カテゴリー別アーカイブ: 経済教室

地域経済を「見える化」する(2)データに基づく施策可能に 中村 良平岡山大学特任教授 2018/4/27 本日の日本経済新聞より

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 情報通信技術の発達で、以前には考えられなかった様々なビッグデータの利用が可能になっています。社会科学分野では個人や事業所単位のデータであり、それらの活動に関わる、移動といった空間的側面も数値情報として利用できるようになっています。それによって当然、まちづくりや地域振興のあり方も変わってきます。

 兵庫県豊岡市はビッグデータを活用し、ターゲットを絞った観光客の誘致に取り組んでいます。インバウンドブームで同市の城崎温泉には多くの外国人観光客が訪れます。2014年に1万3877人だった外国人宿泊者数は、15年に3万1442人、そして17年には4万5107人に急増しました。

 同市がWi―Fiやスマートフォンを利用する外国人客の行動を解析した結果、京都や大阪方面から列車で訪れるだけでなく、姫路城を観光してからバスでやってくる外国人客が意外に多いことが判明しました。利便性を高めようと発車時間の見直しをバス会社に働きかけたり、国籍による宿泊日数の違いを分析してニーズに合った宿泊対策を打ち出したりするなど、従来の経験や思い込みによる施策ではなく、客観的データに基づいた施策を実施できるようになりました。

 こうした観光客の動線に関するビッグデータの一部は、国が運用している地域経済分析システム(RESAS)でも利用できるようになっています。

 ただ、ビッグデータを使って見える化しても、そこで「何をすれば、何がどうなる」という考え方(理論モデル)に基づいた分析がなければ、目標が達成できなかった場合に、その原因にまでたどり着くことができません。

 希望的な目標値を掲げれば良い、というのは大きな誤りです。定量的な分析をする際、利用できるのは個別のデータではなく、市町村単位に集計されたデータという場合も多いでしょう。それでも、データに基づく分析をベースにした政策や個別の施策であれば、必ずその結果について検証から施策の見直しというフィードバックをすることができ、次の施策へとつなげられるはずです。



やさしい経済学 地域経済を「見える化」する(1)データを 基に域内循環把握 中村良平岡山大学特任教授 2018/4/26 本日の 日本経済新聞より

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 安倍内閣が2014年に「地方創生」という言葉を使い始めてから4年近くになります。その中心課題は地方の人口減を食い止めることと持続可能な地域経済の形成です。そのために、ほとんどの地方自治体が将来人口を展望した「地方人口ビジョン」と、それを土台にした「地方版総合戦略」を作成してきました。

 この地方創生という言葉は「新たな地方を生み、創る」と読み取れ、クリエイティブな響きがあります。しかし、つまりは地域振興のことであり、地方活性化策として過去に何度も講じられてきました。例えば、竹下内閣は「ふるさと創生事業」を打ち出し、1988、89年度に全国の市区町村が自由に使える交付金1億円を配分しました。自治体のユニークな使い方が話題になりましたが、その経済活性化効果が検証されたという記憶はありません。

 また小渕内閣は99年に1人2万円分の「地域振興券」を配りましたが、対象を高齢者や子育て世帯に限ったこともあって家計消費支出に目立った増加はなく、景気回復に結びついたとの評価もありません。その後も、福田内閣の時には「地方再生」がありました。

 今回の地方創生についても、自治体が取り組むにあたって同様の課題があります。外国人観光客の増加を地域の活性化につなげたいと考える自治体は多いですが、どのように検証すればいいでしょうか。あるいは地域に立地する製造業の受注が増えたとして、それがどの程度、地域に還元されるのでしょうか。イベントを開催しても、その効果は実際には、どこ(誰)に波及しているのでしょうか。

 これらはいずれも地域内の経済のつながりを数字で把握する、つまりは地域の「経済循環」のあり方を把握することが必要だということを示しています。そのためには、データを基に地域経済を「見える化」することが重要になります。この連載では、データに基づいて地域経済を「見える化」し、地域の経済構造を把握する意義やその方法、課題などについて実例を交えて解説していきます。

 なかむら・りょうへい 京都大卒、筑波大博士。専門は都市経済、地域経済



レベニューマネジメントとは何か(5)販売単価×稼働率を重視 青木 章通専修大学教授 2018/4/5 本日の日本経済新聞より

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 前回までレベニューマネジメントの導入の背景や基本的手法について説明しました。では、実際に導入している企業はその成否をどのように測定しているのでしょうか。

 宿泊業界のKPI(重要業績評価指標)として広く使われているのが、販売可能な客室1室あたり売り上げを指すRevPAR(Revenue Per Available Rooms)です。RevPARは1室あたりの平均室料に稼働率を乗じて算出します。例えば、ある期間の客室の平均販売単価が1万円、稼働率が70%だったとすると、当該期間のRevPARは7000円になります。

 RevPARは利用がなかった客室分も含めた全客室の1室あたり売り上げを示すため、宿泊部門の収益性を示す指標として、規模の異なる他のホテルとの比較にも利用されます。

 客室販売単価と稼働率はトレードオフの関係にあります。販売単価の向上に努めれば稼働率は低下しやすくなり、逆に稼働率の向上を重視すると販売単価は下がりやすくなります。価格と販売数量のいずれか一方だけを追求しても業績は改善できないため、両者の積であるRevPARが重視されるようになりました。

 例えば、不況で売上高が減少したときは通常、客室単価を下げて稼働率の上昇に努め、稼働率が回復してくれば客室単価を引き上げてRevPARの上昇を目指します。景気などの状況に応じて客室単価と稼働率をバランスよく追求することによってRevPARを上昇させるのです。同じような判断指標は航空業界や外食業界でも見られます。

 ただし、全ての宿泊施設が常にRevPARを最重視しているわけではありません。特に閑散期には滞在する顧客数(稼働率)を重視する宿泊施設も少なくありません。レストランや宴会場などの付帯設備を多数併設するホテルでは、付帯設備の利用率を高めることで全体の利益を増やそうとして、客室単価を犠牲にしても客室稼働率を高めようとするところもあります。

 宿泊以外の収益部門を持つ企業の場合、宿泊部門だけで部分最適化するのではなく、全体の利益の最大化を目指すことが必要になります。



レベニューマネジメントとは何か(4)正確な需要予測が重要に 専修 大学教授青木章通 2018/4/4 本日の日本経済新聞より

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 前回、オンライン旅行会社(OTA)の拡大で宿泊価格はオープンかつ比較可能になり、需要予測に基づく価格設定が重要になったと説明しました。販売価格を変えるのは簡単ですが、需要を正確に予測し、首尾一貫した販売価格を保つのは容易ではありません。

 需要予測の重要性を早期割引(以下「早割」)を例に説明しましょう。早割はある時期よりも前に予約した顧客に対して定価よりも低い価格で販売する方法です。航空券の販売が代表例ですが、最近は居酒屋など外食業界でも取り入れるところが増えています。

 需要予測を誤り、大量に売れ残ると、直前に大幅な値引きを強いられます。直前の値引きが頻発すれば、顧客はそれを見込んで買い控えたり、値引き品に乗り換えたりします。こうなると価格の一貫性(早く予約すると安く、直前に予約すると高い)は崩れ、予約のリードタイムが短くなり、販促の手が打ちにくくなります。逆に、あまりに早く完売してしまうと、機会損失が発生します。

 こうした事態を防ぐために、売れ残る数量を予測して早割で販売するのです。しかし、その場合、どれくらいの量を低価格で売るべきでしょうか。別の言い方をすれば、早割でどれだけ売れば、最後に値引きせずに売り切ることができるでしょうか。また、早割ではどの程度価格を引き下げるべきでしょうか。

 これらの答えを導き出すには、過去の販売データや経済環境、競合他社の動向などを加味して需要を予測したうえで、予約の進捗状況をリアルタイムで把握する必要があります。将来予測の能力、そして状況に応じて価格を変更して売上高を増大させる能力は、その企業の組織力の反映です。

 ただし、一企業のレベニューマネジメントがいかに優れていても、競合他社の価格設定が失敗した影響を受けることもあります。需要予測の結果、より高い価格で販売可能だと判断しても、競合他社が追随しなければ、自社の価格だけが突出し、期待した売り上げの実現は難しくなります。自社が望ましい価格帯で存続するには、競合する事業者が適切な能力を身に付けることも必要になるのです。



やさしい経済学 レベニューマネジメントとは何か(2) 客層 別に違う価格で販売 専修大学青木章通 2018/4/2 本日の日本経済 新聞より

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 レベニューマネジメントは顧客層別に商品の提供数と価格をコントロールすることで売り上げ増を実現する手法です。図はあるホテル客室の需要曲線です(単純化のため直線に)。客室価格が2万円になると需要は消滅します。価格を下げれば需要は増えますが、提供可能な客室数や潜在需要には上限があります。価格を5000円まで下げると150客室を全て販売できます。この場合、価格設定をどうすべきでしょうか。

 販売価格を1つに定める場合、価格×客室数で示される長方形の面積が最大になる1点、つまり1万円で販売したときに売上高は最大になります(1万円×100室=100万円)。しかし、価格を1点に決めてしまうと、2種類の売り上げ獲得機会を逸します。

 第1は、より高い価格を支払う意思があった顧客からの売り上げです。1万5000円でも支払う意思があった顧客からの売り上げは5000円少なくなります。第2は、より低価格だったら購入した顧客からの売り上げです。7500円だったら宿泊したいと考えた顧客が、他のホテルに流れたり、宿泊自体を諦めたりしたかもしれません。

 この2種類の売り上げを追加で取り込むことができれば、空室は50室よりも少なくなり、売上高は増大します(図の色塗り部分)。

 ただし、複数の価格を設ける場合、全ての顧客が安い価格(この場合は7500円)に流入しないように管理する必要があります。専門用語で「フェンス(壁)を設ける」といいます。ホテルの滞在時間の制限、航空機の予約変更条件の違いなどは、顧客の流入を遮るフェンスです。想定顧客層別に異なる条件を設定し、異なる顧客層に異なる価格で販売できれば、売上高は拡大できるのです。



やさしい経済学 レベニューマネジメントとは何か(1)価格 設定変え、売上高最大に 専修大学教授青木章通 2018/3/30 本日 の日本経済新聞より

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 同じホテルの料金が、宿泊時期や予約のタイミングによって変わっていることに驚いた経験はありませんか。これは航空業界に起源をもつレベニューマネジメントと呼ばれる経営手法(ダイナミックプライシングもその一種)で、売上高の最大化を目的として多くのサービス産業で導入されています。近年の情報通信技術の進歩により、様々な領域の知見を取り込み、高度化が進んでいます。

 レベニューマネジメントは、顧客に提供できる供給量に制約のあるサービス業で採用されています。ホテルを例にして考えてみましょう。例えば4月1日に提供可能な客室数には上限があり、売上高の上限値も決まっています。一方、費用構造をみると、その多くは固定費であり、短期的には宿泊者数の増減にかかわらず費用の総額はそれほど変わりません。この状況で利益を最大化するには、売上高をいかに上限値に近づけるかがカギとなります。

 ある商品に対する需要を操作する最も分かりやすい方法は価格を変動させることです。とりわけ需要の価格弾力性が大きい業界では価格を引き下げると多くの顧客を誘引できます。逆に繁忙期は値引きする必要がなく、定価近くまで価格を上げて売上高の向上を図ります。同時に、顧客層別に異なる商品プランを用意し、早期割引や商品プランの提示で顧客を誘引しながら目標に向けて売り上げを積み上げていきます。

 この際に短期的な売上高の最大化ではなく、長期的な成長に向けて顧客からの評判にも配慮する必要があります。このような体系的な施策をレベニューマネジメントと呼んでいます。

 レベニューマネジメントは航空業界や宿泊業界のほか、ゴルフ場、プロスポーツ界など様々な分野に広がっています。近年急速に広がるシェアリングエコノミーにおいても柔軟な価格設定が重要です。今後は人工知能(AI)の進歩により小規模な事業所などにも普及すると予想されます。この連載では詳しい仕組みやその影響、今後の見通しなどについて解説します。

 あおき・あきみち 慶応義塾大博士課程単位取得満期退学。専門は管理会計



観光地経営のイノベーション(8)権限と責任を明確化 高橋一夫近 畿大学教授 2018/2/9 本日の日本経済新聞より

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 前回までDMO(観光地経営組織)が日本に必要な理由、その機能を生かす組織マネジメント、今後の課題などについて説明してきました。これらをまとめ、目指すべきDMOの姿について整理してみましょう。

 第1に、官民共同で設立され、地域に持続的な経済効果をもたらす組織です。第2に、観光行政との役割分担のもと、与えられた権限に伴う結果に責任を持ちます。第3に、観光地経営を担う専門性を持つ人材によって経営、業務執行がなされます。第4に、多様で安定した財源を確保し、ステークホルダーとの良い緊張関係が保たれます。第5に、観光関連事業者だけでなく、農林水産業、商工業関係者など観光地域づくりに参画する様々な担い手とも関わりを持ちます。

 こうしたDMOができれば、地域の観光集客や観光消費の創出につながると考えられます。ただ、DMOがこのように機能するためには、特にステークホルダーとの関係が重要になります。筆者は欧米のDMOを研究し、行政、DMO、民間(観光関連事業者)の関係が日本とは異なっていることに気づきました。

 欧米では、(1)行政とDMOが観光政策の実現に向けて互いの役割を全うし、進捗状況を行政がチェックする(2)行政は議会で観光政策の進捗チェックを受ける(3)民間は受益者負担によってDMOを支援する一方、成果が上がらなければ理事会などで批判する――といった関係がみられます。

 日本ではこうした相互チェックが機能している地域はほとんどありません。欧米を参考に日本版DMOを設立する意義は、こうしたステークホルダーとの関係の上に成り立つ「権限と責任の明確化」にあります。そのためにも、行政、観光振興組織、民間がそれぞれの役割を明らかにし、各組織の権限と責任を一致させながら地域の観光振興のあり方を議論していくことが必要です。観光振興組織が観光庁の日本版DMOに選ばれることも大事ですが、その前提となる議論をどこまで深めて、関係者が認識を共有できるかが成功の鍵になると考えられます。

=この項終わり



観光地経営のイノベーション(5)行政との役割分担を明確化近畿大学教授 高橋一夫 2018/2/6 本日の日本経済新聞より

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 日本の観光協会と比較した場合、欧米のDMO(観光地経営組織)のマネジメント特性として、これまでに述べたプロパー職員(専門人材)による運営やDMO内部での人事評価以外にも、(1)多様で安定的な財源の存在(2)多様なステークホルダーとの緊張感ある関係(3)確かな評価指標の存在(4)意思決定機関の存在感(5)観光行政との明確な役割分担――が挙げられます。

 高度な専門人材による運営には人件費や事業費に充てる多様で安定した財源が必要です。詳細は次回に説明しますが、宿泊税や入湯税の超過課税、分担金などが考えられます。これらは行政からの「公助」とは違い、観光関連事業者による「共助」の意識によって確保されます。そのためDMOは関係者から成果を求められ、良い意味での緊張関係が生まれます。

 行政の下請けではなく、旅行客を増やす、観光消費単価を高める、域内調達率を高めるといった目標を達成するため、率先して行動する必要があります。そのためにどの程度の予算が要るか、どの事業を重視するかなどをDMOの運営に関与するメンバーが主体的に決めなければなりません。理事会などの意思決定会議がシャンシャンで終わるようなことはあり得ません。

 しかし、こうした欧米流のマネジメントをすぐに日本版DMOに取り入れるのは難しいでしょう。独自の財源を確保できなければ、行政からの補助や出向者なしに地域の観光協会を運営していくことは困難です。

 筆者は地方自治体がそれぞれ行政とDMOの役割分担を整理することから始めるべきだと考えます。行政は観光政策、インフラ整備、規制(緩和)、多様な財源の確保などを通じた観光地の魅力づくりに注力すべきです。より具体的には、域内の交通の便の確保など二次交通対策、魅力的な景観の形成、コンベンション施設の整備、民泊などシェアリングエコノミーへの対応などが挙げられます。

 一方、DMOには専門職員によるマーケティングやプロモーション、会議・イベントの誘致のほか、地域ビジネスの支援、地域イベントやツアーの開発、地域の観光人材の育成などの役割が求められます。



観光地経営のイノベーション(4)組織管理の原則から逸脱 高橋一 夫近畿大学教授 2018/2/2 本日の日本経済新聞より

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 筆者が調査した欧米のDMO(観光地経営組織)はプロパー職員のみで構成されていました。当然、DMOの内部で成果に基づく人事評価が行われています。例えば、ロンドン&パートナーズでは事業部門ごとに投資利益率(ROI)によって評価指標が作られており、この指標によって評価が行われていました。

 しかし、日本の場合、行政・民間からの出向者を出向元が人事評価するケースが多く見受けられます。サラリーマンは評価のあり方で働き方が変わるものです。観光協会のトップに企業の役員経験者が就任し、民間での経験を生かすことが期待されても、その人の下で働く出向者が出向元によってコントロールされれば、トップの知見を生かすのは難しいでしょう。

 日本の観光振興組織は組織管理の主要原則から逸脱していると指摘できます。第一は、階層性の原則からの逸脱です。この原則は組織のトップから最下層に至る構成員の権限を明確化し権限に応じて責任を負うというものです。観光分野の職務経験のない出向者が観光協会の役職に就いた際、「観光の仕事は初めてです」の言い訳は通用しません。しかし、知見の無さから責任ある対応をしていない事例も見受けられます。

 第二に、命令一元化の原則からの逸脱です。これは複数の上司から命令を受けると混乱するため、命令系統は一元化すべきだという原則です。しかし、行政や企業からの出向者が日常業務では観光協会の上司の指示命令を受けながら、出向元から人事評価を受ける場合、現実にはその行動も出向元のコントロールを受けることになり、複数の上司から命令を受けるのと同じ結果をもたらします。

 第三は、専門化の原則からの逸脱です。この原則は分業化された類似職務に就くことで習熟し、専門性を高めて効率的に業務を遂行できるようになるというものです。しかし、行政職員は複数の部門間を2~3年ごとに異動することが多く、専門的なスキルや人脈の形成が難しいのが実情です。そうした職員が観光協会に出向しても最初は戦力にならず、ようやく慣れたころに交代してしまう人事制度上の課題があります。

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観光地経営のイノベーション(3)組織マネジメントで欧米と格差 高橋一夫近畿大学教授 2018/2/1 本日の日本経済新聞より

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 日本政府が現在、日本版DMO(観光地経営組織)を育成しているのは、従来の日本の観光協会に比べて欧米のDMOが高い実績を上げているからです。

 DMOは「市場向けのマーケティングマネジメント」と「観光地のエリアマネジメント」の両方を手掛けることで観光振興を図ります。前者は地域の認知度と行ってみたいという訪問意向度を高めるためのマーケティング、地域の企業間連携によるプロモーションなどです。後者は観光地域づくりを進めるための観光資源の整備や観光地域内の交通マネジメント、観光人材の育成などです。

 これらを手掛ける欧米のDMOと日本の観光協会との実力差は組織マネジメントの違いによって生まれる面が大きいと考えられます。日本の観光協会は本来、観光政策のシンクタンク的役割と実行組織としての役割を期待されていますが、主たる財源を提供する地方自治体の意向が反映され、予算の執行窓口となっているケースもあります。事務局の役職も、行政や観光事業者からの出向者で占める協会が多いようです。

 一方、観光協会プロパーの職員の給与をみると、年収400万円未満が51%を占めています(観光庁の2015年調査)。組織の財源と専門人材の確保は相関する関係にあります。筆者が調査したサンフランシスコのDMOは約90人の職員全員がプロパーで、平均年俸は1860万円(16年)でした。同じ観光振興を担う仕事といっても、その中身は全く違うと考えても差し支えないでしょう。

 帰属意識・専門性に乏しい出向者と行政からの財源で縛られた組織が、データに基づいたマーケティングや観光客のニーズに基づいた受け入れ体制の整備にあたって適切な判断をするのは容易ではありません。出向者が高いポストに就く組織はプロパー職員との間で専門性の連鎖が絶たれ、適切な指導ができないことがあるからです。日産自動車の再建を主導したカルロス・ゴーン氏は「人間のモチベーションを左右する最も重要なものは帰属意識」で、どこの社員であるかということが「とても重要であり、働く意欲の源泉になる」と述べています。