カテゴリー別アーカイブ: 経済

若田部氏 具体論は封印 日銀副総裁候補の所信表明が終了金融緩 和出口、距離も鮮明に 2018/3/8 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「若田部氏 具体論は封印 日銀副総裁候補の所信表明が終了金融緩和出口、距離も鮮明に」です。





 日銀の次の正副総裁候補による所信表明が7日までに終わった。副総裁候補で金融緩和に前向きな主張をしてきたリフレ派の若田部昌澄早大教授は持論を抑えつつ、追加緩和の条件や共同声明の見直し論に言及した。世界の中央銀行が進める金融緩和の縮小には、日銀はまだ遠いという現実がにじみ出た。

安全運転に終始した早大の若田部教授(7日、参院議運委)

安全運転に終始した日銀の雨宮理事(7日、参院議運委)

 「(緩和手法の)具体的なことは差し控える」。衆院で5日に開かれた所信質疑。若田部氏のこの発言を、希望の党の津村啓介衆院議員がとがめた。「金融政策決定会合のメンバーとしてふさわしいかを議論しているのに、話せないのはおかしい」

 今は衆参両院で与党が過半数の議席をおさえ、若田部氏の副総裁就任はほぼ確実だ。それでも所信が注目されたのは、若田部氏の考えがこれからの金融政策に大きな影響を与えるからだ。

 若田部氏は最近まで、リフレ派として具体論を発信していた。現在、日銀が年80兆円をめどとする保有長期国債の増加量を年90兆円に増やすべきだと主張。副総裁になってもこう主張するなら、金融緩和を手じまいする「出口」の議論は遠い。

■  ■

 市場関係者の間では「若田部氏は岩田規久男副総裁の教訓を意識した」(みずほ証券の上野泰也氏)との見方がもっぱらだ。2年で目標を達成できなければ辞任するとまでした岩田氏は、後に弁明に追われた。

 若田部氏は「経済学者として主張してきた」や「日銀の持っているデータを精査したい」などと語り、言質をとられることを避けた。現行の政策に賛成しても批判されないように保険をかけたようにも見える。だが、これでは金融政策の方向性は見えにくい。

 7日の参院議院運営委員会で若田部氏は、2%の物価安定目標を明記した政府と日銀による共同声明の見直しを「改善するなら日銀内でも議論すべきだ」と主張した。具体的には「名目国内総生産(GDP)を600兆円」とする政府目標を共同声明に明記することなどが「日銀でも研究できる」とした。

 仮に名目GDPを目標に掲げれば、日銀は成長に向けても責任を負う形になる。2%の物価安定目標を達成しても、GDP目標も達成するまでは緩和を続けるという論拠になりえる。

 衆参両院で1日ずつあった所信表明の機会。発言を注意深く見た市場関係者が反応したのは緩和の強化ではなく、縮小を巡る発言だ。2日に黒田東彦総裁が金融緩和の出口戦略を2019年度には議論すると発言したと伝わると、市場は踏み込んだ発言と誤解して円高と金利上昇で反応した。

■  ■

 これに対し若田部氏は追加緩和の条件について「(19年度までに2%の物価上昇という)メインシナリオがどれくらい遅れるかがポイント」と語り、出口の議論とは距離を置いた。だが若田部氏の発言には市場はほとんど反応していない。緩和縮小の時期を探る市場関係者にとっては、具体論を避けた若田部氏の発言は材料視するほどには至らなかった。

 もう一人の副総裁候補である雨宮正佳日銀理事は「出口で本当に重要なのは手段ではなく、市場とのコミュニケーションだ」と語った。過去の5年は市場への「サプライズ」が注目されたが、政策立案をしてきた雨宮氏は「サプライズ狙いで政策を作ったことはなく、サプライズの政策効果はおそらく長続きしない」と発言。市場との対話が課題との認識は日銀内に定着している。

 今回の所信表明では金融緩和を継続する点では各候補の発言は一致した。だが、その先の具体論はあまり語られず、不透明感は残る。

 日銀は8~9日に現体制で最後となる定例の金融政策決定会合を開く。会合では現在の金融政策の維持が決まる見通しだ。現体制の大きな課題となった市場との対話は、新体制に引き継がれる。

(前田尚歩)



消えるGDP22兆円 大廃業時代 (3) 低金利下の「慈 雨」 承継は商機、地域金融が動く 2018/3/1 本日の日本経済新聞 より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「消えるGDP22兆円 大廃業時代 (3) 低金利下の「慈雨」 承継は商機、地域金融が動く」です。





 北陸地方が豪雪に見舞われた2月上旬。しんしんと雪が降り積もるなか、新潟市内で50年以上続く老舗タクシー会社のハマタクシーが、都内で運送業を営むワイケーホールディングス(東京・千代田)に会社を譲渡した。

■地方ほど深刻、新潟は2年連続でトップに

 「これからのことを考えませんか」。きっかけは約1年前、創業時からメインの新潟信用金庫(新潟市)の担当者がハマタクシーの小林信太郎社長(66)を訪問したことだ。先代から会社を引き継いだ後、中心市街地の衰退で売り上げが減少。高齢者が多い地区では移動の足として親しまれてきたが、2億円近い債務超過を抱えて経営の方向は見いだせずにいた。「これで地域の雇用とインフラの役割を守れる」。小林社長は胸をなで下ろす。

ハマタクシーの会社譲渡は新潟信金が仲介(調印式に臨んだ小林社長)

 帝国データバンクによると、新潟県は「休廃業・解散率」が2016、17年と2年連続で全国トップ。今回の案件は新潟信金にとってM&A(合併・買収)仲介の第1号案件だ。「増え続ける事業承継の需要にまだまだ対応していく必要がある」。県内大手の第四銀行と北越銀行が統合を決め取り巻く環境が激変するなか、小松茂樹理事長は次の案件を見据える。

 人口減少が進む地方ほど廃業の増加はより深刻な問題だ。雇用や消費も減り、地域経済の弱体化に直結する。地域金融機関にとって取引先の先細りは死活問題になる。

 ただ見方を変えれば、大廃業時代の入り口は金融機関にとってビジネスチャンスにもなり得る。事業承継の仲介などの法人業務で金融機関が得る手数料は、企業向け貸し出しや個人向けの投資信託などの販売手数料の収益を大きく上回る。マイナス金利という逆風が吹き続けるなかで、仲介業務は干天の慈雨になる。

 危機感と新たな収益源探しという異なる動機が地銀や信金を走らせる。人口減少率が4年連続で全国1位の秋田県。秋田銀行は昨年12月、明治時代から続く酒蔵で後継者難に悩むかづの銘酒(秋田県鹿角市)を、居酒屋「半兵ヱ」などを全国展開する外食チェーンのドリームリンク(秋田市)と引き合わせた。「地域の核となる企業に伝統産業を首都圏に発信してほしい」(地域サポート部)

■地銀・信金は黒子役、ノウハウを伝授

 地銀・信金を黒子として支えるのが日本M&Aセンターだ。これまでに98地銀・204信金と提携。提携先の行員を受け入れ、半年から1年間の研修で相続や事業承継に関するノウハウを教え込む。「広域で相手先を探すことで新規事業の創出につながることもある」(鈴木安夫金融法人部長)。2月には日本政策投資銀行との折半出資で専門のファンドも設立した。

 人材紹介のビズリーチ(東京・渋谷)も昨年11月、インターネット上でM&Aを検討する企業同士を検索できる新サービスを始めた。「外部の人材への事業承継という選択肢が当たり前になるように橋渡しをしていきたい」。南壮一郎社長は狙いを話す。

 長年続いてきた会社を第三者に売る決断をためらう中小企業の経営者は多い。地銀や商工会議所が開く事業承継セミナーでは、知り合いがいない遠方をわざわざ選んで参加する人も相当数いるという。経営者にとってデリケートな問題だからこそ、そこに一歩踏み込んで選択肢を広げる地銀などの役割が重要になる。

 中小企業に深く入り込み信頼を得る。地域金融機関にとって自らの存在が問われるのが大廃業時代だ。



脱デフレへの道 日銀次の5年(2)市場の信頼回復できるか黒田 氏再任消えぬ出口観測 2018/2/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「脱デフレへの道 日銀次の5年(2)市場の信頼回復できるか黒田氏再任消えぬ出口観測」です。





 黒田東彦総裁の再任を核とする日銀人事案が示された16日、為替ディーラーの一人が漏らした。「もう人事は材料にならない」。本来、金融緩和の継続や強化なら円安が進むはずだが、現実は円高が進行。市場には疑心暗鬼が先立つ。

黒田総裁のサプライズ戦法はリスクになり得る

得意技に限界

 2017年秋以降、「日銀がこっそり正常化を進めようとしている」との見方が急速に広がった。国債の買い入れ減額をめぐり黒田氏は「先行きの政策スタンスを示さない」と強調するが、日を追うごとに買い入れ額は減る。みずほ証券の香月康伸氏は「(緩和継続という)日銀の説明を市場はまったく信じなくなった」と話す。

 みずほ証券が国内債券運用者らを対象に昨年末に実施した調査では、18年度中に金利誘導水準の引き上げなど政策の修正があるとの見方は過半を超えた。日銀が火消しをしても市場は冷めた目を向ける。

 市場の意表を突き、驚きを与え、緩和の効果を高める手法は黒田氏の得意技。異次元緩和前に1ドル=100円を割っていた円は一気に円安・ドル高方向に振れ、株式相場も上昇し、市場は「バズーカ砲」とはやした。

 16年9月に国債買い入れの「量」重視から金利操作を主軸とする手法に転換した時も、黒田氏は「従来より一段と強力な金融緩和を進める」とした。だが直近まで日銀の審議委員だった木内登英氏はこの方針変更を「まぎれもなく事実上の正常化策」と断言。黒田氏も容認していると指摘し、次の5年も正常化への道は続くとみる。

 かたや日銀が「19年度ごろ」と説明する2%の物価安定目標の達成時期。民間エコノミストらが時期を疑っても日銀は強気な姿勢を崩さない。ここで2%目標を下ろしたり、また達成時期を先延ばしたりすれば日銀への信頼は一気に薄れるが、市場はもっと見透かしている。「2%目標は円高進行を阻止するための手段にすぎない」

「文章で明示を」

 いまや市場は日銀の緩和継続を円売りの材料と位置づけなくなった。足元で相場を動かすのは米国の財政や金融政策であって、日銀のスタンスや物言いではない。これではドル売り・円高の流れは止まりにくい。

 驚きが大きく期待が高まるほど、外れた時の失望も大きくなる。当初はあたったサプライズ戦法も、慎重さが求められる正常化の局面ではリスクになり得る。信頼が失われつつあるなかでの正常化は、緩和継続よりはるかに難しい。

 ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明氏は「この5年間に生まれた日銀と市場との認識の行き違いを修復するのが1番の課題だ」と指摘する。菅野氏は米連邦準備理事会(FRB)が正常化の過程で市場と慎重に対話を進めた点を評価。そのうえで「海外勢の理解も得るには、政策の真意を伝えるために検証リポートなどでの明示も必要だ」と訴えている。

(中村結)



経団連の針路(下) 政権との蜜月、修正の時 財政再建、 問われる発言力 2018/2/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「経団連の針路(下) 政権との蜜月、修正の時 財政再建、問われる発言力」です。





 経団連と時の政権との間合いは振り子のように行き来してきた。旧民主党政権時代、1ドル=70円台の超円高や厳しい労働規制、電気料金の上昇など「6重苦」ともいわれた外部環境の悪化が経済界を追い詰めた。安倍晋三首相の登場は時代の転換を予感させたが、当時の米倉弘昌・経団連会長はアベノミクスの柱の一つである金融政策を巡り政権とぎくしゃくした。

 榊原定征会長は2014年6月の就任会見で「政治との連携を一段と強めて強い経済の実現に向けて最大限協力する」と述べ、政権との関係改善にかじを切った。榊原氏は旧民主党政権で「外交が破壊されて経済が混迷した」とみていた。デフレ脱却を共通の目標に安倍政権と経団連の異例の蜜月関係が始まった。

 そして今、アベノミクスの成果でデフレ脱却の足音が聞こえている。円相場は政権発足前と比べ大幅な円安水準となり、法人実効税率も29%台まで下がった。6重苦が解消に向かうとともに、政権と経済界の関係も変化が迫られている。

 「アベノミクスは新しいステージに入るべきだ」。日本商工会議所の三村明夫会頭は14日の講演でこう主張した。日銀の異次元緩和などで日本経済は最悪期を脱し「政策を切り替える時期が来た」とした。

 その象徴が国内総生産(GDP)を600兆円に増やす政策目標の変更だ。三村氏は1人あたりの労働生産性を提唱。人口減少で増加が見込みにくくなるGDPよりも「個人の経済的な幸福」が測りやすいと訴える。榊原氏が18年の年頭所感のテーマを「GDP600兆円にまい進する年に」としたのとは対照的だ。

 三村氏は経済情勢が好転し「経済界が政権に距離を置かないといけない場面が増える」とみる。安倍政権の5年間で実現していない政策は労働規制の緩和や財政再建など世論の反発が予想される分野だ。経済界が是々非々で政権の背中を押す必要性が今よりも高まる。

 蜜月関係にはひずみも出ている。昨年秋に経済界で論争を呼んだ子育て支援に充てる3000億円の企業負担。「いつも申し訳ありませんねえ」と首相が負担を要請すると、その数分後に榊原氏は「応分の協力」をあっさりと表明した。経団連内でも議論は乏しい決定だった。「負担の受け入れと引き換えに政権側に政策を要求するチャンスを逃した」(経済団体幹部)との声があがる。

 経団連にとって最大の試練が財政再建だ。財政再建の必要性を訴えると、政権は16年に大企業社員の介護負担の増加、17年には企業の子育て負担の増加を決めた。「財源を企業に求めて財政再建を演出している」(経団連関係者)。本丸の社会保障費の抑制や消費税率の引き上げは政権にとってハードルが高い。

 エネルギーやIT(情報技術)に関して滑らかに語る中西宏明・次期経団連会長。一方で消費税や社会保障改革への言及は現時点で皆無だ。榊原氏は政策ビジョンに消費税率を10%後半に引き上げる必要があると盛り込んだ。中西氏はこのビジョンを引き継ぐ意向を示したが、財政再建を政権にどう迫るのか。蜜月の先の姿はまだ見えない。

 中村亮が担当しました。



ホテル・旅館1室でも開業 厚労省、訪日客増へ規制撤廃 古 民家活用促す 2018/1/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「ホテル・旅館1室でも開業 厚労省、訪日客増へ規制撤廃 古民家活用促す」です。





 厚生労働省は、ホテルや旅館の客室数規制を撤廃する。ホテルは10室以上、旅館は5室以上の客室が必要だったが、1月末から1室しかなくても営業できるようにする。客室の最低床面積の規制も緩め、古民家の改修などを促す。住宅に旅行者を有料で泊める民泊の解禁とあわせ経営側の選択肢を増やし、訪日観光客取り込みにつなげる。

規制緩和で古民家などの付加価値を高める(千葉県大多喜町)

 2017年の訪日客は2800万人を超え、政府は20年に4千万人に引き上げる目標を掲げている。訪日客の増加で首都圏や関西圏を中心にホテルの稼働率は高まっており、受け皿をどう広げるかが課題だ。

 今年6月には、民泊を全国で解禁する法律が施行される。政府は訪日客の増加につながると期待するが「営業日数は年間180日まで」などの規制もある。治安への不安から自治体が営業できる地域や曜日を限定するなど独自の上乗せ規制を設ける動きも多い。

 大型ホテルなどの整備には時間がかかるうえ、建設コストも上昇。政府は古民家や都心の下町に立つ下宿施設など小規模施設もホテル・旅館として運営しやすくする方策が欠かせないと考えた。1月末に旅館業法に関連する政令を改正する。

 客室数の下限規制をなくすほか、客室の最低床面積の規制も緩める。これまでホテルの洋式客室は9平方メートル以上、旅館の和式客室は7平方メートル以上だったが、新基準ではベッドを置かない場合は7平方メートルあれば認める。

 ホテル旅館に義務付けられたフロントの設置基準も緩める。例えばビデオカメラによる顔認証で本人確認ができれば、フロントが不要になる。このほか昨年12月の自治体への通知でも規制を緩めており、収容定員ごとに定めたトイレの数や、フロントや宴会場など場所ごとに決めていた明るさの基準を撤廃した。

 施設ごとの規制緩和のほか、近隣の小規模施設との一体運営もしやすくする。緊急時に10分程度で職員が駆けつけられれば、フロントを1カ所に置き、共有できるようにする。

 日本政策投資銀行が15年4月にまとめたリポートによると、建築基準法が制定された1950年以前に建った木造建築は156万6200軒ある。日本家屋の風情を楽しめる地域資源として観光施設として改修する動きも出始めた。

 5室未満の施設はこれまでも簡易宿所としては営業できた。ただ不特定多数の客が1室に泊まることを前提にしていたため、1部屋に複数のトイレを設けるなど改修コストがかさむ例があった。

 古民家を生かした旅館を展開する一般社団法人ノオト(兵庫県篠山市)の金野幸雄代表理事は「規制緩和で改修費を抑えられる」と語る。部屋の区切り方や照明の明るさなどの設計も自由度が高まるため「古民家の付加価値を高めて富裕層なども呼び込みやすくなる」と指摘する。



副業しやすく ルール修正厚労省、本業との労働時間合算など検討 「働き方」整合性も課題 2017/11/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「副業しやすく ルール修正厚労省、本業との労働時間合算など検討 「働き方」整合性も課題」です。





 複数の職場で働く人をめぐる就労管理のルールが変わる可能性が出てきた。厚生労働省は複数の勤務先での労働時間を合算する仕組みの見直しを考える。組織をまたぐ就労管理は実態に合わないだけでなく、従業員の副業を阻む要因になっているためだ。厚労省は心身に悪影響を及ぼす長時間労働を避けることにも配慮しながら、慎重に見直しを探っていく。

 厚労省は労働関係法制に詳しい学者らでつくる会議で2018年に検討を始める予定。労働基準法を改める可能性を考えながら、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の場で労使を交えて議論をする。早ければ20年の国会に法案を出し、21年に仕組みを変える。

 いまの労基法は労働時間の管理について、労働者がいくつかの企業で働く場合にはすべて合計するのが前提だ。ある人がいくつかの企業で1日8時間といった法定時間を超えて働くと、法律の上では残業代がもらえることになっている。

 例えば昼間に「本業」のA社で8時間、夕方以降に「副業」のB社で2時間働いている場合、法律の原則ではB社が残業代を支給する。わずか2時間しか働いていないB社が残業代を支給する義務を負い、B社のコストがかさんでしまう。こうしたルールの存在が日本で副業が広がらない一因とされている。

 実際には「本業」と「副業」の企業がそれぞれの労働時間を互いに把握するのは難しい。そのため「ルールが有効に機能していない」(労働法に詳しい小西康之・明治大教授)という面もある。産業医の面談など従業員の健康管理にまつわる義務を、どちらの企業が果たすのかもあいまいになっている。

 厚労省はこうした実態を踏まえルールの見直しが必要だと見ている。海外には労働者が自らを労働時間規制の対象外とすることを選べる制度などがある。同省は海外の事例も参考にしながら、いまの規定をどう改めるか議論していく。

 長時間労働を無くそうと政府が旗を振る「働き方改革」とどう整合させるかも課題になる。政府は早ければ19年度にも残業時間に年720時間といった上限規制をつくる。仮に勤務先ごとに完全に別々の就労管理になれば、ある労働者がいくつかの職場をまたいで異常な長時間労働を続けても、外部から見つけにくくなってしまう。

 離職せず別の仕事に挑める「副業」はキャリアや技能の向上につながる利点がある。半面、「本業」がおろそかになるなどの懸念が経営側に強い。

 中小企業庁の14年度の調査では企業の85.3%が副業を認めていない。政府は人々が副業にも取り組みやすい環境づくりを目指している。



頂は8兆円訪日消費倍増の道(下)「観光公害」乗り越えろ新税、使い道 見えにくく 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「頂は8兆円訪日消費倍増の道(下)「観光公害」乗り越えろ新税、使い道見えにくく」です。





 秋の行楽シーズンまっただ中の街角にため息が漏れた。訪日客急増を受けて、JR京都駅発の市営バスは、乗るまでに時に50人以上の列ができる。「5本見送ることもありますよ」。京都市内に住む40代の男性会社員は話す。混雑の度合いも、東京の通勤ラッシュ時に引けを取らない。

訪日客増のあおりで市営バスには長蛇の列ができる(JR京都駅前)

 京都府を訪れた外国人観光客は2016年時点で661万人となり、15年比で4割増えた。地元経済にとってうれしい悲鳴のはずなのに、日常生活を送る人からはこんなつぶやきも出始めた。「観光公害」――。

 観光地・祇園を含む東山地区で最近、ホテルや旅館、ゲストハウスなど正規の宿泊施設ではなく、ワンルームマンションに消えていく訪日客の姿が大幅に増えた。認証事業者を通さないヤミ民泊。ある旅館の関係者は「数は分からないが、おかげで稼働率が落ち始めた」と漏らす。

 京都市は来秋から宿泊税を導入する。日本人も対象にし1人1泊200~1000円を宿泊代に上乗せする。新税導入でヤミ民泊のあぶり出しや取り締まり強化の効果も狙うが、客足が伸びる中での負担増が観光需要に響きかねない。とかく「税をとって、使い道をどうする」という要の視点が見えにくい。

出国税で負担増

 日本から出国する人に課す新税「観光促進税」(出国税)の早期導入に傾く国も、スタンスは同じだ。

 19年度にも導入し、訪日客だけでなく日本人も対象とし、1人1000円を求めることで固まってきた。ではその先は。400億円ほど税収が増えた分を「地域の文化をいかした観光政策」や「出入国管理の強化」などに振り向けるというが、今のところ、これまでの関係省庁の予算の拡充にしか映らない。

 観光庁の17年度予算は200億円ほど。国全体の観光関連予算は15年度時点で3千億円を超えており、法務省、文化庁、農林水産省などがそれぞれ観光庁と似通った事業を抱える。

 例えば法務省はすでに出入国審査の充実に向けた予算がある。新税が観光を名目にした負担増やバラマキにつながりかねない。14日の自民党の観光立国調査会でも「野放図な歳出(拡大)につなげてはいけない」とクギを刺す声が出た。

予算配分明確に

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの塚田裕昭氏は「20年の旅客目標は射程圏内でも8兆円目標は厳しい」と話し、少なくとも政府は「いろいろな国の人が長く滞在できるような環境整備に予算を回すべきだ」と続ける。厳しい財政事情に考慮しつつ、いまある3千億円ほどのお金に新税の分を加え、目標達成に向けた「最適な配分」の絵を示す必要がある。

 観光業は人口減に直面する日本にあって、数少ない成長産業といえる。国際観光収入が世界で最も多い米国は年間20兆円を稼ぎ、日本の目標の約3倍を手にした。フランスも体験を楽しむ「コト消費」のメニューを充実させ、年8千万人を超える観光客が訪れる。5合目の今、明快で具体的な戦略をもう一度練り上げる時期が来た。

 馬場燃が担当しました。



頂は8兆円 訪日消費、倍増への道(上) 実るか「超 オモテナシ」 2017/11/16 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「頂は8兆円 訪日消費、倍増への道(上) 実るか「超オモテナシ」 」です。





 訪日外国人の消費額が今年初めて4兆円を超えそうだ。中国人観光客らによる爆買いは一服したが、足元では堅調だ。政府の最終目標は2020年に今の2倍の8兆円だ。夢物語にさえ映るこの目標に向けて、現在地と課題を探った。

 11月上旬、東京・渋谷の料理教室に笑顔がはじけた。「マユコズリトルキッチン」は訪日客向けの料理教室で、オーナーの岡田真由子さんの自宅で一緒に日本食を作る。

■見え始めた天井

 この日のメインは巻きずしと豚のしょうが焼き、初めてダシからとった味噌汁に「自分で作るととてもおいしい」との声があがる。カナダから親子3人で参加したエイプリール・ヘネガーさんは、日本流のおもてなしに感心しきりだった。

 

日常生活の再現が「コト消費」につながる(東京都渋谷区のマユコズリトルキッチン)

費用は1人あたり1万1千円で、参加者は日本の料理や観光の話題で盛り上がる。人気はスシ、ギョーザ、お好み焼き。口コミ旅行サイト「トリップアドバイザー」ではおよそ500人が最高評価の5点を投じ、欧米からの予約が相次ぐ。岡田さんは料理を通じて「普通の日常生活を体験してもらいたい」と語る。

 訪日客の動向はその数も消費額も見かけのうえでは好調だ。客数は11月4日で16年の2403万人を突破した。消費も1~9月で3兆円を超え、16年の同じ時期より15%伸びた。

 ただ内実には壁と天井がちらつく。

 8割強のアジア勢のほとんどが団体客で、個人客よりお金が落ちにくいとされいずれ伸びは陰る。実際に何に使ったかも依然買い物が最も多く、「娯楽・サービス」は全体の3%どまりだ。岡田さんのような「コト消費」を喚起する取り組みは広がっていない。

■動き出す「1泊100万円」構想

 

「従来の観光では問題解決にならない」。観光庁が10月末に開いた訪日消費に関する検討会で、田村明比古長官はこのままでは目標の8兆円達成は難しいとの認識をにじませた。

 訪日消費は現在1人あたり約15万円で、目標にはさらに消費を積み上げて、20万円に引き上げないと届かない。国に妙案は乏しいが、地方には「超」がつく独自のおもてなしに動く企業もある。

 鹿児島県霧島市の温泉リゾート施設「天空の森」。JR九州の豪華周遊列車「ななつ星」が立ち寄ることでも人気を集める。東京ドーム13個分に相当する60ヘクタールの敷地にある宿泊施設は3棟しかない。料金は1泊で1人15万~25万円だ。

 オーナーの田島建夫さんは10億円弱を投じ、25年をかけて今のリゾート施設に仕立てた。昨年、海外の富裕層が3泊で400万円を使い、大自然の中でゆっくりと過ごした。

 田島さんは「地域の個性を最大限にいかし新たな観光のスタイルを打ちだす」と意気込む。来春、プライベート機による送迎や有名シェフの料理なども加えた「究極の貸し切りサービス」を始める予定だ。「1人1泊で最低100万円」の構想が動き出した。

 消費8兆円へ種はある。あとは芽吹き実るか。官と民の知恵と工夫で、金額と客層の裾野を広げなければ頂にはたどりつけない。時間はあと3年しかない。



所得税改革3年程度かけ実現 宮沢自民党税調会長 2017/11/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「所得税改革3年程度かけ実現 宮沢自民党税調会長」です。





 自民党の宮沢洋一税制調査会長は9日、日本経済新聞のインタビューで改めて所得税改革への意欲を示した。今後3年ほどかけて実現を目指す。各種控除を見直して所得の再分配を強化するほか、多様な働き方を税制面で後押しする狙いもある。ただ、高額所得者の負担が重くなりすぎると働く意欲をそぐ懸念もある。納税者の財布に直結するだけに丁寧に議論を進める。

 宮沢氏は「今年は基礎控除と給与所得控除の見直しを議論する」と表明した。所得税改革は課税所得の計算にあたり一律38万円を差し引ける基礎控除や給与から一定額を差し引く給与所得控除を見直す大がかりなものとなる。

 所得税は所得金額から基礎控除など一定額を引いた上で税率をかける。税率は所得額につれて高くなる累進構造になっており、高所得者ほど控除の恩恵が大きくなる。宮沢氏は「逆進的なものをどう考えるのかという観点がある」と指摘。基礎控除については、高所得者の控除減額や低所得者に有利な税額控除方式の導入を検討するとした。

 給与所得控除は会社員が実際にかかった経費ではなく、概算で一定額を給与収入から差し引く仕組み。副業やフリーランスとして働く人が増え、システムエンジニアなど企業に雇用される労働者に近い「雇用的自営業」は自営業者の3割弱にまで拡大した。会社員中心の税制は時代遅れになりつつある。

 宮沢氏は「請負契約などの形態で仕事をしている人が多くなっている」と強調。働き方の変化を踏まえて見直しを検討する。高額な報酬を得ている高齢者の年金課税も見直す方向だ。

 もっとも一連の改革は高所得者の負担を増やし、低所得者の負担を減らす方向になる。宮沢氏は「2019年度改正、20年度改正まで視野に入れなければいけない」と指摘。「相当に慎重な議論をしないといけない。性急に結論を出せる話ではない」と述べ、慎重に議論を進める意向をにじませた。

 所得税改革は「取れるところから取る」という批判もつきまとう。高所得者狙い撃ちの増税は働く意欲を阻害しかねない。宮沢氏も「勤労意欲をそぐことがあっては身もふたもない」と話した。

 加熱式たばこの税率引き上げは「どの程度まで上げられるか考えないといけない」と話した一方、紙巻きたばこについては「私の中で(税額を)上げるという判断はしていない」と述べるにとどめた。森林整備に充てる新税の森林環境税は「消費増税の導入後にならざるを得ない」としながらも導入する方針を示した。



財政規律 未来からの警鐘(2) インフラ維持ずしり「第 2の社会保障費」防げ 2017/11/9 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「財政規律 未来からの警鐘(2) インフラ維持ずしり「第2の社会保障費」防げ」です。





 203X年。人口100人に満たない東北のある農村で、恒例の年度末の道路工事が始まった。高齢の建設作業者の動きはおしなべて鈍い。過疎化が進んだ地域では若者が村を去り、半分以上が空き家だ。先日90歳の誕生日を迎えた女性は作業を遠目にしながらつぶやいた。「誰も車で通らない道なのに、なぜ工事を毎年続けるのかしら」――。

画像の拡大

 日本の公共投資が曲がり角を迎えている。国土交通省の試算では、道路や港湾などのインフラ維持費は33年度に最大5.5兆円に上る。13年度に比べ2兆円ほど増える。東洋大学の根本祐二教授は「今後50年で約450兆円のインフラ更新予算がいる」という。日本の財政の根幹を揺るがしかねない重い負担だ。

 戦後の日本は国土の開発を拡張し続けてきた。バブル経済が崩壊し、日本がデフレに入った後も公共投資は景気対策の主軸として膨らんだ。公共事業予算は1998年度のピークで15兆円。道路や橋になりふり構わずお金を投じた。

 公共投資にメスを入れた時期もあった。06年、当時の小泉政権は公共投資を5年にわたり3%削る方針を掲げた。当時の竹中平蔵総務相は「ムダな公共事業はどうして出るのか。予測が過大で、後から不要になる」と指摘。人口変化を踏まえた見直しを求めた。

 縮む日本の姿とは逆行し、公共投資は一段と膨らむ気配がある。18年度予算の概算要求額は前の年度比16%増の6兆円超。被害の大きい自然災害が相次ぎ、防災や減災の対策費を増やす。前例踏襲型の予算を続けると、インフラの維持補修はどんどん積み重なる。

 「今やっていることでも捨てることもある」。国交省の若手官僚による政策提言会。30年に向け、こんな意見が出た。公共投資を主管する役所も将来への不安に覆われている。30代の男性官僚は「公共投資を増え続ける『第2の社会保障費』にしてはいけない」と語る。国土の未来図を視野に入れ、予算をうまく再配分する必要がある。

(馬場燃、石橋茉莉)