カテゴリー別アーカイブ: 特集

モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄」です。





 「100年に1度」といわれた2008年のリーマン危機。中央銀行の大胆な金融緩和や財政出動で世界は危機を脱し、震源だった米国は今や戦後最長となる10年の景気回復も視野に入れる。一方で出回るお金の量が未曽有の規模に膨らんでも、日米欧は物価の足取りが鈍い。世界経済は空前の低金利とカネ余りに向き合う未知の局面を迎えた。

 歴史上で最も低い長期金利とされてきたのは、1619年にイタリアの都市国家ジェノバで付けた1.125%だった。1990年代後半、デフレに突入した日本が379年ぶりに最低記録を更新。そこから世界は低金利時代に突入した。今や日銀は長期金利を「ゼロ」に誘導している。

 金利は今と将来の価値をつなぐ「お金の値段」だ。経済活動が温まると借り手が増え、借り賃にあたる金利も通常は上がる。15~17世紀の大航海時代や18世紀の産業革命期、第2次大戦後の高度成長期には、経済の急激な伸びにつれて金利が高まる場面がみられた。

 今起きているのは経済の成長規模をはるか上回るペースのマネー増殖だ。企業の資金余剰が進み、中銀が金利を引き下げても設備投資など実需が十分に喚起されない。

 16~17世紀ジェノバで金利低下が進んだのは「山の頂まで耕作され投資先が消滅したことが一因」(水野和夫法大教授)だった。1.125%を付けた金利はその後短期間に6%程度まで急騰した。低金利に我慢できなくなった投資家が他に逃げ出したためとされる。

 米欧が金融緩和の修正に動くなか、足元の低金利がこのまま続く保証はない。SMBCフレンド証券の岩下真理氏は「バブルと戦ってきた歴史を振り返れば壮大な実験が進んでいる」と話す。そのさなかに、トランプ米大統領はリーマン危機の反省から導入した金融規制の緩和を検討中だ。膨張マネーとどう向き合うのか、危機10年を前に問われようとしている。

日米欧企業、貯蓄年50兆円

 企業は稼いだ現金を機械や設備といった実物資産に投じ、足りなければ借金をする。残った資金を将来のために預金や有価証券として貯蓄したり、借金返済に充てたりする場合もある。1990年代までは投資が優先され、貯蓄水準を上回るのが常だった。

 90年の後半以降、まず日本企業に変化が起きた。人口減少による国内市場の縮小を見据えて投資を抑制した。輸出で潤い利益が増えたドイツ企業でも貯蓄が目立つ。近年では米国企業も貯蓄超過になり、日米欧の企業の貯蓄を合計すると、2010~15年の平均で年50兆円にのぼる。

 世界的な企業の貯蓄増加の原因について、米ミネアポリス連邦準備銀行は3月公表のリポートで「グローバルに活動する多国籍企業の利益が膨らみ貯蓄が増えた」と指摘した。低賃金国での生産などで人件費が下がった分、貯蓄に回っているという。

 米アップルやアルファベットのような莫大な利益を生む世界的な寡占企業の誕生や、設備に必要な金額の低下、研究開発費への備えを原因とする分析もある。

 本来は銀行を通じて家計からお金を借りる主体だった企業まで貸す側に回っている。金融市場にカネ余りをもたらし、お金の価値である金利の低下につながっている。

「緩和→物価高」崩れた図式

 中央銀行が緩和マネーを市場に流し込んでも物価の上昇につながらない――。景気が上向く中でも、日米欧の期待インフレ率は伸び悩んでいる。カネ余りがインフレ圧力を高めるという一般的な図式があてはまらない。

 インフレ期待をみる指標の一つに債券市場のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)がある。国債の利回り(名目金利)から、消費者物価指数(CPI)に応じて元本が増減する物価連動国債の利回り(実質金利)を引いて求める。物価の先高観が強まるとBEIは上がる。

 日本のBEIは日銀の異次元緩和後の2013年5月に2%近くまで浮上したが、その後は低下基調をたどり、今は0%台半ば。米国のBEIも13年以降は上値が重い。ユーロ圏も期待インフレ率の代表的な指標が停滞している。

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「循環的なインフレ圧力と構造的なデフレ圧力がせめぎ合っている」と話す。ネットで価格を比べやすくなり、値上げのハードルは上がった。機械化や人工知能(AI)の普及は賃金の上昇力をそいでいる。

 中銀がマネーを供給すれば物価は上がるという単純な議論は、金融危機後の大規模緩和という壮大な「社会実験」に否定されつつある。

不動産ファンド巨大化

 鈍い物価上昇の下でよどむマネーは投資の「水たまり」を生んでいる。一つが不動産市場だ。債券で運用利回りを稼げなくなった年金や機関投資家が不動産に目を向け、資金を預かるファンドは巨大化している。

 米フォートレス・インベストメント・グループが雇用促進住宅を政府から600億円で取得するなど、日本でもファンドの購入が活発になっている。米指数算出会社MSCIによると、ファンドなど運用のプロが抱える不動産の価値総額は2016年末で7兆4413億ドル(約800兆円)と、直近で最少の09年末より21%増えた。

 不動産サービス大手のジョーンズラングラサールによると、主要都市の優良不動産の利回り(賃料収入を取得価格で割った値)は2.9~3.5%。取得価格が上がった結果、リーマン危機前に投資が活発だった07年の3.2~5.1%を下回った。利回りを求めて膨れあがった投資が、利回りを押し下げた形だ。

 世界的な低金利で、投資のための借金の利払い負担は軽い。そのため、投資利回りから利払いを引いた最終利回りは、まだ投資魅力があると考える投資家が多い。リーマン危機前に比べ、低い利回りを許容する長期マネーの割合が高まっている側面もある。



集団的自衛権 同盟に不可欠自民党副総裁 高村正彦氏講演 2017/10/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「集団的自衛権 同盟に不可欠自民党副総裁 高村正彦氏講演」です。





 国の存立を全うするための必要な自衛措置は当然許されるべきだ。朝鮮半島有事の時に、この近辺で米軍の艦船が攻撃された場合、日本が守らなければ日米同盟は瞬時に効力を失う。これは集団的自衛権になるが、必要な自衛の措置であることは当然だ。その範囲で限定的に容認できる。

 安倍政権のもとで(限定的な集団的自衛権の行使が可能な)平和安全法制が2年前に成立した。日本は米国の一部を守れるようになった。トランプ米大統領は米国が日本を守るのに日本が米国を守らないのは不公平だと言っていた。トランプ氏が大統領に当選し、平和安全法制ができていてよかったと思う。日米同盟は良い状況にある。

 いま憲法改正が話題になっている。安倍首相は憲法9条の(戦争放棄を目的とした)1項と、(恒久的武装解除条項である)2項をそのままにして、自衛隊を明記することを提起する。9条2項は特殊な規定で、戦力放棄という世界に例を見ない規定だ。交戦権を認めず、戦力を持つことは許されず、抑止力を持ってはいけない。これで日本の平和をどうやって守るのか。

 私は37年前、憲法9条について聞かれ、1項は堅持するが、2項は削除すると答えた。2項の削除は理論的に正しいが、残念ながら国民投票で2分の1の支持を得るのは難しいだろう。政治家は実現することが重要で、自衛隊の合憲性を紛れのないものにしたい。

 9条2項を維持しても、(連立を組む)公明党が賛成するかどうかはわからない。公明党は自民党の論理を見守るとの立場で、フルスペックの集団的自衛権が認められるような書き方ではだめだと見ているようだ。希望の党の立場はよく分からないが、できれば希望も立憲民主党も入れて(憲法改正を)できればいいと思っている。

 憲法学者の4割は自衛隊が違憲だと断言する。こうした内容が子供たちの教科書にも出てくる。憲法学者に従えば、自衛隊もなく国連平和維持活動(PKO)もなかった。憲法学者の言うことをうのみにする政治家は情けなく、残念なことだ。こういう状況は自衛隊の憲法明記で直せる。命を懸けてくれる自衛隊の皆さんに対して政治家の矜持(きょうじ)として一点の曇りもなくしたい。



日ロ首脳会談 評価は 2016/12/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「日ロ首脳会談 評価は 」です。





 2日間にわたって繰り広げられた安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談。両首脳は積年の課題である北方領土問題を巡り、共同経済活動に関する協議の開始で合意した。経済協力を優先した交渉は、領土問題の解決にどうつながっていくのか。複雑さを増す国際情勢の下での日ロ接近の意味は。識者に聞いた。(1面参照)

■日本の安保に不可欠 ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所代表 隈部兼作氏

 ――北方四島での共同経済活動に関する協議の開始で合意した。

 「日ロの共同経済活動の話は1990年代から出ていたが、うまく進まなかった。両首脳が発表した声明も玉虫色になっている。これから協議が始まるので、具体的にどのような内容が出てくるのか期待したい」

 ――経済協力の合意内容は評価できるか。

 「民間同士の日ロのビジネスが、これまでのエネルギーや自動車産業だけではなく、色々な分野で進展した。評価したい」

 ――民間を含めた日本側の経済協力の総額は3000億円規模となる見込みだ。

 「今回調印した案件の多くは覚書だ。実際に案件が実現するまでには時間がかかり、3000億円が今すぐに出るわけではない。今後の課題は締結した案件を具体的に、確実に仕上げていくことだ」

 「領土問題を抱える日ロ関係はこれまで外務省が前面に立っていた。今回は官邸主導だったからこそ、経済協力が加速した。ロシアとそれほど関わりがなかった省庁が動き、協力の裾野が広がった。首相が対ロ外交を率先して進めた結果だ」

 ――日本には領土問題が取り残され、経済協力だけ「先食い」されるとの懸念が根強い。

 「それぞれの案件は日本の輸出や投資に資するもので、ロシアだけが得するわけではない。日ロはウィンウィンの関係であるべきだ。今回の合意内容はこれまでの日ロビジネスの延長線上にある。この時点で協力をやめたら日ロ関係が悪化してしまう」

 「経済協力に伴って日ロ両国の人の往来が増え、相互理解が深まる。ロシアは日本の安全保障にとっても重要で、領土問題だけで考える現状のアプローチからは脱却する必要がある」

 ――ロシアに進出する企業の課題は。

 「ロシア側は日本からの投資に期待しているが、日本の大手企業の大半は投資よりも輸出を先行させている。国際協力銀行(JBIC)とロシア直接投資基金(RDIF)が創設する1000億円規模の共同基金も、案件がなければ資金を出せない。ロシア政府は新規投資の誘致には熱心だが、既に投資している外国企業へのフォローはまだ弱い」

 「もっとも、ロシアの投資環境は改善されている。原油価格に過度に依存した経済構造を変えるため、産業の多角化を図っているからだ。投資環境の改善により、外国からの資金や技術を呼び込もうとしている」

 ――今回の会談は日ロ関係の転換点になったか。

 「劇的に変わるかどうかは別として、基盤はできた。経済協力の色々な案件を具体化させるには知恵が必要だ。政府はまず案件ごとの経済合理性を精査してから、資金を投じるような仕組みにしないといけない」

 くまべ・けんさく 75年早大政経卒、日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)へ。同行モスクワ首席駐在員、三井物産戦略研究所上席主任研究員などを歴任。ロシア語を学んだのは外交官だった祖父の影響という。64歳。

■「特別な制度」現実的 法政大教授 下斗米伸夫氏

 ――首相は共同経済活動について「平和条約への重要な一歩」だと強調した。

 「私もそう思う。北方領土問題の解決に向けたアプローチを変えたということだ」

 ――共同経済活動で「特別な制度」をつくるという。

 「両国の主権に関わらない特別なメカニズムをつくるということだろう。4島の人口は1万7000人だ。漁業や観光、医療などの分野ごとに代表者を定めて協議すればつくれるはず。3~5年もかかる話ではない。両国が受け入れ可能なメカニズムに落とし込めばいい。かなり現実的な提案といえる」

 「両国の首脳が合意したことがポイントだ。タカ派とみられている政治家が、ハト派的な紛争処理に合意した。成功につながる可能性はある」

 ――結局、北方領土は戻ってくるのか。

 「戻る、戻らないというゼロサムゲームから発想が変わってきた。両国の主権を害さないかたちで、日本人が自由に行き来できないかということだ。両国民が共存共栄する以外に方法はない」

 ――日本国内の反応をみると、今回の成果には厳しい声もある。

 「北方領土問題は『間欠泉』のようにたまに大きく動き、翌日から何もないという形を繰り返している。そのパターンに慣れている人にはすっきりしない結果かもしれない。ただ、内実はかなり考えられているものだと思う。間欠泉にならないように国民、マスコミが意識を持ち続けることが必要だ」

 ――会談では、医療やエネルギーなど8項目の経済協力の具体化も合意した。

 「8項目にはロシアの東方シフトと脱エネルギー、経済の多角化、第4次産業革命などを促す措置が盛り込まれている。ロシアにとっては魅力的な提案ばかりだ」

 「ただし、日本が主権を主張すれば状況は変わってくる。そこの落としどころを、今後の平和条約締結交渉の中で探っていくだろう」

 ――北方領土は東アジアの安全保障環境にどのような意味を持つか。

 「もともと北方領土問題は、旧ソ連が『在日米軍の脅威をどう抑止するか』などの枠組みで議論してきた。東西冷戦が終結すると、こうした考え方はなくなったが、今度はロシアの対中国政策との絡みが出てきた。北極海航路の誕生で、オホーツク海は北極に向かう中国艦船の抜け道となりつつある。それも含めてロシアは北方領土や千島列島の軍事戦略を組み立てている」

 ――2013年11月から中断している日ロの外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)の再開の話もでた。

 「協議再開はロシア側の要求だ。ロシアにとってこれまでの日本は経済的パートナーという位置づけだったが、次第に対中国という意味での戦略的パートナーになりつつある。日本の戦略的重要性が高まり、日ロ関係も質的に変わってきている」

 しもとまい・のぶお 71年東大法卒。専門は比較政治、ロシア政治。成蹊大教授を経て88年から現職。今年10月にロシア・ソチで開いた外交専門家グループの国際会議に出席。同会議にはプーチン大統領も参加した。68歳。

■領土返還、遠のく可能性 新潟県立大教授 袴田茂樹氏

 ――今回の日ロ首脳会談をどう評価するか。

 「首脳が話し合い、スタート地点にしたのは無意味ではない。元島民らがロシアの査証(ビザ)なしで自由に訪問できる事業の拡充も人道的意味がある。だが、北方領土問題の解決には全く進展がないと言わざるをえない」

 ――共同経済活動では協議開始で合意した。

 「平和条約締結へ重要な一歩とプーチン氏も認めた。ただ、様々な解釈の余地を持たせた表現だ。プーチン氏が認めるのは日ソ共同宣言だけ。ロシアの法律以外でやるとも到底思えない。両国の法的な立場はどう妥協点を見いだすか分からない。日本でもロシアでもない第3の法律を適用するのも現実離れしている。六法全書1冊をつくるようなものだ」

 ――共同経済活動は領土交渉にプラスではないのか。

 「下手すると、逆に(返還を)遠ざけてしまう。ロシアの法律を適用すればロシア領と公式に認めることになりかねないからだ。共同経済活動は1996年にロシアのプリマコフ外相が要求し、98年に日ロ両国で共同経済活動委員会の設置を決めた。その際、日本の要求で作ったのが国境画定委員会だ。ロシアが国境は画定していないとの前提を認めたわけだ。当時は両方作ったので意味があった」

 「プーチン氏もかつては、四島の帰属問題が解決していないとの前提に立つ東京宣言を認めていた。だが、現在は以前よりも固い姿勢がみえる。今回も全体的にロシアペースだ。日本政府は従来、対等な国家間関係を意識し、平和条約交渉と経済協力のバランスをとろうとしてきた。基本的な方針が崩れているようにもみえる。かなり問題はあるなという感じがする。首相は分かっていると思うが、官邸の首相周辺は主権に関わる問題を甘く見過ぎている」

 ――3000億円規模の経済協力は評価するか。

 「企業が自らのリスクで進出するなら全く問題ない。ただ政治主導の案件はうまくいった例はあまりない。インフラを整備してもロシアのものになる。企業にメリットがあれば、政府が声をかけなくても出て行く。政府がリスクを背負って資金を出せば、税金で負担する。平和条約交渉とバランスをとるべきだ」

 ――安全保障協力は。

 「(ウクライナ問題を抱える)ロシアとの深いレベルの安保協力は米国が懸念する可能性が大きい。日米間の軍事上の信頼感が低下する恐れがある。ただ、長期的にはロシアと安定的関係を結ぶのは間違っていない。中国や北朝鮮という脅威がある。韓国との関係も難しいからだ」

 ――ロシアは北方領土への米軍駐留を懸念する。

 「もし歯舞、色丹が引き渡された場合に日米安全保障条約の適用対象外にすると、米国はなぜ尖閣諸島を守る義務があるのかと感じるだろう。米国に『責任持ちませんよ』と言われても何もいえない」

 はかまだ・しげき 67年東大文卒。専門は現代ロシア論。モスクワ大大学院に5年間留学した経験を持つ。87年の著書「深層の社会主義」はサントリー学芸賞を受賞。執筆分野は専門のほかに哲学や芸術までと幅広い。72歳。



経済減速回避へ総力戦 金融緩和「劇薬」にはリスク FTチーフ・エコノミクス・コメンテイター マーティン・ウルフ 2016/05/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「経済減速回避へ総力戦 金融緩和「劇薬」にはリスク FTチーフ・エコノミクス・コメンテイター マーティン・ウルフ」です。





 今回の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は7カ国(G7)によるマクロ経済政策の協調が大きな焦点となる。日本やユーロ圏で政策金利がマイナスに突入した金融緩和政策はもう限界か。財政・構造政策に打つ手はあるのか。英フィナンシャル・タイムズ紙の名物コラムニストや国内外の識者の見方を紹介する。

金融政策はもう限界に達してしまったのだろうか。そんなことはない。中央銀行の薬箱はまだ詰まっている。中央銀行には腕利きの医者でいてもらう必要がある。

 中央銀行は期待に応えて従来以上に過激な薬を使ってきた。先進国の主な中銀は、政策金利を軒並みゼロ近くまで引き下げている。これらの中銀は量的緩和も実行することで、バランスシートを大幅に拡大させている。日銀と欧州中央銀行(ECB)のバランスシートは今なお拡大中だ(図参照)。

デフレに利点、間違い

 こうした懸命の努力にもかかわらず、食品とエネルギーを除くコア消費者物価の上昇率が目標値を達成したのは、主な富裕国の中では米国だけで、引き締めに転じたのも米国だけだ。

 金融政策のこうした明らかな失敗に対しては、インフレが目標値に届くかどうかは問題ではないという意見や、デフレにもメリットがあるという意見さえ出ている。だがこうした見方は、次の3つの理由から間違いだ。

 第1に賃金は下方硬直的なのでデフレ下では実質賃金を下げられなくなる。第2にデフレ下では名目金利が大幅にマイナスでない限り、実質金利はマイナスにならない。実質金利がマイナスにならないと、需要の縮小、失業率の上昇、投資の低迷が続くだろう。

 第3に、デフレ下では既存の名目債務の実質負担がみるみる膨らみ「債務デフレ」を引き起こしかねない。日本がデフレを緩やかなペースで安定させているのは、積極的な財政政策が奏功したためと考えられる。ユーロ圏では財政規律の縛りがあるため、デフレが加速するリスクは日本より大きい。

 よって中央銀行は、何としてもインフレ目標を達成しなければならない。そのためには名目金利を超低水準に抑え、場合によってはマイナスにすることが必要だ。

 慢性的な需要不足を金融政策でどうやって是正できるのか。中央銀行による一段の金融緩和は、答えの一つになる。超低金利やマイナス金利、資産買い入れ、フォワード・ガイダンス(政策の先行き指針の提示)、より高いインフレ目標、財政赤字の直接ファイナンス(国債の直接引き受け)、世帯に直接資金を配るいわゆるヘリコプターマネーなど、まだまだ打つ手がある。

構造改革含め包括策を

 しかし、一段の金融緩和は重大なリスクも伴う。

 第1に、非伝統的な政策に踏み込むほど、微調整が効かなくなる。例えばマイナス金利ひとつとっても、中央銀行にまだ打つ手があるということを示して一層の信頼を得ることになるのか、事態が深刻であることを露呈して評判を落とすのか、はっきりしない。

 第2に、薬によっては病気以上の問題を引き起こしかねない。最も懸念されるのは、新たな金融バブルが発生することだ。政府の側で構造改革への取り組み意欲が薄れることも懸念される。露骨に自国通貨安を狙った政策は、近隣窮乏化策と批判されるだろう。

 第3に、過激な金融政策は政治的反発を招くと予想される。例えば債権者は、あらゆる低金利策に反対するだろう。また、中央銀行による財政赤字の直接ファイナンスは、放漫財政に拍車をかけるだけだと世論は懐疑的だ。

 こうした反発とは別に、金融政策への過度の依存は次の2つの理由から好ましくない。

 1つは、根本的な問題は貯蓄が投資を上回るのであれば、財政政策の方が的確な手段を講じられることになってしまう点だ。例えば日本では、非金融部門の企業が過剰に貯蓄を抱え込んでいることが問題となってきた。その解消には内部留保に対する課税を引き上げればよいのであって、消費税を引き上げるのは明らかに間違っている。このほか、優先度の高い公共投資への政府支出を増やすのも一案だ。

 もう一つの理由は、問題が需要の低迷だけではないことだ。生産性の伸びの鈍化も、多くの国で見受けられる市場の硬直化も、これに劣らず問題である。となれば、構造改革を含めた包括的な施策を打つべきだ。国際通貨基金(IMF)も指摘する通り、構造改革は特に短期的には万能薬にはならないが、やらずには済まされない。

 以上の通り、金融政策は決して弾切れではなく、ぜひとも積極的に活用すべきである。だが、必要以上に依存するのは好ましくない。政治的にも困難だし、副作用を抑えるのもむずかしい。需要の創出には財政政策がもっと大きな役割を果たすべきだ。金融政策は低成長や硬直的な市場などの構造問題を緩和できても解決はできない。積極的な金融政策は今なお必要だが、必要なのはそれだけではないのである。

 マーティン・ウルフ FTを代表するコラムニストで世界で最も影響力のある経済ジャーナリストの一人。著書に「シフト&ショック」など。



前例にとらわれぬ教育を 基調講演 ユーグレナ社長 出雲充氏 2016/02/12 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「前例にとらわれぬ教育を 基調講演 ユーグレナ社長 出雲充氏」です。





 東京大学発のベンチャー企業として初めて東証1部に上場したユーグレナは、藻の一種のミドリムシを原料にした航空機燃料の実用化などに取り組む。出雲充社長が起業に至った海外での経験や大学の役割について語った。

 私は東京都多摩市にあるニュータウンの平凡な家庭で育った。父はサラリーマンで母は専業主婦、兄弟は弟が1人の4人家族。平凡な家庭で何一つ特別なことはない。そんな私が大学3年の時に「ミドリムシで地球を救う」という人生を変える決断をした。

 きっかけは1998年、大学1年の夏休みに訪れたバングラデシュだ。同国の人口は約1億5500万人で日本より多いが、国土は北海道の2倍程度と狭い。そのうえ、ほとんどの人の1日の所得が1ドル程度という貧しい国だ。

 行く前はひもじい子供が大勢いると思っていたが、食べ物はあり、ただ栄養失調が問題だった。カレーに肉や野菜など具が入っていない。そこで、栄養について勉強したいと思い日本に戻ってから調べた。私は文科系で大学に入ったが、栄養学を学ぶため、その後農学部に転部した。

 理想的な食べ物を探すなか、大学3年の時に出合ったのがミドリムシだ。ミドリムシは人間が生きるうえで必要な動物性と植物性の栄養素を一度に作ることができる。

 これで栄養失調をなくせると思ったが、当時はミドリムシの大量培養が難しかった。私たちは大量培養に挑み、2005年に世界で初めて屋外の巨大な培養槽でたくさんのミドリムシを安く育てる技術を発明した。

 もう一つ、ミドリムシでやりたいことができた。化石燃料に頼る社会から持続可能な社会への移行に活用することだ。トウモロコシなどを原料とするバイオ燃料は、普段食べている人にとっては価格上昇を招き迷惑となる。ミドリムシは海や砂漠でもプールさえあれば生産できる。

 しかし、05年に3人で会社を設立した当時は苦労した。事業計画書を作って会社を回ったが、販売実績がないと断られ続けた。501社目となる伊藤忠商事からアプローチがあり全てが変わった。

 大切にしないといけないのは1番にこだわるということだ。私は資金や特別な教え、人脈がなくても、ミドリムシで1番の会社をつくることができた。適切な科学技術と試行回数のかけ算で誰でも同様の奇跡を起こすことができる。たとえ最初の1回の成功率が1%であっても、確率では459回挑戦すれば99%超になる。

 私はバングラデシュで栄養失調に出合い、それを機に大学での専門も変えた。これから大学を選ぶ際にはどんな分野でも、例え周囲の人に「変だ」と思われても好きなものを絶対捨てないでほしい。同時に先輩方には前例にとらわれず、学生や大学の新技術を立派に育てられるかという前向きな視点で経験・見識のご活用をお願いしたい。

 いずも・みつる 98年(平成10年)東大文科3類入学、3年進級時に農学部に転部。02年東大農学部農業構造経営学専修課程卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入社。05年8月、ユーグレナ設立。36歳。



働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ 2015/08/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ」です。





 グローバル化や人口減、定年延長など、日本人の働き方を巡る環境が様変わりしている。これからの日本を支える若者が活躍し、成長できる社会にするにはどうすべきか。経営者や教育者、識者など各界の専門家に聞いた。(1面参照)

生産性向上はトップ次第 ダイキン工業会長 井上礼之氏

 日本には資質のある優秀な若者がたくさんいる。だがモノカルチャーの日本企業に就職すると、5年ほどで組織の風土に染まってしまう。先輩の思考や行動パターンが知らず知らずのうちに身につく。好奇心が旺盛で行動力のある若い人材が失敗を恐れ、新しいことに挑戦しなくなるのは20代後半ぐらいからだ。

 20代はキャリア形成で重要な時期だ。責任ある仕事を徐々に任され、失敗しながら成長していく。仕事の面白さも覚え、自信をつけていく。発想が柔軟な20代に企業側がどんな仕事を与えられるか。世界で日本企業が勝ち抜くには、20代の育て方を変えなければならない。

 ダイキンは入社2~5年目ぐらいの若手から資質があると見込んだ社員を年10人前後選び、幹部候補者として育成するプログラムを導入した。

 一人ひとりに「ミャンマーに進出する。どんな販売網を構築すべきか」などの課題を与え、海外に派遣して戦略を提出させる。指揮命令は配属先の上司ではなく、会長と社長だ。資格や賃金は同期入社の社員と差を付けず、修羅場で経験を積ませる。賛否両論あったが、育成は30代になってからでは遅いと判断した。

 経済社会がこれだけ構造変化しているのに、従来のように一律の人事マネジメントで人材を育てるのは限界がある。かといって年功色が濃い人事制度を廃止し、成果型の人事制度に移行してもうまくいかない。既存の人事制度を残し、必要に応じて特定の人材だけを「例外管理」で育てる複数の道を用意する。この方が日本ではうまくいく。

 日本企業が世界で戦うには労働生産性を高めねばならない。ダイキンはいち早く裁量労働制を導入してきた。狙いは社員を職場から開放し考えてもらうためだ。外に出たほうが新しいことを思いつく。裁量労働でも深夜や休日に働いた場合はちゃんと手当を出す。裁量労働制を経費削減の手段にしては絶対にダメだ。

 ホワイトカラーの生産性を上げられるかはリーダー次第だ。欧米では仕事の割り切りが徹底している。経営陣が「今会社に必要だ」というものにだけ時間と労力をかける。

 日本は何でもやらせすぎる。一流の戦略を作っても時間がかかりすぎ、商機を逃しては意味がない。「二流の戦略、一流の実行力」でいい。これを徹底すれば間接部門は減らせるし、生産性も上がる。走りながら柔軟な発想で戦略を修正していく。それぐらいの勢いで挑まなければ、世界の戦いには勝てない。

 いのうえ・のりゆき 1957年同志社大卒、大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。94年社長。2002年会長兼CEO、14年から現職。人材の力を引き出す「人を基軸」にした経営を貫く。80歳。

「上司の都合」押しつけるな 一橋大大学院教授 クリスティーナ・アメージャン氏

 大学時代の師、エズラ・ボーゲル氏(「ジャパン・アズ・ナンバーワン」著者)の勧めで1981年に来日して以来、様々な日本企業の働き方を見てきたが、外国人には異様に映るものが多々ある。いずれも日本の労働生産性が低い要因だと考えている。

 例えば、「PDCA(計画・実行・評価・改善)」や「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」。日本企業はこの2つが大好きだ。重要な内容ならわかるが、重要でないものまで同じ労力や時間をかける職場が多い。上司が安心のため部下にそれを求め、こまめにやる部下を評価しがちだ。

 討論会などで経営者が使うパワーポイント資料にも驚く。こんな情報満載で緻密な資料を作るのに、一体何人の社員の労力と時間を費やしたのか。新製品発表会のプレゼンテーションさながらに動画付きの凝ったものもある。

 強弱をつけず、すべて念入りに取り組むのは日本企業の弱い点だ。欧米では手掛ける案件に応じて、強弱をつけて働く。強弱をつけずに仕事をする社員も、部下にそうさせる上司も評価されない。

 管理職の責任領域も曖昧だ。象徴が電子メールの「cc(カーボン・コピー)」送信。日本では同じメールを複数の人に同時に送るccメール愛用者が多い。「その話、聞いていない」と後で責められないための責任回避策か。大量に届くccメールを読むだけでも時間がかかる。

 社内で許可を取るために複数の管理職に判子をもらう社員の姿も目にする。外国人の目には「スタンプ・ラリーか?」と映る。管理職の責任領域を明確にすれば、状況は改善するはずだ。

 日本企業は幹部候補の選抜が欧米に比べて遅い。高度成長期は同じ価値観の社員が一丸となって長時間労働すれば競争力を高められた。だが今は違う。ナレッジ・ワーカーが異なるアイデアを出し、イノベーションを起こす組織でないと競争に勝てない。資質のある若者が日本特有の企業風土や働き方に染まらないうちに次代を担うリーダーに育てていかなければならない。

 語学力にたけ、多様な文化的背景を持つ外国人を新卒採用する日本企業が増えているが、3年ほどで辞める例も多い。昇進が遅く「先が読めない」という声が多い。せっかく採用した人材を失うのは企業にとって損失だ。キャリア形成の早い段階に醍醐味を味わえる仕事を与え、経験を積ませる取り組みが必要だ。

(井上、アメージャン両氏の聞き手は編集委員 阿部奈美)

 Christina Ahmadjian 1981年米ハーバード大卒。米コロンビア大経営大学院助教授などを経て2012年4月から現職。三菱重工業、日本取引所グループの社外取締役を兼務。56歳。

「出る杭」伸ばす目利き必要 開成中学・高校校長 柳沢幸雄氏

 米ハーバード大でも東大でも新入生を見てきたが、日本の高校生は世界一優秀だ。それが大学入学以降、成長の勾配が米国より緩やかになり、40歳の頃には逆転されてしまう。原因は「出る杭(くい)」を打つ日本の企業文化だ。

 米国は加点主義だから何も発言しないと0点。だから自分の立場を鮮明にして主張する訓練を受ける。発言して行動を起こせば間違うことも多いが、そこから学ぶ。それが米国の若者の行動原理だ。

 一方、日本企業の評価は減点法。一流大学を出て一流企業に入った時は百点満点だが、失敗をする度に減点されていく。新入社員は3年間は会議で口を利かないのが不文律といった話も聞く。就職を控えた大学生にはそうした企業の文化が伝わり、「空気を読む」ことを覚えてしまう。

 開成でも最近は海外の大学に進学する卒業生が増えているが、日本での就職活動は勧めない。加点主義の行動形態を身につけた若者は日本で「浮く」。日系なら、現地で直接求人するような企業でないとミスマッチが起きる。

 彼らが十数年後、経験を買われて日本企業に迎えられれば、「日本語と異文化に精通した専門家」として活躍できるだろう。見方を変えれば、日本企業はグローバルな競争力を持つ若手人材を育成できていないということだ。

 学歴主義、終身雇用、年功序列の三位一体モデルはかつて大成功を収めたが、すでに崩壊しつつある。過去の成功体験を持つ上の世代から若手に取って代わっていかなければ、企業はつぶれていく。

 今必要なのは「目利き」の存在ではないか。かつては松下幸之助氏などの名経営者が若手にチャレンジさせ、駄目だったときには止める勇気があった。佐治敬三氏の「やってみなはれ」の精神だ。最近はリスク管理が厳しすぎる。

 開成の卒業生を含め、若者の中には三位一体モデルに見切りを付けて起業に挑む人も多いから、日本の将来には絶望していない。だが、上の世代の目利きが応援し、こうした若者の動きを速めていかなければならない。

(聞き手は木寺もも子)

 やなぎさわ・ゆきお 米ハーバード大准教授・併任教授、東大教授などを経て、2011年から母校の開成中学・高校校長。専門は環境工学。68歳。

「キャリア形成」自分で描く NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹氏

 若い人の働き方は二極化している。安定のため大企業の正社員志向が根強い一方、私のように起業をする人が10年前に比べて一般的になった。

 私が在学中、優秀な学生は米大手投資銀行など給与が高い人気企業を目指した。最近は大企業からNPOに転職する人が多く、社会問題に取り組むソーシャルビジネスが人気だ。フローレンスは本部に約80人の従業員がいるが、採用コストはほぼゼロ。処遇は下がるが、大企業で夜中まで働くより定時に帰ってやりがいがあるほうがいいと、若者の価値観が変わっている。

 ワークライフバランスへの意識も高まった。「ブラック企業」という言葉が広がり、大手居酒屋チェーンは業績が悪化した。かつて労働環境の悪さは乗り越えるべき労働者側の問題だったが、今は企業側が悪いというパラダイムシフトが起きた。労働人口が減る中で、貴重な働き手を食い潰す企業は採用競争に負け、市場から退出を迫られる。

 男性はもっと家族と過ごすべきだ。自殺や非行といった問題は、子どもが発するシグナルに大人が気付かないから。平日に子どもの寝顔しか見ないような人は家庭内の問題を放置しているとしか思えない。長時間労働で会社に尽くして出世をするけれど、家庭は崩壊している。漫画「課長島耕作」のような昭和の価値観は終わらせるべきだ。

 小学校に入学した子どもの65%が、今は存在していない職業に就くという米国の研究結果がある。日本でも多くの仕事は20年後には無くなるだろう。公認会計士になっても人工知能(AI)に取って代わるかもしれない。キャリア形成は従来の「○○になる」ではだめだ。学び続けることが大事で、時代のニーズに合わせて自らの技能をアップデートしなくてはならない。

 これまでは会社が求める働き方に従っていれば良かった。だが企業は自分より短命の可能性がある。定時に帰って毎日プログラミングの勉強をするなど個人の責任に委ねられる。これからは自分のワークスタイルを自らデザインしていく時代となる。

(聞き手は阿曽村雄太)

 こまざき・ひろき 2004年慶応義塾大総合政策卒。在学中にITベンチャーの経営に携わる。04年病児保育事業のNPO法人設立。35歳。



Wの未来 俺に任せろ(2) スゴ腕主婦を味方に 活躍の舞台をつくる 2014/09/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「Wの未来 俺に任せろ(2) スゴ腕主婦を味方に 活躍の舞台をつくる」です。

雇用の多様化により、企業が価値のある人材を大切にする仕組みや制度がようやく形になって来始めた、そのようなことが書いてある記事です。従業員を宝のように大切にする加賀屋の例は、このご時世、この時代に限らず、企業理念として確固たるものがあることを感じさせますが、今後、人手不足が深刻化する中で、モノやカネでは補えないヒトを大切に扱う企業が増えてくれば、労働法制も過重な労働者保護から脱皮し、規制緩和につながってくるような気がします。





 老舗旅館の加賀屋(石川県七尾市)の質が高いおもてなしには秘密がある。150人いる客室係のうち約30人はシングルマザーだ。「苦労している分、思いやりがあり真摯に働く」。社長の小田與之彦(45)はその強みを語る。

女性が働きやすい仕組み作りに動く小田社長(石川県七尾市)

 旅館から徒歩5分に保育園と母子寮も完備し、泊まり客のもてなしに集中してもらう。環境がよければ職場への定着率も上がる。母子家庭の働く女性に救いの手をさしのべつつ、接客の品質向上につなげている。

■求む母子家庭

 客室係の女性(43)は7年前、雑誌の求人広告で加賀屋を知り、1歳の娘と福島県から移り住んだ。「保育園と母子寮がなかったらやってこられなかった」と話す。今は小学校にあがった娘の放課後も同じ保育園が面倒をみる。

 加賀屋は手厚い支援で女性の力を最大限に生かす一例だ。女性活躍のため知恵を絞る男性はまだいる。

 三原邦彦(44)は2002年に、主婦を職場にパートタイムで派遣する人材会社ビー・スタイル(東京・新宿)を創業し社長を務める。「結婚や出産をきっかけに、仕事から離れるのはもったいない」。前の職場で優秀な女性の多くが主婦になるのをみて思ったのが起業の原点だ。

■4万人に雇用

 主婦向けに特化する三原の会社は週3日だけ、午前中や月末だけなど柔軟な働き方ができる職場を紹介する。主婦と会社のニーズを細かく管理するノウハウを築き、のべ4万人の雇用をこれまで生んだ。

 都内の嶋田光恵(37)も利用者の一人だ。夏から1日6時間半勤務で週3日だけ、ベンチャー企業で広報やマーケティングを担当する。3歳の子どもの育児をしながら、音楽業界でイベント企画などを手掛けてきたスキルも生かせ、仕事に手応えを感じている。

 働く女性の約6割は第1子の出産をきっかけに退職する。一度辞めると専門知識や能力を生かす仕事を見つけるのは難しい。家事や子育てと両立できる勤務条件の仕事は少なく、再就職をあきらめる主婦も多い。就職活動はしていなくても働きたいと思っている女性は300万人を超える。多くの人材が埋もれている。

 印刷会社の金羊社(東京・大田)で事業推進部長を務める浅野晋作(36)は最近、事業を多角化するなかでスゴ腕の主婦(41)と出会い考えが変わった。仕事をやめた主婦と企業を国が結びつける「中小企業新戦力発掘プロジェクト」を通じ最初は実習生として受け入れた。ところが、母親向け通販・情報サイト立ち上げの中心メンバーとなった働きぶりが目をひいた。

 浅野は悟った。「優秀な人材を得るには多様な働き方を認めるべきだ」。会社にいる約270人はほぼ全員が正社員で勤務時間帯も一律だ。浅野は米グーグルの日本法人などを訪ね新しい職場のあり方を探る。主婦には今も1日4時間だけ働いてもらっている。

 人口が減る日本の経済が成長し続けるには女性の力が要る。現状は長時間労働や画一的な勤務体系が女性の活躍を阻む。多様な働き方を工夫し女性の力を引き出す男性たちの姿は人材を生かす道を示す。=敬称略

2014/05/23 本日の日本経済新聞より 「第20回 アジアの未来 国を開き広く連携 摩擦越え共存の道」

今日は、日本経済新聞12版の8~9面(特集)にある「第20回 アジアの未来 国を開き広く連携 摩擦越え共存の道」から、要点と所感を整理する。

22日に開幕した第20回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社、日本経済研究センター共催)では、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の早期妥結などに期待する声が相次いだ。一方、南シナ海や東シナ海で高まる緊張の懸念解消へ、対話の必要性が多く聞かれた…

以下、各国代表レベルの演説要旨である。一部は意訳、一部は原文に即した引用を行う。

安倍首相

この20年、アジアは多事多難を乗り越え、成長してきた。例えば、インドネシアはこの20年で1人あたりのGDPにして3.4倍の成長を遂げ、40歳には成長の手ごたえがある。一方、唯一例外だったのが日本。日本の40歳以下には成長の興奮と縁が薄かった。日本の未来を担う世代たちに希望と躍進、誇りと力、そして夢を象徴するアジアの一員として堂々、胸を張って進んでいく力を備えてほしい。それが私たち政治家の責任。

改革は前進しており、国家戦略特区、電力自由化、農業改革、労働制度、法人税改革、コーポレートガバナンス、年金制度改革など多様だ。

日本のカギは、オープンネス、チャレンジ、イノベーションであり、6月にはアベノミクスの3本目の矢を充実させるプログラムを打ち出すが、その根底にもこの理念がある。

改革を成功させるために、新たな触媒を導入し、新しい化学反応を随所で起こす必要がある。経済の開放としてASEANとの経済連携協定(EPA)、オーストラリアとのEPA、環太平洋経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)などがあり、大きく踏み出す時が来た。

日本は女性が光り輝く社会となるよう変化を始めている。子育ての楽しみと若い男女のキャリアの追求がどちらも味わえ、あるいはそのどちらも妥協しないで済むような革新である。

アジアをもっと豊かに、もっと自由で、個人の創造力がもっと尊ばれる場所とするため、日本には発揮できる力があり、果たすべき役割があり、アベノミクスはそれを実現させるためにある。

マレーシア ナジブ首相

アジアの世紀が実現し、世界の中核になりつつある。今後はバブルを起こさずに持続可能な成長を実現できるかを考えるべき。

重要なのはまず、経済統合。ASEAN共同体で統一的な市場を作ること、そしてTPPの妥結に期待する。RCEPも含め、アジアと世界の結びつきはより強固になる。

アジアで投資機会が増える一方、シャドーバンキングなどのリスクに対応すべく国内の改革、統治や信用の管理が大切。

経済格差の解消のために、高い教育、セーフティネットの構築、適切な援助、腐敗への対応で政治の意思が必要。

アジア各国の軍事費が増える中、紛争リスク回避のために競争的な軍拡に対処しなければならない。多国間で国際法に基づき外交的解決を求めることが重要。

シンガポール リー首相
20年後のアジアでの重要なプレーヤーは米国、中国、日本の3か国で変わらないだろう。だからこの3か国が今後どうなっていくのかを見ることが、アジア全体を見通すときの議論の土台になる。

米国は衰退し続けるとの予測もあるが、米国は苦境に陥るたびに立ち直ってきており、20年後も米国は世界の超大国であり続け、アジアに関与し続け、大きな投資を行うだろう。ただ、米国の現在の内向きな傾向や政治の党派争いも改善されるか不確実だ。

次の20年にアジアで起こる最大の変化は中国の影響力の拡大だろう。世界銀行は中国が今年、購買力平価ベースで世界最大の経済になると予測している。さらに多くの中国企業が世界の主要企業になり、人民解放軍も中国の経済や力に見合った軍隊になる。

しかし、中国社会は豊かになる前に老いる可能性が高い。中国が迫られる改革には見習うべきモデルがなく、手探りで道を探すしかない。

日本はバブル経済崩壊後、20年にわたって難しい時代を過ごしたが、安倍晋三首相の3本の矢により信頼を取り戻し、経済を再建するために難しい改革に取り組んでいる。だから20年後も日本は主要国であり続けるだろう。

日本も中国と同じく高齢化の問題を抱える。生産性を改善し、女性の就労を促すことで経済の改革を進める必要がある。

この3か国の傾向から、アジアの将来には良いシナリオと悪いシナリオが考えられる。

良いシナリオでは、米国がアジアに積極的に関与し、中国は国際法や国際的な規範を守りながら力を増す。日本の経済も回復し自信を取り戻す。TPPなどにより、アジア太平洋地域の自由貿易という目標に近づく。

悪いシナリオは、中国が膨張することであり、地域の秩序に収まりきらなくなることだ。東シナ海や南シナ海で領有権争いが続き、中国と周辺国の間で協力関係を築けなくなる。各国でナショナリズムが台頭、緊張が高まり、経済面でも保護主義が広がる。このシナリオではだれも利益を得られない。

カギを握るのは米中関係と、アジア各国のナショナリズムの行方だ。米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席は両国には摩擦や紛争もあるが、お互いに依存していることを認識している。

アジアで戦争が起きないとは言い切れない。尖閣諸島や南シナ海での領有権問題での突発的な衝突や事故が戦争につながる可能性がある。朝鮮半島情勢もリスクだ。

アジアは危機を脱却するたびに強くなってきた。リスクはあるが全体として悪いシナリオの多くは回避できると信じている。米国はアジアで大国としての地位を捨てることはない。平和と繁栄が共通の利益であるのは大国も小国も同じだ。明るい未来を得るために手をたずさえていこう。

インドネシア マヘンドラ投資調整庁長官

新興国が商品やサービスの輸出によって高成長を研げる経済モデルは、世界的な経済危機により転換を迫られており、内需や地域内向けの需要にもっと焦点を当てた新しいモデルが必要だ。

インドネシアの最近の経済成長は、こうした転換に基づいており、GDPのうち、輸出は25%で、国内消費が60%近くを占めている。内需の成長により国内外の投資を引き付けている。

輸出主導型の経済では国際競争力のある産業セクターしか成長しないが、内需主導経済ならバランスのとれた成長が可能だ。

インドネシアは最近、外国企業に開放する産業のリストを公表したが、これは国内産業を保護する経済ナショナリズムではない。我が国が導入した政策はかつて先進国も採用したものであり、移行期間が必要なことを理解してほしい。

過去3年間、インドネシアでは記録的な投資流入があったが、国内産業は十分に育たなかった。今は持続可能な成長を目指し、経常赤字の削減と、内需向けの投資促進に取り組んでいる。

ベトナム ダム副首相

アジアはダイナミックな成長を遂げる一方、地域間の不均衡、貧富の格差、環境保護と成長の不調和といった問題があり、これは各国の結束が必要。

世界金融危機とその後の経済低迷により、全ての国は持続可能な開発を目指さなければならないことを知った。それは市場の開放と自由化を進めることにより実現でき、保護主義に戻ることではない。

FTAやTPPなどを通じた経済統合でアジアと世界の関係が強化されていく。ベトナムはTPPに積極参加する。

輸送の連結も課題だ。鉄道、道路、航空輸送システムは不完全であり、各国が協力し官民パートナーシップを実現し、インフラを整備していかなければならない。

ICTにより世界のつながりができる一方、サイバーセキュリティは複雑になっており、各国間で緊密な協力を進め、犯罪と闘う必要がある。

この10年でアジアで経済の台頭が見られたのは平和と安定の時代があったからだ。今、世界の貨物の4分の1が通過する南シナ海では、海上航行が大きな脅威にさらされている。中国が露骨に石油採掘装置を打ち立て、何百隻もの船でベトナムのEEZまで近づいてきた。

ベトナムは強く平和を望む。あらゆる手を尽くして中国に対して船の撤収を求めてきた。ベトナムは常に中国との友情関係を重視し、拡充しようと努めてきた。主権の侵害には断固として抗議する。国際社会も中国の行動に懸念を示してきた。南シナ海における平和と安全保障、航行の自由を守るために指示をしてほしい。

アジア経済について(談 アジア開発銀行中尾武彦総裁、スリン前ASEAN事務局長)

(中尾)アジア経済は強固で6%の経済成長を続けている。中国は減速したとしてもシャドーバンキング問題に対処する能力もあり、中間層の消費も強い。米国の量的金融緩和の縮小などの問題があるが、アジア経済には復元力があり、全体的には順調。フィリピンが7%の成長を続けるなどASEAN経済は前よりも強くなっている。中国の労働者の賃金も上がっており、非常に良い環境。貿易面でも非関税の品目が増え、ASEANは驚くべきぺースで統合に向けた動き鵜が進んでいる。一方、投資や金融取引のルール、人の移動、これらの課題については少し遅い。ただ、2015年末までに課題を達成できなくとも失敗とは言えない。統一市場に向けて着実に進んでいるのがASEANの強さで、アジアの成長の中心になっていく。ここに日本や韓国、インドが入って機事が望ましい。

(スリン)ASEANは堅調だが、今後、世界と競争できるかという点が課題。これまでは外国からの投資や安い労働力、豊富な天然資源を成長の糧としてきたが世界のほかの地域も同様のモデルで成長している。ASEANは競争力を持つ必要があり、そのために、公平でグローバルな共同体を作り、経済統合を進めるが、これは効果的に国境を越える仕組みができるかどうかにかかっている。域内貿易の割合は25%にしか過ぎず、経済共同体を構成するには小さすぎる。各国で関税撤廃が進む一方、非関税障壁を維持したい国もある。発展度合いが異なるため、大きな経済圏の構築に気が進まない国も出てくる。解決に交渉が必要だ。製品やサービスの流通インフラも重要。本当の統一市場にするには投資が必要。雇用を生み成長に貢献する企業の育成も不可欠。

紛争解決について(談 マハティール元マレーシア首相)

米国はアジアで存在感を高めようとしているが、その民主主義をアジアが十分に受け入れられていない。なぜなら、米国が自ら関わらない東アジア共同体には反対し、自らが主導するAPECには賛成している。中国は世界2位の経済大国であるが米国に脅威を感じ、武力で備えているように見える。国際司法裁判所や直接交渉などを通じて、両国が勝者になれる解決策を目指すべきだ。現代の戦争は人的被害や、金銭負担が大きく戦争で勝っても必ずしも勝者になれない。中国とベトナムが南シナ海で衝突しているが、国民を煽り立ててはいけない。日本は世界で唯一、憲法で戦争を放棄した国だが、好戦的になろうとしているように見える。米国がこれまで脅威にさらされると戦争をほのめかすことで対応してきたように、日本も米国のこうした行動に引き込まれてしまうのではないか。日本は米国と友好関係を続けるべきだが、紛争解決については米国と同じ考えを持つのでよいのか。

アジアの安保について

(カーネギー国際平和財団アジアプログラム上級研究員ジェームズ・ショフ氏)中国は軍事費を増やすが米国には及ばない。ただし、ある国が軍事力を高めると近隣国も追随する。日本は軍事力の強化で日米韓、日米豪など様々な組合せで集団協力の下、北朝鮮に対峙すること、それから中国との対話機会を増やすことが必要だ。

(前韓国大統領外交安保首席秘書官 千英宇氏)安倍首相の歴史認識は日韓関係にマイナス、だが、日本が過去を受け入れるのが難しいのだということを韓国も理解する必要がある。日韓関係は国民の感情に左右されてはならず、竹島、排他的経済水域、海域の名称などは一括して交渉するべきで、もう無駄にする時間は残されていない。

(東大大学院教授 高原明生氏)日中両国の圧倒的多数が両国関係は重要という一方、感情的に許されないのは、それぞれの国で閉塞感が高まっているのが共通の理由。中国ではチャイニーズドリームがしぼんできている。また、中国に対して近隣国が心配するのは、増大する国力を何に使うのかという問題。中国の指導者は平和発展に用いるというが、言動にギャップがあると近隣国は受け止めている。それに気づかない大国症候群が表れているのではないか。

(清華大学現代国際関係研究院長 閻学通氏)アジアにおける軍事バランスはまだ10年ぐらい現在の状況が続く。10年で中国が米国に追いつくことはない。ただ、米国にできるのは現状維持だけだ。北朝鮮は核実験をするかもしれず、地域安保を維持できるかも分からない。日本は集団的自衛権の行使容認に取り組むが、これは地域を不安定化させる。協力が必要なのに中国はロシアと、日本は米国との二極化に向かう。地域の安定は今や米中次第で、日中などの緊張関係さえなければ世界の中心になれる潜在性はある。

やはり、一番目を引くのはリー・クアンユーの息子、リー・シェンロン首相による現状、将来分析である。そして、彼が示すシナリオのうち悪い方のもの、これが実現してしまう可能性が少なからずあるため、「明るい未来を得るために手をたずさえていこう」と呼びかけていることも見逃せない。

中国共産党による国内の他民族への弾圧は激しく、また、同一民族でも貧富の差や腐敗といった問題がある。中国は、その内憂を力や体制で封じ込めるために、外的な摩擦を余儀なくされている。

内憂のはけ口として仮想敵国は必須であり、米国や日本とはこれからも様々な摩擦や軋轢を繰り返すだろう。また、肥大化する国内市場の満足を満たすためには資源が必要であり、国外から買い付けられるだけの国力が必要である。従って、経済発展は必要不可欠であり、そのスパイラルの出口戦略などを見据えている様子はみじんも見られない。これをしても高原教授の大国症候群の定義に当てはまる現状であろう。

今後、5~10年かけて、アジアにはASEAN、中国、日本という3基軸が生まれよう。そのうち、すでに日本と中国は競争関係にある。そして、ASEANと中国は競争しなければならない運命にある。ASEANが中国に対峙できるようになるためには、ノウハウと人材が必須である。また、中所得国の罠を回避するリーダーシップも重要である。そういう意味で、ASEANには一足先に国を切り開き、今がある先進国とのつながりが重要である。日本はアジアを代表する先進国であり、豊かなアジアを実現するためにも、ASEANとの連携、連帯を深めるべきである。

2014/03/02 本日の日本経済新聞より 「物価考 近づく試練(3)スモール革命 「安くて高い」ひとまず浸透」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の1面にある「物価考 近づく試練(3)スモール革命 「安くて高い」ひとまず浸透」です。





 東京都内のスーパー大手ライフの店頭。主婦の岡部里子(35)は、サーモンの刺し身が3切れ入った小さなパックを買い物かごに入れた。1パック198円。「割安感があるし、食べ残すこともないから、つい買ってしまう」

3切れ入りの刺し身が割安感で好調(都内のスーパー)

 9切れで400円程度が相場だった刺し身パック市場で「3切れ入り」が好調だ。1切れ当たりの単価は高いが、パックの値札は安い。刺し身パックに無縁だった顧客層にも浸透し「刺し身の売上高はかえって増えた」(ライフコーポレーション首都圏水産部長の間山崇)。

「住」にも広がる

 マーガリン、米菓、ソーセージ……。円安で輸入する原材料が値上がりした2013年、小売り現場では内容量を減らして価格を据え置く実質値上げのスモール商品が相次いだ。3切れ入り刺し身は、「スモール商品」が形を変えながら生鮮食品でも浸透し始めていることを示す。

 少子化に伴う人口減は需要の減少を招き、供給過剰に陥ったモノやサービスの価格は下がる。デフレ期にはこんな通説が有力だった。だが、経済の現場に映る人口減と物価の関係はもう少し複雑だ。

 安くて高いスモール商品が売れる現象は「食」だけでなく、「住」の世界でも広がりつつある。

 JR富山駅から徒歩数分の15階建てマンション。60~90平方メートルの販売物件が9月の完成を待たずに9割以上売れた。1戸あたりの平均床面積が全国最大の151平方メートルと「戸建て信仰」が強い富山県で、「狭くて高い家」が売れる。

 郊外の広い戸建て住宅を買うのと比べ、支払総額は安くても平方メートルあたりの価格は2倍になることもある。アパグループ富山支社取締役の能川隆幸(54)は「購入者の半分は60歳以上。利便性を重視して買う人が多い」と言う。

背景に世帯数増

 厚生労働省によると、日本の世帯数は12年に4817万世帯。5年で147万世帯増えた。一方、1世帯当たりの人数は5年で0.06人減り2.57人。一人暮らしの高齢者が増える一方で子どもの数が減ったためだ。

 1世帯当たりの人数が減るなかで世帯数が増え続ける。こんな潮流が続く限り、無駄を減らしたい買い手と価格を維持したい売り手の思惑はスモール商品で一致する。

 家計の負担増という試練はスモール革命の波を加速しそうな雲行きだが、本当の試練はその先に来るのかもしれない。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の世帯数は20年から減少に転じる。食べ物も住まいも、軽自動車が売れるクルマも消費行動の基準は世帯ごと。世帯数の増加基調が崩れれば、スモール革命の均衡も危うくなる。

 味の素の定番商品「クックドゥ」。13年にかけて2人前の品ぞろえを増やした結果、商品全体の国内売上高は2~3%増えたが、安堵もしていられない。「世帯数が減る局面にどう対処するか。必死に考え続けている」と同社家庭用事業部マーケティング担当次長の岡本達也。企業は海外に活路を求めるが、日本経済をどう回していくか。スモール革命の先にある課題は重い。

=敬称略

2014/02/13 本日の日本経済新聞より「規制 岩盤を崩す ドリルを手にとれ(3) 進まぬ「ペーパーレス」 医療・納税…電子化拒む」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「規制 岩盤を崩す ドリルを手にとれ(3) 進まぬ「ペーパーレス」 医療・納税…電子化拒む」です。

要するに、ペーパーの電子化は、利便性という誰しもが認めるメリットはあるものの、証憑の信頼性、操作性でまだ社会の信任を受けておらず、結局、普及が進みづらいということです。そこを人類の英知が越えるのに何年かかるか、見ものです。





 医師が患者の症状に合わせて医薬品を指定する処方箋。厚生労働省は省令で紙での発行や保管を義務づけてきたが、電子化の解禁を検討していると聞いた。

倉庫に眠る書類の群れ。この風景はいつまで…

 病院の診察室で、医師がパソコン画面を見ながら初診の患者に告げる。「アレルギーがありますね。この薬はやめておきましょう」。画面には別の病院も含め、患者が過去に服用した薬がずらり。初診でも、簡単に患者の状況がわかる。

 大分県別府市。14の医療機関と30の薬局が処方箋を電子データにしてやりとりする実証実験だ。紙だと難しい情報の共有が可能になり、処方のミスも減る。紙の保管場所も要らない。

■「調剤しにくい」

 さぞや評判だろう。別府市医師会の担当者に聞くと「薬剤師さんたちは嫌がっています」。紙をパソコンなどの端末に替えると、すぐそばに置けなかったり操作が必要だったりして、調剤しにくいという。

 検討を始めて約10年。省令改正は2015年度中のはずだが、中身は白紙だ。医療情報を共有すればムダな投薬が減るはずなのに、その機運は乏しい。電子カルテは認められているが、導入は全国の病院の2割どまりだ。医療関係者からこんな話も聞いた。「電子処方箋は医療用医薬品のインターネット販売を可能にする。販売解禁論を警戒しているのでは」

 05年施行の「e―文書法」。企業などが紙で保管してきた文書を原則、電子データで保存できるようにした。だが個別の法令による骨抜きは多い。たとえば、領収書や契約書などの税務書類。7年間の保存が義務づけられているが、電子保存は普及していない。

■スマホ画像は×

 「スマートフォン(スマホ)で撮影した領収書の画像ではダメですか」。昨年9月、ソフトバンクモバイル情報システム本部課長の冨永歩さん(49)と担当の黒石真美子さん(29)は東京国税局の担当官に頼み込んだ。グループ会社も含め、1年で約2万枚も集まる領収書を、画像での収集と保存に切り替えたい。担当官の答えは「ノー」だった。

 電子保存の条件は厳しい。紙を画像データにする装置は高性能の大型スキャナーのみ。書類発行から1週間以内に読み取る。24時間以内に直属の上司が電子署名をし、日時を示すタイムスタンプを押す。手間も費用もかかる。黒石さんは国税局に断念を伝えた。

 企業は紙の税務書類の保存に年3000億円をかけているとの試算もある。それでも13年までに税務署の承認で電子化した件数は全国でたった120件だ。

 国税庁に聞いた。「紙の質感というか色合いというか。不正があると、なんだかピンと来る。画像データだとそうはいかない」。担当者は企業に立ち入り調査をした若いころを思い出しながら話してくれた。

 批判も多い。政府の規制改革会議の議事録をのぞいた。「電子データの捏造(ねつぞう)を発見するソフトは発達している」(大阪大の森下竜一教授)。「職員をコンピューターに替えなければならなくなることを心配しているのでは」(久保利英明弁護士)

 スマホの普及などで「ペーパーレス」の流れは加速する一方。電子政府をうたうなら、時代に取り残された規制はなくすべきだ。国にそう訴えたい。でも紙の書類しか受けつけませんと言われたら面倒だ――。