ったサンダース氏は党内の極端な左派を代表する。トランプ氏の主張が過激だから少し穏健な政策を訴える人物に人気が集まる可能性もある」

(聞き手はワシントン=永沢毅)

 Emily Tisch Sussman 米民主党の全国青年組織で事務局長を務め、12年大統領選で若者の政治参加に貢献。35歳。

◇  ◇

■<聞き手から>混迷の「出口」 いまだ見えず

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 マチダ、サスマン両氏とも言い方は違うが、トランプ政権がいまだに混乱していると指摘した。その遠因が家族の重用などトランプ氏の統治方法であるとの認識もほぼ一致している。このドタバタが支持率低迷の背景にあるのは言うまでもない。

 サスマン氏は大統領が戦時に高い支持率を得やすい特性を挙げ、現在の北朝鮮との緊迫を説明した。湾岸戦争におけるブッシュ(父)、米同時テロ後にアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に踏みきったブッシュ(子)両大統領の支持率が90%に達したのを思い出せば、理解できるだろう。トランプ氏支持層の中核である白人労働者を念頭に置いた雇用創出も、単純労働の増加を意味するならば画餅に近い。この点もマチダ、サスマン両氏の見解は同じだ。

 その現実に気付いても、支持層はトランプ氏から離れないのか。トランプ氏が戦争の誘惑に駆られる要因は国内でも増えている。マチダ氏は「トランプ政権も来年の夏ごろには安定してくるだろう」と楽観的な見通しを示したが、混迷の「出口」はまだみえない。

(吉野直也)



グローバルオピニオン 南ア与党、権力失う瀬戸際 イアン ・ブレマー氏米ユーラシア・グループ社長 2017/10/13 本日の日本経済新 聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 南ア与党、権力失う瀬戸際 イアン・ブレマー氏米ユーラシア・グループ社長」です。





 南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)政策が1991年、平和的に廃止されて民主主義へ移行したことは、20世紀の偉業のひとつだった。廃止から四半世紀以上がたち、南アフリカと、政権を担ってきた与党・アフリカ民族会議(ANC)は転換点を迎えようとしている。

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 ANCは12月、党大会を開き、現在の議長(党首)で大統領のジェイコブ・ズマ氏の後継者となる新党首を選出する予定だ。南アフリカの大統領は議会下院の過半数の賛成で選ばれ、任期は5年間だ。ズマ氏は2009年に大統領に就任し、14年に再選されたが、3選は禁止されている。

 ANCは修復不可能な分裂の瀬戸際にあり、次の19年の大統領選では、ANCの候補が当選しない可能性も高まっている。南アフリカはANCから野党へ、再び平和的な政権移行を実現するのか。それとも深刻な状況に向かっているのだろうか。見通しはあまり明るくはない。

 10年ほど前は、南アフリカの経済は堅調だった。04~08年の5年間は、新興国が全般的に成長率が高い時期だったといえる。南アフリカが大量に産出している金やプラチナ、ダイヤモンド、石炭の価格が上昇基調となった。商品ブームで可能になった財政支出の急増などにより、年平均約4.8%の高い成長率が実現した。

 南アフリカの成長率は09~13年、豊かな国から貧しい国までが金融危機後の世界経済の減速から回復しようともがく中、わずか約1.9%に低下した。経済状況はその後、さらに悪化した。14~16年の成長率は約1.1%にまで低下した。

 暴力的な抗議行動の件数は、04~08年の年平均21件から、14~16年には同164件に増えたという。南アフリカの人口約5500万人のうち、15~35歳は2千万人程度だが、仕事に就いているのは600万人程度にすぎないとみられる。若者の失業率は成人の2倍に上り、黒人の若者の失業率は白人の約11%の4倍近い約40%の高さという。

 政府は事態の改善を約束しているが、あまり信頼性がない。ズマ大統領は詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)、汚職の容疑にさらされてきた。(公金流用など)憲法に違反したとする裁判所の判決や、複数の不信任投票などからも政治的に生き延びてきた。最近は、ズマ政権と南アフリカ在住のインド系富豪であるグプタ家の親密な関係が暴露された。グプタ家は国営企業との間で有利な契約を次々と結ぶ一方、ズマ氏のために豪邸を購入したという疑惑が浮上した。

 ズマ氏と仲間たちは支持者を奮い立たせるため、こぶしを振り上げて経済悪化の責任を国内のライバルや外国になすりつけるような、ポピュリズムに依存するようになった。健全なマクロ経済の政策を放棄しようとしている。

 政府は高い関税や補助金により、国営企業や国家が支配する産業を競争から守ろうとしている。労働組合員が保護され、失業者が仕事を見つけるのが難しくなる。国は失業と戦うため、財源がないというのに支出により政府の雇用を増やしている。汚職も暴力の引き金になっている。ズマ氏の地元である東南部クワズール・ナタール州では最近数カ月間で、政治的な理由による殺人事件が数十件発生しているという。

 ANC内部には、より持続可能な軌道に戻りたいと考える派閥があり、12月の党大会での対決に備えている。一方、ズマ氏は元夫人で、アフリカ連合(AU)の執行機関である「委員会」のトップだったドラミニ・ズマ氏を新党首にしようとしているようだ。元夫人であれば、19年の選挙が終わりズマ大統領が退任した後も、訴追から守ってくれると考えているらしい。

 ズマ氏のもくろみに挑戦する手ごわい対立候補になりそうなのが、ラマポーザ副大統領だ。ラマポーザ氏はANCの金権体質を指摘し、暗にズマ氏を非難する。ラマポーザ氏が12月の党首選で敗北した場合、ANCの派閥を率いて離脱する可能性がある。主要野党の民主同盟(DA)が率いる連合や、ズマ政権の汚職を終わらせたいと考える左翼政党などへの参加が考えられる。

 緊張が高まっているのは明らかだろう。ANCが今月初旬、東部の東ケープ州で開いた地域会合は、椅子などが飛び交う騒ぎになったという。事態が落ち着いた後、ラマポーザ氏は「ANCは困難な局面にある。12月の党大会はANCを一新し、結束させる場になるだろう」などと出席者に語りかけたという。

 ANCの幹部は、ANCをアパルトヘイトからの解放の党ではなく、権力の党としてしか知らない若い世代の存在を忘れてはならない。ANCは12月の党首選の結果がどうなるにせよ、大統領選で権力を失う可能性が高まっている。善くも悪くも、これから起きることが南アフリカの将来の進路を決めることになるだろう。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



「投資外交」で勢い増す中国米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマ ー氏 2017/9/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「「投資外交」で勢い増す中国米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏」です。





 ある国が国際社会において、自らの権益を主張する方法は数多くある。軍事力を誇示する国や破壊活動をする国、こけおどしの文句を並べる国もある。中国の場合はアジアやアフリカ、中南米、欧州においてさえ投資をテコに、困っている政府から望むものを得ようとしている。

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 最も明白なのはアジアだ。米国とパキスタンの関係は近年大幅に悪化したが、多くの理由がある。トランプ米大統領とインドのモディ首相の良好な関係が、パキスタン政府に中国との関係強化に動く格好の口実を与えた。中国の対パキスタン投資は勢いを増した。

 中国の経済圏構想「一帯一路」の一環である550億ドル(約6兆円)規模の中国・パキスタン経済回廊プロジェクト(CPEC)はパキスタンに成長をもたらし、必要とされる雇用を創り出している。中国はパキスタン南部グワダル港の開発を認められ、インド洋での存在感を高めるだろう。

 中国は(人権問題などに関する)欧米の批判に反発するフィリピンのドゥテルテ大統領に、開発が遅れている同国のインフラ構築を支援すると約束した。現時点で中国はあまり多くのことを実行していない。だがドゥテルテ大統領は支援の約束を取り付けただけでも納得し、中国やフィリピンなど複数の国が領有権を主張する南シナ海について、中国の進出への抗議を控えることにした。東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国には親中の姿勢をとる国も多いが、フィリピンも加わった。

 マレーシアのナジブ首相も、南シナ海への中国の進出に対する抗議から手を引いたようにみえる。同国も道路や橋、特に鉄道への投資を必要としているからだ。国営投資会社「1MDB」を巡る資金の流用疑惑などもあり、財政が悪化しているからでもある。

 中国は長年、豊富な資金を利用してアフリカにおける影響力を強化してきた。習近平国家主席は今後数年間で、さらに数十億ドルの支援を約束しているという。中国は影響力を一段と強めるため、北京を拠点とするメディア「スタータイムズ」を通じ、アフリカ30カ国の家庭に向けたテレビ放送などで中国の世界観を伝えている。

 中国など主要新興国5カ国で構成するBRICS首脳会議の加盟国、南アフリカは、アフリカ南部15カ国で構成する南部アフリカ開発共同体(SADC)への入り口を提供した。SADCは中国の成長を支える天然資源へのアクセスと、中国のアフリカ地域への政治的な影響力を強める機会を与える。中国は南アフリカにとって最大の貿易相手国で、両国は2015年に65億ドル相当の商談に合意しているという。

 南アフリカ政府は中国の投資に報いるためか、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の訪問を拒否している。ダライ・ラマ14世は中国では外交上「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」だが、南アフリカでも09年以降、入国を3回拒否されたようだ。

 ケニアのケニヤッタ大統領は、5月に北京で開かれた一帯一路の国際フォーラムに招かれたアフリカ首脳のうちの1人だ。ケニアは一帯一路の海上ルートの一部として、中国のインフラ投資の主要受け入れ国になると予想される。中国はすでにケニアの首都ナイロビと貿易港モンバサを結ぶ高速鉄道を建設している。ケニア政府は感謝の意を示すため、中国の南シナ海の領有権主張に対する支持を表明し、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)への人民元組み入れも支持したようだ。

 中国はかなりの時間と資金をかけて、中南米での影響力の強化にも動いている。中国はブラジルなどにとって最大の輸出市場になった。ボリビアは、中国からの輸入がどの国よりも多くなっている。同様の状況のパナマは6月、台湾と断交して中国と国交を結び、中国に外交的な勝利をもたらした。

 中国は欧州のギリシャにも投資するようになった。債務危機に陥ったギリシャは、欧州連合(EU)から押しつけられた緊縮財政と厳しい批判にうんざりしている。ギリシャは一帯一路の構想を通じ、中国の投資を得た。今では中国の国有企業が、ギリシャ最大のピレウス港を運営する。EUは6月、国連の人権理事会で中国の人権状況を非難する声明をとりまとめようとしたが、ギリシャの反対で阻止された。ギリシャは、中国の南シナ海の領有権主張に対しても支持を表明しているようだ。

 ギリシャのある政府高官は8月、「欧州はギリシャを中世の吸血鬼のように扱うが、中国はお金をどんどん持ってきてくれる」と語った。米国やEUなどは、ある国がどうしても必要とするプロジェクトへの投資の条件として、政治行動まで変えさせようとする。米国やEUなどが学ぶべき教訓が、ギリシャの高官の発言に込められている。トランプ大統領は米国の力を吹聴するものの、巨額の小切手を切ることに関心はないとはっきり述べている。中国のやり方は、次にどこで成功するだろうか。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



FT米ロ大統領、共倒れか 非難と制裁招くロシアゲート 2017/9/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「[FT]米ロ大統領、共倒れか 非難と制裁招くロシアゲート」です。





 もし本当に、ロシアのプーチン大統領がトランプ氏の昨年の米大統領選挙における勝利を手助けしていたとすれば、それは情報工作による究極のクーデターだったと言える。しかしそれは、究極の「オウンゴール」だったのかもしれない。

 米政権に親ロ的な人物を送り込むことでプーチン政権への圧力緩和を狙った作戦は、逆に対ロシア制裁の強化を招いた。また、ロシア国内でもプーチン氏に対する政治的な風当たりが危険なほど強まっている。

 トランプ氏の側からみても、トランプ陣営が大統領選中にロシアと共謀していたとすれば、トランプ氏の勝利に寄与した可能性はあるものの、そのことはトランプ氏から大統領の座を奪う危険性もはらんでいる。

イラスト James Ferguson/Financial Times

 プーチン政権とトランプ陣営の親密な関係が、最終的に両大統領の政治生命に終止符を打つとしたら、それは奇妙なまでに皮肉な事態と言えよう。

 もちろん、ロシア政府もトランプ氏の熱烈な支持者たちも、そうした共謀関係を否定している。だが米国の複数の情報機関は、大統領選中に米民主党のメールサーバーがハッキングされた事件の背後にロシアがいたことを確信している。

 民主党から流出したメールが、僅差の選挙結果に影響を与えた可能性は高いと思われる。

■共和党支持に乗り換え

 筆者は昨年7月、最初にウィキリークスが流出メールを公開した時、翌日から民主党大会が開催されるフィラデルフィアにいた。公開されたメールから、民主党全国委員長を務めていたデビー・ワッサーマンシュルツ氏が、ヒラリー・クリントン氏の対立候補だったバーニー・サンダース氏を追い落とすことをひそかに画策していたことが明らかになり、同氏は辞任。当然、党大会は大混乱の中での開幕となった。

 サンダース氏の支持者らは、同氏が不当に扱われたことを確信した。そして、彼らが共和党支持に乗り換えたことがペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの重要な州でトランプ氏が勝利を収めた要因となった。今では、ロシア側がフェイスブックやツイッターを利用して反クリントンのメッセージを拡散したことも判明している。

 トランプ氏は選挙運動中、一貫してロシア政府に好意的な姿勢を示していた。それが、思想的な動機からなのか、投資家としての考えからなのか、あるいは公にできない恥ずべき理由が何かあったのか、今なお明らかではない。

 いずれにせよ、ロシア政府と共謀していたのではないかとの疑惑から始まった一連の出来事は、トランプ氏を最終的に大統領の座から引きずり下ろすかもしれない。

 トランプ氏は、米連邦捜査局(FBI)が同氏のロシアとの接触について捜査を始めたことを警戒し、5月にFBIのコミー長官を解任した。だがこのことが、それまで特別検察官を任命してロシア介入疑惑を捜査することに慎重だった米議会などの反発を招き、モラー元FBI長官が特別検察官に任命され、トランプ氏とロシアの関係を捜査することになった。モラー氏は徹底した捜査を進めているため今後、複数が起訴され、辞職に追い込まれる可能性が高い。そうなれば議会が大統領の弾劾に動く可能性もあり、トランプ氏は失職するかもしれない。

■冷戦時代以来の厳しさ

 一方、プーチン氏側も、トランプ政権で最初の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたフリン氏がロシア政府と接触していた事実を明かしていなかったために、トランプ氏が同氏を2月に解任せざるを得なくなった時点で、自らの賭けが裏目に出た可能性があることが明白になった。以来、トランプ氏がロシアを助けるために制裁緩和するのは政治的に不可能になった。それどころかロシアの介入疑惑は、制裁強化をもたらした。トランプ氏への不信感を募らせた米議会は、同氏の一存で制裁解除をできないようにもした。