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一目均衡 買収巧者、永守氏の年賀状編集委員 西條都夫 20 18/1/23 本日の日本経済新聞より

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 自前での成長へのこだわりが強かった日本企業だが、近年はとりわけ海外企業のM&A(合併・買収)を成長戦略の一つの道筋として位置づける経営者が増えている。だが、買収を実行することと、それを成功させることは別の話だ。

 東芝による米ウエスチングハウス(WH)の買収失敗が代表的な事例だが、日本郵政など海外買収でつまずく会社は後を絶たない。

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 M&A研究で有名な同志社大の松本茂氏は「日本企業が海外企業を買い、その結果、利益成長を実現できているケースを成功と定義すれば、海外買収の成功率は10%以下」と指摘する。多くの場合、東芝のWHのようにもてあました末に手放すか、ずっと抱え込んでいるだけで利益貢献はないかのいずれかだという。

 何が問題なのか。買収の目的は時間を買うことだとよくいわれる。自前で工場や販売網をコツコツつくるよりも、既存企業を買えば、人材や設備、技術、ブランドが一瞬で手に入り、時間軸を短縮できる。

 その意味で「時間を買う」というのは一面の真実だが、M&Aの達人として知られる日本電産の永守重信会長兼社長は「買収は忍耐を要する作業で、めちゃくちゃ時間がかかることがある」と話す。

 永守氏は、海外あてに数十通の手紙を書くのを年末の習慣としている。

 新年のあいさつではない。「この会社を買いたい」と目星をつけた企業のトップに「もし会社を売る気があるなら、声をかけてほしい」と伝えるリクエストレターだ。すると「了解した。今はその気はないが、状況が変わったら連絡する」といった返事があり、これを毎年繰り返す。

 その結果、ある企業を買うと決めてから買収を実現するまでに平均5年を要し、「一番長いのは相手がその気になるまで16年間待った」。投資銀行などの持ち込み案件に飛びつくまねはしない。「『今買わないと後悔しますよ』というのが彼らのセールストークだが、後悔なんかしたことはない」

 日本電産は国内企業を含め過去56件の買収を実施した。「56勝ゼロ敗で全部成功」と胸を張れるのも、準備にたっぷり時間をかけ、衝動買いを避けたおかげだろう。

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 日本企業の海外大型買収の起点になったのは、1980年代のソニーによる米CBSレコードとコロンビア映画の買収だ。その後の軌跡をみると、2つの買収は明暗が分かれる。前者の音楽部門は一貫してソニーのキャッシュカウ(カネのなる木)だが、後者の映画は2度にわたる巨額の減損を計上し、苦戦が続く。

 なぜか。同社の吉田憲一郎副社長は「音楽の場合は買収する前に国内でレコード会社を経営し、ビジネスに土地勘があった。映画はまったく未知の分野にエイヤーで飛び込んだ」と説明する。何事もそうだが、買収も事前の準備が大切で思いつきは通用しない、という教訓であろう。



帰ってきたぶり企業 最高益(5) 京王、11年ぶり 最高益 ホテル好調・非鉄道で稼ぐ 2018/1/11 本日の日本経済新 聞より

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 羽田空港までを結ぶJR浜松町駅から徒歩10分弱。2017年12月に完成した京王電鉄のビジネスホテル「京王プレッソイン」がある。九州から飛行機で訪れた40代の男性は「出張で使いやすく、良いところにホテルができた」と話す。ロビーには英語や中国語、韓国語などの観光パンフレットがずらりと並ぶ。

京王は宿泊特化型ホテルを積極展開している(東京・港)

 京王プレッソインは宿泊特化型。華やかな内装や宴会場を省いた分、客室単価を抑えて高稼働を狙える。都内の赤坂や八重洲、新宿など好立地の不動産を自社で仕入れてコンパクトなホテルを開発。訪日客や出張客の需要を取り込み、平均稼働率は9割近い。

 京王の18年3月期の連結純利益は前期比9%増の230億円と11年ぶりに最高となる見通し。けん引役はホテルなど「非鉄道」事業だ。ホテルを含むレジャー・サービス業の営業利益は07年3月期と比べて55%増。全体に占める非鉄道事業の割合は10ポイント近く増え64%と、私鉄14社で5位だ。

 「はっきりした強みはないが、一つ一つの取り組みを大事にしてきた」(紅村康社長)。沿線に日光や箱根といった著名観光地を持たず自前の不動産も多くないが、顧客ニーズを確実にとらえようとしてきた。効率の良さは群を抜き、非鉄道事業の総資産営業利益率(ROA)は17年3月期に5%と14社で首位だ。

 非鉄道事業への投資を支えるのは、鉄道事業で稼いだキャッシュフロー(現金収支)だ。京王はそこでも高い効率性を発揮する。

 京王の鉄道網は東京・新宿~八王子市、相模原市を結ぶ90キロメートル弱。東武鉄道(463キロ)や西武ホールディングス傘下の西武鉄道(176キロ)などより短く、私鉄大手で13位だ。地域独占の鉄道事業では営業距離が収益に直結する。だが、鉄道距離1キロあたりのキャッシュフローに目を向けると景色が違ってくる。

 鉄道事業の営業利益に減価償却費を加えてEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を求め、鉄道距離1キロあたりを算出してみよう。京王は17年3月期に4億2900万円と東京急行電鉄や小田急電鉄、京浜急行電鉄に次ぐ4位だ。住宅地と商業地を効率よく結び、通勤や通学などの客を取り込んでいる。

 鉄道各社は05年のJR福知山線事故をきっかけに、安全運行のための自動列車制御装置(ATC)などを導入してきた。京王はキャッシュフロー創出力の高さを裏付けに、これら設備投資を十分確保しながら非鉄道事業に成長投資を振り向けてきた。最高益更新に時間がかかったのは、積極投資に伴う減価償却費が高水準で推移したのも一因だ。

 好業績は市場でも評価され、株価は16年2月につけた10年来高値(5495円)にあと400円ほどに迫った。これを超えると、次の節目は1990年5月の5523円。私鉄各社の持つ含み資産が市場で注目された頃だ。上値を追うカギを握るのは、自己資本利益率(ROE)の改善だ。

 京王のROEは17年3月期に6.6%と私鉄14社で最低だ。自己資本比率が40%と高いことがROEを押し下げている。紅村社長は「投資できるものがあれば有利子負債は現在の3300億円から1000億円ほど増えてもいい」と話す。持ち前の効率の良さを生かしつつ、もう一段の積極投資に踏み出していい時期に来ている。

(須賀恭平)



揺れる監査法人(中)将来性の目利き力必要にソフトバンク、 買収で「のれん」膨張 2017/12/21 本日の日本経済新聞より

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 「日本、いや世界で最も複雑な財務諸表かもしれない」。トーマツ幹部がこう形容する担当企業がある。それは大型M&A(合併・買収)を繰り返し、姿が大きく変わり続けるソフトバンクグループだ。担当会計士は当然、エース級を送り込んでいる。

 担当会計士を悩ませる原因の一つはソフトバンクの資産評価だ。英半導体設計、アーム・ホールディングスの買収では2.9兆円(9月末)という巨額の「のれん」が注目を集めた。のれんとは買収価格と純資産の差を示す。それが膨らむのは、ソフトバンクはアームが将来、大きな価値を生み出すと考えているからだ。ソフトバンクののれんは9月末で計4兆3900億円と総資産全体の16%を占める。

 だが、すべてのビジネスが企業の計画通りに進むわけではない。見通しの甘さが巨額の減損につながる可能性もある。「のれんはできるだけ保守的に評価したい」(あるベテラン会計士)。リスクに敏感な会計士が、のれんの金額を巡って担当企業とせめぎ合うのは必然だ。

 「(あらゆるモノがネットにつながる)IoTが普及すれば、このくらいの売上高と利益は出る」。孫正義会長兼社長は本社の会議室でアームの成長性について熱弁を振るった。面談相手は投資家ではなく、トーマツの担当会計士だ。

 実はソフトバンクは昨年のアーム買収では、孫会長兼社長とトーマツの担当会計士の面談を年4回程度に増やした。これまでも孫会長兼社長が年2回ほど、会計士に経営の現状を説明してきた。回数を増やした理由は、会計士の理解を得るにはトップの懇切丁寧な説明が不可欠との判断だ。

 ソフトバンクで孫会長兼社長を支える一人は、経理統括の君和田和子常務執行役員。公認会計士の資格を持ち、かつてデロイト系の会計事務所にも在籍した。アームの買収手続きが一段落し君和田氏の視線は新たに買収する米投資会社フォートレス・インベストメント・グループに向く。「新しい事業なので監査業務にはトーマツでも(ファンドに詳しい)専門家が入らないといけない」と注文を付ける。

 買収した事業の将来性をどう評価するのか。ソフトバンクを担当するトーマツだけの問題ではない。日本企業による巨額買収の事例は増える一方だ。2017年3月期に東芝は買収した米原子力事業で7316億円の減損損失を計上した。買収先の経営を目利きする力も必要になってくる。

 君和田氏は「会計士は過去のことを見るのは得意だが、将来の見積もりは不得意」と指摘する。担当企業側から投げられたボールをどう受け止めるのか。監査法人が抱える課題は大きい。



カネ余り日本企業を解く(3)「ためない企業」じわり増加米国との差、 依然大きく 2017/12/13 本日の日本経済新聞より

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 2017年4~9月期に壁紙事業の特別損失が膨らみ、214億円の最終赤字に転落した大日本印刷。それでも自社株買いを150億円実施し、現預金は3月末比で165億円減った。目先の業績悪化にもぶれずに手厚い株主還元を続けるのは、「慎重な投資判断で資金に余裕が出る分、自社株買いに回せる」(IR室)ためだ。

 祖業の印刷事業はすでに成熟し、好調な有機EL部材事業への投資も20年までの累計で60億円程度にとどまる見通し。当面使わないキャッシュは株主に返すと決め、純利益に対する配当・自社株買い合計額の比率、「総還元性向」は17年3月期まで2期連続で100%を超えている。

 カネ余りが続くニッポン株式会社だが、個別にみれば大胆な株主還元や戦略的な投資に踏み込む企業も少しずつ増えてきた。上場企業(金融除く)のうち8%は、16年度の総還元性向が100%超えの水準だ。

 ソフトバンクグループは設備投資やM&A(合併・買収)に絡む現金の動きを示す「投資キャッシュフロー(CF)」が17年3月期に約4.2兆円の支出となった。トヨタ自動車(約3兆円)やNTT(約2兆円)を上回り、日本の事業会社で最大だ。英半導体設計大手アームを買収するなど、日本企業としては異例の大規模かつ高頻度のM&A戦略の結果だ。同期末の現預金は2.2兆円弱と短期の有利子負債(2.7兆円弱)を下回り、財務も「攻め」をぎりぎりまで追求した形になっている。

 工場や機械などへの設備投資も盛り上がりつつある。キヤノンは16年12月期の投資CFの支出が8400億円弱と、営業活動で稼いだ現金、「営業CF(約5000億円)」を大幅に上回った。M&Aの積極化に加え、2000億円程度の固定資産を取得したためだ。上場企業(同)の28%は16年度に投資CFの支出が営業CFを上回っている。

 とはいえ、日本企業全体でみれば財務の効率化は道半ばだ。海外と比較するとよく分かる。主要500社でみた場合、総資産に占める手元資金の比率は日本が6%なのに対し、米国は3%台と半分しかない。

 「使う力」の差が一因だ。営業CFを投資CFの支出でどれだけ使ったかをみると、日本は8割にとどまる一方、米国は9割にのぼる。米国企業は稼いだ現金のほぼすべてを投資に回し、手元資金も絞り込んで、「引き締まった」財務になっている。

 日本ではまず考えられない還元政策をとる会社もある。たばこ大手のフィリップ・モリス・インターナショナルは過去の大規模な自社株買いで債務超過なのに、それでも9割超の配当性向を維持している。

 企業業績の拡大を支えに今年、日経平均株価は約26年ぶりの高値を回復した。だが、その間に米ダウ工業株30種平均は7倍超に上昇し、はるか先を行く。この差を詰めていくには、企業財務の効率性向上が欠かせない条件となる。



一目均衡 「破壊者」が消える市場 米州総局 山下晃 2017/11/21 本日の日本経済新聞より

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 今年6月、米アマゾン・ドット・コムが生鮮小売りホールフーズ・マーケットの買収を発表すると、世界中の生鮮食品を扱う小売り株が一斉に売られた。

 アマゾンに買収を助言した米金融大手ゴールドマン・サックスの投資部門責任者、グレッグ・レムカウ氏が、こんな小話を披露してくれた。

 「アマゾンが入ってきたらすぐ逃げろ。そのビジネスは崩壊する」

 落ちはこう続く。「だけどアマゾンが狙わないなら逃げ出した方がいい。そのビジネスは、もうからないに違いないからだ」

 アマゾンにアップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフト、フェイスブックを加えたIT(情報技術)の「ビッグ5」の株価は、破竹の勢いを続けている。

 IT5社合計の時価総額は、2017年に入って1兆ドル(約113兆円)増えた。主要500社合計の増加額は2.8兆ドルだから、5社だけで3分の1を占める。

 これと裏腹に、ゼネラル・エレクトリックやIBMといったかつての代表銘柄はさえない。企業や産業の新陳代謝が経済と株価をけん引する米国のダイナミズムは、なお健在のようにみえる。

 だが目を凝らすと不安の種もある。一つは、IT企業の新規株式公開が低調なことだ。

 米データトレック・リサーチによると、17年1~9月に米国で株式を新たに上場したIT企業は15社。アマゾンがサービスを始めた95年から2000年までは年平均で200社超あったのに、15年は35社、16年は25社と新顔の登場ペースは年々鈍っている。

 背景には長引く低金利とカネ余りがある。行き場をなくした投資マネーは未公開株市場へ流れ込み、企業はわざわざ上場しなくても事業資金を集めやすくなった。クラウドサービスなどの技術の進化で、事業を軌道に乗せるまでのコストが小さくなった面もある。

 また、成長のために市場を使いこなそうとする意欲が企業に薄れているようにも見える。

 音楽配信のスポティファイは新株発行も売り出しもせずに新規上場する「ダイレクトリスティング」を検討し、民泊仲介のエアビーアンドビーも同じ手法を研究しているという。

 これがまかり通れば、株式市場は創業者らの初期投資を回収するだけの場となり、投資家から広く集めたお金を成長のエンジンに変える機能は弱まる。

 もしアマゾンをはじめとするビッグ5が未上場だったら、米市場はビジネスモデルの行き詰まった企業ばかりとなり、今の活況はなかっただろう。

 データトレック創業者で、長く投資分析に携わるニック・コラス氏はこう警告する。「投資家が常に探しているのはディスラプター(創造的破壊者)だ。それが市場の外側だけに存在するのなら、株価には悪い影響しか残らない」



建設現場に週休2日制導入、工事原価7%増も 不動産会社は反発 も 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

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 総合建設会社(ゼネコン)でつくる日本建設業連合会(日建連)は2022年3月期までに、施工現場を週休2日制に移行する方針を固めた。工事原価の7%以上の増加につながると見る建設会社が多い。施主側に一定負担を求める考えだが、不動産会社は反発している。建設需要が一段落するとされる東京五輪後をにらみ、両者のさや当てが激しくなりそうだ。

 「週休2日なんて無理と認めてきたタブーに業界の命運をかけてチャレンジする」。建設業界の人手不足を受け、日建連はこのほど「週休2日実現行動計画試案」を取りまとめた。施工現場はこれまで週休1日が多かった。会員各社に週休2日制へ移行を働きかける。

 施工を担う下請け業者は日給制が多い。週休1日から2日に単純に移行すれば実質賃下げとなるが、元請けが人手を確保するには下請けへの支払賃金を維持する必要がある。単純計算で下請け業者の日給は1.2倍となり、工期も長くなる。

 建設会社の労務費は工事原価の4割前後を占めるとされる。さらに工期が延びれば建機リース費や仮設費なども膨らむ。日建連の会員企業への調査では、週休2日へ移行すると延べ52社のうち26社が工事原価で7%以上、17社が5~7%の上昇につながると答えた。

 工事原価が7%上昇すれば影響は大きい。ゼネコン売上高上位10社の2017年3月期連結決算で試算すると、売上高と販管費が変わらず工事原価が7%増えれば7社が営業減益、3社が営業赤字に転落する。日建連の山内隆司会長(大成建設会長)は「生産性向上でコストアップを吸収する努力を重ねていきたい」としつつ、「必要な経費は請負代金に反映させる」と強調する。

 建設業界の動きに発注者側の不動産業界は反発している。不動産協会の菰田正信理事長(三井不動産社長)は「建設業の働き方改革に協力する」としたうえで「生産性向上や重層の下請け構造など、建設業がきちっと取り組みを進めることが大前提」とくぎを刺す。

 建設会社と不動産会社の関係は12年頃から変わった。かつては供給過剰を背景に建設会社が不動産会社に買いたたかれるケースが目立ったが、震災復興や五輪需要などを受けて建設会社が価格交渉で優位に立つ場面が増えた。今回の週休2日制移行を建設業界が持ち出したのもその延長線にあるとの見方もある。

 大和証券の寺岡秀明シニアアナリストは「値上げが始まるのは早くて21年3月期だが、どこまでコストに影響するか不確定要素が多い」と話す。焦点は建設需要の動向だ。東京五輪後に需要をどの程度確保できるかどうかで両者の価格交渉力が変わり、業績にも影響してくる。(大西康平、和田大蔵)



一目均衡 「灰色のサイ」を手なずけよ 証券部 土居 倫之 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

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 2008年のリーマン・ショック後、「ブラックスワン(黒い白鳥)」という例えが金融・資本市場で盛んに言われた。成長と金融緩和が併存する「ゴルディロックス(適温)相場」が広がる今、市場では「灰色のサイ」が意識されている。

 ブラックスワンは確率は低いが、起きたときには市場に甚大な影響を及ぼすリスクのこと。黒い白鳥はめったに現れないことに由来する。

 一方、灰色のサイは、高い確率で存在し、大きな問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな問題を指す。サイは灰色が普通で、普段はおとなしい。だが暴走し始めると誰も手を付けられなくなる。米国の作家、ミシェル・ワッカー氏が著書「グレー・リノ(灰色のサイ)」で示した。

 世界の金融当局者で灰色のサイに触れたのは、おそらく中国が初めてだろう。「ブラックスワンの出現だけではなく、灰色のサイのリスクも防がなければならない」。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は4日、こんなメッセージを出した。

 周氏が考える中国の灰色のサイは、高成長の代償として積み上がった膨大な民間債務だ。国際通貨基金によると、金融を除いた中国の民間債務の国内総生産比率は2016年に235%、22年には290%に達する見通し。その水準の高さは中国経済崩壊論の論拠のひとつとされ、当事者で退任を間近に控える周氏も強い警告を発する。

 灰色のサイは世界のあちこちにいる。日本の場合は人口減少・少子高齢化だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、40年の日本の総人口は1億1000万人、65年には8800万人となる。うち38%に当たる3380万人が65歳以上の高齢者だ。医療費や年金など社会保障費用の急増や経済成長率の一段の低下は免れない。人口減社会は静かに訪れるが、ひずみは一気に噴き出す。

 欧米では、所得格差の拡大や固定に対する国民の反感がポピュリズム(大衆迎合主義)を招いた。

 中国の習近平(シー・ジンピン)総書記は党大会で確固たる権力基盤を確立した。日本では安倍晋三首相が10月22日の衆院選で圧勝し、政治基盤を固めた。

 安倍氏を「先進国で最も強い政治リーダー」と評価する米ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は、「安倍首相は人口減少に対処するために移民の受け入れという政策を決断すべきだ」と提言する。

 日経平均株価は約26年ぶりの高値水準に上昇してきた。世界の投資マネーが業績が好調な日本株になだれ込んでいる。突発的なリスクとして考えられるのは北朝鮮問題ぐらいだろう。

 だが適温相場は「ぬるま湯」と同義だ。せっかく強い権限を持ったリーダーが現れても、その心地よさが灰色のサイという構造問題の解決を先送りさせるインセンティブ(誘因)になりかねない。



一目均衡 市場騰勢 景気を反映か編集委員 志田富雄 2017/10/24 本日の日本経済新聞より

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 23日の日経平均株価は過去最長の15日連騰を記録した。だが、相場上昇は日米の株価だけではない。景気の先行指標とされる商品相場も内外で高い。

 内閣府が発表する景気動向指数で、日経商品指数42種は先行指数を算出する指標のひとつに採用されている。その42種の前年同月比の上昇率は9月末値で14%台まで拡大。上昇率が1ケタ台に落ちた4~6月の減速を脱し、7年半ぶりの勢いを回復した。

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 北朝鮮情勢の不透明感はあっても内外の景気が上向き、さまざまな生産活動が盛り上がっていることは間違いない。

 ただ、指数を押し上げる商品に温度差はある。日経商品指数を構成する42品目のうち、非鉄金属と金の計8品目の上昇率は9月末時点で36%に達し、鋼材(7品目、上昇率は15%台)や石油化学製品(5品目、同12%台)を上回った。

 国際指標になるロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物は、鋼板メッキなどに使う亜鉛が今月、一時1トン3300ドル台まで上昇し、リーマン・ショック前に遡る10年ぶりの高値を記録した。

 電力インフラなどの需要が多い銅も先週、1トン7000ドル台の水準を3年ぶりに回復した。

 非鉄金属、鉄鋼といった金属類は世界需要の半分近くを中国が占める。景気下支えのために中国政府がインフラ投資を増やし、金属需要の拡大につながった、というのが市場の解釈だ。

 ただ「需要は拡大しているにせよ、7月以降の非鉄上昇は急すぎる」と、マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表取締役は指摘する。

 そこには非鉄金属や金を押し上げたもうひとつの要因がある。ドル安に連動した投機だ。

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 米インターコンチネンタル取引所(ICE)に上場するドル指数は、今年初めに付けた約13年ぶりの高値をピークに下げに転じた。6月以降はドル売り・ユーロ買いが加速し、9月上旬にドル指数は2015年1月以来の低水準に低下した。

 商品相場が大きく崩れた14~15年はドル指数が急上昇した局面であり、中国などの新興国や商品市場に滞留していたマネーはドル資産に回帰した。

 ドル安局面への転換でマネーは商品市場に向かった。だが、あらゆる商品が上昇するスーパーサイクルはもはや過去のものだ。原油も上げ基調を強めてきたとはいえ、上値はシェールオイルの増産能力が抑える。

 「商品市場での資産運用は指数連動から、上場投資信託(ETF)や個別先物への直接投資が増え、マネーは上がりやすい商品に集中しやすい」(新村代表)

 非鉄金属が需給の変化以上に急騰した理由だ。

 日米の株高も商品相場の上昇も、上向く景気に呼応したものと言える。だが、その勢いまでが景気を反映したものかは話が別だ。非鉄投機を加速したドル安には基調転換の気配も見える。



転機の消費株(2) アマゾンが呼ぶ株安進む「中抜き」 店舗収益圧迫 2017/9/28 本日の日本経済新聞より

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 「この古着、300円で売ります」。交流サイトのフェイスブックにある国際基督教大学(東京都三鷹市)のグループ。ここでは1800人超の在校生や卒業生が、手数料がいらないフリーマーケット機能を使い、洋服や家電、教科書などを売買している。

 在校生の岩田奈那子さん(21)は「写真を撮って投稿するだけなので簡単」と笑顔で語る。学内などで受け渡しするので業者が入り込む余地は無い。こんな「フリマ経済圏」が今後は全国のキャンパスで広がりそうだ。

 国内ではフリマアプリ最大手のメルカリ(東京・港)が火を付けたフリマ人気。経済産業省によると、フリマアプリを通じた個人取引の国内市場規模は2016年に推定3052億円に達した。単館の百貨店で国内最大の売り上げを誇る、三越伊勢丹ホールディングスの伊勢丹新宿本店(2685億円)をすでに上回る大きさだ。

 こうした電子商取引(EC)は売り手と買い手を直接結びつけるため、実店舗が主体の小売業にとっては「中抜き」につながりやすい。なかでも大きな脅威となっているのが、インターネット通販の米アマゾン・ドット・コムだ。

 「アマゾン恐怖銘柄指数」――。お膝元の米国では、アマゾンの成長で業績が悪化する五十数社の株価を組み入れた指数が登場している。「デス・バイ・アマゾン」という別名もあるほどだ。大手百貨店のメーシーズやオフィス用品販売のオフィス・デポなどの株価下落で、同指数は22日時点で14年末に比べて3割安い水準だ。

 日本も対岸の火事ではない。「日用品やペット用品ではアマゾンが最大の商売敵だ」。ホームセンター最大手、DCMホールディングスの熊谷寿人・取締役執行役員はこう語る。

 アマゾンは20日、日本でオフィス用品などの法人向け通販を始めたと発表した。競合するアスクルの株価は翌21日からの3営業日で8%も下落、MonotaROも14%安となった。

 店舗に足を運ばず、時間と労力を節約したい消費者は増える一方だ。「ここ2年くらいはスーパーに行った記憶がない」。都内に住む会社員の井上真理子さん(26)。日用品はもちろん、ミネラルウオーター、牛乳、納豆などの飲食料品もアマゾンで購入している。

 アマゾンは8月に高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットを買収し実店舗にも進出。経営ノウハウを蓄積する一方、生鮮品のネット宅配拠点にも活用するもようだ。「我々もアマゾンに買収され、倉庫になってしまうのでは」。国内の大手食品スーパー幹部は危機感を強める。

 国内上場の小売業、約260社の26日の時価総額の合計は約32兆円。すべて束になっても、アマゾンの時価総額、約51兆円の6割程度と遠く及ばない。

 成長力の差も大きい。国内上場の小売業の時価総額は5年前と比べると2.3倍だが、アマゾンは5.8倍だ。株式市場は、ネット消費時代の本格到来を高らかに告げている。



一目均衡 「ピュアプレー」の時代 証券部 川上穣 2 017/9/25 本日の日本経済新聞より

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 9月12日、ニューヨーク市中心部にある高級ホテル、ピエールで2人のエドが向き合った。

 「2つの偉大な企業が一緒になり、やがて3つの事業に分割される。素晴らしい結果を生むはずだ」

 著名人が集う金融会合で、「物言う株主」といわれるトライアン・パートナーズのエド・ガーデン最高投資責任者が満足げに語った。

 その傍らでダウ・デュポンのエド・ブリーン最高経営責任者(CEO)が応じた。「トライアンの建設的な提案に感謝している」

 9月1日、米ダウ・ケミカルと米デュポンが統合し、世界最大の総合化学グループ「ダウ・デュポン」が生まれた。巨大化が目的ではない。農業・素材・特殊素材に分割し、それぞれが独立企業として上場を目指すことが最大の狙いだ。

 「官僚主義がはびこる持ち株会社を打破し、グローバルな事業部門が権限を握るべきだ」。トライアンは統合交渉で主張し続けた。大胆な3分割は株主の意向を反映したものでもある。

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 「コングロマリット(複合企業)の時代は終わった」。スウェーデンの投資会社セビアン・キャピタルの創業者は最近、英フィナンシャル・タイムズ紙にこう語った。今後5~7年の間にM&A(合併・買収)市場で起きるのは「脱・合併だ」とする。

 相乗効果の薄い事業を抱えていては経営資源が分散され、企業価値が高まらない。株主に突き動かされ、欧米企業は単一事業で勝負する「ピュアプレー」にカジを切ろうとしている。

 欧州ではデンマークの海運複合企業A・P・モラー・マースクが石油部門を仏トタルに売却すると8月に発表した。コンテナなど船舶事業に集中する。医療や産業機械に力を入れてきた独シーメンスですら「最後に明かりを消す複合企業にはならない」(ジョー・ケーザー社長)と、さらなる変革への意志を示す。

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 なぜ今、選択と集中のうねりが起きているのか。

 外資系投資銀行の首脳は「機関投資家が上場投資信託(ETF)という手段を得たのが大きい」と解説する。かつては米ゼネラル・エレクトリック(GE)のような複合企業への投資を通じて、分散投資の効果を得ることが多かった。

 だが、各国の株式や債券を自在に組み入れるETFがあれば、分散投資は容易になる。一方で企業には強みのある単一事業への特化を求め、市場平均を上回る超過収益の源泉にするようになった。

 日本では、東芝が半導体メモリー事業の売却先に日米韓連合を選んだばかり。苦肉の策としての事業切り出しが、アップルなど有力な米IT(情報技術)企業の資金拠出を促した。

 4月には、事業の切り出しを後押しする「スピンオフ税制」が国内で導入された。海外の物言う株主たちが日本企業への関心を高めているとの声も聞かれる。ピュアプレーの時代が日本でも来るのか。