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私見卓見 日本の観光モデル 五輪までに確立観光庁長官 田村明比古 2017/10/27 本日の日本経済新聞より

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 2020年の東京五輪・パラリンピックまで28日であと千日となる。政府は20年に4千万人の訪日外国人客を誘致し、旅行消費額も現在の約2倍の8兆円に増やす目標を掲げた。達成できれば日本経済に60兆円の波及効果があり、550万人の雇用創出を見込める。官民あげて取り組めば不可能な目標ではないが、それには日本の観光業のビジネスモデルをしっかりと確立することが喫緊の課題である。

 国内の観光産業は主に日本人を対象にし、世界のなかで競争してこなかった歴史がある。政府がアジア諸国を対象に戦略的なビザ緩和を順次実施したことでここに来て訪日客数が高い伸びを示しているものの、まだ産業自体が未成熟で、ようやく国際競争のスタート地点に立った状況だ。従来の観光の中心だった宿泊業と観光地全体が変わらないといけない。

 16年の全国の旅館稼働率は平均37%にすぎない。世界的に見ると日本の旅館は特殊なサービス形態にあたるためだ。今までは団体客に目を向け、週末に1泊で過ごす需要を取り込んできたが、世界の市場では連泊でゆっくりとくつろぎ、ファミリーでも楽しめる観光が重要だ。サービスを定義し直す必要がある。最近は中国からの訪日客も半数以上を個人客が占める。自分にしかできない体験を求めて旅行に来ており、そのニーズに対応しなければならない。

 長く心地よく過ごしてもらうためには、超高級からマス(大衆)まで幅広い品ぞろえが大切になる。日本は価格をあげる技術に乏しく、現在は高価格帯の観光商品が少ない。例えば、ヨーロッパではワインを1つとっても、1本数百円から数十万円までのおいしいものがたくさんある。日本も宿泊施設、食、工芸品、体験メニューなどで多様性を高めるべきだ。

 今の訪日客の1人あたり消費額は約15万円だが、長く過ごしてもらうことが目標の20万円達成に必要だ。1つの市町村や県単位でビジネスを考えがちだったが、行政区域の壁を取り払い広域的に目的地をとらえることも重要だ。今年度から日本に無関心な層を対象にした欧米向け観光キャンペーンも予定している。

 大切なのは20年の五輪後だ。30年には日本の人口が6%減る。一定の経済成長力を確保するには、伸長している観光業が担う役割がより大きくなる。30年を見据える上でも、20年の五輪を機に観光先進国の基盤をつくりたい。



衆院選の争点を探る(下) 森信茂樹 中央大学教授所得再分 配策の方針問え 2017/10/5 本日の日本経済新聞より

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ポイント○基礎的収支黒字化先送りはリスク高める○希望の党も公約で所得再分配策に触れず○大学無償化は限定的に大学改革と一体で

 国民にとっては突然の解散総選挙だ。安倍晋三首相が解散を表明した記者会見で述べた経済政策を筆者なりにまとめると、以下の3点になる。

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 第1に2019年10月から消費税率を10%に引き上げる。第2に消費増税で得られる5兆円強の財源の使途について、3党合意(表参照)で決められた借金返済部分(約4兆円)を半分程度に減らし、幼児教育や高等教育の無償化に充て、全世代型の社会保障に変えていく。

 第3にその結果、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の20年度黒字化という財政健全化目標の達成は困難になるが、財政再建の旗は降ろさず引き続き努力していく。

 消費増税のコミット(約束)については安倍首相は既に2度延期している。デフレ脱却道半ばと公言してきたことからも、19年10月からの増税も延期するのではないかというのが霞が関や市場関係者の大方の見方だった。そうした中で、3党合意から5年が経過し、ようやく引き上げが確定したという意義がある。

 次に使途の拡大についてはわが国の財政支出は先進諸国と比べて医療・年金を中心に高齢者に偏っている。結果として子育てや教育支援といった勤労世代への支出が割を食っていることは、これまで幾度も指摘されてきた。

 喫緊の課題である少子化対策や潜在成長力の低下や格差への対応として、子育て支援の拡充や幼児教育の無償化など勤労世代への歳出を増やすことは、シルバー民主主義から脱却し、世代間の受益と負担のバランスを改善させるという意義がある。また社会保障の充実に振り向ける部分が拡大するので、マクロ経済に与える悪影響も緩和される。

 このように考えると、増税のコミットと使途拡大については評価できる。

 問題は財政再建目標の先送りだ。首相は旗は降ろさないとしつつも、国際公約ともいえる20年度の基礎的収支黒字化目標の達成を諦め延期する意向を示した。これは財政健全化の不透明性を高め経済リスクを大きくすると考える。

 20年度までにはあと3回の予算編成が残されており、来年には財政目標の中間検証も予定されている。それを十分な検証や裏付けもなく早々と諦めることは、財政規律を緩ませたと評されよう。今回消費増税分から財政再建に回す部分は2兆円程度というが、その程度であれば後述するように、一層の歳出削減と歳入増加努力で財源の捻出は不可能ではないはずだ。

 つまり今回の首相発言には前々から延期したかった基礎的収支黒字化の財政目標を、この機会に先送りしようという魂胆が透けてみえ、そこがリスクとなる可能性がある。

 欧米諸国が金融緩和の出口に向かう中で、わが国だけが財政規律を緩めれば、日銀による国債の大量購入は財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)だととられかねない。いずれわが国も金融緩和の出口に向かう必要があり、それには財政健全化のめどがつくことが条件となる。財政規律の緩みはわが国財政の信認を揺るがし、国債暴落という計り知れないリスクを抱えることにつながる。既に国債市場には兆しもみえ始めている。

 5年が経過しつつあるアベノミクスへの評価も問われるべきだろう。わが国経済はデフレ脱却に向け大きく前進し雇用や企業利益も拡大した。しかし一方で、国民の将来不安は根深く、個人消費の停滞が続いている。家計調査からはわが国の中間層がやせ細りつつある姿がみてとれる。

 アベノミクスのトリクルダウン(浸透)、つまり経済が拡大すれば市場メカニズムを通じて成果が行きわたるという効果は表れていない。アベノミクスに欠ける政策は、税や社会保障を通じた所得再分配政策だといえる。

 そうであるなら安倍政権の経済政策に対する受け皿は、税・社会保障を一体的にとらえた適切な所得再分配政策ということになる。だがブームで沸き立つ小池百合子東京都知事率いる新党「希望の党」は消費増税の凍結を公約に掲げ、所得再分配策には触れていない。これでは経済政策面での受け皿にはなり得ない。

 それどころか消費増税凍結の下で、どう高齢化に対応し社会保障の充実を図っていくのか、財政再建をどう進めるのか具体策はみえない。民主党政権崩壊の一因は「月2万6千円の子ども手当」という財源なき選挙公約の未達だった。国民の「希望」を達成するには財源が不可欠であり、負担の問題に蓋をして実行可能性を疑われる公約を掲げるだけでは、「希望」はいずれ「失望」に変わっていく。

 そこで安倍首相の消費税収の使途見直しを受け入れつつ、失われる2兆円程度の財源を、歳出・歳入両面でカバーするとともに所得再分配につなげる道を探ってみたい。

◇   ◇

 歳出面では、全世代型社会保障がばらまきにならないようにすることが重要だ。教育の拡充は人的資本の向上を通じて経済を底上げし、格差是正の効果も期待される。しかし幼児教育については既に低所得者の無償化が図られており、新たに広がるのは中高所得者となる。無制限な拡大は逆に格差を拡大しかねない。

もりのぶ・しげき 50年生まれ。京都大法卒、旧大蔵省へ。大阪大博士(法学)。専門は租税法

 大学の無償化はさらに問題がある。無償化により質の悪い大学や勉学意欲に欠ける学生が増えかねない。無償化の対象は、低所得でかつ勉学意欲の高い学生に限定し、教育の質を高める大学改革とセットで進める工夫が必要だ。

 世界的に高水準の医療費については、18年度導入予定で医療・健康・介護分野の情報に付番する「医療等ID」の活用で一層の削減努力を進めるなど、高齢世代への社会保障の効率化を進めつつ勤労者向けの比重を高め全世代型社会保障にするのが望ましい。

 歳入面では、負担に余裕のある層、つまり富裕高齢層を中心とした負担増を図るなどの努力が必要だ。具体的には年金税制の見直しが考えられる。わが国の年金税制は、積立時は社会保険料控除で非課税、運用時も非課税だ。給付時は課税だが、高水準の公的年金等控除により大部分は非課税となっている。他の先進国では積立時もしくは給付時に課税される。わが国のような甘い年金税制は異例だ。

 見直しの対象は年金生活者全員ではなく、高所得の年金受給者に絞る必要がある。現在、年金受給者で勤労所得がある者には公的年金等控除と給与所得控除がダブル適用される(二重控除)ので、手直し(集約化)する必要がある。

 現在控除は1階・2階の公的年金部分だけでなく3階部分の企業年金にも適用されているが、公的年金に限定する必要がある。公的年金等控除により1兆8千億円程度の減収が生じており、高所得者だけ増税になる工夫をすればそれなりの増収が可能となる。

 また主として富裕高齢者に帰属する金融所得の分離課税率(国・地方で20%)の見直し、消費者・事業者・税務当局の負担を増やし1兆円の減収をもたらす消費税軽減税率の導入見送りが考えられる。

 わが国の税収構造は09年度に海外子会社からの配当には課税しないという改正がなされ、法人の利益増加が直接法人税収増につながりにくくなっている。税収確保策を地道に進めていく必要がある。

 こうした総合的な見直しにより社会保障の充実、財政再建、所得再分配が可能になり、世代間・世代内の公平性を高めることになる。本来これらが選挙の争点になるべきだ。



観光立国と地域の活性化(8)顧客と継続的な関係を構築北海道大学観 光学高等研究センター客員教授 山田桂一郎 2017/10/2 本日の日 本経済新聞より

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 企業が収益を安定させ、持続可能な経営を実現するには、各顧客との継続的な取引による収益(顧客生涯価値=CLTV)の向上を目指す必要があります。そのためには、単に良い商品を作れば売れるというプロダクトアウトの考え方ではなく、顧客が求めるものを提供するマーケットインの発想がより重要です。

 観光でも旅行者が求めるものを絶えず提供できれば地域への満足度が向上し、リピーターとして何度も訪れる可能性が高まります。CLTVを高めるためには前回までに説明した顧客情報管理(CRM)が必要になります。しかし、日本の観光地では地域単位のCRMという概念はほとんど理解されていません。個別のホテルチェーンや老舗旅館では実践されていますが、地域単位で旅行者の行動履歴や消費履歴のデータベースを基にマーケティングを行う例は限られています。

 これに対し、欧州の多くの観光地では各観光局が域内ホテルの宿泊データを一括管理する形で顧客データベースを持っているため、地域として旅行者一人ひとりのニーズに合わせた「One to Oneのマーケティング」が可能なのです。

 日本でも地域通貨のようなポイントカードの導入や地域のファンクラブ設立などで、顧客データベースの構築に取り組む地域は出ています。例えば宮城県気仙沼市の「気仙沼クルーカード」の会員制度は、地域単位でOne to Oneマーケティングを実践するCRMの仕組みになっています。

 顧客データベースがあれば、地域で個々の顧客の嗜好を把握するだけでなく、新商品を開発する際に会員への限定販売を通じてフィードバックを得ることも可能です。地域内で連携してマーケティングを行い、旅行者がより満足できる商品・サービスを継続して提供できるようになるのです。

 今後、観光地がマーケティングとブランディングを実践するためには、地域単位でCRMを構築し、CLTV向上が必須になるでしょう。地域内の経済循環を高めていくには、これこそが基本中の基本の方法ではないでしょうか。

(次回から「ソフトウエアの価値創造と日本」を連載します)



観光立国と地域の活性化(5)ハイエンド層の獲得カギ北海道大学観光 学高等研究センター客員教授 山田桂一郎 2017/9/27 本日の日本 経済新聞より

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 今回はどのようにして地域の市場規模を拡大していくかを説明します。まず底辺の長さが数量で、高さが価格の三角形を想像してみましょう。面積が地域全体の消費額となり、面積を増やすことが地域経済の活性化になります。これまで日本では「安い物を大量に売る」、つまり頂点の高さを変えずに底辺を横に広げることばかりに熱心でした。

 しかし、頂点を引き上げられれば、シャワー効果で裾野も広がり、市場が階層化することで事業者のすみ分けも可能になります。高付加価値化によって、その地域で可能な限り客単価を引き上げ、ハイエンド層の顧客を獲得することが市場拡大には有効なのです。

 これは一店舗にもあてはまります。例えばレストランで料理を一品一価格から「松、竹、梅」などと多層化することで客単価を引き上げられれば、収益増の可能性が高まります。食材によりコストをかけられるようになれば料理人の技能を生かせますし、価値がわかる顧客の増加はスタッフ意欲やお店の質的向上につながります。このように事業者単位でも地域全体でも、客単価の上限の引き上げは好循環をもたらします。

 2007年に北海道で筆者も協力して「1万円ランチ」が実現しました。北海道の食の多くが「素材の良さ、量の多さ、安さ」を売り物とする状況を打破するために企画したものです。道内の五つのレストランが毎日数量限定で提供したこともあり、すぐに先々まで予約で埋まっただけでなく、予約できなかった客も既存メニューの高額料理を積極的に選ぶ傾向がありました。「1万円のランチを提供する店なら他の料理もおいしいはず」とシャワー効果が発揮されたのです。

 当時他の店でも、1万円は難しくても、少しでも客単価を引き上げ、商品の多様な階層化による他店とのすみ分けに取り組んでいれば、地域経済への効果はもっと高まったでしょう。

 また観光客向けの商品・サービスだとしても、地元の住民に支持されているかどうかはとても重要です。地元で食べられていないB級グルメのように、地元で人気がなければ、わざわざ外部から食べにきてくれるはずがないからです。



観光立国と地域の活性化(4)「地産地消」ではなく「地消地産」北海 道大学観光学高等研究センター客員教授 山田桂一郎 2017/9/26 本日の日 本経済新聞より

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 地域経済を活性化するには、域内調達率を高めて波及効果を生むことが不可欠で、その手段として地元企業の利用や地元食材の購入などがあります。ここでカギとなるのが「地消地産」です。これは「旅行者が切望する高付加価値の商品を地域内で生産・販売する」という考え方です。旅行の目的地として選ばれるためには、当地でなければ入手できない、体験できない商品やサービスが必要です。

 これに対して「地産地消」は基本的に「地元で生産したものを地元で消費する」という考え方です。地域振興としては重要なことですが、最近は「余ったものや外部で売れなかったものを地元で何とか消費してもらう」という傾向が強くなってしまいました。

 売れない地産地消には主に2つの問題があります。余剰品や外部での売れ残り品の提供では、低価格になって肝心の利益が増えないことと、旅行者を引き付ける魅力に乏しいことです。一般的に遠方からの旅行者ほど旅先での消費額は増えますが、地元産であったとしてもどこにでもある商品ならば、旅行者は低価格品の購入に走ります。これでは高い収益は望めません。

 一方、「地消地産」とは地域の良い素材に手間をかけて価値の高い商品に仕上げ、「その地域でなくてはならない価値ある商品」にすることです。高品質を維持するためにも高い単価を設定する必要があります。

 そもそも地元の素材や事業者を利用しないのは、他の地域から仕入れた方が安く、そうしないと利益が確保できないからです。「地消地産」によって単価を上げて利幅が広がれば、地元の事業者や良い素材を利用し、地元の人を雇うことが可能になります。そうした事業者や労働者が地域内で消費すれば、お金の循環が生まれます。その地域ならではの高付加価値化で単価を引き上げ、需要を生み出すことが売上高と利益の増加につながるのです。

 もちろん、ただ高額な商品を作るだけでは売れないでしょう。そこで重要になるのが、「顧客が本当に欲しいコトやモノ」を、「顧客とのコミュニケーションの中で一緒に作り出していく」というマーケティングの実践です。



個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大 学教授 太田肇 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

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 本連載を締めくくるに当たり、組織と個人の関係性について説明しましょう。組織論では「分化」と「統合」を広い意味での対立概念としてとらえる伝統があります。こうした考え方をする以上、分化を進めるには限界があります。実際、経営者は社員の自律が大切だと理解していても、組織がバラバラになるのを恐れて尻込みしがちです。

 このジレンマから抜け出すカギは、機能と行動を切り離すことです。組織と個人の統合が必要なのは機能の面であり、個人の行動ではありません。一人ひとりが組織内で役割を果たし、組織に貢献している限り、行動はバラバラでもかまわないのです。そして通信技術の発達や経済のソフト化により、比較的容易に機能と行動を切り離せるようになりました。

 たとえば上司や同僚、取引先と電話やメールで連絡がとれれば自宅や外出先で仕事をしてもよいし、地球の裏側に住んでいてもよいのです。この連載で取り上げた多様な働き方、オフィス環境の見直しなども機能と行動の切り離しによって実現できるのです。経済活性化の目的から政府が推進しようとしている副業・兼業についても同じです。

 20年あまり前に筆者は全国の主要企業を対象に、統合の方法と生産性や満足度との関係を分析しました。その結果、行動を分化しながら機能として統合している「間接統合」企業の方が、分化せずに統合している「直接統合」企業より、業績も社員の満足度も高いことが判明しました(表)。当時に比べると情報通信技術は格段に進歩しており、行動と機能の切り離しははるかに容易になっています。個人を活(い)かすことが組織の利益にもつながる時代になったといえるでしょう。

(次回から「シニア雇用の人事管理」を連載します)



個を活かす組織をつくる(10)「行動」ではなく「機能」統合同志社大 学教授 太田肇 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

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 本連載を締めくくるに当たり、組織と個人の関係性について説明しましょう。組織論では「分化」と「統合」を広い意味での対立概念としてとらえる伝統があります。こうした考え方をする以上、分化を進めるには限界があります。実際、経営者は社員の自律が大切だと理解していても、組織がバラバラになるのを恐れて尻込みしがちです。

 このジレンマから抜け出すカギは、機能と行動を切り離すことです。組織と個人の統合が必要なのは機能の面であり、個人の行動ではありません。一人ひとりが組織内で役割を果たし、組織に貢献している限り、行動はバラバラでもかまわないのです。そして通信技術の発達や経済のソフト化により、比較的容易に機能と行動を切り離せるようになりました。

 たとえば上司や同僚、取引先と電話やメールで連絡がとれれば自宅や外出先で仕事をしてもよいし、地球の裏側に住んでいてもよいのです。この連載で取り上げた多様な働き方、オフィス環境の見直しなども機能と行動の切り離しによって実現できるのです。経済活性化の目的から政府が推進しようとしている副業・兼業についても同じです。

 20年あまり前に筆者は全国の主要企業を対象に、統合の方法と生産性や満足度との関係を分析しました。その結果、行動を分化しながら機能として統合している「間接統合」企業の方が、分化せずに統合している「直接統合」企業より、業績も社員の満足度も高いことが判明しました(表)。当時に比べると情報通信技術は格段に進歩しており、行動と機能の切り離しははるかに容易になっています。個人を活(い)かすことが組織の利益にもつながる時代になったといえるでしょう。

(次回から「シニア雇用の人事管理」を連載します)



個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学 教授 太田肇 2017/7/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学教授 太田肇」です。





 働きやすい職場にして個人の意欲と能力を最大限に発揮させるには、職場の物理的環境、とりわけオフィスのレイアウトを見直すことも重要です。

 日本企業のオフィスはたいてい大部屋で上司と部下が机を並べ、顔を突き合わせて仕事をするスタイルになっています。このようなオフィスは日本特有です。海外の企業では、管理職は個室に入り、一般の社員も図書館のように一人ひとりの空間が仕切られた机で仕事をするのが普通です。

 大部屋で仕切りのないオフィスは、周囲の人の仕事ぶりが一目でわかり、気軽に声をかけてコミュニケーションを取ることができます。したがって、単純な事務作業や集団作業をこなすのには適しています。また不慣れな人に仕事を教えたり、互いに手助けしたりするのにも便利です。

 しかし、創造的な仕事や難度の高い仕事をするのには不向きです。周囲から話しかけられたり、手元をのぞかれたりすると、集中力がそがれます。じっくり考え事や調べものをしていると、サボっているようにも見られます。

 すでに述べたようにIT化やソフト化によって単純な事務作業が減少し、創造的な仕事や高度な仕事が増えています。また人材が多様化し、女性や外国人などが一緒に働くのが普通になりつつありますが、彼らはとくにプライベートな空間が確保された職場を求めます。したがってオフィスのレイアウト見直しは喫緊の課題でしょう。

 欧米企業のように個室やパーティションで区切るとか、一人で集中して仕事ができる場所を設けるのがオーソドックスですが、別の方法もあります。たとえば机の向きを反対にして、窓や壁に向かって座るようにすればよいのです。部屋の真ん中にテーブルを置いておけば、必要なときにはミーティングもできます。実際にこのようなレイアウトに変えたところ、仕事がしやすくなり社員に好評だという声も聞かれます。

 ただ、いくらオフィスの環境を変えても仕事の分担や役割が不明確なままではさまざまな支障がでてきます。仕事の改革とオフィスの改革は並行して行うのが理想です。



個を活かす組織をつくる(7)職場レイアウトの見直し必要同志社大学 教授 太田肇 2017/7/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「月曜経済観測 エネルギー市場の行方は 再生エネ 流れ止まらずイベルドローラCEO イグナシオ・S・ガラン氏」です。





 エネルギーを巡る国際政治のせめぎ合いが激しくなっている。米国は温暖化の枠組み「パリ協定」を脱退する方針。中東では産油国のカタールやイランから目が離せない。世界のエネルギー市場はどこへ向かうのか。欧州、北米、南米などに展開する多国籍電力大手イベルドローラのイグナシオ・S・ガラン最高経営責任者(CEO)に聞いた。

公共交通が先行

 ――トランプ米大統領はエネルギー政策を転換しました。世界は化石燃料を重んじる時代に逆戻りするのでしょうか。

 「米国以外は引き続きパリ協定に残り、温暖化対策に取り組む。例えば自動車産業は電気自動車やハイブリッド車に置き換えようとしている。先取りしているのは公共交通機関だ。大都市のバスがディーゼルから電気に切り替わるのは遠い将来のことではない」

 「米国のエネルギー政策で大きな役割を担う州政府は、再生可能エネルギーを増やそうとしている。米国の大手企業も温暖化対策に貢献するため、クリーンなエネルギーを使おうとしている。再生エネの市場はまだまだ拡大する」

 ――欧州や中東に点在する政治リスクは多国籍企業にとって不安材料では。

 「台頭する保護主義は確かにリスクだし、高失業率に悩む国もある。だが様々な危機が終わり、景気は上向いている。世界経済は新興国にけん引されて年3%を超える成長を維持するだろう。(債務危機で苦しんだ)スペインでも雇用が生まれ、財政赤字が減った。ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が緩和の出口を探るところまできた」

 ――英国の欧州連合(EU)からの離脱は打撃ではありませんか。傘下に英電力大手があります。

 「英ポンドが下落し、ユーロ建てに計算し直せば会計上は影響が出る。ただ約120年前の創業以来、スペインでは内戦や(フランコ支配の)独裁政権を経験した。それでも民間企業として消費者に電力を供給するという姿勢を変えなかった。英国でも同じ。今後は再生エネに注力したい」

 ――再生エネは不安定だとの指摘があります。

 「原子力や火力発電所は24時間連続で運転できるが、メンテナンスなどで休止する。原子力は年7千時間、ガスや石炭は5千~6千時間稼働する。洋上風力発電はガスなどと遜色ない水準だ」

脱原発の実現を

 ――高コストでは。

 「発電所の新設で石炭か再生エネか迷うことはない。間違いなく後者。石炭は設備に加え、維持費用がかさむ。原子力は過渡期のエネルギー源だが安いというのは誤りだ。むしろ高くつく。スペインで7基の原発運営にかかわるが、燃料のウランだけでなく放射性廃棄物の管理・処分にコストがかかる。規制もどんどん厳しくなり、安全を守るため多額の投資が必要だ」

 ――脱原発になれば高度な専門技術が失われます。

 「確かにだれもが原発を持てるわけではない。(従業員の)訓練に膨大な資金を投じている。問題は利益が出ないこと。原発の段階的な廃止をスペイン政府に提案した。即実現は難しいが、ゆっくり(脱原発を)実現させるべきだ」

(聞き手は 欧州総局編集委員 赤川省吾)

 Ignacio S. Galan スペイン企業を世界有数の電力会社に育てた。66歳。



やさしい経済学 個を活かす組織をつくる(6)仕事の分担や 役割を明確に同志社大学教授 太田肇 2017/7/25 本日の日本経済 新聞より

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 今回は少し角度を変え、働く立場から日本の組織を考えてみましょう。「働き方改革」は安倍内閣の最重要課題の一つであり、その成否に国民の関心が集まっています。改革を進めるうえで大きな壁になっているのが、日本特有の集団主義的な執務体制です。

 現状の問題点として第一に挙げられるのが、主要国の中でも突出した長時間労働です。いろいろな原因がありますが、仕事の分担や個人の役割が不明確なことが大きな要因です。

 そのため調整や意思決定の会議や打ち合わせに多くの時間を取られます。また仕事の進捗が同僚など他人に依存しているので計画を立てにくく、早く帰るために要領よく片付けようという意欲も起きません。さらに上司や同僚が残っていたら先に帰りにくいという雰囲気もあります。有給休暇を残す理由として半数近くの人が「職場の他の人に迷惑をかける」「周囲の人が取らないので取りにくい」を挙げています(労働政策研究・研修機構の2010年調査)。

 女性の管理職登用も重要な政策目標ですが、昇進すると時間的・精神的・肉体的な負担が増えるという理由から尻込みする人が少なくありません。昇進したら残業が増えるだけでなく、諸々の仕事が付随するため人間関係のストレスも大きくなるからです。

 仕事の分担や個人の役割を明確にすれば、自分のペースで仕事がこなせるようになり、効率的に片付けて早く帰ろうというモチベーションも生まれます。管理職の役割が限定されれば、昇進しても余分な仕事を抱え込まなくてもすむでしょう。フレックスタイムや在宅勤務、モバイルワークといった新しい勤務形態も利用しやすくなります。

 もちろん、それで残業が増える人も出てくるでしょう。しかし、業務量の偏りや能力不足といった問題点も見えてくるので対策が打てるようになります。またセクハラやパワハラは上司に対して部下が過度に依存することに起因するケースが多い現実を考えれば、分担や役割を明確にして部下に必要な権限を与えることが、働きやすい職場をつくるうえでどれだけ大切か理解できるでしょう。