カテゴリー別アーカイブ: 一目均衡

一目均衡 脱EUで底力見せる英企業 欧州総局 黄田和宏 2016/08/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 脱EUで底力見せる英企業 欧州総局 黄田和宏」です。





 世界の金融市場を大きく揺さぶった英国の欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票からきょうで2カ月。英国株は予想外に上昇基調を保ち、年初来の上昇率では1割弱と先進国のトップパフォーマーに躍り出た。リオデジャネイロ五輪で、米国に次ぐ2位の金メダルを獲得して底力を見せた英国。株式市場でも粘りを見せるその強さはどこにあるのか。

□  ■  □

 英国を代表する100社で構成するFTSE100種株価指数は先週、一時6900台半ばと、EU離脱決定後の安値に比べて16%上昇した。その後はやや足踏みしているが、2015年4月につけた過去最高値(7103)が射程圏に入り、最高値圏で推移する米国株を追い上げている。

 好調さの秘訣は英国企業の特異な収益構造にある。JPモルガン・セキュリティーズによると、FTSE100構成銘柄は売上高の72%を海外で稼いでおり、アストラゼネカやグラクソ・スミスクラインなどの製薬大手では9割を上回る。国民投票後の通貨ポンドの1割を超す急落は、ポンドに換算した企業の海外収益を大きく押し上げている。

 特に、英国企業の新興国関連の売上高は全体の3割近くを占め、ドイツの2割や日本の1割強などに比べ群を抜いて高い。資源価格の底入れを背景とする新興国景気の安定の恩恵を最も受けやすい立場にある。JPモルガンの株式ストラテジスト、ミスラフ・マテイカ氏は「英国企業の収益見通しは過去4年間で初めて上方修正が優勢に転じた」と指摘し、英国株の好調さが当面続くとみている。

 国民投票ではEUからの離脱を指す「Brexit(ブレグジット)」を選択した英国だが、すでに代表的企業は英国に依存しないという意味で「Brexit」を果たしていたともいえる。英大手運用会社ハーミーズ・インベストメント・マネジメントの欧州株式運用担当者のマーティン・トッド氏は、英国をはじめ欧州で政治リスクが高まるなかで「マクロ環境にかかわらず安定成長できる企業を探している」という。

 その典型例として挙げるのがソフトバンクグループが7月中旬に買収を決めた英半導体設計のアーム・ホールディングス(ARM)だ。トッド氏は「世界は相互に結びつきを増しており、ハイテク半導体の需要は膨らむ。ソフトバンクとはこうした視点で見解が一致する」と説明する。ARM株を長期保有してきたハーミーズは、今回の破格の高値による買収で大きく報われることになった。

□  ■  □

 EU離脱という逆境でも、企業は成長に向けた布石に余念がない。グラクソは7月下旬、英国内で3億ポンド近い投資計画を発表した。通貨安によるコスト競争力も生かして、海外向け製品の開発を強化する狙いだ。英国株はEU離脱決定後の荒波をひとまず乗り切ったが、これまでは通貨安に助けられた側面が強かった。最高値更新に向け、本来の底力が試されている。



一目均衡 英米政治が揺さぶる市場 編集委員 小平龍四郎 2016/06/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 英米政治が揺さぶる市場 編集委員 小平龍四郎」です。





 「今、こんな事件が英国で起きたら流れは一気に『離脱』でしょうね」。ロンドンの知己からメールが届いたのは、約1週間前だった。米国のナイトクラブで過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う男が銃を乱射するという事件の直後だ。米大統領選の候補指名が確定している共和党のトランプ氏は、事件を受けて移民の受け入れ停止を訴えた。

□  ■  □

 欧州連合(EU)にとどまるべきか否かを問う英国の国民投票でも、焦点の一つは移民だ。世論調査の結果では、経済メリットを重視し「残留」を訴える声と、移民急増への警戒から「離脱」を主張する意見が拮抗してきた。

 仮に反移民の感情をあおる事件が発生したら、世論は理屈を抜きにしてEU離脱が大勢となる……。イスラム教徒のロンドン市長が誕生するなど多様性を誇る英国でもそんな雰囲気が強まり始めた時、移民支援に力を入れていた労働党ジョー・コックス下院議員の銃殺事件が起きた。

 痛ましい事件をきっかけに扇情的な反移民キャンペーンが静まり、EU離脱派の勢いは鈍るのではないか。何ごとも冷徹でにべもない反応をする株式市場ではそんな解釈が浮上している。見方を変えれば、英国のEU離脱問題を左右するものは経済のロジックではないということだ。

 国民投票を控えた英国の雰囲気は、内向きのポピュリズムに彩られた米国の「トランプ現象」と共鳴している。元駐英大使の野上義二氏は日本記者クラブの講演で、こんな指摘をした。グローバル化の中で雇用が脅かされていると感じる人びとの不満が政治決断を後押しする構図は、米英に共通する。「メーク・ブリテン・グレート・アゲイン」。トランプ氏の主張を換骨奪胎したようなキャッチフレーズさえ英国のEU離脱派は口にしていた。

 6月の英国民投票と11月の米大統領選。2016年は二つの成熟した民主主義の市場経済国で、よもやと思ったことが現実になった年として記憶されるのかもしれない。市場がリスク・オフに傾きやすいのは仕方ない面がある。

 「世界がリスクに満ちたものに変わったわけではない。人びとのリスクの捉え方が変わったのである」。米大手運用会社ブラックロックで30年近く株式運用にたずさわってきたデニス・スタットマン氏に、投資家としての英米の政治状況への見方を聞くと、こんな答えが返ってきた。

□  ■  □

 スタットマン氏は「リーマン・ショックによって市場関係者は、起こりようのないことが、時には起こることを知った」ともいう。例えば、英国がEUから離脱し、米国ではトランプ大統領が誕生するといった可能性のことだろう。いずれの未来も、待望論の根底に横たわるのはグローバル化への警戒や憎悪だ。

 世界の株式市場は今しばらく、経済のロジックを超えたところで揺さぶられるのかもしれない。



一目均衡 1700兆円の増やし方 編集委員 北沢千秋 2015/10/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 1700兆円の増やし方 編集委員 北沢千秋」です。





 安倍政権は名目国内総生産(GDP)を600兆円にすると打ち上げた。次は「貯蓄から投資」の実現へ、1717兆円の個人金融資産を2000兆円にする目標を掲げてはどうか。潜在成長率ゼロ%台の日本がGDPを100兆円増やすより、よほど現実味がある。

□  ■  □

 個人の金融資産はもっと厚みが必要だ。低成長や少子高齢化などで、今の現役世代は経済的に厳しい老後を迎える。野村総合研究所の試算では、現役世代(1979年生まれ)の退職後所得(退職金、年金など)は退職世代(49年生まれ)に比べ15~35%減る。

 試算は今後10年間は過去の実質賃金上昇率を維持、その後は0.5%の上昇率を見込んでおり、しかも今の公的年金の受給水準が前提。減少率はさらに拡大する恐れがある。それを補うには早くから資産形成に取り組み、金融資産を蓄えなければならない。

 2000兆円は象徴的な数字だが、非現実的ではない。1717兆円を年1.54%の複利で増やせば10年後に達成できる。

 では、その利回りをどう実現するか。金融資産の52%を現預金が占める現状では到底望めず、リターンの源泉のリスク資産の構成比を高める必要がある。貯蓄から投資中心へのポートフォリオの組み替えだ。

 金融資産に占める株式、投資信託の比率は米国が48%、日本は16%。米国でこの比率が大きく上昇したのは80年代半ばからで、IRAと呼ぶ個人年金制度の充実がきっかけ。今は比率が米国並みのカナダも、個人年金制度の改革で90年代から急上昇したという。

 日本でも少額投資非課税制度(NISA)や個人向け確定拠出年金(DC)、世代間の資産移転を促す非課税相続制度など、道具立ては整ってきた。

 しかしNISAは時限制度のうえ資産の入れ替えができない、個人向けの確定拠出年金は60歳まで引き出せないなど、使い勝手はいまひとつ。個々の制度の改善と、「NISAから個人向け確定拠出年金への資金移動を自由にするなど、制度をまたいだ利便性向上」(金子久・野村総研上級研究員)が課題だ。

 リスク資産の収益性を高める試みも始まったばかり。企業のガバナンス・コードや機関投資家のスチュワードシップ・コードは、丸めていえば日本市場の投資リターンを高めるのが狙い。現状では「多くの企業や年金基金は自らの課題ととらえていない」(大手運用会社の社長)。

 運用会社の責任も重い。金子氏の分析では、国内外の株式で運用する投信が98年4月からの16年余に投資家にもたらした利益は5000億円で、販売手数料(2%と仮定)を差し引くと損失になる。投資家利益を優先した商品設計、運用のあり方が問われている。

□  ■  □

 1700兆円超の個人金融資産は日本の大切な宝物。放っておけば高齢者の取り崩しで減少しかねない。国を挙げて着実に増やす努力が求められる。



一目均衡 GDP600兆円と株価 証券部 松崎雄典 2015/10/06 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 GDP600兆円と株価 証券部 松崎雄典」です。





 日経平均株価が714円安となった9月29日、東京証券取引所第1部の株式時価総額は496兆円(政府保有株除く)と8カ月ぶりに500兆円を下回った。8月10日に記録した過去最大の609兆円から100兆円強を失った計算だ。

□  ■  □

 政府は「新3本の矢」の一つとして名目国内総生産(GDP)を500兆円から600兆円に引き上げる目標を掲げた。ところが、水準が近くGDPと比較されやすい時価総額は、株価がやや戻した5日終値時点でも529兆円と、600兆円台の回復には遠い。

 国内で新たに生み出されたモノやサービスの総和であるGDPと、海外での稼ぎも含む企業収益を源泉とする時価総額は集計の対象が違う。株価は期待やマネーの量でも増減し、逐一、連動するわけではない。

 とはいえ、投資家が妥当な株価水準を算出する際に、GDP成長率を使うことはしばしばある。著名投資家のバフェット氏は「最良の指標」として時価総額とGDPの比較から株価がバブルでないかを探る。長期の関係は無視できない。

 日本の時価総額とGDPの関係を振り返ると、世界に逆行する動きだった。

 1970年代以降、金融自由化で実体経済に比べた金融資産の規模が世界全体に膨らんだ。米マッキンゼー・グローバル・インスティチュートによると、世界の株式や債券、融資の総額のGDPに対する割合は、80年の100%強から300%以上に拡大している。

 ところが、「日本は世界的な金融拡張の中で取り残された」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)。時価総額のGDPに対する比率はバブル期の1.3倍から右肩下がり。株価や不動産の下落による資産デフレとなり、企業の投資意欲は減退した。

 収益回復で企業は投資に動き出しているが、実質無借金の上場企業はなお5割と米国の35%と比べ多い。経営者の凍ったマインドは溶け始めたにすぎない。

 経済同友会の小林喜光代表幹事は会見で「政治には、経営者が国内にも商機があると思えるようにしてほしい」と指摘した。GDP600兆円という目標は具体性は欠くものの、成長やデフレ脱却を目指す姿勢を再確認した点で重要だ。

 大和総研の小林俊介エコノミストによると、東証株価指数(TOPIX)に1000億円をかけた数値は戦後、一貫してGDPの2カ月分から8カ月分の間だった。バブル崩壊後は2カ月分から4カ月分が常態化した。仮にGDP600兆円を達成すれば、その4カ月分(200兆円)を1000億円で割り、TOPIXは最大2000となる。現在、日経平均はTOPIXの約12倍で、それを当てはめると日経平均では2万4000円の水準だ。

□  ■  □

 海外投資家がアベノミクスに期待したのは、デフレ脱却と企業の活性化の好循環だった。株価など資産価格の上昇も欠かせず、GDPと時価総額が両輪で増えることが期待される。



一目均衡 ROE革命の第2幕 証券部 松崎雄典 2015/07/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 ROE革命の第2幕 証券部 松崎雄典」です。





 「8%じゃ足りないんです」。短期人材紹介のフルキャストホールディングスで経理財務部長を務める朝武康臣氏は、社内にこう訴えている。自己資本利益率(ROE)のことだ。

□  ■  □

 ROEの目標値に8%が浸透している。企業と投資家の望ましい関係について一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授が2014年にとりまとめた報告書(伊藤レポート)が求めているためだ。株式の「資本コスト」を上回る水準とされる。

 株式を買うなら値上がりや配当でこの程度は欲しいと投資家が考える利回りを「資本コスト」という。一般に長期金利に株式のリスクプレミアムを上乗せして算出され、株価の動きが荒いと高くなる。

 フルキャストは自社の資本コストを13%とはじき、ROE20%を目標に置く。日雇い派遣からの撤退などを経て2年前に復配したばかり。創業者など大株主が株式の過半を持ち流動性も低い。株価の動きが荒く、資本コストが高くなっており、ROE8%では企業価値を毀損してしまうのだ。

 そこで資本コストの引き下げと成長の両方を目指す方策を打ち出した。総還元性向は50%にして資本の増加を抑える。銀行借り入れで資金調達しながら業績を拡大し、時価総額を増やして値動きを安定させる。

 決算短信に記す「経営の基本方針」も変更した。「すべてのステークホルダーの視点に立った経営施策を実施」は「資本コストを上回るROEを実現」にした。「財務戦略と成長を首尾一貫して見通すことで社長とも意思疎通がしやすくなった」。朝武氏は語る。

 ROEを目標とする企業は一気に広がった。今、静かなうねりになってきたのが資本コストへの意識だ。

 野村証券の金融工学研究センターは、事業特性や株価の動きから顧客企業の資本コストを算出している。太田洋子センター長は、「地方のスーパーマーケットを運営する企業からも依頼が来る」と変化に驚く。

 いち早くROE経営に取り組んできたエーザイは一歩先を行く。6月に最高財務責任者(CFO)に就任した柳良平常務執行役は「新CFOポリシー」をまとめ、経営陣らに配布した。

 30ページに及ぶ資料の中核が「エクイティ・スプレッド(ES)」という概念だ。ROEが資本コストをどれほど上回るかを示し、プラスだと株主に価値を生む。

 ESをプラスにするため、事業や地域ごとに200種類もの投資収益率を求めている。新興国でのベンチャー投資なら25%、工場建設なら15%といった具合だ。事業の担当者はこのレートに基づいて収益性を試算し、柳CFOに稟議(りんぎ)書を回す仕組みだ。

□  ■  □

 日本のROE重視の流れが一過性ではと疑う海外投資家も多い。最大の理由は、資本コストへの意識が不十分なためだ。費用がわかってようやく目指すべき売上高が見えてくるように、資本コストの議論が高まれば、地に足の着いたROE経営に発展していく。



一目均衡 統治改革の目的と手段 編集委員 北沢千秋 2015/06/02 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 統治改革の目的と手段 編集委員 北沢千秋」です。

ROEの改善がトレンドとなっている現在の上場企業、この記事では一旦その方向にかじを切ると、株主からの要求事項のハードルが高まる可能性を示唆しています。やがては事業そのものの収益性を問われることにつながるゆえに、企業統治の目的や手段を明確にする必要性が明らかにされています。





 「岩にヒビは入ったかもしれないが、山が動き始めたかはまだわからない」。日興アセットマネジメントの神山直樹チーフストラテジストは指摘する。

 山とは、上場企業の自己資本利益率(ROE)の分布。2014年度の平均ROEは過去最高の利益更新で8%台となったが、分布が右方向にシフトしていくか、まだ見通せないという。資本効率の向上を巡る議論は深まっていないと感じるからだ。

  □  ■  □

 ガバナンス改革をテコに日本企業は収益力の向上や資本の最適化を実現し、投資家にもたらす市場のリターンは増大する――。今の株高の底流にあるシナリオだ。しかし長期投資家の胸中は複雑なよう。コモンズ投信の伊井哲朗社長は「企業も市場も反応は近視眼的。議論が本質からずれている懸念がある」という。

 例えば活発化する自社株買い。一時的にROEを高めても、継続的な効果は見込みにくい。引き上げたROEを維持するには、今度は本業の利益率を上げていく必要がある。水準維持のために自社株買いや増配を続ければ、いずれ企業は縮小均衡に陥る。

 今や悪評の現金保有も、漫然と持っているのか、目的や意味があるのか企業ごとの吟味が必要だ。

 キャッシュリッチで知られる中堅電機メーカーが現金保有にこだわるのは、雨の日(不況期)に銀行から傘(融資)を取り上げられた経験があるから。一定の現金という保険があるから攻めの経営が可能になるという。成長戦略に欠かせない企業買収にも、ある程度の現金の準備は必要だ。

 ROEの改善で重要なのは分母(自己資本)対策ではなく分子(利益)をいかに増やすか。しかし「多くの企業はマージン拡大という本丸にはまだ手つかずにみえる」(神山氏)。

 その分子対策も短期と長期で視点は異なる。企業価値の増大を重視する長期投資家は、会計上の利益より利益の源泉であるキャッシュフローの創出力に注目する。研究開発費や販促費が増えれば1株利益が減って短期投資家は嫌がるが、長期投資家は「キャッシュフローを生む資産の増加を評価する」(中神康議・みさき投資社長)。

 ガバナンス改革は企業の持続的な成長を促すのが目的。資本効率の向上はその重要な手段だ。短期的な利益のかさ上げや内部留保のはき出しばかりでは「企業が毎月分配型投資信託のようになる」(伊井氏)。

  □  ■  □

 「米国のアクティビスト(還元などを求める投資家)が大挙して日本に来る」。あるファンド関係者は予想する。米国では投資先に一巡感があり、ガバナンス改革が始まった日本市場は格好の標的に映るという。

 だからといって、種類株の発行などで企業が株主を逆選別するのがよいとは思わない。それでは株式持ち合いとどう違うのか。株主が納得できる成長ストーリーを自ら描き、それを実行に移すしかあるまい。理論武装と実行が急がれる。



一目均衡 幸之助の株式立国論 編集委員 梶原誠 2015/05/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 幸之助の株式立国論 編集委員 梶原誠」です。

世界観が大きくなると、本質を見失いがちです。松下幸之助さんの着眼は非常に参考になります。





 「国民のすべてがどこかの会社の株主であるというようなところまでもってゆければ……」。パナソニックの創業者である松下幸之助は1967年、「国民総株主化」を求める論文を公表した。

□  ■  □

 その先にある国のかたちはこうだ。株主は産業を発展させる使命感を持ち、見込んだ企業の株を永久投資のつもりで持つ。経営者は株主の叱咤(しった)激励を受け入れる。政府はそれらの環境を作る。産業が興隆し社会が繁栄すれば国民全体が豊かになる――。

 企業と株主の対話を軸とする壮大な構想だが、経営者が多様な衆知に触れるためにも、発展の恩恵が人々に行き渡るためにも株主の裾野を広げる必要がある。戦後22年。財閥解体で株が分散された後だけに、幸之助には「株式立国」へのチャンスと映った。

 48年後の今、日本がそんな姿になっていると言い切れる人はいないだろう。幸之助自身も論文発表の6年後、理想から遠ざかったことへのいらだちを表明している。「個人大衆株主が優遇されていない」と。

 企業の配当姿勢も、少数株主への税制面の配慮も物足りない。実質的な配当利回りが低ければ、目先の株価変動でもうけようとする投機家しか株を買わない。つまり、企業も政府も長く保有する株主に喜んでもらう発想を欠き、企業と株主の健全な対話ができていないと批判したのだ。

 長期的視点を失う落とし穴には、「株の国」を自認する米国ですら何度も陥っている。2001年に露呈したエンロン事件は、株式市場の短期的な収益圧力に追われて経営者が不正会計に手を染めた結果だ。

 米国は04年、産学協同で国の競争力を高めるための提言書「イノベート・アメリカ(通称パルミサーノ・リポート)」をまとめた。同書は株式市場発の短期主義が、企業や国の長期的成長の障害になりかねないと警告している。

 それでもウォール街の金融機関は、目先の株価や収益の競争に集中して住宅バブルを膨らませた。その末路が08年のリーマン危機だ。市場を舞台に長期的な視点を堅持するのは、必要と分かっていても難しい。

 67年の幸之助論文「株式の大衆化で新たな繁栄を」は今、市場関係者や政策当局者の間で静かに読み直されている。論文が株主、経営者、政府に求めた内容と最近導入した措置が、重なるように見えるからだ。

□  ■  □

 投資家が企業に物を言うための「スチュワードシップコード」、企業に株主の声を聞くよう求める「企業統治指針」、そして幅広い個人に投資を促す少額投資非課税制度(NISA)。株の持ち合いが減り、株が分散する条件も整った。

 焦点は、これらが生かされて幸之助が目指した株式立国への道を進むのかどうかだ。成功すれば世界的な注目を集めるだろうし、再び挫折すれば次の機会はいつ来るのか分からない。半世紀ぶりに訪れた日本経済の岐路である。

(敬称略)



2015/03/24 本日の日本経済新聞より「一目均衡 自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋」です。





 「できれば自社株買いはやめてほしい……」。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成・運用担当執行役員は複雑な表情だ。

 話題の主はファナック。株主還元と投資家向け広報に後ろ向きな企業の代名詞といわれてきた同社が、増配か自社株買いを検討すると伝えられ、市場はその「変節」を歓迎した。

 「日本のバークシャー・ハザウェイ」を目指して農林中央金庫からスピンオフしたNVICは、運用するファンドでファナック株を長期保有中。それでも株価急騰を喜べないのは、「株主が還元でお金を受け取るよりも、会社に預けていた方が高い利回りを得られる」と考えるからだ。

□  ■  □

 上場企業の自社株買いが活発だ。背景には自己資本利益率(ROE)の向上を求める市場の圧力がある。ROEの分母を削る自社株買いは数値改善の即効策。今年は米議決権行使助言会社が打ち出した「過去5年平均のROEが5%を下回る企業は株主総会でトップの選任に反対する」という基準の回避や、JPX日経インデックス400の採用銘柄入りを狙い、「年度末に駆け込みで自社株買いをする企業もある」(大和証券投資戦略部)という。

 短期マネーは自社株買いをはやすが、長期投資家の目線は少し冷ややかだ。

 まず、株価との見合いの問題がある。企業がバランスシートの左側の現金を使い、右側の純資産を買い戻すのが自社株買い。教科書的には、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っているような株安局面が好機だ。PBRが高いと、将来の利益期待(プレミアム分)を上乗せした値段で純資産を買い戻すことになり、企業価値を毀損しかねない。PBRが4倍超のファナックが自社株買いをするのは合理的とは思えない。

 株主が企業に自社株買いを望むのは、経営者不信の表れともいえる。どうせ手元に豊富な現金があっても、成長のために活用できないだろうと考えるからだ。もしも信頼できる経営者が次の成長のため、投資機会を虎視眈々(たんたん)と狙っているなら、長期投資家は安易に自社株買いを求めないはずだ。

 NVICの奥野氏は「自社株買いや増配の要求は所詮、限られた利益のパイをどう切り分けるかの議論」と主張する。それよりも望むのはパイの拡大で、持続的にパイを大きくできる企業が投資対象だ。

 一例が、やはり長期保有する信越化学工業という。同社の金川千尋会長は「ROEを高めるために最も重要なのは利益の絶対額を増やすこと」が持論。ROEが高くても利益の額が小さければ、成長の原動力となる機動的な大型投資ができないからだ。

□  ■  □

 水膨れしたバランスシートのスリム化や成長機会の喪失で、自社株買いをした方がいい上場企業が多いのは事実。だが、「自社株買いなどもってのほか」と、かたくなに拒否する企業ももっと出てきてほしい。



2015/03/17 本日の日本経済新聞より「一目均衡 マネー退潮への備え 編集委員 梶原誠」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「マネー退潮への備え 編集委員 梶原誠」です。

ここに来て日経平均が異常なほどの上昇を見せています。一方、米国の利上げによるマネー潮流の変化が控えています。非常に不気味に感じるところです。





 インドネシアのジョコ大統領が来週、日本と中国を訪問する。UBSの資産運用部門でアジア向け株式投資を統括するジェフリー・ウォン氏は、このニュースに接し、とっさに目的を悟った。「インフラ投資を誘致するためだ」と。

□  ■  □

 同国の通貨ルピアは、1ドル1万3000ルピアの節目を17年ぶりに下回っている。鉄道や道路をはじめ、脆弱なインフラを整備して成長基盤を作る長期的な投資を引き寄せれば、マネーの不安を和らげることができる――これがウォン氏が読むジョコ大統領の狙いだ。

 インドネシアは2012年以降経常赤字が続き、マネーが逃げやすい国と位置づけられてきた。1990年代末には通貨危機を経験したが、危機を経て黒字に転じた韓国からも、赤字とはいえ急速にその幅を縮小しているインドからも見劣りする。

 ジョコ大統領は昨年10月の就任以来、市場の懸念を拭おうと動いている。財政を圧迫していたガソリンの補助金を削減する一方、ひねり出した資金は国営企業の資本増強に投じてインフラ整備を促した。

 マネーを引き付けるためのジョコ大統領の苦闘に首をかしげる市場関係者もいるだろう。世界は今、カネ余りのさなかにある。

 米エバーコアISIによると、過去3年の緩和措置は世界で500件を超えている。世界的な株高も、欧州で拡大する債券のマイナス金利も、膨張する緩和マネーを抜きに語れない。

 だが、そんな「人工的な流動性の海」も、いずれ退潮する。その時露呈するのは、カネ余りという追い風を生かして地道に競争力を高めてきた国と、追い風に油断して改革を怠ってきた国との差に違いない。

 立場上、金融危機の専門家といえる国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は昨年、カネ余りが終わってもマネーに選ばれる国の条件を示した。「投資家は経済を、政府の強さを、政策の見通しやすさと実行力を見極めて、その国にとどまるかを決める」

 リーマン危機後で初めてとなる米国の利上げは、世界的なマネー退潮への出発点だ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は18日に出す声明で、最短で6月の利上げをにじませるとの見方が根強い。94年の米利上げがメキシコ通貨危機を生むなど、米利上げと危機は密接な関係にある。

 波乱の芽は日本にもある。急ピッチで進む株高と、市場心理の虚を突く米引き締めの組み合わせは危うい。それはアベノミクス相場が始まって半年後の13年5月23日、米量的金融緩和の終了観測から日経平均が1143円も急落した一件が示している。政府はラガルド氏が示した条件を今こそ問い直すべきだろう。

□  ■  □

 企業も同じだ。「投資家は業績を、経営陣の強さを、経営戦略の見通しやすさと実行力を見極めて、その企業にとどまるかを決める」。追い風はもちろん、逆風が来ても選ばれる企業の条件となる。



2015/03/10 本日の日本経済新聞より「一目均衡 ROE最貧国からの脱出 編集委員 三反園哲治」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「ROE最貧国からの脱出 編集委員 三反園哲治」です。

結局、企業はビジネスですので、お金をうまく使って効率的に稼ぐ力を持っている会社、そういう会社に更に資本が集まるということです。





 山陽新幹線を広島県の福山駅で降りるとテレビドラマ「流星ワゴン」のポスターがよく目についた。福山市の景勝地「鞆の浦」がロケ地となり、地元は知名度アップに熱が入る。しかし、福山市には今や世界が注目する会社がある。思い切った資本政策を発表し、株価が急伸した青山商事だ。

 「自己資本利益率(ROE)を意識した経営を求める方向へ社会の流れが変わった。当社の株式の約40%を持つ海外投資家の理解を得るためにもROEの向上が必要と考えた」。青山理社長はこう語る。

□  ■  □

 青山商事は純利益の130%相当を配当や自社株買いに回す方針を1月下旬に公表した。M&A(合併・買収)による事業領域の拡大などと並び中期経営計画の柱の一つだ。計画の最終年度にあたる2018年3月期にはROEを7%へ上げる目標も掲げた。

 昨年スタートした株価指数「JPX日経インデックス400」に、同業のAOKIホールディングスが入る一方、紳士服トップの青山商事は選から漏れた。指数は資本効率などをもとに会社を選別する。ライバルの前期ROEが8%台に対して青山商事は5%台だ。青山商事は膨らみすぎた資本を圧縮しつつ、利益も伸ばしROEを高める。

 海外投資家に影響力を持つ米国の議決権行使助言会社は、資本効率の低い会社の経営トップの再任に反対する方針を公表している。政府も成長戦略の一環として企業に経営改革を迫る。上場会社に財務戦略などを提案するゴールドマン・サックス証券の清水大吾氏は「ROEを高めるよう企業への圧力が一段と強まってきた」と話す。

 名古屋市のサンゲツは昨年11月、純利益の100%以上を株主配分する方針を発表した。自己資本比率は80%を超え過去5年間のROEは平均3%台だった。安田正介社長は「ROEが低いまま余剰なキャッシュを抱えていては、株主の理解を得られないと考えた」と打ち明ける。昨年3月末で約1200億円あった自己資本を、3~5年かけ100億~200億円圧縮する方針を掲げる。

 安田社長は資本政策を練る際、株主である独立系運用会社みさき投資に助言を求めた。株主との対話を経営に生かす好例でもある。みさきの中神康議社長は海外に比べ日本企業のROEが低い現状を「ROE最貧国」と呼ぶ。「ROEなど資本生産性を高める動きが広がり、資金獲得の面で日本企業の国際競争力が高まってほしい」と期待する。

□  ■  □

 資本生産性の低さが海外投資家が日本を敬遠してきた理由だ。中神氏によると13年までの10年間の平均ROEは日本が約7%で、米国の約15%、中国やブラジルのそれぞれ12%台などに劣る。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏もかつて、日本株を買わない理由としてROEの低さをあげた。株高を維持するには、企業がROE最貧国の汚名を返上する努力を続けることが欠かせない。