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量子コンピューターでも解けない新暗号技術、米選定急ぐKDDI総研な ど候補、数学難問使う 2018/2/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の科学技術面にある「量子コンピューターでも解けない新暗号技術、米選定急ぐKDDI総研など候補、数学難問使う」です。





 量子コンピューターでも解読が困難な新しい暗号技術の選定を米政府が進めている。2017年12月に69の候補を公表し、KDDI総合研究所など日本で開発された技術が残った。量子コンピューターの実用化が近づき、現在の暗号技術では安全性を保てなくなりかねない。3~5年かけて検証する方針で、残った暗号は「国際標準」として影響力を増しそうだ。

 電子商取引や仮想通貨などで使う公開鍵暗号は「解くのに膨大な計算が必要な数学の問題」を利用している。例えば、現在主流のRSA暗号は整数を素数の積で表す「素因数分解」を利用する。数百ケタという大きな数の素因数分解は困難で、スーパーコンピューターでも膨大な時間がかかるため、安全が守られる。

 しかし、量子コンピューターは膨大な量の計算を並列して処理でき、素因数分解が得意だ。RSA暗号は数時間で解読される可能性がある。2030年ごろには量子コンピューターが普及し始めると予想され、現在使われている他の方式の暗号も同様の危険をはらむ。

 そこで、素因数分解よりも複雑で難しい数学の問題をもとにした新しい暗号技術が相次いで開発された。いずれも原理的には解読可能だが、量子コンピューターでも解を求めるのに膨大な計算が必要な難問を使う。既存のシステムのソフトウエアを変えるだけで、そのまま使える。

 米国の技術標準を決める国立標準技術研究所(NIST)は新しい暗号を公募し、候補を絞り込んだ。IT大国、米国の標準は世界標準となる。

 KDDI総研のほか、情報通信研究機構(NICT)、東芝が提案した暗号が残った。KDDIの技術は「線形符号の復号」、情通機構は「格子点探索」、東芝は「非線形不定方程式の求解」という数学の難問を下敷きにしている。いずれも計算量を減らすなどの工夫で解くことは困難だとわかっている。

 米標準技術研究所は新しい暗号の条件として、しらみつぶしに解を調べるには10の80乗回以上の計算が必要なことを挙げた。現在の最高性能のスーパーコンピューターでも少なくとも10の50乗年以上かかり、量子コンピューターでも相当な時間がかかるとみられる。

 候補に残った新しい暗号技術は公開され、世界中の研究者に攻撃してもらうことで安全性を確かめる方針だ。東芝の秋山浩一郎研究主幹は「暗号の研究者は色々な攻撃法を知っている」と話す。

 ただ、新しい暗号技術も万全ではない。「量子コンピューターでも解くのに膨大な計算が必要な数学の問題」に頼っている。検証後も新たなアイデアが生まれ、安全性の大前提が崩れる可能性がある。常に改良を施して進歩させる必要がある。

(大越優樹)



ポスト平成の未来学 第2部 健康イノベーション 遺 伝子・菌…「長寿薬」探せ みんな100歳現役 2017/12/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の科学技術面にある「ポスト平成の未来学 第2部 健康イノベーション 遺伝子・菌…「長寿薬」探せ みんな100歳現役」です。





 ハンマーに両腕を引っ張られながら回転し、3キロの鉄球を力いっぱい放り投げる。その軽やかな身のこなしはとても94歳には見えない。スーパー高齢者がいると知り、僕(25)は静岡市に足を運んだ。

 60歳からハンマー投げを本格的に始めた元印刷会社経営者、遠藤隆さん(94)は2016年、全日本マスターズ陸上競技選手権大会のM90(90~94歳)でハンマー投げと砲丸投げで優勝した。ほぼ毎日、トレーニングに励む。野菜サラダを毎日食べ、好物は魚。次の目標は「M95(95~99歳)、M100(100~104歳)の世界記録を出したい」という。

ハンマー投げのM90のアジア記録を持つ94歳の遠藤隆さんは、日々のトレーニングを欠かさない(静岡市)=三村幸作撮影

 もはや「生涯現役の100歳」は夢物語ではない。7月に105歳で亡くなった聖路加国際病院の名誉院長、日野原重明さんが提唱していた「豊かな老い」を思い出す。遠藤さんはまれな例だが、今後、元気なまま年を重ねる健康長寿者は増えていく。

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 紀元前から長寿に対する憧憬は強い。中国を初めて統一した始皇帝は「不老不死」の秘薬を求め、海外まで人を派遣したが失敗に終わった。2千年以上がたった今、健康長寿はバランスの良い食事や適度な運動などで実現できると考えられている。

 さらに解明を進めようと、京都府立医科大は今夏、京都府・丹後地域で研究を始めた。同地域の人口あたりの100歳以上の割合は全国平均の約3倍。また高齢化率(65歳以上)は33~44%。日本全体は27%で、35年には33%に達すると推計されており、20~30年後の日本の縮図といえる。

 研究拠点となる弥栄病院(京丹後市)で佐々木ふみ子さん(76)は採血や検尿などのほか、カセットテープから流れる話を数分後に要約する記憶力も調べた。「あんまり覚えていない」と謙遜しながらほぼ完璧に話をまとめると、検査担当の足立淳郎・循環器内科部長は「信じられませんね」と感心した。

 同大の研究は健康に長生きする人が他の人と比べて体の構造がどう違うのか明らかにするのが狙いだ。32年までの長期計画で丹後地域の65歳以上の1千人を健康調査し経過観察する。家族構成や生活習慣から血液の分析、骨密度まで約2千項目を調べる。

 医師が注目するのは、誰もが持っているとされる「長寿遺伝子」だ。例えば、健康的な食生活などによって眠っている長寿遺伝子を刺激し、健康寿命を延ばすというような理論が考えられる。同大の的場聖明教授は「どういう働きをしているのか不明な遺伝子の中に誰もが健康長寿になれる遺伝子がある可能性はある」と強調する。長寿遺伝子を目覚めさせる要素が分かれば、「長生きの攻略本」につながる。

 腸内細菌も長寿要素の一つと考えられている。人の腸内には百兆個を超える細菌がすみついており、その多様性から「腸内フローラ」と呼ばれる。健康な高齢者は20代や30代の腸内フローラと似ているという調査報告もある。長寿が多い地域では魚を食べる習慣が根付いており「食生活に腸内細菌を若く保ち、長生きのヒントとなる要素があるかもしれない」(的場教授)。

 腸内環境を良好に保つと免疫力の向上にもつながる。100歳以上の「百寿者」の「菌」の特徴が見つかれば、気軽に服用できる「長寿薬」の開発も夢ではないのか、と想像が膨らむ。的場教授は「遺伝子やたんぱく質、腸内細菌など未知の長寿要素が判明すれば、将来は他の地域にも応用したい」と研究結果に期待を寄せる。

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 07年の厚生労働省研究班の調査によると、百寿者の多くの性格は開放性や誠実性などを示す数値が高かった。血液型でもB型が多いことが確認された。

 歴史を振り返れば人類は常に「死」を恐れ、「不老不死」を究極の目標として追い求めてきた。様々なデータの分析や研究成果で健康長寿が当たり前になり、その社会では「生」のあり方が改めて課題として浮上する。長い間、健康に生き続けられることは、病気や老衰を原因とする死が先に延びることになる。

 静岡市の遠藤さんはハンマー投げで記録を樹立するという目標を掲げる。人は充足感を得られれば幸せに生きていけるが、高齢になっても生きがいを持てるかどうかは人それぞれだ。「死」が先に延びたときに、どう健全さを保つか――。そんな考えが頭をよぎった。

寿命つかさどる染色体に脚光

 日本人の平均寿命は第2次世界大戦後の約70年で30年以上延び、2016年には男性が80.98歳、女性が87.14歳になった。国立社会保障・人口問題研究所は17年に発表した将来推計人口で、65年には男性が84.95歳、女性が91.35歳まで延びる可能性を示している。また寿命の延びに伴い、100歳以上の「百寿者」になるのも現実味を帯びつつある。17年には全国で6万7千人を超えた。9割近くが女性だ。医療技術の進歩などが大きく影響している。

 人は何歳まで生きられるのだろうか。早稲田大学の創設者で元首相の大隈重信は「人生125歳説」を唱えた。摂生すれば、この天寿を全うできると説いた。一方、米国のアルバート・アインシュタイン医科大学などが16年に英科学誌ネイチャーに発表したのが「人の寿命の限界は約115歳。世界最高齢の人が125歳を超えるのは1万分の1未満の確率」という論文だ。各国の統計データなどをもとに数字を割り出した。

 人は老化する。年を重ねるとシワが増え、けがが治りにくくなり、病気になりやすくなる。体全体の老化は様々な要因が複雑に絡み合っているが、細胞レベルでの老化研究は着実に進んでいる。その一つが体をつくる細胞の染色体の端にある「テロメア」だ。

 染色体を守るテロメアは細胞が分裂するたびに少しずつ短くなる。それに伴い細胞分裂の回数が減り、やがて分裂しなくなる。これが細胞の老化で、テロメアが「命の回数券」といわれるゆえんだ。京都大学の石川冬木教授は「テロメアの状態が動脈硬化やがんなどと関連することも分かってきた」と話す。注目の研究分野だ。

 テロメアを長く保つことができれば寿命は延びるかもしれない。そう考えて国内外の研究者が実験を重ねている。例えば、遺伝子を操作してマウスの体中の細胞でテロメアを長く保つ研究だ。結果は細胞ががん化して短命になった。不自然にテロメアを伸ばしても逆に寿命を縮めてしまうようだが、失敗を糧に新たな研究も進む。

 期待を持たせる研究成果もある。マウスやサルなどを使った実験で、摂取するカロリーを制限すると長生きすることが分かった。長寿に関連する遺伝子の働きが活性化された結果と考えられている。この長寿遺伝子に焦点をあて、人への応用を目指した研究も始まっている。

 国は健康上の問題がない状態で日常生活を送ることができる「健康寿命」を重視している。平均寿命の延びを超える健康寿命の延伸が目標で、地方自治体と協力しながら高齢者の食生活の改善や運動促進、禁煙活動などに取り組んでいる。

 健康な高齢者が増えれば、働き手の確保につながる一方、年金給付額も膨らむ。医療、介護の受け皿づくりも変更を余儀なくされる。健康長寿者が安心して年を重ねられる制度づくりが課題となるだろう。

(石原潤、岩井淳哉)



日本の科学力「この10年で失速」 英ネイチャー誌が特集 20 17/3/26 本日の日本経済新聞より

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 日本の科学研究はこの10年間で失速している――。英科学誌「ネイチャー」が23日付の最新号で日本の科学力の低下を指摘する特集を掲載した。発表論文数などをもとに分析した。1990年前後には躍進する日本を取り上げたが、四半世紀を経て論調は一転、激しい国際競争の中で埋没する姿を浮き彫りにした。

 特集では、各国が研究開発投資を増やす中で日本は2001年以降は横ばいで、国立大学への交付金を削減したため若い研究者が就ける任期のないポストが少なくなった点を低迷の要因にあげた。影響は主要な科学誌に占める日本の論文の比率が低下する結果に表れ、日本が強かった材料科学や工学分野でも「15年の発表論文数は05年と比べ10%以上減少した」と指摘した。

 16年のノーベル生理学医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典栄誉教授やロボットベンチャー企業、サイバーダインを創業した筑波大学の山海嘉之教授らの研究を紹介し、日本の科学研究はまだ世界のトップレベルにあると解説。しかし衰えもみえており、このまま課題を放置すれば、世界での地位が脅かされると警告した。

 指摘した内容は国内の研究や政策に関わる人たちはすでに把握しており、若手のポストを増やす予算措置や挑戦的な研究の支援強化などを打ち出し始めている。ただ中国やドイツをはじめとする欧州の活動はもっと積極的で、日本の改革が世界のスピードに追い付いていないのが実態だ。

 豊かな先進国を目指し発展してきた日本には、海外の成功モデルに追随する「キャッチアップ」の考え方が強く残る。新たな科学技術を生み出して社会へ行き届かせるためには「フロントランナー」として挑戦し、やり抜く強い意志が重要だ。それにふさわしい体制が大学や企業、行政のそれぞれに整えられているのか。いま一度問い直す必要がある。

(編集委員 永田好生)



マヨネーズも雪もはじく、慶大がはっ水技術 0.5度傾ければスルリ 2017/1/8 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の科学技術面にある「マヨネーズも雪もはじく、慶大がはっ水技術 0.5度傾ければスルリ」です。





 慶応義塾大学の白鳥世明教授はガラスなどの表面をわずか0.5度傾けるだけで、表面の水が滑り落ちるはっ水加工技術を開発した。マヨネーズのような粘性のある物質や霧などの細かな水滴、雪にも対応した。車の窓ガラスや内視鏡の曇り止め、航空機の翼に氷が付くのを防ぐなど幅広い用途に使えるとみている。2020年ごろの実用化を目指す。

 新技術は有機物質「フェニルトリエトキシシラン」の分子を並べた極薄の膜を、ガラスや金属の表面に吸着させた。表面に水滴や雪などがあっても付着せず、ごくわずかな傾きがあれば滑るように落下する。

 潤滑油によって表面の摩擦を極めて低くすることで付着を防ぐ仕組みだ。実験では水滴になりにくい細かい霧や雪、アイスクリームやハチミツ、血液なども滑り落ちた。カッターナイフなどで傷を付けてもすぐに自己修復し、劣化しにくい。

 従来のはっ水加工は水滴がハスの葉の表面を転がる現象をまねていた。表面に細かい凹凸を付け接触面積を減らすことで水滴を作って転がり落としていたが、落ちにくい場合もあった。



免疫高めるたんぱく質 静岡大、母乳含有を確認 マウス実験 感染症防ぐ期待 2016/07/18 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の科学技術面にある「免疫高めるたんぱく質 静岡大、母乳含有を確認 マウス実験 感染症防ぐ期待」です。





 静岡大学の茶山和敏准教授らの研究チームは、小腸などにある免疫機能を高めるたんぱく質が母乳に含まれていることを突き止めた。このたんぱく質を人工乳に加えてマウスを育てると、免疫を担う器官が発達し、抗体を作る細胞も増えた。赤ちゃんに下痢などを起こす感染症の予防につながる可能性がある。

 母乳には免疫機能が未発達な新生児を守る様々な成分が含まれている。発見したたんぱく質「CCL25」は胸腺や小腸にあり、感染などを起こした際の免疫反応を促す働きがある。

 人工乳にCCL25を加えて新生児マウスを8日間育てたところ、人工乳だけを与えたマウスに比べ、脾臓(ひぞう)や胸腺がよく発達し、体重も増えた。

 また小腸に、人工乳だけで育てたマウスにはほとんど見られない、異物を攻撃する抗体を作る細胞ができた。小腸からCCL25が吸収され、抗体を作る細胞が誘導されたとみられる。

 静岡済生会病院と共同で調べたところ、人間の母乳にもCCL25が含まれていることがわかった。未熟児や低体重児、母乳の栄養状態が悪い乳児にCCL25を補給することで下痢などを起こす感染症の予防に役立つ可能性があり、企業と組んで実用化研究を進める。



がん化学療法センター、がん転移防ぐ抗体を開発 2016/04/25 本日の日本経済新聞より

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 がん研究会のがん化学療法センターは、がんの転移を防ぐ方法を見つけた。がん細胞が血中の血小板をよろいのように身にまとい、免疫細胞から逃れる性質に着目。たんぱく質でできた抗体で血小板とくっつくのを妨げる。がんが転移しやすい肺がんや肉腫の治療を狙う。3年以内に臨床試験(治験)を始めたい考えだ。

 転移しやすいがんは、血小板とくっつきやすいという。血小板は免疫細胞に異物として認識されないので、血小板の付いたがん細胞は体内を動き回りやすいとみている。

 がん細胞の表面のたんぱく質が、血小板とくっつく接着剤の役割を果たしている。

 研究チームは、このたんぱく質が結合する際に重要な働きを担う部分を特定した。ここにふたをするような抗体を新たに開発した。

 ヒトの肺がんをマウスに移植し、抗体を投与した実験では、40日後の腫瘍の大きさが4分の1程度に抑えられた。今後は、人の体に適した抗体を作る。