カテゴリー別アーカイブ: 経済教室

個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大 学教授 太田肇 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大学教授 太田肇」です。





 本連載を締めくくるに当たり、組織と個人の関係性について説明しましょう。組織論では「分化」と「統合」を広い意味での対立概念としてとらえる伝統があります。こうした考え方をする以上、分化を進めるには限界があります。実際、経営者は社員の自律が大切だと理解していても、組織がバラバラになるのを恐れて尻込みしがちです。

 このジレンマから抜け出すカギは、機能と行動を切り離すことです。組織と個人の統合が必要なのは機能の面であり、個人の行動ではありません。一人ひとりが組織内で役割を果たし、組織に貢献している限り、行動はバラバラでもかまわないのです。そして通信技術の発達や経済のソフト化により、比較的容易に機能と行動を切り離せるようになりました。

 たとえば上司や同僚、取引先と電話やメールで連絡がとれれば自宅や外出先で仕事をしてもよいし、地球の裏側に住んでいてもよいのです。この連載で取り上げた多様な働き方、オフィス環境の見直しなども機能と行動の切り離しによって実現できるのです。経済活性化の目的から政府が推進しようとしている副業・兼業についても同じです。

 20年あまり前に筆者は全国の主要企業を対象に、統合の方法と生産性や満足度との関係を分析しました。その結果、行動を分化しながら機能として統合している「間接統合」企業の方が、分化せずに統合している「直接統合」企業より、業績も社員の満足度も高いことが判明しました(表)。当時に比べると情報通信技術は格段に進歩しており、行動と機能の切り離しははるかに容易になっています。個人を活(い)かすことが組織の利益にもつながる時代になったといえるでしょう。

(次回から「シニア雇用の人事管理」を連載します)



個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大 学教授 太田肇 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大学教授 太田肇」です。





 本連載を締めくくるに当たり、組織と個人の関係性について説明しましょう。組織論では「分化」と「統合」を広い意味での対立概念としてとらえる伝統があります。こうした考え方をする以上、分化を進めるには限界があります。実際、経営者は社員の自律が大切だと理解していても、組織がバラバラになるのを恐れて尻込みしがちです。

 このジレンマから抜け出すカギは、機能と行動を切り離すことです。組織と個人の統合が必要なのは機能の面であり、個人の行動ではありません。一人ひとりが組織内で役割を果たし、組織に貢献している限り、行動はバラバラでもかまわないのです。そして通信技術の発達や経済のソフト化により、比較的容易に機能と行動を切り離せるようになりました。

 たとえば上司や同僚、取引先と電話やメールで連絡がとれれば自宅や外出先で仕事をしてもよいし、地球の裏側に住んでいてもよいのです。この連載で取り上げた多様な働き方、オフィス環境の見直しなども機能と行動の切り離しによって実現できるのです。経済活性化の目的から政府が推進しようとしている副業・兼業についても同じです。

 20年あまり前に筆者は全国の主要企業を対象に、統合の方法と生産性や満足度との関係を分析しました。その結果、行動を分化しながら機能として統合している「間接統合」企業の方が、分化せずに統合している「直接統合」企業より、業績も社員の満足度も高いことが判明しました(表)。当時に比べると情報通信技術は格段に進歩しており、行動と機能の切り離しははるかに容易になっています。個人を活(い)かすことが組織の利益にもつながる時代になったといえるでしょう。

(次回から「シニア雇用の人事管理」を連載します)



個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学 教授 太田肇 2017/7/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学教授 太田肇」です。





 働きやすい職場にして個人の意欲と能力を最大限に発揮させるには、職場の物理的環境、とりわけオフィスのレイアウトを見直すことも重要です。

 日本企業のオフィスはたいてい大部屋で上司と部下が机を並べ、顔を突き合わせて仕事をするスタイルになっています。このようなオフィスは日本特有です。海外の企業では、管理職は個室に入り、一般の社員も図書館のように一人ひとりの空間が仕切られた机で仕事をするのが普通です。

 大部屋で仕切りのないオフィスは、周囲の人の仕事ぶりが一目でわかり、気軽に声をかけてコミュニケーションを取ることができます。したがって、単純な事務作業や集団作業をこなすのには適しています。また不慣れな人に仕事を教えたり、互いに手助けしたりするのにも便利です。

 しかし、創造的な仕事や難度の高い仕事をするのには不向きです。周囲から話しかけられたり、手元をのぞかれたりすると、集中力がそがれます。じっくり考え事や調べものをしていると、サボっているようにも見られます。

 すでに述べたようにIT化やソフト化によって単純な事務作業が減少し、創造的な仕事や高度な仕事が増えています。また人材が多様化し、女性や外国人などが一緒に働くのが普通になりつつありますが、彼らはとくにプライベートな空間が確保された職場を求めます。したがってオフィスのレイアウト見直しは喫緊の課題でしょう。

 欧米企業のように個室やパーティションで区切るとか、一人で集中して仕事ができる場所を設けるのがオーソドックスですが、別の方法もあります。たとえば机の向きを反対にして、窓や壁に向かって座るようにすればよいのです。部屋の真ん中にテーブルを置いておけば、必要なときにはミーティングもできます。実際にこのようなレイアウトに変えたところ、仕事がしやすくなり社員に好評だという声も聞かれます。

 ただ、いくらオフィスの環境を変えても仕事の分担や役割が不明確なままではさまざまな支障がでてきます。仕事の改革とオフィスの改革は並行して行うのが理想です。



個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学 教授 太田肇 2017/7/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「月曜経済観測 エネルギー市場の行方は 再生エネ 流れ止まらずイベルドローラCEO イグナシオ・S・ガラン氏」です。





 エネルギーを巡る国際政治のせめぎ合いが激しくなっている。米国は温暖化の枠組み「パリ協定」を脱退する方針。中東では産油国のカタールやイランから目が離せない。世界のエネルギー市場はどこへ向かうのか。欧州、北米、南米などに展開する多国籍電力大手イベルドローラのイグナシオ・S・ガラン最高経営責任者(CEO)に聞いた。

公共交通が先行

 ――トランプ米大統領はエネルギー政策を転換しました。世界は化石燃料を重んじる時代に逆戻りするのでしょうか。

 「米国以外は引き続きパリ協定に残り、温暖化対策に取り組む。例えば自動車産業は電気自動車やハイブリッド車に置き換えようとしている。先取りしているのは公共交通機関だ。大都市のバスがディーゼルから電気に切り替わるのは遠い将来のことではない」

 「米国のエネルギー政策で大きな役割を担う州政府は、再生可能エネルギーを増やそうとしている。米国の大手企業も温暖化対策に貢献するため、クリーンなエネルギーを使おうとしている。再生エネの市場はまだまだ拡大する」

 ――欧州や中東に点在する政治リスクは多国籍企業にとって不安材料では。

 「台頭する保護主義は確かにリスクだし、高失業率に悩む国もある。だが様々な危機が終わり、景気は上向いている。世界経済は新興国にけん引されて年3%を超える成長を維持するだろう。(債務危機で苦しんだ)スペインでも雇用が生まれ、財政赤字が減った。ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が緩和の出口を探るところまできた」

 ――英国の欧州連合(EU)からの離脱は打撃ではありませんか。傘下に英電力大手があります。

 「英ポンドが下落し、ユーロ建てに計算し直せば会計上は影響が出る。ただ約120年前の創業以来、スペインでは内戦や(フランコ支配の)独裁政権を経験した。それでも民間企業として消費者に電力を供給するという姿勢を変えなかった。英国でも同じ。今後は再生エネに注力したい」

 ――再生エネは不安定だとの指摘があります。

 「原子力や火力発電所は24時間連続で運転できるが、メンテナンスなどで休止する。原子力は年7千時間、ガスや石炭は5千~6千時間稼働する。洋上風力発電はガスなどと遜色ない水準だ」

脱原発の実現を

 ――高コストでは。

 「発電所の新設で石炭か再生エネか迷うことはない。間違いなく後者。石炭は設備に加え、維持費用がかさむ。原子力は過渡期のエネルギー源だが安いというのは誤りだ。むしろ高くつく。スペインで7基の原発運営にかかわるが、燃料のウランだけでなく放射性廃棄物の管理・処分にコストがかかる。規制もどんどん厳しくなり、安全を守るため多額の投資が必要だ」

 ――脱原発になれば高度な専門技術が失われます。

 「確かにだれもが原発を持てるわけではない。(従業員の)訓練に膨大な資金を投じている。問題は利益が出ないこと。原発の段階的な廃止をスペイン政府に提案した。即実現は難しいが、ゆっくり(脱原発を)実現させるべきだ」

(聞き手は 欧州総局編集委員 赤川省吾)

 Ignacio S. Galan スペイン企業を世界有数の電力会社に育てた。66歳。



やさしい経済学 個を活かす組織をつくる(6)仕事の分担や 役割を明確に同志社大学教授 太田肇 2017/7/25 本日の日本経済 新聞より

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 今回は少し角度を変え、働く立場から日本の組織を考えてみましょう。「働き方改革」は安倍内閣の最重要課題の一つであり、その成否に国民の関心が集まっています。改革を進めるうえで大きな壁になっているのが、日本特有の集団主義的な執務体制です。

 現状の問題点として第一に挙げられるのが、主要国の中でも突出した長時間労働です。いろいろな原因がありますが、仕事の分担や個人の役割が不明確なことが大きな要因です。

 そのため調整や意思決定の会議や打ち合わせに多くの時間を取られます。また仕事の進捗が同僚など他人に依存しているので計画を立てにくく、早く帰るために要領よく片付けようという意欲も起きません。さらに上司や同僚が残っていたら先に帰りにくいという雰囲気もあります。有給休暇を残す理由として半数近くの人が「職場の他の人に迷惑をかける」「周囲の人が取らないので取りにくい」を挙げています(労働政策研究・研修機構の2010年調査)。

 女性の管理職登用も重要な政策目標ですが、昇進すると時間的・精神的・肉体的な負担が増えるという理由から尻込みする人が少なくありません。昇進したら残業が増えるだけでなく、諸々の仕事が付随するため人間関係のストレスも大きくなるからです。

 仕事の分担や個人の役割を明確にすれば、自分のペースで仕事がこなせるようになり、効率的に片付けて早く帰ろうというモチベーションも生まれます。管理職の役割が限定されれば、昇進しても余分な仕事を抱え込まなくてもすむでしょう。フレックスタイムや在宅勤務、モバイルワークといった新しい勤務形態も利用しやすくなります。

 もちろん、それで残業が増える人も出てくるでしょう。しかし、業務量の偏りや能力不足といった問題点も見えてくるので対策が打てるようになります。またセクハラやパワハラは上司に対して部下が過度に依存することに起因するケースが多い現実を考えれば、分担や役割を明確にして部下に必要な権限を与えることが、働きやすい職場をつくるうえでどれだけ大切か理解できるでしょう。



個を活かす組織をつくる(3)意欲と能力、業績を大きく左右同志社大 学教授 太田肇 2017/7/20 本日の日本経済新聞より

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 価値の源泉がモノそのもの、すなわちハードウエアからアイデアや技術などのソフトウエアに移り、IT化で仕事の代替が進むと、人間に求められるものが大きく変化します。

 定型的業務や力仕事では一人ひとりの業績格差はたかが知れています。せいぜい2、3倍でしょう。それに対して知的な仕事、たとえば研究開発やデザイン、資金運用などの仕事では、何十億円もの利益に貢献する人がいる一方、ほとんど貢献できない人もいます。つまり個人の意欲と能力が企業の業績を大きく左右するようになったのです。

 またIT化によって周辺業務の効率化や外部委託が容易になったため、一人でまとまった仕事がこなせるようになりました。その結果、職種によっては雇用労働と独立自営の境界もあいまいになっています。

 ところが従来の共同体型組織は、このような変化を想定していません。画一的な採用と育成、平等な処遇のもとでは社員の意欲も能力も均質になります。いわば「床」はあるが「天井」もある状態です。自営業に近いような働き方を認めることもできません。そのため社員の意欲と能力を十分に引き出せず、人材獲得競争で欧米やアジアの企業に後れを取ったりします。

 野心と才能に満ちあふれた人材を獲得し、「天井」を突き抜けるようなモチベーションを発揮してもらうには、組織や集団から個人を「分化」する必要があります。ここでいう「分化」とは「個人が組織や集団、他人から物理的、制度的、もしくは認識的に分けられること」を意味します。

 たとえば仕事の分担や役割を明確にして権限と責任を与えたり、まとまった仕事を任せたりすると、モチベーションは上がります。自律的に仕事ができれば創意工夫の余地も広がり、内発的モチベーションが高まります。努力次第で大きな成果と報酬が得られるので外発的モチベーションも上がります。また独力で物事を成し遂げることで自己効力感、すなわち「やればできる」という自信がつき、大きな目標に対する挑戦意欲も生まれます。社内独立の制度を取り入れたところ、生産性が3倍に上がった事例もあるくらいです。



個を活かす組織をつくる(2)勤勉だが受け身の日本人同志社大学教授 太田肇 2017/7/19 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(2)勤勉だが受け身の日本人同志社大学教授 太田肇」です。





 日本人は勤勉で仕事への意欲が高く、会社への帰属意識も強い。それが高い生産性や競争力にもつながっていると信じられてきました。果たして、それは事実でしょうか。

 厚生労働省の毎月勤労統計調査(2015年)によると、非正社員を除く一般労働者の平均年間総労働時間は2026時間と主要国の中では突出して長くなっています。しかも、この20年間ほど大きく変わっていません。また他国では100%近く取得される年次有給休暇も、同省の就労条件総合調査によれば48.7%(15年)と半分も取得されない状況が続いています。

 これらの数字をみる限り日本人は相変わらず勤勉そうです。ところが近年次々と発表されるワーク・エンゲージメント(仕事に対する熱意)の調査をみると、日本人の仕事への熱意は最も低い水準にあることがわかります。日本人の仕事に対する受け身で消極的な姿が浮かび上がります。

 次に労働生産性の国際比較(経済協力開発機構=OECD加盟国)を見ると、日本は1990年代に順位が低下し、92年以降は主要7カ国の中で最下位が続いています。最も高い米国に比べると6割強で、その差は拡大傾向にあります。また国際競争力もIMD(経営開発国際研究所)の調査によれば、92年の1位から急低下し、現在も浮上の気配が見えません。

 日本の順位が下落した時期はIT革命が起き、ソフト化、グローバル化も進行した時期と重なります。前回指摘した通り、経営環境の変化によって社員に求められる意欲・能力が大きく変わりました。日本企業の特徴である集団的なマネジメントと、勤勉だが受け身の働き方が通用しにくくなったことを示しています。



個を活かす組織をつくる(1)全体重視の経営、逆転が必要同志社大学 教授 太田肇 2017/7/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(1)全体重視の経営、逆転が必要同志社大学教授 太田肇」です。





 「適応が適応を妨げる」という言葉があります。かつて恐竜は食糧豊富で安定した環境に適応して巨大化し、地球上に君臨しましたが、その後環境が激変すると巨体がアダとなり絶滅したともいわれます。ある環境に適応しすぎると、環境が変わったときは大きなハンディになるのです。

 企業の組織も同じです。戦後の日本企業は人事部主導のもとに新卒を一括採用し、画一的な研修を施して平等に処遇してきました。また定年までの雇用を保障し、寮・社宅のほか福利厚生も充実させることで、企業への忠誠心や社員の一体感を醸成してきました。

 「全社一丸」を掲げ、個よりも全体を重視する経営は高品質のモノやサービスを安定的に供給することが求められる工業社会に見事に適合し、高い生産性を実現しました。そして世界が驚く高度成長、安定成長をもたらしたのです。

 ところが1990年代にIT革命が勃発し、並行して経済のソフト化、グローバル化が急速に進むと状況は一変します。一言でいうなら、日本企業が築いてきた人や組織の強みが自動機械やコンピューターに取って代わられたのです。

 その結果、人間には機械やコンピューターに代替されない創造力、洞察力、総合的な判断力、交渉力といった人間特有の能力が高い水準で求められるようになります。これらの能力は画一的なシステムで大量に育成できるものではなく、強制や命令によって引き出せるものでもありません。

 これらの能力を最大限に発揮して企業に貢献してもらうには、個人の価値観や目的・動機などを踏まえ、組織を設計していく必要があります。つまり従来とは逆のアプローチをとらなければならないのです。

 あらゆるモノがネットにつながる「IoT」やAI(人工知能)の普及により、今後この潮流は一層強まるでしょう。また「働き方改革」をはじめ職場の問題を解決するためにも個の視点が不可欠です。この連載では「個を活(い)かす組織」づくりの必要性とその方法について解説します。

 

 

 おおた・はじめ 神戸大院博士前期課程修了、京都大博士。専門は組織論



私見卓見 東京発展のグランドデザインをライフネット生命保険会 長 出口治明 2017/6/22 本日の日本経済新聞より

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 「おもてなし」はいらない――。英国出身のアナリスト、デービッド・アトキンソン氏は自著「新・観光立国論」の中でこんな趣旨のことを書いた。僕はこの主張に同調している。

 インバウンド(訪日客)が盛り上がる日本ではいま、おもてなしをすることこそが日本の、そして首都東京の観光政策につながっていると言い立てられている。でも、ちょっと待ってほしい。そもそも日本には豊かなアセット(資産)がたくさんある。まずは四季。そして、おいしい食事や快適な買い物、温泉や豊かな自然もある。日本にこれ以上どんなアセットが必要だというのだろうか。

 首都がある関東平野には4千万人も集積している。僕はこれまで1200以上の都市を訪ね歩いてきたが、これだけ広大な平野に大都会を築いたケースは海外でもあまりみられない。人が集まればサービス産業もおのずと盛り上がる。東京は地形的にも恵まれている。

 にもかかわらず、東京がアジアでナンバーワンの金融・経済都市ではないということが問題だ。シンガポールは富裕層向けの住居を設けたり優秀な教育機関を誘致したりと、世界中から人を呼び込む知恵を絞り、いまの地位を築き上げた。そうした事実を真摯に受け止める必要がある。

 東京に今後どのようにして人を呼び込めばいいのか。街づくりでグランドデザインを描ける人と、リーダーシップを発揮し、実現しようとする人が必要だ。

 街づくりで優れた都市といえば主要7カ国(G7)ではまずパリだ。19世紀の大改造計画で当時の知事らが描いたグランドデザインが今も生き続けている。ルーブル宮殿からシャンゼリゼ通りにつながる街並みは不変だ。その後に大統領を務めたド・ゴールやポンピドゥー、ミッテランがこのグランドデザインを受け継ぎ、街づくりを進めた。

 こうした強い意志を持つ人物が日本にも必要だ。再開発が盛んないまが好機のはずで、この街をどう発展させたいのかといった視点が求められている。

 アセットが豊かだからこそ「入り口」でつまずいてはならない。空港を24時間利用できるようにしたり他国に比べ割高な特急料金を値下げしたりすることで訪日客はさらに増えるだろう。諸外国の都市の方が利便性で優れているのであれば、それをまねて改善すればいいだけのことだ。

 当欄は投稿や寄稿を通じて読者の参考になる意見を紹介します。〒100-8066東京都千代田区大手町1-3-7日本経済新聞社東京本社「私見卓見」係またはkaisetsu@nex.nikkei.comまで。原則1000字程度。住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記。添付ファイルはご遠慮下さい。趣旨は変えずに手を加えることがあります。電子版にも掲載します。



経済教室 社員のやる気 どう高める 人事制度、個別にデ ザイン 若林直樹・京都大学教授 2017/4/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「経済教室 社員のやる気 どう高める 人事制度、個別にデザイン 若林直樹・京都大学教授」です。





 企業の人事管理にとって、社員の「やる気」を高める取り組みは最重要の課題だ。ところが国際比較調査を見ると、日本企業の社員が会社の仕事に対して示すやる気は欧米よりも低く、アジアの中でも劣る(グラフ参照)。やる気を表に出すことをはばかる文化が日本人社員にあるためなのかもしれないが、社員のやる気が高く示されないことは大きな経営課題だろう。

 社員のやる気は、経営学では「動機づけ(モチベーション)理論」として議論されてきた。現在の代表的な4つの論点について考えたい。

 まず金銭的報酬だが、社員の幸福感を増やすには一定の限界があることが明らかになってきた。行動経済学者である米プリンストン大学のダニエル・カーネマン氏らの調査によると、米国では所得が7万5千ドルを超えても社員の幸福感が一律で高まらないことが分かった。つまり個人的成果主義の効果には一定の限界がある。カナダのトロント大学のゲーリー・ラトハム教授によると、社員一人ひとりの幸福のあり方によって求める金銭額も異なるので、一定額を超えると金銭的報酬には一律の効果は少なくなる。

 むしろ、個々の社員がそれぞれ求める幸福のあり方に配慮して報いる方が、動機づけには効果的である。例えば、筆者が以前訪問した韓国のソフトウエア会社、マイダスアイティでは李享雨社長の考えで人事部を「幸福管理部」と呼び、人事施策で社員の幸福感の上昇につながる取り組みを重視するとした。

 金銭的報酬の限界に対し、従来は賞罰や評価のフィードバックといった心理的報酬を加味することを中心に考えてきた。だがこうした議論は個人の内面のやる気の状態に注目し、それが業績に与える影響の分析は主ではなかった。そこで会社の求める目標や職務に社員が積極的に関わり、業績を上げる仕組みのあり方へと議論は広がっている。

 第2の論点として、社員が会社の職務に積極的に関わる要因に注目する「ジョブ・エンゲージメント」という理論が実務家サイドで国際的に注目されている。これは米ボストン大学のウィリアム・カーン教授が提唱したもので、会社の視点から、仕事への積極性や、それを引き出す条件と業績向上のメカニズムを分析しようとしている。先述の国際比較もこの視点だ。

 米カリフォルニア州立大学のブルース・リッチ准教授らは、職務への積極的な関わりを促進し、業績向上に結びつく条件を考察している。具体的には、(1)会社との価値観の適合の高さ(2)職務に対する会社の支援の多さ(3)職務に自分がふさわしいと考える自己評価の高さ――である。つまり社員と会社や職務とのマッチングの高さが、仕事への積極的な関わりと業績の上昇をもたらすとした。

 第3の論点として注目されているのは、会社側から社員への業績評価のフィードバックのタイミングだ。タイミングが適切であれば社員がやる気を高めるという見方で、社員が良い仕事をしたならば、できるだけ早い時期に的確に評価内容を本人に伝えるのが良いというものだ。

 カナダのカルガリー大学のピエール・スティール教授らは「時間的動機づけ理論」という新たな視点で、評価と報酬のタイミングの時間的な最適化を図るべきだという考え方を示した。評価のフィードバックや報酬付与のタイミングが遅すぎると、社員による評価のディスカウントがなされて、かえってやる気をそぐ面があるからだ。

 有線放送大手のUSENは社内SNS(交流サイト)を使い、社員に職務状況を報告させるとともに、良い仕事には上司らがすぐに評価をフィードバックする取り組みをしている。タイミングを重視する観点で興味深い。ただこの視点は、日本企業の特徴である正社員の遅い昇進というものが、報酬のタイミングとして一律に効果的なのかという疑問をもたらす。

 さらにゲーム世代の社員に合わせ、ゲーム感覚を導入した動機づけ理論も現れた。米イリノイ大学のテレザ・カーデイダー助教らによると、このゲーミフィケーション(ゲーム化)の考え方は、新たな動機づけの要因を提示した。現在の業績評価情報へのリアルタイムでの接触と、達成に応じて仕事の内容を段階ごとに面白くする工夫が、やる気を高めるというものだ。現在の業績スコアを即座にフィードバックしつつ、良い仕事をしたら次のステージでより高度な業務を与える。

 例えば金属部品加工の太陽パーツ(堺市)には、半年ごとに数多くの種類の表彰を行い、内容をその都度変える報奨金制度がある。正門の清掃など社員の多様な取り組みをタイムリーに評価している。新規事業で大きな損失を出した社員を励ます「大失敗賞」も有名だ。

 第4の論点として、個人的成果主義によって損なわれがちな「チームワーク」に対する動機づけのメカニズムがある。個人の動機づけも大切だが、会社としてはチームや組織に貢献する意欲を社員が高く持つことを重視する。欧米の企業でもチームワークの活性化が重視され、社員がチームに貢献する動機づけの仕組みに関心が高まっている。現在では、チーム活動に関する共通の認知や行動の枠組みを、社員が積極的に共有する動機づけのメカニズムについての分析が進んでいる。

 オランダのフローニンゲン大学のジーグバルト・リンデンベルグ教授らは、チームとして共通のものの見方の働きに注目する「社会的認知理論」を用い、社員がチーム独自の目標と達成のやり方に関する枠組みを共有する動機づけのメカニズムを重視している。具体的には、(1)業務に対するチーム共通の認識の仕方(2)報酬配分の論理(3)チームで求められる能力と知識――の3つの共有を社員に促す動機づけが重要だとしている。

 さらに米ノートルダム大学のジア・フー助教らは、チームワークの動機づけの基礎として、チームとして相互に協力と扶助を行う「向社会的」な行動の意識を持つことが重要だとしている。この意識は、チーム内での普段の相互交流や意識作りだけでなく、「チームのイメージを良くしたい」という功利心の共有からも促進される。

 動機づけの研究は、20世紀初めに生理学的分析から始まった学際的な研究領域である。今後も新たな領域からの知見を取り込みながら、社員のやる気を学際的に研究する意義は大きい。先のラトハム教授も、従来のアンケートによる意識調査だけではなく、今日の脳科学の発展の成果を取り込むことを勧めている。例えば個人がやる気になっている状態や、フィードバックの最適なタイミングの分析には、社員の脳の活動状態の分析や彼らの意識と行動のビッグデータ分析が貢献する可能性が高い。

 社会の多様化が進む中で、社員個々人も異なる幸福を追求している。そこで社員のニーズについての大量のデータを解析し、個々人に合わせた(金銭とそれ以外の)適切なタイプと量の報酬と人事制度を個別にデザインすることは、動機づけには効果的である。ソフト開発のサイボウズは100人いれば100通りの働き方があると考え、多彩な人事制度をそろえる。こうした制度の方が社員はやる気は出るだろう。

ポイント○国際的にも日本企業の社員のやる気低い○金銭的報酬による社員の動機づけに限界○評価の迅速なフィードバックなどがカギ

 4人の筆者が交代で執筆、原則、月1回掲載します。