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こころの健康学 表情明るく 内面にも影響 2017/3/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「こころの健康学 表情明るく 内面にも影響」です。





 3月の最初の日曜日、日経の1面を見て驚いた。カラフルな色使いの読み物風の解説が中央に大きく配置されるなど、見たことのないレイアウトが目に飛び込んできたからだ。それを見て、しばらく前にある駅で「日曜日くらいは経済を休んだら?」という内容の日経の広告を目にしたのを思いだした。

 新しい提案をするためには、内容に手を加えることがもちろん大切で、日曜版では旅やグルメ、ファッションなどの提案をする記事が増えている。一方で、見た目の変化も重要である。新しい動きが伝わってくるだけでなく、自然に内容にも影響してくるからだ。

 それは、ストレスの軽減などをめざす認知行動療法における「外から内へ」という考え方と共通している。

 私たちは、内容が充実していれば、それが自然に外ににじみ出ると考える傾向がある。こころと体の関係についても、気持ちが元気だからキビキビと動けるし、楽しいから笑顔が出てくると考える。これが「内から外」つまりこころから体への波及効果だ。

 一方で、外見に表れたことがこころに影響することもある。キビキビと動いていれば気力がわいてくるし、笑顔でいれば気持ちが明るくなってくる。きちんとした身繕いをすれば、それだけ気持ちにハリが出てくる。行動や表情、姿勢によって気持ちが変わる。

 まもなく新年度が始まって新しい環境で生活することになるが、そのときには表情や姿勢、服装などにちょっと気を配って、外からこころを元気にして活躍してほしいと思う。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



こころの健康学 不安な時ほど現実を見て 2017/3/6 本日の 日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「こころの健康学 不安な時ほど現実を見て」です。





 前回の本欄で不安はこころの警戒警報だと書いた。自分に何か危険なことが迫っているということをこころが感知して注意を促しているのが不安感情だ。これはごく自然な感情の動きだが、それが極端になると問題になってくる。

 私の知人で、健康診断をがんとして受けようとしなかった人間がいる。健康診断によって、何か悪いところが見つかるのが怖いという理由からだ。冷静に考えれば本末転倒だが、その人にとってはまったく自然な考えで、健診を強く勧めるとかえって反発された。

 不安を強く感じるとき、私たちは危険を過大評価している。そして、自分の力やまわりからの支援を過小評価している。

 健康診断を怖がっている人は、何か大変な病気が見つかるに違いないと、健康診断の結果を過大評価している可能性がある。あるいは、病気が見つかっても自分にはどうすることもできないし、大変な病気には医者も対処のしようがないだろうと、自分の力や周囲からの支援を過小評価している可能性がある。

 そうした判断が正しいこともあるが、現実を見ないまま危険性を評価すると不安が強くなりすぎて身動きがとれなくなってくる。対処しきれなくなるほど大きくなる前に問題に気づくという健康診断の目標さえ見失ってしまう。

 不安な気持ちになるとつい現実から目を背けたくなるが、不安になったときこそ現実にきちんと向き合う必要がある。そうすれば何が危険で、どのように対処すればよいかが見えてきて、自然に不安が和らいでくる。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



こころの健康学 新年度の不安 変化への適応、一歩ずつ 20 17/2/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「こころの健康学 新年度の不安 変化への適応、一歩ずつ」です。





 新年度を前にしたこの時期は、年代を問わず不安になりやすい時期だ。様々な変化が起きるために、新しい環境にうまく溶け込めて力を発揮できるかどうか心配になるからだ。

 子どもたちは、進学する学校や新しいクラスの雰囲気になじめるかどうか考えて不安になる。そうした子どもたちを受け入れる教師もまた、新しい生徒を迎えてクラス運営がきちんとできるか心配になる。

 働いている人たちも同じように、異動などで新しい環境に足を踏み入れなくてはならなくなる。異動はなくても職場の組織替えや人間の交代があったり新しい仕事を与えられたりし、その中でうまくできるか考えて心配になってくる。

 家庭を預かっている人たちは、子どもや働いている人たちが新しい環境になじんでいけるか心配だし、自分がそうした人たちを上手に支援できるかどうか考えて不安になったりもする。

 不安は、この先何が起きるかわからないから注意をするようにということを伝えるこころの警戒警報の働きをしている。だから、新しい状況を前にして不安になるのはやむを得ないし、必要なことでもある。経験がない状況に足を踏み入れると危険な目に遭うかもしれない。そのようなときに、大丈夫だと楽観的に考えると、取り返しのつかないことになりかねない。

 だからといって心配しすぎるのもよいことではない。不安だからといってやみくもにブレーキをかけてしまうと、何もできなくなる。こうしたときには、思い切って先に進んで、現実の問題にひとつひとつ対処していくことが大切になる。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



日本の安定、おごりは禁物 財政や雇用試練これから 論説副 委員長 実哲也 2017/2/26 本日の日本経済新聞より

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 何でこんな人を大統領にしたのか――。

 唐突に7カ国からの入国制限を命じた大統領令。メディアから裁判官まで気に入らない者に容赦なく放たれるツイート砲。あげくは存在しない海外のテロまで持ち出して謝らない厚顔無恥さ。お茶の間のテレビは「きょうのトランプ」を面白おかしく伝える。

 民主主義のお手本だったはずの米国がなぜ。失望、驚きに軽侮も入り交じった反応が日本を覆う。マッカーサーはかつて日本人の文明度を12歳と評したが、「どちらが12歳なのか」(経済官庁幹部)という声まで聞こえてくる。

 混乱は米国だけではない。欧州でも反移民などを掲げる異端政党が台頭。今年実施するフランスの大統領選やドイツ、オランダの総選挙では台風の目になる可能性がある。

 こうしたなかで、内外の投資家の間では日本の政治・社会の安定度を再評価する見方が高まっているという。

 国の信用リスクの大きさを示す国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率は最近、約7年半ぶりに日本が米国を下回った。日本の保証料率が低下する一方、政権が漂流する米国はやや上昇しているためだ。

 極右政党「国民戦線」のルペン党首が4~5月の大統領選候補として支持を伸ばすフランスは、この数字が1月以降、跳ね上がっている。

 日本経済は2008年の米欧発金融危機の波をもろにかぶった。当初は「蜂に刺された程度」(閣僚)との見方もあったが、経済の悪化は先進国で最大級だった。だが、米欧で広がる政治混乱の影響は今のところ蚊に刺されたほども受けていない。

 それ自体は喜ぶべきことだろう。いったん既存の政治への不信が広がれば収拾は難しく、大衆扇動的な政治家の台頭を招きやすくなるからだ。

 とはいえ、だから日本のやり方は優れていると自己満足に陥るのも禁物だ。

 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「日本の足元の政治的な安定性は将来世代を犠牲にする形で保たれている」と指摘する。

 先進国でも突出して高齢化や人口減少が進みつつある日本。財政は、国内総生産(GDP)比で見た債務残高、赤字ともに先進国では最悪レベルだ。本来ならば、膨らむ社会保障の給付や負担について厳しい選択を国民に求めなければいけないところだが、問題を先送りしている。

 そのツケは若者世代に回る。「若い層の先行き不安は高まっており、世代間の分断はすでに起き始めている」と語るのは元衆院議員の亀井善太郎・東京財団研究員。将来世代の視点で改革を促すため、財政や社会保障の先行きを推計する独立機関の国会設置などを提言しているが、政治の反応はなお鈍い。

 米欧の政治混乱の火種になった移民・難民問題。日本政府は「いわゆる移民政策は考えていない」とし、日本は外国人が少ないから安定しているとの見方も少なくない。

 だが、実際には外国人の雇用は100万人を超えるところまで増え、こうした人々なしには経済や社会は回らなくなっているのが現実だ。

 その多くは、日本の国際協力の一環として入れ替わりやってくる「技能実習生」という名目で働いているため、日本社会に溶け込めるよう支援する体制はできていない。

 中川正春衆院議員(元文科相)は「なし崩し的にではなく、どこからどのような形で外国人を受け入れるのかを、将来を見据えて正面から議論することが不可欠。そのための包括的な基本法を超党派でつくりたい」と意気込む。だが、永田町では問題を直視して動こうという機運は薄い。

 一方、米欧の政治不安の火種になった雇用の喪失問題は人手不足が課題となる日本では心配ないとの声がある。

 数だけみればそうだが、人工知能(AI)やロボットの活用が進めば、これまで持っていた技能だけでは失職したり、仕事がみつからなかったりする人材のミスマッチが深刻になる恐れがある。転職がしにくく、新技能を学び取る機会も少ない硬直的な雇用システムを変えていかないと、社会への打撃は米欧以上に大きくなるかもしれない。

 米欧の政治混乱は対岸の火事にも映る。だが、日本も今のうちに対処しておかなければ、将来社会を揺さぶりかねない懸案を幾つも抱え、その多くが手つかずのままだ。

 敵をつくってたたく大衆扇動政治はまっぴらごめんだ。しかし、問題があたかも存在しないかのように思わせて安心させる政治の大衆催眠術にも気をつけないといけない。



心の健康学 退職後に沈む心 関心あることに時間を 2017/2 /19 本日の日本経済新聞より

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 年度末が近づいてきた。3月いっぱいで定年になってこれまでの仕事から離れる人も多いのではないだろうか。こうした生活の大きな変化は、こころや体にかなり負担になることがわかっている。

 職場から離れなくてはならなくなって落ち込む人は少なくない。とくに仕事一筋に頑張ってきた人は、仕事から離れることにストレスを感じやすい。いちずに頑張ってきたということは、それだけ仕事と一体化していたということでもあるからだ。そこから離れることで大きな喪失感を体験することになる。

 仕事に限ったことではないが、大切なものを失ったと思うと心が沈み込む。一人置き去りにされたような心細さを感じたりもするだろう。そうしたときには、趣味でもボランティアでも、自分が関心を持っていたことに時間を使うようにすることが役に立つ。

 仕事をしているときにそうしたことを始められていればよいのだが、なかなかそうした余裕はなかったかもしれない。だからといって、そうした自分を責めても問題が解決するわけではない。退職してからでも遅くはない。まだこの先、10年、20年ある。少し時間をかけて、楽しいことややりがいのあることを少しずつ始めてみることだ。

 こころに元気が無くなったときには、自分が関心を持っていることや楽しいことをしていると少しずつ元気が戻ってくることを示す科学的根拠がたくさん報告されている。退職後は自分が自由に使える時間がたくさんある。その時間をいかして、充実した生活を送るようにしていきたい。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



こころの健康学 受験勉強ムダない思考 学ぶ訓練 2017/2/5 本日の日本経済新聞より

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 大学入試センター試験の後、問題と解答が新聞各紙に掲載された。私もちょっと目を通したがほとんど答えられない。理科や数学などは、質問の意味さえわからない問題がある。

イラスト・大塚いちお

 もともと理系科目は苦手だったが、ここまで能力が落ちてしまうのかと暗い気持ちになった。しかし医師として社会に出てからは、大学入試で必要になる理科や数学を使うことはなかったからやむを得ない、と自分を納得させようとした。

 それなら何であのような難しい勉強をしないといけないのか疑問に思えるかもしれない。社会に出てから使わないような数学や理科を勉強するのはムダに思える。しかし、ちゃんと意味がある。分野が違っても、基本的な思考過程には共通する部分が多いからだ。

 ある物理の教師は、天体の動きについて説明しながら、それが真実だと証明されているわけではないと言った。しかし、その理論を使うと、現実の現象をもっともムダがなく美しく説明できる。その美しさに惹かれて物理を勉強しているのだと話していた。

 じつは、ムダのない美しさという視点は、こころの健康を考えるときにも大切だ。脳科学や心理学が進歩しても、こころの動きはわからないことだらけだ。だから、こころを健康にする手立てについても、いろいろなアプローチがあたかも真実のように語られる。

 どれを選べばよいか迷うかもしれない。そういうときには、自分の目から見てムダなく美しい理論や手法を選ぶと失敗が少ない。このように私たちは、若いころの勉強を通して多くのことを学んでいるのだ。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



こころの健康学 脱マイナス思考現実受け入れ、対策練る 2017/1/ 22 本日の日本経済新聞より

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 1月4日付のニューヨーク・タイムズ紙に、認知行動療法について取り上げたコラム記事が掲載された。「マイナス思考を克服する年」と題されたコラムでは、まず最初に、私たちは進化論的にマイナス思考をする傾向があると紹介されている。厳しい条件を乗り越えて生き延びるためには、まず良くないことが起きる可能性を考えて身を守る必要があったからだ。

 その意味ではマイナス思考は悪いことではないが、強くなりすぎると、心身によくない影響を及ぼす。あれこれマイナスに考えすぎると、気持ちが沈み込んだり不安になったりしやすくなる。自律神経やホルモンのバランスが乱れたり免疫の働きが落ちたりして、体調を崩しやすくもなる。

 だからといって、マイナスな考えが浮かんだときに、それを無理矢理押さえ込むのは逆効果だと記事は伝える。ネガティブな考えを否定しようとすればするほど、その考えにとらわれるようになってしまう。

 ある人から嫌われているのではないかという考えが頭に浮かんだとき、嫌われていない可能性もあると考えてマイナス思考を追い払おうとしてもうまくいかないことが多い。嫌われている可能性を否定できるわけではないからだ。本人に確認しなければわからない。

 そのとき大事なのは、嫌われているかどうかではなく、その人とこれからどのような関係でいたいと考えるか、そのためにどのようにすれば良いかだ。マイナス思考を克服し、良い関係を築くためには、まず現実をありのままに受け入れ、その上で次に進む手立てを考えることが大切になる。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



これからの民主主義の話をしよう マイケル・サンデル氏 米ハーバ ード大学教授 2017/1/22 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「これからの民主主義の話をしよう マイケル・サンデル氏 米ハーバード大学教授」です。





 第45代アメリカ合衆国大統領に20日、ドナルド・トランプ氏が就任した。選挙期間中から物議を醸した公約、ツイッターを駆使した情報発信、誹謗(ひぼう)中傷すれすれの物言いは多くの賛否を呼び、米国社会に深刻な分断をもたらしている。トランプ政権下で米国、そして民主主義はどこに向かうのか。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授に聞いた。

■市民の無力感 解消の道探れ

 ――「トランプ政権」誕生の意味をどう見ますか?

 「ドナルド・トランプ氏を選んだ結果は過去20年、30年と続いてきたグローバリゼーションの末、その利益についてほんの一握りの上流階級だけしか手にしていないということに対する人々の不満の表れといえる。ほとんどの労働者階級、あるいは中間層は全く、その利益を享受できていない。その結果、格差は一層、深まり、突然、ドナルド・トランプ氏の選出という形で(不満が)表現された」

 「我々は今、民主主義、そして資本主義の将来について真剣に考えなければならない時期に来ている。人々の強い不満に応じられるような、新しい民主主義、資本主義のモデルはいかにあるべきか、という根源的な問いかけに向き合わなければならない」

 ――それは米国だけでなく、世界中の先進民主主義国に共通する課題です。

 「欧州では多くのポピュリズム政党が台頭しつつある。だからこそ、今こそ、民主主義と資本主義について根本から問い直す時期だ。民主主義についていえば、政府を代表する伝統的な組織や機関はお金や企業の利害によって左右され、普通の市民の声が反映されていない、と人々は感じている。それこそ、民主主義に対する不満の源だ」

 「資本主義についていえば、過去数十年間にわたるグローバリゼーションと技術革新の結果、生み出されたものは格差だけだったという点があげられる。この問題と向き合わなければならない。政治の世界において、我々はもっと普通の市民に意味ある発言をしてもらう方法を見つけなければならない。経済の世界では、グローバリゼーションと技術革新がもたらす利益を広く共有できる術を見いだす必要がある」

 ――そういう観点で見れば、「トランプ政権」の誕生はある種の「社会革命」ともいえますね。

 「その通りだ。ブレグジット(英国による欧州連合離脱)も全く同じ構造だ。部分的には経済上の問題だが、実は社会的、そして文化的な反発が背景にはある。その反発とはつまり、エリート階層が普通の人たちを見下している、ということだ」

 ――そうした不満、怒りに基づく「トランプ現象」を解消するには何が必要ですか。

 「格差の問題は昨年、突然、表面化したわけではない。過去20年以上、我々はその問題を提起してきたが、本来、労働者に寄り添うはずの民主党がプロフェッショナルな階層や、ウォール街に近づいてしまった。この結果、民主党は普通の労働者から遠ざかってしまった」

 「米国ではこれまで、格差について人々はあまり心配していなかった。我々はいずれ上向くという信念があったからだ。貧しい出であっても、のし上がることはできる。それこそ、アメリカンドリームなのだ」

 「しかし、今、そうしたケースが急速に減っている。今は米国において、貧しい生まれなら、その7割は中間層にすら上がることができない。上位20%の層に入る率はわずかに4%だ。上位の層に上がる率は今や、米国よりも欧州の方が上だ。これはアメリカンドリームの危機といえる。もし、子供たちに『格差のことは心配しなくても、君たちはのし上がることができる』と言えなくなれば、もっと平等や団結といったことに注意を払わなければならなくなる」

 ――そうした風潮はポピュリズムだけでなくナショナリズムもあおりますね。

 「それこそ、私が最も心配することだ。民主主義を再活性化し、資本主義とグローバリゼーションの関係性を向上させ、上位の人間だけではなく、すべての人が利益を享受できるようにできなければ、重大な危機が訪れる。極端なナショナリズムや耐えがたいポピュリズムが人々をさらに魅了するだろう」

 ――トランプ氏による勝利は色々な意味を含有しているということですね。

 「トランプ氏がこれらの問題を解決するような、建設的な改革を主導するとは思えない。民主党だけでなく、共和党も含め、両党の責任ある指導者たちがこのショックによって、彼ら自身の政党のプラットホームを再定義する機会とすべきだと思う。人々が募らせている無力感、正当な不満を責任ある両党、責任ある指導者が理解し、市民の声により多くの耳を傾けることこそが必要なのだ」

■権力監視は報道の責務

 ――米国の民主主義と政治の将来はどうなるのでしょう。

 「民主主義、そして言論の自由の将来には懸念を覚えている。まず、言論の自由についてはメディアを取り巻く環境が変わり、ソーシャルメディアの台頭によって真実と間違った情報の区別がとても難しくなっている。多くの米国人、特に若者はニューヨーク・タイムズ紙から情報を得なくなっている。彼らはテレビでもなく、ソーシャルメディアからニュースを得ている。あるいは深夜のコメディー番組から得ている。多くの人たちが信頼性のあるニュース源を持てなくなれば、それは意味のある政治の議論に結びつかず、かつ、メディアの分裂、崩壊にもつながる」

 「極端なナショナリズムと全体主義的な政治の出現は言論の自由にとって、もっと厄介だ。人々が民主主義や既存の組織に不満を抱けば抱くほど、彼らは『強い人』や、独裁者を求める。ロシアのプーチン氏、トルコのエルドアン氏などはその例だ。選挙期間中のトランプ氏もメディアを攻撃していた」

 ――選挙後も同じです。

「もし、自分たちにとって不公平な報道があれば、ニューヨーク・タイムズ紙のような新聞を訴えやすくするように名誉毀損に関する法律を変えるとまでトランプ氏は言っている。これらの動きがチェックされないまま、多くの時間が過ぎれば、それは言論の自由に対する脅威となる」

 ――メディアの側にも問題はありますね。

 「トランプ氏は名誉毀損に関する法律を改正できないと思うが、一方でメディアも本来の役割を十分、果たしてはいない。なぜなら、センセーショナリズムとセレブ中心の政治にばかりに目をやっているからだ。予備選段階で、トランプ氏がテレビに出演したことで実質的に手にしたお金は実に20億ドルにもなる。なぜなら、彼はいつも(放映中に)暴言を吐き、それが視聴率を上げたからだ。しかし、それは大統領選に関して、責任ある報道方法とはいえない。エンターテインメントか、暴言を見るためのものにすぎないからだ。民主主義の未来も責任あるニュース源とメディアの報道姿勢にかかっている」

 「正義と不正義、平等と不平等に関するまっとうな不平、不満はいつの世にも存在し、市井の人々は自分たちがどのようにして治められているのかについて、意味ある意見を持っている。これらの問題について、主流派の政党はきちんと仕事をしてこなかった。彼らは人々の怒りと不満を理解していなかったのだ」

 「(トランプ政権の誕生について)単に『これは恐怖心からのものだ』とか、『無視しなければならない』と言うのは間違いだ。耐えがたいもの、そして、排外主義には徹底して戦っていくことが重要だ。同時に過去20年以上にもわたって積み上げられてきた正当な不満を解消するため、より建設的な代替案を提供していくことが大切だ」

 ――民主党は反ウォール街を標榜するエリザベス・ウォーレン上院議員ら左派が主導権を握り、左傾化が進むのですか。

 「米国の政治システムの将来には懸念を覚えている。米国における二大政党制の将来はひとえに両党が普通の人々(の要望)にどのように応じるのか、ということについて再度、自らを作り直せるかどうかにかかっている。それは選挙活動においてお金の力に負けないことを意味している」

 「共和党は大統領だけでなく、上下両院、そして多くの州知事のポジションもコントロールする。やがて最高裁判所においても多数派を占める。一つの政党がすべての部門(行政府、司法、立法)において連邦レベル、そして州単位でも多数派となることは初めてのことだ。それゆえ、共和党が自らを再定義することは難しい。彼らの未来はひとえにトランプ氏が成功するか否かにかかっている」

 Michael J. Sandel 専門は政治哲学。個人の権利を絶対的に重視する米国の伝統的なリベラリズムとは一線を画し、この分野の大家だったジョン・ロールズ・ハーバード大教授の「正義論」を批判したことで一躍脚光を浴びた。共同体(コミュニティー)の価値を重んじるコミュニタリアニズム(共同体主義)の提唱者としても知られる。 ハーバードの新入生を対象にした「正義」の講座では教室の学生たちと対話を通じて、共通の見解を模索するユニークな授業スタイルが人気となり、日本でも「白熱教室」として話題となった。著書に「公共哲学」「これからの『正義』の話をしよう」「それをお金で買いますか」などがある。1953年生まれ、63歳。

◇     ◇

〈聞き手から〉「民主主義2.0」  トランプ現象が試金石

 「民主主義は最悪の政治形態である。ただ、これまで試されてきた、いかなる政治制度を除けば……」。英国の宰相、ウィンストン・チャーチルが言い残した名言の真意は、独裁主義や共産主義、社会主義や軍国主義よりも民主主義は優れているということだ。同時に、チャーチルが言うように民主主義も決して完璧ではない。だからこそ、人類社会は日々、丹念にこの社会システムを守り、精査し、向上させなければならない。

 トランプ米政権の発足は一見すると、そうした動きに逆行するかのようでもある。しかし、グローバリゼーションと技術革新が進み、「民主主義2.0」とも呼ぶべき、新たなステージに先進民主主義の各国が足を踏み入れた今、「トランプ現象」は米国を実験場として民主主義が更に一皮むけるための試練、あるいは節目と捉えることもできるのではないだろうか。

 8年前、日本もすでに「和製トランプ現象」で政権交代を体験している。そこから我々は何を学び、何を学んでいないのか。市井の声に心の耳を傾ける真の政治と、浅薄な大衆迎合の政治を見極める心眼が我々一人一人に今ほど求められている時はない。

(編集委員 春原剛)



こころの健康学 浪人生活 自信のなさ 逆に役立つ 2017/1/1 5 本日の日本経済新聞より

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 今年の成人式が終わった。成人式のニュースを見るたびに思い出すのだが、私は成人式を経験していない。中学時代から下宿生活で出身地の愛媛県を離れており、物理的に参加できなかった。それに心理的にも、成人式を祝おうという気持ちになどまったくなれなかった。大学浪人をしていたからだ。

 浪人というのは根無し草のような存在だ。一応予備校に通ってはいたものの、正式には所属している組織がない。私たちは、どこかに所属することで自分の存在を確認しているところがある。それがまったくできないというのは心細いものだ。浪人生活の間、自分が何者か、若い私には確認するすべがなかった。

 それに浪人をしていると、先がまったく見えない。1年目はまだ、次の年には合格できるだろうという希望を持つことができた。しかし2年目になり、3年目になると、一体自分が今後どのようになっていくのか、まったく見えなくなる。この先いくら頑張っても大学に進むことはできないのではないかと考えて、こころの中が文字通り暗くなっていくのを感じていた。

 そうしたなかでも頑張れたのは、環境的にチャレンジが許されたことも大きいが、意外と自信のなさが役に立ったように思う。自分の力に自信がもてないために、ここで諦めたらすべてが終わってしまうという恐怖感がわいてきて、とにかく全力を尽くすしかないと考えていた。

 先がないように思えても、諦めなければ変わってくる部分があるということを、そのとき身をもって体験することができた。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



中外時評 ロシアが望む米国像 「リーダー役退場」実は懸 念 2017/1/15 本日の日本経済新聞より

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 退任を控え、土壇場で堪忍袋の緒が切れたのだろうか。米国のオバマ大統領は大統領選中にロシアがサイバー攻撃を仕掛けたと激しく非難し、ついには昨年末、在米ロシア大使館などに勤務していた35人もの情報機関職員を国外追放する報復措置をとった。

 米情報機関はサイバー攻撃について、プーチン大統領が指示し、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)などが関与したとする報告書を公表。その狙いは民主党候補のクリントン前国務長官の大統領当選を阻むためだったとする。

 それを踏まえればオバマ大統領の憤りは当然だが、根深い対ロ不信は同政権下で大きく冷え込んだ米ロ関係を改めて象徴したともいえる。

 名指しで批判されたプーチン大統領の反応はどうか。昨年末の記者会見では、オバマ大統領の対応に不快感を表明。「負けた側は常に外部に犯人を求めるものだが、原因は自らの中に探すべきだ」と余裕の表情で語り、サイバー攻撃への関与も否定した。

 ロシア人職員の大量追放という米側の措置には対抗策を打ち出すとみられたが、プーチン氏が直後に発表した声明は「我々は米外交官らに問題を起こすことはしない」。それどころか、ロシアに駐在する米外交官のすべての子どもたちを、クレムリンで開く新年とクリスマスのイベントに招待すると約束したのだ。

 もちろん、無条件で対抗手段を講じなかったわけではない。声明は相応の報復措置を行使する権利を留保しつつ、今月20日に発足するトランプ次期政権が米ロ関係改善にどこまで取り組むかを注視する姿勢を明示したのだ。

 そのトランプ氏はサイバー攻撃へのロシアの関与を認めたものの、米ロの「良好な関係」の構築には意欲的だ。トランプ氏の醜聞を握っているかどうかはともかく、ロシアが同氏の当選を望んでいたのは疑いない。プーチン政権が今回、対米報復措置を控えたのも、次期政権への期待の表れといえるだろう。

 では、米ロ関係は本当に改善するのだろうか。

 ロシアの著名な国際政治学者フョードル・ルキヤノフ氏は「クリントン、ブッシュ、オバマ氏も含めて、冷戦後の米国のすべての指導者はロシアの変革を求めてきた。それが関係を不安定にさせる主因だった。トランプ氏はロシアがどうなろうが関心がない」と指摘。その意味で米ロ首脳は理解しあえる仲にはなるだろうが、「互いの関心事は大きく異なり、米ロ関係が質的に大きく改善するとは期待しにくい」と予測する。

 一例として挙げるのが中国への対応だ。「トランプ氏がプーチン氏に中国と緊密に協力しないよう求め、米ロが協調して中国を圧迫すべきだと主張するのは明らかだ」と語る。いくら米ロ関係を改善したくても、経済を中心に中国と緊密な関係にあるロシアにとっては無理難題となる。

 米ロ関係が専門のロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長も「トランプ政権の誕生は米ロ関係にとって、プラスとリスクの両面が併存する」とみる。

 プラス面はトランプ氏の親ロ的な言動に加え、米共和党政権のほうが伝統的に米ロ外交が進めやすい点だ。また、トランプ氏はオバマ大統領やメルケル独首相のような原則論者ではないので「プーチン氏とは具体的な案件をめぐって気軽に話ができる」。

 半面、トランプ氏に外交経験がなく、周囲に経験豊富で有能な人材もいないのがリスク要因とする。さらに同会長が最大の懸念要因に挙げるのは、意外にも「米国が世界のリーダー(指導者)の役割から退場する」ことだ。

 プーチン政権はかねて米国主導の国際秩序を批判し、多極化世界の構築を呼びかけてきた。ロシアは実際、シリア和平や原油減産の調整役を担うなど、国際社会で存在感も誇示する。米国が世界の指導者役から退けば、なによりウクライナ危機を受けた対ロ圧力が緩和される可能性も芽生える。それなのに大きな懸念要因となるのは、なぜか。

 例えば、米軍がアフガニスタンから撤退すれば、イスラム原理主義がロシアに波及するリスクは高まる。イランの核合意がほごにされれば、核拡散の懸念が強まる。世界の自由貿易が後退し、国際金融市場が混乱すれば、ロシア経済にも悪影響が及ぶ……。

 「ロシアは中国と同様、国際秩序の一翼は担えても米国の代役は務まらない」(ルキヤノフ氏)。世界での米国の指導力がある程度弱まるのは歓迎するが、完全な退場は決して望まない。ロシアが抱えるジレンマである。