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「投資外交」で勢い増す中国米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマ ー氏 2017/9/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「「投資外交」で勢い増す中国米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏」です。





 ある国が国際社会において、自らの権益を主張する方法は数多くある。軍事力を誇示する国や破壊活動をする国、こけおどしの文句を並べる国もある。中国の場合はアジアやアフリカ、中南米、欧州においてさえ投資をテコに、困っている政府から望むものを得ようとしている。

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 最も明白なのはアジアだ。米国とパキスタンの関係は近年大幅に悪化したが、多くの理由がある。トランプ米大統領とインドのモディ首相の良好な関係が、パキスタン政府に中国との関係強化に動く格好の口実を与えた。中国の対パキスタン投資は勢いを増した。

 中国の経済圏構想「一帯一路」の一環である550億ドル(約6兆円)規模の中国・パキスタン経済回廊プロジェクト(CPEC)はパキスタンに成長をもたらし、必要とされる雇用を創り出している。中国はパキスタン南部グワダル港の開発を認められ、インド洋での存在感を高めるだろう。

 中国は(人権問題などに関する)欧米の批判に反発するフィリピンのドゥテルテ大統領に、開発が遅れている同国のインフラ構築を支援すると約束した。現時点で中国はあまり多くのことを実行していない。だがドゥテルテ大統領は支援の約束を取り付けただけでも納得し、中国やフィリピンなど複数の国が領有権を主張する南シナ海について、中国の進出への抗議を控えることにした。東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国には親中の姿勢をとる国も多いが、フィリピンも加わった。

 マレーシアのナジブ首相も、南シナ海への中国の進出に対する抗議から手を引いたようにみえる。同国も道路や橋、特に鉄道への投資を必要としているからだ。国営投資会社「1MDB」を巡る資金の流用疑惑などもあり、財政が悪化しているからでもある。

 中国は長年、豊富な資金を利用してアフリカにおける影響力を強化してきた。習近平国家主席は今後数年間で、さらに数十億ドルの支援を約束しているという。中国は影響力を一段と強めるため、北京を拠点とするメディア「スタータイムズ」を通じ、アフリカ30カ国の家庭に向けたテレビ放送などで中国の世界観を伝えている。

 中国など主要新興国5カ国で構成するBRICS首脳会議の加盟国、南アフリカは、アフリカ南部15カ国で構成する南部アフリカ開発共同体(SADC)への入り口を提供した。SADCは中国の成長を支える天然資源へのアクセスと、中国のアフリカ地域への政治的な影響力を強める機会を与える。中国は南アフリカにとって最大の貿易相手国で、両国は2015年に65億ドル相当の商談に合意しているという。

 南アフリカ政府は中国の投資に報いるためか、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の訪問を拒否している。ダライ・ラマ14世は中国では外交上「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」だが、南アフリカでも09年以降、入国を3回拒否されたようだ。

 ケニアのケニヤッタ大統領は、5月に北京で開かれた一帯一路の国際フォーラムに招かれたアフリカ首脳のうちの1人だ。ケニアは一帯一路の海上ルートの一部として、中国のインフラ投資の主要受け入れ国になると予想される。中国はすでにケニアの首都ナイロビと貿易港モンバサを結ぶ高速鉄道を建設している。ケニア政府は感謝の意を示すため、中国の南シナ海の領有権主張に対する支持を表明し、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)への人民元組み入れも支持したようだ。

 中国はかなりの時間と資金をかけて、中南米での影響力の強化にも動いている。中国はブラジルなどにとって最大の輸出市場になった。ボリビアは、中国からの輸入がどの国よりも多くなっている。同様の状況のパナマは6月、台湾と断交して中国と国交を結び、中国に外交的な勝利をもたらした。

 中国は欧州のギリシャにも投資するようになった。債務危機に陥ったギリシャは、欧州連合(EU)から押しつけられた緊縮財政と厳しい批判にうんざりしている。ギリシャは一帯一路の構想を通じ、中国の投資を得た。今では中国の国有企業が、ギリシャ最大のピレウス港を運営する。EUは6月、国連の人権理事会で中国の人権状況を非難する声明をとりまとめようとしたが、ギリシャの反対で阻止された。ギリシャは、中国の南シナ海の領有権主張に対しても支持を表明しているようだ。

 ギリシャのある政府高官は8月、「欧州はギリシャを中世の吸血鬼のように扱うが、中国はお金をどんどん持ってきてくれる」と語った。米国やEUなどは、ある国がどうしても必要とするプロジェクトへの投資の条件として、政治行動まで変えさせようとする。米国やEUなどが学ぶべき教訓が、ギリシャの高官の発言に込められている。トランプ大統領は米国の力を吹聴するものの、巨額の小切手を切ることに関心はないとはっきり述べている。中国のやり方は、次にどこで成功するだろうか。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



FT米ロ大統領、共倒れか 非難と制裁招くロシアゲート 2017/9/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「[FT]米ロ大統領、共倒れか 非難と制裁招くロシアゲート」です。





 もし本当に、ロシアのプーチン大統領がトランプ氏の昨年の米大統領選挙における勝利を手助けしていたとすれば、それは情報工作による究極のクーデターだったと言える。しかしそれは、究極の「オウンゴール」だったのかもしれない。

 米政権に親ロ的な人物を送り込むことでプーチン政権への圧力緩和を狙った作戦は、逆に対ロシア制裁の強化を招いた。また、ロシア国内でもプーチン氏に対する政治的な風当たりが危険なほど強まっている。

 トランプ氏の側からみても、トランプ陣営が大統領選中にロシアと共謀していたとすれば、トランプ氏の勝利に寄与した可能性はあるものの、そのことはトランプ氏から大統領の座を奪う危険性もはらんでいる。

イラスト James Ferguson/Financial Times

 プーチン政権とトランプ陣営の親密な関係が、最終的に両大統領の政治生命に終止符を打つとしたら、それは奇妙なまでに皮肉な事態と言えよう。

 もちろん、ロシア政府もトランプ氏の熱烈な支持者たちも、そうした共謀関係を否定している。だが米国の複数の情報機関は、大統領選中に米民主党のメールサーバーがハッキングされた事件の背後にロシアがいたことを確信している。

 民主党から流出したメールが、僅差の選挙結果に影響を与えた可能性は高いと思われる。

■共和党支持に乗り換え

 筆者は昨年7月、最初にウィキリークスが流出メールを公開した時、翌日から民主党大会が開催されるフィラデルフィアにいた。公開されたメールから、民主党全国委員長を務めていたデビー・ワッサーマンシュルツ氏が、ヒラリー・クリントン氏の対立候補だったバーニー・サンダース氏を追い落とすことをひそかに画策していたことが明らかになり、同氏は辞任。当然、党大会は大混乱の中での開幕となった。

 サンダース氏の支持者らは、同氏が不当に扱われたことを確信した。そして、彼らが共和党支持に乗り換えたことがペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの重要な州でトランプ氏が勝利を収めた要因となった。今では、ロシア側がフェイスブックやツイッターを利用して反クリントンのメッセージを拡散したことも判明している。

 トランプ氏は選挙運動中、一貫してロシア政府に好意的な姿勢を示していた。それが、思想的な動機からなのか、投資家としての考えからなのか、あるいは公にできない恥ずべき理由が何かあったのか、今なお明らかではない。

 いずれにせよ、ロシア政府と共謀していたのではないかとの疑惑から始まった一連の出来事は、トランプ氏を最終的に大統領の座から引きずり下ろすかもしれない。

 トランプ氏は、米連邦捜査局(FBI)が同氏のロシアとの接触について捜査を始めたことを警戒し、5月にFBIのコミー長官を解任した。だがこのことが、それまで特別検察官を任命してロシア介入疑惑を捜査することに慎重だった米議会などの反発を招き、モラー元FBI長官が特別検察官に任命され、トランプ氏とロシアの関係を捜査することになった。モラー氏は徹底した捜査を進めているため今後、複数が起訴され、辞職に追い込まれる可能性が高い。そうなれば議会が大統領の弾劾に動く可能性もあり、トランプ氏は失職するかもしれない。

■冷戦時代以来の厳しさ

 一方、プーチン氏側も、トランプ政権で最初の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたフリン氏がロシア政府と接触していた事実を明かしていなかったために、トランプ氏が同氏を2月に解任せざるを得なくなった時点で、自らの賭けが裏目に出た可能性があることが明白になった。以来、トランプ氏がロシアを助けるために制裁緩和するのは政治的に不可能になった。それどころかロシアの介入疑惑は、制裁強化をもたらした。トランプ氏への不信感を募らせた米議会は、同氏の一存で制裁解除をできないようにもした。



ドルむしばむトランプ氏米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授ベンジ ャミン・コーヘン氏 2017/8/25 本日の日本経済新聞より

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 米国のドルは1世紀近くにわたり、究極の安全な通貨とみなされてきた。米ドルほど蓄積された富の安全と流動性を約束する通貨はほかになかった。いままでは問題が生じると、臆病な投資家や慎重な中央銀行はいずれもドル建て資産、とりわけ米国債に資金を移してきた。しかしもはや、そうはならないかもしれない。

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 トランプ政権の混乱で、米ドルに対する信頼は大幅に損なわれた。トランプ大統領は本人が百数十万人と主張する、存在しない群衆の前で就任して以来、オーストラリアやドイツのような同盟国を含む各国の政府にけんかを売ってきた。最近では、北朝鮮の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と対峙し、世界を核戦争の危機にさらしている。

 米ドルは深刻な試練に直面しようとしている。世界の投資家は、指導者が「炎と怒り」という表現を使い、内向きの北朝鮮を威嚇・挑発する国に資金を流入させるだろうか。それとも、ほかの場所に資金を避難させるだろうか。

 第2次大戦以降、ドルの安全性が今ほど疑問視されたことはない。戦後、桁外れに大きく発達した米国の金融市場が比類のない流動性を約束してきた。米国は軍事大国だったため、地政学的な安全保障も確保できた。金融システムがグローバル化する中、安全で柔軟な投資先を提供するのに米国ほどふさわしい国はなかった。

 2007年の米住宅バブル崩壊が良い例だ。米国発の金融危機と景気後退が、世界経済を破綻寸前に追い込んだことは誰もが知っていた。それでも米国市場に資金が流入し、米連邦準備理事会(FRB)と財務省は対応策をとることが可能になった。ドルは下落するどころか強含み、米国債の市場は円滑な運営の続く際立った存在だった。

 10年前のドル需要の高まりの大半は、純粋な恐れのせいだということもできる。だれ一人として、事態がどのくらい悪化するかわからなかった。同じことが今の米国と北朝鮮の応酬についてもいえる。歴史は繰り返され、投資家はドルに群がるのだろうか。

 それは、あてにしないほうがいいだろう。市場は何カ月も前から、トランプ氏に対する不信感を示している。新たな危機の恐れはドル資産からの資金流出を加速しかねない。そうなれば米国は軍事衝突の可能性に加え、ドル危機に対応する必要が生じる。

 昨年11月の大統領選がトランプ氏の予想外の勝利で終わった直後は、ドル危機のリスクは極めて小さいと思われた。資本が流入し、ドルは10年以上ぶりの高い水準に上昇した。投資家は大規模な規制緩和や減税、インフラ投資などによる経済成長を期待した。

 しかしトランプ政権の相次ぐトラブルで、「トランプ相場」はドルに対する信頼感とともに反転した。政権発足から200日で、ドルは価値を10%近く失った。トランプ氏がツイッターにナンセンスな投稿をしている間に、投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す。この傾向は最近の米国と北朝鮮の対立の前から始まっていたが、当時は小幅な下落にすぎなかった。いまや資金流出が洪水に変わり、ドルが恒久的なダメージを受ける可能性もある。

 トランプ政権は実際にはドル安を望み、世界の資金の逃避先としての役割を他国に期待するかもしれない。しかし王権の放棄は危険で、歴史上に例をみないほど近視眼的といえる。米国にとって、価値をためる手段としてのドルの人気は極めて大きい。投資家や中央銀行が富を米国債など米資産に投資すると、米政府は世界の安全保障への関与に必要な支出を続け、貿易・財政赤字を穴埋めできる。

 トランプ氏は世界の準備通貨を持つ利点よりも、コストに注目しているようだ。しかし、資本流出を心配しなければならなくなったら「米国を再び偉大にする」どころではない。世界の金融システムでの支配的な立場を犠牲にした米国は偉大とはいえない。トランプ氏はドルを試練にさらし続けるなら、後悔することになるだろう。

((C)Project Syndicate)

 Benjamin Cohen 米コロンビア大博士。専門は国際金融、国際政治経済学。同タフツ大教授などを経て現職。著書に「通貨の地理学」。80歳。

有事の円高避けよ

 米政権の混乱でドルの信頼低下が進むなか、コーヘン氏が指摘する通り「投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す」。その結果起きるのが、円がマネーの逃避先になるという現象だ。

 マーケットの混乱や軍事情勢の緊張など逆風が日本を襲うとき、同時に円相場も上昇し、輸出面から日本経済にさらなる下押し圧力をかける。やっかいな話だ。

 「有事の円買い」が起きてしまう理由はいくつかあるが、ひとつは日本のデフレだ。物価上昇率が低い国の通貨は、相対的に価値が下がりにくい。となると危機時に投資家が円保有に安心感を見いだしても不思議はない。米国がドル安を放置するのなら、脱デフレを実現して「有事の円高」を避ける自衛措置が日本には必要だろう。

(編集委員 清水功哉)



グローバルオピニオン EUの未来 楽観許さず 米ユ ーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏 2017/8/18 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン EUの未来 楽観許さず 米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏」です。





 エマニュエル・マクロン氏が5月、フランスの大統領選で反欧州連合(EU)を掲げるポピュリストのマリーヌ・ルペン氏を退けた。ドイツのメルケル首相が(今秋の総選挙を経て)再選する可能性も高まり、欧州がまたも課題を克服したという楽観的な見方が復活している。だが、結論を出すのは時期尚早だ。これから数カ月間、多くの問題が生じると予想され、いまの信頼感は長続きしそうにない。

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 まずフランスは、若々しく精力的なマクロン大統領の誕生により、新世代の指導者への待望論が強いほかの欧州諸国の垂ぜんの的になった。しかし大統領選挙で最も注目すべきは、(既成の二大政党として)同国の政治を長年支配してきた社会党(中道左派)グループと、共和党(中道右派)グループの敗北だ。

 親EU・反EUを問わず、フランスの有権者は変革を求めている。(中道新政党「共和国前進」を率いた)マクロン大統領は、70%が新人議員とされる議会とともに改革に取り組まねばならない。経験不足のために経済と労働市場を活性化できなければ、大統領や議会の支持率は今より低下するだろう。

 マクロン氏は、EU改革に対し懐疑的でもあるドイツと協力する前に、フランスの財政を立て直す必要がある。(調査会社によっては)新大統領の支持率は、就任当初の水準からすぐに10ポイント程度低下した。ほほ笑みや自信にあふれた演説の先にあるのは、社会保障費の削減だと国民が見抜いたからだ。マクロン氏はオランド前大統領と同じく、労働市場の改革をどんなに巧みに示しても、(9月に有力な労働組合が予定するような)デモを引き起こすと思い知った。

 イタリアの場合は、政治的な膠着状態が続く。次の総選挙は(遅くとも)2018年前半までに実施されそうだ。(親EUだが)必要な政治・経済改革を実行に移せない(中道左派・民主党が率いる)連立与党の政権か、反EUを標榜するポピュリスト政党「五つ星運動」が主導する政権かのいずれかが選ばれる可能性が高くなっている。

 移民問題が引き続き、イタリア政治のかたちを変えようとしている。EUと(近接する)トルコの合意により、エーゲ海を渡って(対岸の)ギリシャに向かう移民は大幅に制限された。だが主にリビアからイタリアへボートで到着する人の流れは16年、前年に比べて20%増えたようだ。今年上半期にギリシャに到着した移民は約9千人、スペインは約4千人だったが、イタリアは9万人以上を受け入れているという。

 フランスとオーストリアがごくわずかでも負担するどころか、(両国が)イタリアとの国境管理の強化に関心があるようにみえることで、イタリアでは怒りが高まっている。一部の国の過度な負担を和らげるため、EU加盟国に難民の受け入れを義務付ける割り当ての制度は機能していない。

 ハンガリーとチェコ、スロバキア、ポーランドの東欧4カ国は割り当て上、約1万1千人の難民を受け入れる予定だった。しかし確認できる範囲では、スロバキアとチェコが受け入れたのは30人程度にすぎず、ポーランドとハンガリーに至っては1人も受け入れていないようだ。

 東欧の抵抗はこれだけではない。(難民の受け入れに反発してきた)ハンガリーのオルバン首相は政治支配を固めようと、「反自由主義」を受け入れる。ポーランドの右派政権は、裁判官の人事権を掌握するための法案を可決した。EUは今後、両国への予算配分を減らすと警告しているものの、EUのルールを順守させるような行動は起こしていない。

 気がかりな点はまだある。(EUへの加盟交渉を進めてきた)トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領のような強大な権力者になろうとしており、EUとの間に(国内の人権状況などを巡って)問題を引き起こしている。エルドアン氏は、19年の予定だが、来年前倒しとなる可能性が高い大統領選で再選を目指す。同氏は欧州への国民の反感をあおることで、国内での人気が高まることを認識している。(トルコからの移民も多い)ドイツなどとの摩擦が深刻化するのは間違いない。

 欧州からの経済的利益などと引き換えに、トルコに大勢の難民をとどめるというエルドアン氏とEUの合意を危険にさらす可能性もある。ただ、この合意はお互いにメリットがあるため、維持されるだろう。維持されなければ、欧州は再び移民危機に直面し、欧州全土でポピュリスト的な怒りが復活するとみられる。

 プーチン大統領の挑発や(19年3月を期限とする)複雑な英国のEU離脱(ブレグジット)の交渉など、問題はとどまるところを知らない。メルケル首相は安定をもたらす存在で、マクロン大統領は自国やEU全体の改革を勢いづけるかもしれないが、EUの首脳が今後も手いっぱいになるのは確実だ。

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



DeepInsight 指導者を生み続ける力本社コメンテーター 秋田浩之 2017/8/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「DeepInsight 指導者を生み続ける力本社コメンテーター 秋田浩之」です。





 日本と中国でともに政治が揺れている。日本は盤石だった安倍政権の足場がぐらつき、中国では権力闘争の嵐が吹き荒れる。

 政治には多くの役割があるが、とりわけ大事だと思えるのが、国の命運を託せる指導者を育て、輩出していく力だ。この点では、一見すると、中国のほうが優れているようにみえる。

 観光客でにぎわう北京市郊外の名所「頤和(いわ)園」。その近くに、物々しい警備が敷かれた一角がある。かつては地図上で伏せられ、電話番号も秘密だった。共産党のエリート幹部を養成する「中央党校」である。

 下は地方の幹部から、上は閣僚級の要人までが定期的に合宿し、教育を受ける。それは研修というより、特訓に近い。中国幹部の体験談によると、こんな具合だ。

 閣僚級であっても単身で着替えを抱え、入校する。寮で寝起きし、厳しい門限がある。1回の研修は閣僚級で約2週間、もっと下の幹部なら1~3カ月にわたる。ふだん秘書に頼っている高級幹部の中には、いきなり隔離され、うろたえる人もいるという。

 講義は哲学や経済、政治、世界史といった一般教養にもおよぶ。それぞれが政策の課題を与えられ、自力で対処法を考え、皆の前で発表させられることもある。

 さらに共産党は傘下組織として各省に34、市町村には約2860もの地方の党学校を設け、似たような教育を施しているのだ。

 そんな環境でえりすぐられ、共産党首脳である政治局員(現行25人)になっても、気は抜けない。習近平国家主席が政治局員を招集して1カ月半~2カ月に1回、「集団学習会」を開くからだ。

 内情を知る中国専門家によると、海外出張などを除き、欠席は許されない。外部講師の話を聞き、議論を交わす。習氏も質問を飛ばす。7月24日に開かれた直近の学習会のテーマは軍改革だった。

 中国では有望なスポーツ選手を国家が見いだし、金メダルを狙える人材に鍛える。国家によるこんなスパルタ教育を、指導者づくりでもやっているというわけだ。

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 ひるがえって、日本はどうか。政治家の資質を疑うような失言や不祥事が相次いでいる。2012年末に第2次安倍内閣が発足して以来、問題発言などで辞任した閣僚はすでに6人を数える。

 なにがいけないのか。自民党のベテラン議員らに聞くと、いちばん多いのが、1996年に初めて実施された衆院の小選挙区制度で政治家の質が下がったという指摘だ。要約すると、こうなる。

 同じ選挙区から複数が当選する中選挙区制と違い、小選挙区制は勝ちか負けしかない。このため、賛否が分かれる独自の政策ではなく、誰にでも聞こえがいい抽象的な公約を掲げがちになる――。

 衆院では平均すると2年半に1回ほど選挙がある。そんな守りの選挙を重ねるうちに、国会議員は個性を失い、金太郎アメのようになってしまう、というわけだ。

 さらに根が深いのは「宰相の器」を持つ人材を輩出する仕組みの行き詰まりだ。戦後、首相の供給源となったのは官僚機構だった。吉田茂、岸信介、池田勇人、佐藤栄作はいずれも官僚OBだ。

 やがて自民党が力をつけ、党派閥の領袖が内閣を率いるようになる。田中角栄や竹下登が典型だ。し烈な権力闘争で鍛えられた胆力が、官僚にはない強みだった。

 だが、今の自民党派閥に昔日の力はない。近年は「世襲宰相」でしのいでいるのが現実。安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の3氏はいずれも元首相の子や孫である。

 だからといって、日本が中国をお手本にすべきだと言いたいわけではない。中国の制度には致命的な弱点がある。国民に選ばれたわけでもないエリートが、国政や地方行政を牛耳っていることだ。

 日本では資質を欠いた政治家は選挙で淘汰される。これがない中国では、腐敗やコネがまん延しがちだ。共産党の自浄作用が衰えれば、人々の不満が噴火し、体制が揺らぎかねない。中国当局者からはこんな本音が漏れる。

 「正直に言うと、日本が羨ましい。政治への不満は選挙でリセットされるからだ。選挙がない中国で、民衆の怒りに火がついたらどうなるか。不安で仕方がない」

 戦後の日本でも40年近く、自民党による事実上の1党支配が続いた。復興や経済発展を最優先する人々が、まず政治の安定を求めたからだ。だが、豊かさが実現するにつれ、自民党支配の弊害に厳しい目が向けられるようになり、93年と09年には一時政権を失った。

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秋田浩之(あきた・ひろゆき) 政治部、北京支局、ワシントン支局などを経て、外交・安全保障担当の編集委員兼論説委員。近著に「乱流 米中日安全保障三国志」

 日本と体制は違うものの、所得が底上げされるにつれ、中国でも1党支配への不満は高まっていく。日本の政治が乗り越えてきた荒波に中国はこれから直面する。

 では、日本が優れた指導者を生み出していくには、どうすればよいのか。自身も元官僚である作家の堺屋太一氏は語る。

 「戦後、吉田や佐藤のような官僚OBが首相を担い、官僚を抑えて戦後政治を引っ張った。その後、田中や竹下のような派閥領袖に引き継がれたが、底流では官僚が政策を主導し、首相がそれに乗っかる政治が続いてきた。まず、この状態から脱却しなければ、新しいリーダーは生まれてこない」

 堺屋氏は明治にしろ、戦後にせよ、日本は「変革期には政治主導で伸び、安定すると官僚主導で停滞してきた」とみる。今日の政治の混迷が、新たな変革への過渡期の苦しみだとすれば、むなしさも少しは和らぐ。



「日本売り」狙われる五輪後本社コメンテーター菅野幹雄 2017/8/4 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「「日本売り」狙われる五輪後本社コメンテーター菅野幹雄」です。





 これからの3年はあっという間かもしれない。

 2020年7月24日に開幕する東京五輪に向け、競技場や高層ビル、交通インフラの建設と改装工事が加速している。10兆円規模といわれる投資が街を変え、世界中のアスリートや観客を迎える準備が進む。

 五輪に関連した官民の投資や消費の上積みで、日本の国内総生産(GDP)は開催までの数年間、年平均で0.3ポイント程度押し上げられるというのが、主要調査機関の共通の見方だ。

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 五輪特需について深入りはしない。指摘したいのは、五輪の「20年」を節目に日本経済が直面する数々の重い試練の存在だ。

 安倍晋三政権は短期の経済活性化策に熱心な一方、中長期の財政や社会保障の青写真をほとんど示していない。

 17年の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)を読んでも、3年後に到来する20年代の経済の姿がわからない。まるで丸腰で暗いトンネルに突っ込んでいくかのようだ。

 楽観的な見通しは次々と裏切られている。国・地方の政策経費をすべて税収や税外収入で賄う「基礎的財政収支の黒字化」を目指す20年度の政府の財政健全化目標は達成が極めて困難だ。「19、20年度の2年間で国の政策経費を合計3兆円減らさないと、目標には追いつかない」と大和総研の神田慶司氏は試算している。

 19年10月に予定した消費税率10%への引き上げも、3度目の延期説がくすぶる。首相は10%を超す税率への引き上げにも否定的な考えを示しており、歳入不足の解消もメドがたたない。

 人口の少子高齢化は一段と厳しくなる。25年には第2次世界大戦の終戦後に集中的に生まれた「団塊の世代」が全員75歳以上に達し、医療や介護の費用が大幅に増える。勤労世代の重圧はさらに強まることがみえているのに、抜本的な社会保障改革は手つかずだ。

 日銀も苦闘している。7月に示した「経済・物価情勢の展望」で、2%物価上昇の目標達成のメドを「19年度ごろ」に延期した。20年の五輪後も今の強引な金融緩和が続く可能性が高まっている。

 米中を筆頭に世界景気には不透明感が残る。国内でも五輪前に盛り上がった投資の反動減が20年の前後にやってくる。厳しい現実から政権が目をそらし続ければ、世界からの信用を失う。

 BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリストは「東京五輪が終われば日本は『売り』だと、外国人投資家は口をそろえている」と話す。人口減少の逆風を乗り越え、成長機会を増やす中期戦略が日本に足りないことを、海外は見透かしている。

 3日発足の改造内閣で支持率の回復を期す安倍首相。中期的な視野のもとで持続的な成長を目指す路線に軌道を修正するなら、閣僚の顔ぶれが大きく変わるいまが好機になる。

 「財政健全化と社会保障改革を加え、アベノミクスの矢を5本に増やすべきだ」と日本総合研究所の湯元健治副理事長は提案する。

 将来世代に繁栄と安定を支えるレガシー(遺産)をどう残していくか。単なるスポーツの祭典と思われがちだが、五輪のような巨大イベントは人々の心理を動かし、国の勢いを変える力をもつ。

 筆者は06年のサッカーW杯ドイツ大会と12年のロンドン五輪を赴任地で取材した。開催国の人々の間に自信と高揚感が広がっていく様子を目の当たりにした。

 ドイツW杯の前、同国は「欧州の病人」とも呼ばれ、低成長と大量失業にあえぐ苦境にあった。1カ月間の大会を通じ、堅苦しさを自認していたドイツの人々が外国客を友好的に出迎え、自らの可能性と愛国心に目覚めた。

 03年に導入した労働市場などの構造改革がちょうど効果を発揮し始めた時期。W杯の成功体験をバネにした心理の改善が経済復活を後押ししたともいえる。

 英国も変身した。「五輪が開幕すると、すべてうまくいくという雰囲気になる」。12年当時のロンドン市長だったジョンソン英外相は先月、小池百合子東京都知事にこんな体験談を話した。確かに、感情を表に出さない英国人が自国チームに熱狂し、五輪の興奮をもう一度実感したい人々がパラリンピックの会場を埋めた。

 東京五輪も日本人の意識変革を呼び起こす起爆剤になるかもしれない。活路を開くひとつのカギは「国を開く」発想だ。

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菅野幹雄(すげの・みきお) ベルリン支局長や欧州総局(ロンドン)編集委員を経て編集委員兼論説委員としてマクロ経済、欧州問題をカバー。近著に「英EU離脱の衝撃」

 訪日外国人客数は17年1~6月に前年同期比17%増えた。同じペースで増えれば17年は通年で2800万人になる。五輪開催の20年までに4000万人という目標に着実に近づく。

 企業の直接投資を日本に呼び込む戦略も欠かせない。

 英国の巧みな売り込みが印象に残っている。五輪開会式の前日、英政府は外務省の迎賓館に世界各国の経済閣僚、中央銀行や国際機関のトップを招き、英国への投資を呼び掛けるセミナーを開いた。五輪観戦に来た賓客に登壇してもらう一方で、当時のキャメロン首相は「英国への投資を妨げるものがあれば何でも指摘してほしい」と訴えた。

 東京五輪を境に、日本を取り巻く環境はがらりと変わる。20年代に必要となる改革は何かを今から直視し、この3年間にそれを着々と実現していくことが大切だ。成長の土台と安定への備えを正面から築く時期にきている。



時論 日本は1万円札を廃止せよ 米ハーバード大教授ケネ ス・ロゴフ氏 2017/8/1 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「時論 日本は1万円札を廃止せよ 米ハーバード大教授ケネス・ロゴフ氏」です。





 高額紙幣は廃止すべきだ――。マクロ経済学の第一人者、米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授の主張が世界的な論争を巻き起こしている。脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪を減らす効果に加え、電子決済が普及すると説く。人類の経済活動を発展させてきた通貨は、金融とIT(情報技術)が融合したフィンテックが台頭する現代にどうあるべきか。

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 ――高額紙幣の廃止を主張しています。欧州中央銀行(ECB)が500ユーロ(約6万4500円)札の廃止を決めるなど、実際に見直しの動きがあります。

 「現金決済が主流の日本では荒唐無稽と思われがちだが、ユーロ圏だけでなく、カナダやスウェーデン、シンガポールも高額紙幣の廃止を決めた。日本にはまず1万円札と5千円札を廃止することを提案したい。米国は100ドル(約1万1千円)札と50ドル札だ。経済活動で現金が果たす役割の大きさは論じるまでもない。ただ、マネーロンダリングや脱税、収賄など犯罪行為で高額紙幣が果たす負の役割も大きく、現金の闇を取り除くべきだ」

 ――電子マネーやクレジットカードの普及で、高額紙幣は自然と淘汰されるように思えますが。

 「ところがそうではない。主要国では現金決済の比率が下がっているのに、世の中に出回る紙幣と貨幣の量はむしろ増えている。クレジットカードの普及で、米国ではドルの通貨流通量が1970年代、80年代は米国内総生産(GDP)の5%前後まで下がった。それが今では再び7%台まで上昇している。日本は70年代こそ7%程度にすぎなかったが、今では約20%だ」

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 「日本円の通貨流通量を国民1人あたりで換算すると77万円だ。家族4人にすれば300万円を超す計算だ。財布や家の中にこれだけの現金を持っている家計がどれだけあるだろうか。米国は1人あたり4200ドルの現金を保有している計算になるが、実際に財布や家、車の中に保管しているのは250ドル程度だ。企業の決済で現金を使うことはほとんどないだろう。大量の現金の在りかが、実はよく分からないのだ」

 「もう一つの特徴は、現金の流通量のうち高額紙幣の占める割合が圧倒的に多いことだ。米国では80%が100ドル札だ。この紙幣で1人あたり3400ドルを保管している計算だ。米国で100ドル札を使うことはめったにない。日本は90%が1万円札。ここから推計できるのは、高額紙幣の多くが非合法な経済活動で使われているのではないか、ということだ」

 「脱税で考えてみよう。米内国歳入庁の調査から推計すると、米国の脱税の規模は連邦政府分だけで年5000億ドル。地方税も含めれば、堅く見積もっても7000億ドル規模になる。現金取引が多い個人事業主や零細企業経営者の過少所得申告の比率が最も大きい」

 「高額紙幣を廃止して現金取引を電子決済などに置き換えれば、銀行口座などからマネーのやりとりを捕捉できるようになり、脱税の機会は大きく減る。仮に脱税が10%減れば、連邦と地方合わせて700億ドルもの税収増が見込めることになる」

「地下経済」縮み税収増える

 ――順法意識の高い日本では、そんなに脱税が多いとは思えませんが。

 「それは逆ではないか。オーストリアの経済学者の分析では、脱税を中心とした『地下経済』の規模は米国がGDP比7%で日本は9%と指摘している。米国は脱税への罰則が最も厳しい国の一つだ。多くの調査結果が日本のほうが脱税の比率が高いことを示している。財政悪化に苦しんでいる日本は高額紙幣の廃止によって税収増の効果も期待できる。世界的にも現金は麻薬売買や人身売買、テロ資金などに使われており、廃止の見返りは大きい」

 ――現金には取引の匿名性といった利点があります。簡単に廃止できますか。

 「資産隠しに適さない小額紙幣や貨幣は残せばいい。私が主張するのは高額紙幣の段階的な廃止だ。最良の技術によって貝殻から鋳造、印刷へと置き換わってきたのが通貨の歴史だ」

 「銀行口座を持たない消費者もいるので、すべての人が電子決済の金融サービスを利用できるよう、政府がデビットカードやスマートフォン用の口座を無償提供する。電子決済の普及は、紙幣の廃止を後押しするだろう。法的な枠組みで匿名性やプライバシーの保護も徹底すべきだ。こうしたコストは脱税を減らすことによる税収増で賄えるはずだ」

 ――世界的に普及が進むビットコインが現金の代替手段になるとの見方もあります。

 「クレジットカードのような決済手段をビットコインが取って代わることはあるだろうが、政府の統制が効かないビットコインは、ドルのような通貨そのものの代わりにはならない。ビットコインの流通量が増えれば、政府は必ず規制をかけるようになる。法規制によって金融機関では使えないようにするとか、極論を言えば小売店で使えないようにすることもできる」

 「ただ、政府が現金に替えてデジタル通貨を運用するようになれば、民間銀行の仲介が不要になって、金融システムが劇的に変わる可能性はある」

金融緩和にも新たな道

 ――高額紙幣の廃止は金融緩和にも効果があると主張していますね。

 「次なる経済危機に備えて、中央銀行はマイナス金利政策を本格的に検討すべきだ。日本の例を引くまでもなく、量的緩和政策には金利政策ほどの効果がない。ただ(景気を冷やさず過熱もさせない水準である)中立金利が低下しており、中央銀行はこれ以上は利下げできない『ゼロ金利制約』に苦しんでいる」

 「金融危機のような大きなショックに見舞われれば、景気を反転させる手段はマイナス金利しかない。日銀やECBは現在もマイナス金利政策を敷いているが、極めて小幅だ。中央銀行がこの政策を深掘りできないのは、銀行預金にマイナスの利子を課すことができても、預金者が資産を現金に替えてしまえば、マイナス金利を付けることができなくなるためだ」

 「ただ、現金を廃止してマネーを電子化すれば、簡単にマイナス金利を付けることができる。マイナス幅は4%程度まで可能になるのではないか。その先駆者となれるのは、あらゆる金融政策を試みてきた日本だろう。日本はマイナス金利の深掘りに向けて、高額紙幣廃止の研究を始めるべきだ。それだけで市場のインフレ予測が強まる効果も期待できる」

 ――マイナス金利を深掘りすれば、現金そのものに税金をかけて強制徴税するようなものです。生活者の理解を得られますか。

 「その論点は錯覚だと言いたい。2%のインフレ時に金利をゼロ%に下げても、0%のインフレ時に金利をマイナス2%に下げても、実質的には同じことだ。ただ、マイナス金利の痛みを軽減するために、小口預金者は対象外とすることも可能だ」

 「大胆なマイナス金利政策によって先行きのインフレ期待をつくり出すことができれば、長期金利はプラス圏で推移する。預金金利がマイナスに陥ることも避けられるはずだ」

過去800年の金融危機を分析 Kenneth Rogoff 1953年生まれ。専門はマクロ経済学と金融経済学。同じハーバード大のラインハート教授との共著「国家は破綻する」では過去800年の金融危機を分析し、政策当局者の必読書となった。チェスの名人としても知られ、78年には最高位の一つである「グランドマスター」を取得している。 トランプ米政権には「政策遂行能力がない」と手厳しい。ただ米経済の成長鈍化は金融危機の後遺症だと指摘し「米国の広い国土からすれば人口は5億人までは拡大余地がある」と潜在力を強調する。同僚のサマーズ元財務長官らが唱える長期停滞論は「10年もすれば誰も語らなくなる」と将来を強気に見通す。64歳。

〈聞き手から〉紙幣多い日本 問題視

 黒色のトランクを開けると何重にも敷かれた1万円札の束が顔を出す――。犯罪映画で見かける場面だが、ロゴフ氏は各国の政府統計などを用いて、現実に高額紙幣が非合法活動で大量に使われている可能性を明示してみせる。

 2001年から03年まで国際通貨基金(IMF)の主席エコノミストを務めたロゴフ氏は、世界的なマクロ経済学者の一人だ。その同氏が「紙幣」と「地下経済」という分野に「20年前から注視していた」(ロゴフ氏)という。それが「パナマ文書」問題に代表される課税逃れへの批判と、フィンテックによる電子決済の普及によって「紙幣廃止論」に結びついた。

 日本にも「クロヨン」との言葉がある。源泉徴収の会社員は所得の9割を税務当局に把握されるが、匿名性の高い現金取引が多い自営業者らは6割、農林水産業者は4割にとどまるとの指摘だ。「マイナンバー」の導入後にタンス預金が増加したのは、匿名性の高い現金による課税逃れとのロゴフ氏の主張を裏付ける一つの動きかもしれない。

 偽造などの問題で紙幣への信頼が薄い途上国は、一足飛びに脱・現金が進む。ケニアでは携帯電話を使った電子決済取引がGDPの4割に達するとされる。日本の国際通貨筋は「むしろ日本の紙幣流通量の多さが国際会議でたびたび問題視される」と明かす。テロ資金やマネーロンダリングの撲滅は紙幣廃止論を後押しする国際的な課題だ。

 ロゴフ氏は紙幣廃止論とマイナス金利政策を結びつけて議論する。利上げで先行する米連邦準備理事会(FRB)は、政策金利を中期的に3%まで引き上げる考えだ。もっとも戦後の景気後退局面で、FRBは平均5.5%も利下げしてきた。全体的に金利水準が下がった現在は利下げ余地が乏しく、打開策はマイナス金利政策しかないという。利上げにすらたどり着かない日銀は、よりマイナス金利の本格導入を検討すべきだとロゴフ氏は訴える。

 ただ、マイナス金利政策の可否は、紙幣廃止論と切り離して考えるべきだろう。マイナス金利を深掘りできないのは、現金という存在が制約になっているだけでなく、銀行収益や年金運用の悪化といった副作用が重いためだ。プラス圏での利下げとマイナス金利導入による痛みは、全く異なる。本格的なマイナス金利政策はあくまで未曽有の金融危機時などの非常手段であるべきだろう。

(ワシントン=河浪武史)



核心 若返るサウジはどこへナショナリズムにも変化本社コラムニ スト脇祐三 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

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 サウジアラビアでサルマン国王(81)の子息、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(31)が皇太子に昇格し、指導層の世代交代が進む。新皇太子への権力集中で石油の王国はどう変わるのか。アラブ民族主義や資源ナショナリズムの時代の後に生まれた世代の台頭は、中東をめぐる国際関係の変化にもつながる。サウジの行方は、中東の地政学の新たな焦点になっている。

 6月21日に発表されたサウジの皇太子交代は唐突だった。国王の甥(おい)に当たるムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(57)の任を解く勅令には、サウジの更迭人事によくある「本人の要望により」という一節がなかった。その日のうちに、更迭された前皇太子が軟禁状態に置かれたという情報も広がった。

 英国のロイター通信、米国のニューヨーク・タイムズなどは、以下のような「政変」の内幕を伝えている。

 イスラム教のラマダン(断食月)と重なった6月、多くの王族は聖地メッカなど紅海側地域に滞在していた。サルマン国王は6月20日夜、ムハンマド前皇太子をメッカの宮殿に呼び出し、皇太子の地位を副皇太子に譲り内相の職も辞すよう迫った。携帯電話を取り上げられ、外部と連絡できなくなった前皇太子は、抵抗をあきらめ、翌日の明け方に退任に同意した。

 前皇太子はカタールとの断交など新皇太子が主導する性急な政策に反対していたようだ。国王は更迭の理由として鎮痛剤の乱用で判断力が落ちていると語ったという。前皇太子は2009年、過激派アルカイダの自爆テロで重傷を負い、その後遺症を指摘されてはいた。サウジ政府高官は「皇太子の交代は国益に沿った正当なもの」と説明するが、一種の「宮廷クーデター」という見方は根強い。

 サウジでは、36人いた初代国王の息子(第2世代)のうち有力者が兄から弟へと王位を継いできた。初代国王の孫に当たる第3世代の重鎮、ハリド・メッカ州知事も77歳になり、指導層全体の高齢化が構造的な問題だった。

 一昨年1月に即位したサルマン国王は、即位後まもなく異母弟のムクリン皇太子を更迭して50代の甥を皇太子としたが、今回はさらに若い息子に王位を直系で継承する道筋を整えた。指導層の若返りを一気に進め、新皇太子が旗振り役になっている経済改革に弾みを付ける狙いだろう。国王が生前退位し、新皇太子が王位につくシナリオまで取り沙汰されるようになった。

 サウジは伝統的に巨大な王家の中で権力を分散し、コンセンサスを保って王制を維持してきた国だ。すでに国防相で王宮の長官であり、経済政策の責任者も兼ねている若い新皇太子が、さらに大きな権力を握ることや、父子の王位継承への反発もある。

 6月21日の別の勅令は統治基本法を改正し、第3世代の国王が直系の皇太子を立てられない趣旨の原則を加えた。現国王から新皇太子、その子へと、サルマン系が王位を独占し続ける可能性への警戒感を和らげる狙いとみられる。

 その一方で、権力の集中は加速している。前皇太子の更迭後、後任の内相には同じナエフ系のアブドルアジズ王子(33)が就任した。だが、最近、治安関連の政府機関が再編され、内務省の下にあった検察や治安部隊を指揮する権限は事実上、王宮に移った。新皇太子が一段と反対勢力ににらみを利かせる形になる。

 外交では4月、新皇太子の弟であるハリド王子が駐米大使に任命された。サウジの国民の6割は30歳未満だ。若いプリンスを相次いで要職に起用するのは時の流れに沿った動きだが、若い世代の発想はシニア世代と大きく異なる。

 新皇太子が推し進める国営石油会社サウジアラムコの株式公開について、「金の卵を産む鶏を、なぜ外国の投資家に売るのか」といった異論が同社OBなどから噴き出した。米石油メジャーとの長い交渉を経て、アラムコが完全国有化されたのは1980年代だった。85年生まれの新皇太子は、資源ナショナリズムが高揚した時代を知らない。

 新皇太子は昇格前、5月のテレビ番組で、「何でも国有というのは、社会主義者か共産主義者の発想だ」と反対論を切って捨てた。

 第3次中東戦争から50年、第4次中東戦争と第1次石油危機から44年たった。アラブ民族主義の高揚も、新皇太子らが生まれる前の出来事だ。

 90年のイラクによるクウェート侵攻で「アラブの大義」は決定的に風化した。90年代以降、アラブ諸国同士が外国企業の投資誘致を競う時代も続いた。今のアラブで支配的なのは、自国の利益をまず追求するナショナリズムだ。

 米国のトランプ政権は中東和平の仲介に意欲を見せる。だが、イスラエルとパレスチナの最終合意の展望は開けない。大統領の娘婿で新皇太子と親密なクシュナー上級顧問らを中心に、米政権はイランを共通の脅威と見なすイスラエルとサウジなどの関係正常化を模索している。だから、駐イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するという、アラブ諸国が反対せざるを得ない公約の実行を先送りした。

 イスラエルとサウジなどが関係を正常化するうえで、障害はなお多い。とはいえ、サウジでも「アラブ・ナショナリズム後」の世代に権力が移行しつつあり、中東はパラダイムの転換期に入った。昔と同じ鋳型を当てはめても、今の動きはわからない。



FT中国、狙うは西側の覇権 一帯一路、米国孤立は好機 2017/7/27 本日の日本経済新聞より

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 今年もっと大きく報じられてよかったはずのニュースの一つが、中国と英国を結ぶ鉄道貨物輸送の新ルートの開通だ。

 1月1日に、1両の機関車がけん引する貨物列車が、中国製の工業製品を満載して浙江省義烏を出発した。列車はそれから18日かけて7カ国を通過し、約1万2000キロ離れたロンドン東端の貨物駅に到着した。

 昔のシルクロードをよみがえらせたようなこの最新ルートが経済的に成功するかどうかはまだ分からない。だが、肝心なのは経済的側面ではない。一番列車が何にも増して告げたのは、中国政府がこの鉄道に込めた地政学的狙いだ。

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イラスト Ingram Pinn/Financial Times

 最終地点にたどり着くまでには何回も列車を乗り換える必要があった。国によって線路の幅が異なるため、様々な箇所で貨物を入れたコンテナを積み替える必要が生じるからだ。最後の英仏海峡トンネルを通過する路線でもそうだった。

■特別な意味持つロンドンルート

 この列車がどんな頻度で運行されるかは不明だが、運行を手がける当局によると、海上輸送よりかなり速く、空輸より格段に低料金で貨物を運べるという。当面は月1便が目標のようだ。

 独ハンブルクやスペインのマドリードなど、欧州大陸のいくつかの都市を終着点とする中国からの同様のルートは少し前から開通していた。しかし、ロンドンは特別な意味を持つ。

 かつてのシルクロードにならい、アジアからロシア、ベラルーシ、ポーランドと抜けて西欧に至るこのルートが、今日の貿易パターンに決定的な影響を及ぼすとは考えにくい。重要なのは心理面に与える影響だ。鉄道によるネットワークが構築されたことで、アジアと欧州の心理的な距離感が縮まるからだ。

 そこには中国の習近平国家主席が描く壮大な計画がある。欧州大陸とアジア大陸の境界を取り除き、豊かな欧州各国と中国の距離感を縮めたい考えだ。

■「太平洋の世紀」、中国の台頭象徴

 外交政策の世界では、20世紀を端的に「大西洋の世紀」と呼ぶ。そう考えると、21世紀は「太平洋の世紀」と呼ぶことになる。20世紀は、大西洋の両沿岸部に位置する欧州と米国に富と権力が集中した。だが繁栄と権力は東へ、南へと次第に移動していった。「太平洋の世紀」という言葉は、中国の台頭を象徴するが、中国の興隆は太平洋の世紀という言葉だけでは説明しきれない。

 確かに中国は南シナ海の島々を自国領だと主張し、そこに人民解放軍の基地を建設して、西太平洋へと海上の覇権を拡大しようとしている。その結果、この海域で米国と衝突する可能性は十分ある。しかし、こうした緊張の高まりだけをみても、中国政府の野望を十分に理解することはできない。中国は東方に関心を向けているというより、西への関心を深めている。

 習氏の壮大な計画は「一帯一路」構想に集約できる。昔のグローバル化時代を支えた陸路、海路を復活させるという構想だ。中国は、世界の覇権を握るには巨大なユーラシア大陸を押さえることが重要だと考えている。そうした中、ユーラシア大陸でどの国が中心的な役割を果たすだろうかと言えば、言うまでもないだろう。

■世界の陸地の3分の1、人口の7割

 米カーター政権で国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務め、今年5月に死去したズビグニュー・ブレジンスキー氏は、ワシントンで最も頭の切れる戦略家だった。彼は1997年時点で既にユーラシア大陸の重要性を理解し、「(世界の)軸となる超大陸」と呼んでいた。「ユーラシアを支配する強国は、世界で最も経済生産性の高い3つの地域のうち2つ(西欧と東アジア)に対し、決定的な影響力を握ることになる。ユーラシア大陸で勢力図に大きな変化が生じたら、それは世界における米国の優位性と今後、世界に及ぼす米国の影響力に大きな打撃をもたらすことになるだろう」と指摘した。



Deep Insight 忍び寄る強権勢力と日本本社コメンテーター秋田浩之 201 7/7/26 本日の日本経済新聞より

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 ざっくり言えば、人と人の関係には2つのタイプがある。ひとつは実利でつながる仲間。もうひとつは損得だけでなく、共通の信条で結ばれた同志だ。前者の関係はもろいが、後者はちょっとやそっとでは崩れない。

 国と国にも同じことがいえる。そして安倍晋三首相がかねて強調してきたのは、後者の関係を追求する外交である。

 民主主義や人権、法の支配といった価値を共有する国々と連携を深める――。

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 安倍氏は日ごろからこう訴え、2013年末の国家安全保障戦略にも明記した。この理念は正しいと思う。日本の国力が縮むなか、実利外交だけで競い合っても、中国などにはかなわないからだ。

 ところが、今の安倍氏と世界の要人との関係をながめると、必ずしもこの路線とは一致しない。

 安倍氏にとって、気の合う「友人」はだれか。複数の側近にたずねると、決まって名前が挙がるのが、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、インドのモディ首相だ。会談の回数も多い。

 トランプ米大統領や、昨年6月に就任して以降、相互訪問を含めて早くも3回会談したフィリピンのドゥテルテ大統領も「親しい首脳」(安倍氏側近)という。

 モディ氏を除けば、いずれもこわもての強権型リーダーだ。プーチン氏はウクライナのクリミアの武力併合、エルドアン氏は反政府勢力の弾圧、ドゥテルテ氏は麻薬犯罪取り締まりにおける人権侵害が国際的な非難を浴びる。

 安倍氏が彼らと親しくするのは、むろん理由があってのことだ。領土交渉ではプーチン氏の懐に飛び込まざるを得ない。南シナ海の中国化を防ぐには、ドゥテルテ氏への支援も必要だ。きれいごとばかりでは、外交はできない。

 だが、そう理解したうえでも、自由や民主主義の価値を重視した外交を、日本は今こそ大切にすべきだと思う。日本の繁栄を支えてきた自由な世界秩序が、後退の瀬戸際にあるように映るからだ。

 そんな危険が浮かび上がったのが、7月上旬のドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議だ。

 内幕を知る関係者らによると、議長を務めたドイツのメルケル首相の隣には、前回の議長である中国の習近平国家主席が陣取り、まるで国際秩序の守護者のように振る舞った。

 開放的な世界の経済体制を守らなければならない。世界貿易機関(WTO)の規則に従おう――。習氏はこう訴え、国際ルールの順守を説いた。首脳宣言の水面下の調整でも、中国はこうした原則を繰り返し力説したという。

 本来、これらの言葉は日米欧が中国に投げてきたものだ。ところが内向きなトランプ政権の出現で「米国が壊す秩序を、中国が守っているかのような光景が生まれている」(欧州外交当局者)。

 その資格と能力があるなら、中国の呼びかけを拒む理由はない。しかし、現実は逆である。

 6月下旬、米欧などの当局者や有識者がスウェーデンに集まり、米ジャーマン・マーシャル財団が主催する非公開の会議を開いた。テーマは中国問題。飛び交ったのはまさに中国異質論だ。

 「いずれ中国も市場経済国になると思い、WTOへ迎え入れた。この前提が間違いだった」

 米側がこう指摘し、中国の関税の高さや、政府による国有企業への統制ぶりを問題視した。欧州側からもこんな声が出た。

 「中国は長年、米欧の声に耳を傾けず、成功してきた。もう変わらないだろう」

 一党支配下にある中国の政治体制はさらに異質だ。同国がこのまま世界秩序を動かすようになれば、西側諸国が守ってきた自由や民主主義、法治体制が変質し、骨抜きになる危険がある。

 決して大げさな心配ではない。ほかならぬ米欧でも、民主主義が後退する兆しが出ているのだ。

 米政治学者のロベルト・フォア、ヤーシャ・ムンク両氏が昨年発表した研究結果によると、「軍人の統治」を良いことだと考える米国人は14年に約17%と、1995年の約3倍に増えた。

 この傾向は若者ほど顕著だ。政府が統治力を欠いた場合、軍事クーデターは正当化されるか。こんな問いに対して「ノー」と答えたミレニアル世代の米国人はたったの19%。欧州の同世代への調査でも、36%にとどまった。

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秋田浩之(あきた・ひろゆき) 政治部、北京支局、ワシントン支局などを経て、外交・安全保障担当の編集委員兼論説委員。近著に「乱流 米中日安全保障三国志」

 格差の広がり、党派対立に明け暮れる政治への失望。理由は様々だが、自由な秩序が揺らいだら、日本もただ事では済まない。だからこそ、価値観を共有する国々と連携し、強権主義への防波堤を築いていかなければならない。

 残念ながらどこまでトランプ氏を当てにできるかは分からない。「中国はとても戦略的に動いている」。5月下旬の主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)で、世界への政治力を強める習近平氏の手腕をむしろ評価したという。

 第2次世界大戦は、英米主導の秩序に日独伊が挑むなかで始まった。いま阻止しなければならないのは、中国がロシアなど他の強権国と枢軸を組み、現行秩序を変えようとすることだ。中ロの蜜月にはそんな意図が漂う。両国は米欧を揺さぶるため、先週末からバルト海で共同演習に入った。

 中ロのこれ以上の接近を阻むのに役立つなら、安倍氏とプーチン氏の「友情関係」にも前向きな意味がある。だが、今のところ、そのような効果はみえてこない。