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風見鶏 負けに不思議の負けなし 2017/12/10 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の面にある「風見鶏 負けに不思議の負けなし」です。





 いま外相の自民党の河野太郎氏に、かつて友人が尋ねた。「なぜ左寄りの主張をするの」。河野氏は何と答えたか。「そもそも自民党支持者は保守の人が多い。もっと支持を広げるなら、左に伸ばすのは当然でしょ」。河野氏は小選挙区制が導入された1996年衆院選での初出馬から8期連続当選。「選挙に強い議員」として知られる。

 同党の小泉進次郎氏にも似た発言がある。10月の衆院選の選挙戦最終日、地元・神奈川県横須賀市での最後の街頭演説。「1億2千万通りの生き方、価値観がある。多くの人が『自民党は分かってくれる』と思う政党が真の国民政党だ」

 共通するのは「右から左まで、広く国民の支持を得たい」という考え方だ。「タカ派的」「右寄り」ともいわれる安倍晋三総裁(首相)を担ぐ自民党だが、リベラル寄りの議員も多い。国民各層の幅広い支持を得る「包括政党」「国民政党」を目指す政党でもある。

 10月の衆院選で、2人の考え方とは対照的な道を選んだ政党があった。政権選択を掲げた希望の党だ。

 同党の小池百合子代表(当時)は、理念や政策が異なる人物を「排除します」と表明した。合流希望者には、安全保障関連法や憲法改正への賛成を求め、左派やリベラルを拒んだ。自民党より保守に純化した結果、公示前勢力割れの50議席しかとれず、惨敗した。

 希望の党の敗因を「排除の論理が世論の反発を招いた」と分析する声もあったが、政治の理論ではどう映るのだろう。政党の競争や連立を研究する東大教授の加藤淳子氏に聞いてみた。

 「自民党を上回る支持を得て政権を目指すなら、自民党より狭い保守の立場をとる戦略は非現実的」。明快な答えが返ってきた。

 小選挙区制の当選者は1選挙区で1人だけ。加藤氏は「保守の自民党とは異なる位置で、多くの支持を得られる『中道』を含む位置が有利」と話す。理論上は保守で競合するより真ん中辺りの厚い「中道」を挟んで有権者に訴えた方が多くの支持が得やすいとみる。

 希望の党の失速は過去の政党再編からも予見できた、という。「自民党より右寄り」ともいわれた新進党の失敗だ。自民党と競う「保守二大政党」を目指したが、96年衆院選で議席を増やせなかった。翌97年には当時の小沢一郎党首が「保・保連合」に傾斜し、同氏に近い議員との「純化路線」をとって解党した。

 その新進党と対照的だったのは、政権交代前の民主党だ。「中道寄りで、所属議員の立場が左右に広かったことが支持獲得に有利に働いたことは間違いない」と加藤氏は説く。もちろん、立ち位置だけで勝てるわけではない。民進党は民主党と同じような立ち位置だったが党勢は低調だった。

 とはいっても、小選挙区制での選挙は続く。野党が複数に割れて、与党に挑むのは、明らかに悪手だ。元民進党の衆院勢力は、右寄りに希望の党、左寄りに立憲民主党に割れたままだ。しかも、希望の党と立憲民主党の政策の幅は、純化路線の結果、民進党よりも狭い。

 まだ野党再編の機運は乏しい。政策が一致しない政党は確かに骨が折れるからだ。だが政権選択をいくら唱えても選挙に勝てなければ意味はない。

 自民党は小選挙区制導入後の衆院選で7勝1敗。それなりに適応してきた。「真ん中の票を取らないと当選できないよ」。河野氏は党内で話すこともある。

 「負けに不思議の負けなし」といわれる。負けが続く野党はもう一度、小選挙区制での戦い方を見つめ直すべきかもしれない。(政治部次長 佐藤理)



中国ネット遮断日本企業にも「VPN」規制、業務に支障 専用線 に誘導、迫る監視 2017/12/8 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「中国ネット遮断日本企業にも「VPN」規制、業務に支障 専用線に誘導、迫る監視」です。





 【広州=中村裕】中国が海外との自由なつながりを保っていたVPN(仮想私設網)の遮断を進めている。これにより、日本や欧米の企業の中国法人で通信トラブルが頻発している。当局の情報監視を容認するか、撤退しかないのか。日本企業は究極の選択を迫られている。

日系大手通信会社の幹部は監視への危機感を訴える

 「これでは仕事にならない」。10月12日、広東省で日系サービス関連企業に勤務する駐在員は朝からいら立っていた。

9月以降頻発

 何をやっても日本との通信ができない。中国駐在の日本企業に聞くと日本のサーバーにアクセスができなくなったり、社内のイントラネットにつながらなかったりするトラブルが続発していた。

 中国政府は今年1月、中国と海外を結ぶVPNを規制する方針を示した。VPNは、インターネットや公衆ネットワークを使って拠点間に仮想的に専用線を引く技術。コストが高い国際専用線の代替として多くの中国駐在企業が使ってきた。

 通信を暗号化して検閲を回避でき、中国のネットユーザーが政府への不満を海外の交流サイト(SNS)に書き込む際にも使われてきた。当局が目を光らせてきたが外国企業が日常業務に使うVPNは取り締まりの対象外。当局は「グローバル企業の運営に影響を与えない」としていた。

 それなのに9月以降、通信遮断のトラブルが表面化した。「中国当局がVPNを次々と使用不能にし、日系企業で頻発する通信トラブルの原因となっている」(日本の通信会社の幹部)。9月は中国のネット規制のターニングポイントだったようだ。米グーグルの検索に続きヤフーの検索も遮断されたのは9月末だ。

 ネット上に残された唯一の通気口ともいえるVPNを遮断するのはなぜか。日本企業のその後の動きから中国当局の狙いが浮き上がってきた。

 広東省深?市。電子部品商社の日本人経営者は「VPN規制が厳しく仕事にならない」として国際専用線への切り替えを9月に決断し、11月に工事が完了した。専用線は中国と日本の拠点を直接結ぶ。プライベート回線として使える安定性が売りだ。中国電信(チャイナテレコム)などの国営通信会社も「日本との通信速度が上がり快適なビジネス環境を構築できる」としきりに売り込む。

「傍受も可能」

 しかし日本の大手通信会社の幹部は「専用線は、その気になれば通信の傍受や情報の抜き取りは可能」と話す。国際専用線のサービス主体は日本の通信会社だが中国の通信会社が介在している。通常は厳しいセキュリティー対策を施すが中国ではグレー。中国の通信会社に任せ日本側が関与できない部分があるためだ。それでも「専用線という言葉の響きでリスクを考えず導入する日本企業は少なくない」という。

 11月20日に中国を訪問した経団連などの訪中団も強まるネット規制に懸念を示した。参加した日系メーカーの幹部は「日本の情報が何でも盗み取られてしまう。今回は中国の国家としての強い意志を感じる」と話した。

 VPNが遮断され、専用線へと誘導される。まるで追い込み漁のように日本企業は中国のグレートファイアウオール(ネットの長城)の内側に引き込まれる。誰もがその可能性をうすうす感じながら、立証はできない。

 「中国で重要な情報をやり取りするならスマートフォンの電源を切れ」。広東省で通信機器の民間企業を経営する40代の中国人男性は言う。3時間ほど間をとり相手との待ち合わせ場所に向かう。

 GPSがオフでも電源が入っていればアウトだ。街中に張り巡らしたアンテナとカメラで個人が特定される。彼はこうも助言してくれた。「待ち合わせ場所で落ち合ったら1カ所にとどまらず、歩きながら会話する。今はこれが一番安全だ」



真相深層 「クロヨン」棚上げゆがむ税 自営業・農業者の 所得捕捉率なお低く 高所得会社員にしわ寄せ 2017/12/8 本日の 日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 「クロヨン」棚上げゆがむ税 自営業・農業者の所得捕捉率なお低く 高所得会社員にしわ寄せ」です。





 政府・与党が2018年度税制改正で、所得が高めの会社員に負担増を求め、自営業者やフリーランスの所得税を減税する案を検討している。だがガラス張りの給与所得に比べ、事業所得や農業所得の透明性が低い「クロヨン問題」の解消は遠い。所得の捕捉率を高めないと、新たな課税のゆがみを生む恐れがある。

給与控除見直し

 「現行制度は特定の働き方による収入にのみ手厚い」。政府税制調査会(首相の諮問機関)が11月に出した報告書は会社員に厳しい見直しの方向性を示した。やり玉に挙げたのは会社員が課税所得を計算する際に一定額を経費とみなして差し引く給与所得控除だ。主要国と比べて「相当手厚い」と引き下げを求めた。

 給与控除は13年に245万円を上限とし、16年に230万円、17年は220万円と下げてきた。18年度改正でさらに減らし、全ての人が使える基礎控除を増やす。中低所得層は増減税なしだが、年収800万円超の人は増税にする案が軸だ。

 給与控除はスーツや文具など仕事に必要な経費の概算控除のほか、他の所得との負担調整という性格があるといわれてきた。源泉徴収の会社員は所得をごまかしようがないのに対し、自営業者や農業者は税務当局に所得を把握されにくい。給与控除はこの不公平感を調整する役割を担ってきた。

 ところが政府税調は給与控除を「基本的に勤務経費の概算控除」と位置づけ、実際にかかった経費より過大だと指摘。財務省によると平均的な会社員の経費は年25万2千円。計算通りなら給与控除の大幅カットは避けがたい。

 一方、かつて給与所得、事業所得、農業所得の捕捉率は「クロヨン(9割・6割・4割)」とも「トーゴーサン(10割・5割・3割)」ともささやかれた。本当にこの不公平感が解消したといえるのかは微妙だ。

 クロヨンを初めてデータで裏付けたのは政府税調会長などを歴任した石弘光氏だ。1981年に発表した論文で、国民経済計算(GDP統計)や税務統計を使って捕捉率を推計し、実際にクロヨンに近い格差があると指摘した。

 その後、多くの研究が発表される中で注目を集めたのは経済財政相を務めた大田弘子氏らの03年の推計だ。77年に69%だった自営業の所得捕捉率が97年に95%に高まるなど、捕捉率の格差が80~90年代に大幅に縮小したと結論づけた。農業経営が大規模化し、消費税の導入によって税務署に提出する書類も増えた。税務当局が農家や自営業者の所得を把握しやすい環境が整ってきたという。

 だがクロヨンが解消したという主張には複数の反論も出ている。日本総合研究所の立岡健二郎氏が発表した14年の推計では事業所得の捕捉率は約69%にとどまった。複数の統計から推計した国民経済計算ではなく、全国消費実態調査などを使ったのが特徴だ。

格差の是正必要

 立岡氏は「いまでも課税の公平性が著しく損なわれている可能性がある」と指摘。様々なデータが完全にそろうわけではなく、クロヨン推計のバラツキは大きい。「米国やスウェーデンのように政府が実態を調べて公表すべきだ」という。

 児童手当や保育料、介護や医療の保険料なども所得に応じて変わる。所得の捕捉率に格差があると、社会保障制度の公平性も保てない。社会保障を負担能力に応じた制度に変えていくためにも捕捉率向上が欠かせない。

 新たなクロヨン問題もある。「シェアリングエコノミーの所得は誰が捕捉するのか」。政府税調の会合ではこんな声が出た。民泊経営やユーチューバーなど会社に属さない働き方が広がると、税務当局の所得把握が一段と難しくなる。18年度改正ではクロヨンへの対応に踏み込んだ議論はなかった。課税の公平性を高める切り札と期待されたマイナンバーの活用も広がっていない。

 所得税は20年以上も抜本見直しをせず、社会の変化に立ち遅れている。税の大原則は公平・中立・簡素。所得の捕捉率ができるだけ高く、働き方で大きく税負担が変わらないしくみが理想だ。クロヨン問題を放置して高所得の会社員に負担をしわ寄せするだけでは、経済の活力は高まらない。

(木原雄士)



迫真 もう「メガ」じゃない(2)「これまでの仕事は一体…」 2 017/12/6 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 もう「メガ」じゃない(2)「これまでの仕事は一体…」」です。





 関東の地銀に勤めていた加藤久美子(仮名、31)は入行8年目の昨年、退職した。地元出身で周囲もうらやむ就職先。総合職として自由な発想で仕事ができる。こう考えたが現実は違った。住宅ローンを担当したが「目標への執着度合いが高すぎて顧客対応がおかしくなっていった」。加藤は少し寂しそうだ。「裁量が少なく縦社会。銀行はもういいかなって思った」

銀行の支店が「駅前一等地」からなくなる日がくるかもしれない(東京・豊洲)

 銀行は新卒採用数、人気ランキングとも常に上位の常連だ。2018年4月に1000人以上の大卒者を採用するのは5社のみで、うち2社はみずほフィナンシャルグループと三菱東京UFJ銀行。国公立や有力私大卒業者の上澄みを、巨鯨のごとくのみ込んでいく。

 そんな有能な人材を店舗に張り付かせ、膨大な事務作業に駆り立てる。わざわざ人が手作業でこなす必要があるのか。これだけ労働力が逼迫する中で、こんな疑問を持つ行員は増える一方だ。メガバンク首脳も「人材の価値を最大限、引き出さないとダメだ」と自戒を込める。

 「駅前の一等地に午後3時に閉まる店があるのは日本の都市計画上、とても困ります」。三菱UFJ銀幹部は、大手不動産デベロッパー幹部から言われた言葉が胸に焼き付いている。目抜き通りの四つ角にメガバンクや地銀が店舗を構えるのはありふれた光景だ。

 三菱UFJ銀の実店舗の来客数は10年で4割減少し、逆にインターネットバンキング利用者は5年で4割も増えた。重装備の店舗は今やお荷物。みずほ社長の佐藤康博(65)は「店舗が駅前の必要はなく、住宅地でもいい」と割り切る。「従業員や店舗数は需要対比で過剰状態だ」。日銀は金融システムリポートで、日本の金融機関の店舗数は欧米と比べて突出して多く、収益性低下の原因だとした。

 「このままでは仕事が機械に置き換えられる」。三井住友銀行に勤める30代の中堅行員は焦っている。自動化が進めば無駄な作業が減る一方で、「真の実力が問われる」。

 翌日訪ねる企業の信用情報や財務状況、プレスリリース、過去の新聞記事……。最近始まったRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)が手作業を漏れなく代替してくれる。「自分たちがしてきた作業はなんだったのか……」。三井住友銀はRPA活用で人数に換算で1500人分の業務を減らせるとみる。テクノロジーがムダの棚卸しを迫る。

(敬称略)



迫真 もう「メガ」じゃない(1)「1.9万人では足りない 」 2017/12/5 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 もう「メガ」じゃない(1)「1.9万人では足りない」 」です。





 「リストラ?」。業界最大手、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長の平野信行(66)と9月に面談した大手上場企業首脳は、3メガバンクで最も財務に余裕があるはずの「王者」の意外な一言に胸騒ぎがした。

 「9500人相当の労働量の削減を実現したい。銀行だけとると、国内スタッフの30%になる」。面談からほどない9月19日、東京駅前の丸ビル。平野は講演会の最後に、決して小さくない数字をさらりと持ち出した。オープンな場で数値目標ともいえる計画を打ち出したのは初めて。「このことが頭にあったのか」。企業首脳は合点がいった。

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 突然のリストラ旋風の震源は日銀のマイナス金利発動だ。グループ中核の銀行部門の本業のもうけ(実質業務純益)が急減。民間企業が軒並み最高益というこの時期に、三菱UFJは前年同期比マイナス13%だ。みずほフィナンシャルグループは同41%、特殊要因とはいえ、営業に強い三井住友も同40%という構造不況を体現するかのような減益幅となった。

 折しも金融とITを融合したフィンテック風が強まって金融ビジネスの地平が広がる一方、融資から決済まで取りそろえる商業銀行の収益モデルは将来性があやぶまれる。「リストラ祭り」(大手銀関係者)の号砲を鳴らしたのが、もっとも安泰とされる三菱UFJだったことが険しい環境の象徴だ。

 「配置転換ではなく、実数でこの数を減らしていきたい」。11月13日、東京・日本橋の日銀本店。中間決算の記者会見に臨んだみずほ社長の佐藤康博(65)は「2026年度末までに1.9万人を減らす」と表明。表情からは、ライバル三菱UFJに負けたくないとの思いがうかがえた。

 この発言の含意は3つだ。まず三菱UFJが示した「23年度」よりも期間が長い点。2つ目はあえて三菱UFJの2倍の目標を打ち出したこと。そして人数が曖昧な業務量を採用せず実数にこだわった点だ。3メガでつねに株価が最も低いみずほは、厳しい株主の視線を意識し一歩も二歩も先を走らざるを得ない台所事情がある。

 もっとも今回の構造改革案に株価は大きく反応せずじまい。株主には「物足りない」と映った可能性もある。みずほの株価は発表の翌14日終値が14営業日ぶりに200円を割り、今もさえない。

 ライバル行の目にも状況はシリアスに映る。「厳しい決算に驚いた」。みずほの中間決算を見たライバル行の首脳は一時的に計上された利益額の大きさに目を見張った。

 純利益3166億円のうち3分の2は一回限りの益出しに依存したもので、多くは持ち合い株の売却益などだ。他行も似たり寄ったりだが、利益に占めるかさ上げ分の割合は三菱UFJの3分の1、三井住友フィナンシャルグループの5分の1と比べ突出して高い。

 期限が来れば融資は低い金利に置き換わり、マイナス金利の国債を買うケースも出てくる。固定費を削らなければ、経営に黄信号がともりかねないところまできている。

 監督する側の金融庁は大手行の危機意識がまだホンモノでないとみる。「単なる自然減だろ?」。金融庁幹部はみずほの説明を受けた後、説明しに来た幹部に「1.9万人では足りないんじゃない?」と嫌みを言った。記者会見で希望退職の選択肢はあるのかとの質問に「ない」と明言した社長の佐藤。三菱UFJも希望退職は念頭になく、4000人分の業務量を減らす三井住友も同様だ。

 バブル期に大量採用した世代の退職を待つ一方で新卒の大量採用を抑えれば達成は難しくない。そうではなくあらゆるサービスを用意するフルバンキングの看板を下ろしてスリム化に踏み込まないと、字句通りのリストラクチャリング(事業の再構築)には値しない。金融庁幹部の本音だ。

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 「健全なる危機感」。みずほ銀行頭取の藤原弘治(56)は10月開いた部店長会議でこう表現した。不良債権処理で生死の際をさまよっていた1990年代後半~2000年代前半。崖っぷちの時代と異なり今は自己資本も潤沢で突然死の危険は小さい。「健全」のよりどころではあるが、まだまだぬるま湯といえなくもない。

(敬称略)

 超低金利にフィンテックや人工知能(AI)の発達。環境激変で、安定した職業の象徴だったメガバンクですら生き残りへ尻に火が付いた。



月曜経済観測 欧州景気の先行き 独仏がけん引、成長戻る BNPパリバ会長 ジャン・ルミエール氏 2017/12/4 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「月曜経済観測 欧州景気の先行き 独仏がけん引、成長戻るBNPパリバ会長 ジャン・ルミエール氏」です。





 世界経済が回復するなか、欧州景気の復調が目立っている。欧州は持続的な成長に向かい、改革も進むのか。大手仏銀であるBNPパリバのジャン・ルミエール会長に欧州からみた経済の課題と展望を聞いた。

 ――ユーロ圏の今年の実質成長率は2%を上回るとの予想が多いようですね。

 「欧州経済には明るい兆しが見えている。フランスやドイツを中心に、ユーロ圏の他の諸国も含めて全体的に上向いている。成長は消費と投資によって促進され、将来への自信を増している。欧州中央銀行(ECB)の金融緩和に加え、欧州が取り組んできた経済改革の成果が出てきた」

 ――欧州への懐疑論は。

 「ユーロが生き残れるかといった議論があったが、もはや話題にならない。欧州には成長が戻った。フランスでは大統領選挙と議会選挙でマクロン氏と与党が勝利し、経済改革とユーロへの信認を一気に高めた」

インフレ起きず

 ――今回の景気回復にはどんな特徴がありますか。

 「まず著しいのはインフレなき成長だ。次に停滞していた世界貿易が拡大しだした。そして欧州の銀行は引き続き、経済発展に向けた活動を支援している」

 ――リスクについては。

 「北朝鮮や中東の地政学リスクの先行きは読みづらい。英国の欧州連合(EU)離脱の問題は、EUの問題というよりは、英国の経済成長に関する問題だ。カネ余りのために投資家はリスクに関心を示さないが、潜在的リスクには目を凝らす必要がある」

 ――景気回復下の低インフレの背景は何でしょう。

 「2008年のリーマン・ショック後の金融危機で、企業や家計の行動が大きく変わった。働く人は賃金の上昇より、雇用の安定をより強く求めるようになった。雇用のあり方を一変させかねない新しい技術が相次いでいることも、賃金の上昇圧力を抑えている」

 ――日本でもおなじみのテーマのように思います。

 「雇用の新しいパラダイム(枠組み)に適合するには、数年の時間を要するはず。その間は経営者も従業員も様子見となるだろう」

米減税が焦点に

 ――米国をはじめ世界的な株高をどう見ますか。

 「米国株については、金融が依然として緩和気味なうえに、インフラ投資や減税を織り込んでいるとみている。すでに株式の評価は高くなっているので、減税が実現するかどうかが重要なポイントだ」

 ――米欧は金融緩和の出口に向かいつつあります。

 「米欧の中央銀行は、慎重に時間をかけて出口政策を実施しよう。賃金の伸びが鈍く、低インフレの環境が続くと思われるからだ」

 ――フランスの経済と金融の将来像はどうですか。

 「マクロン政権は労働市場改革に着手し、企業の活動を後押しする税制改革も進みつつある。成長と投資を促進し、雇用を創出することが改革の柱である」

 「金融の面ではロンドンが引き続き拠点となろう。しかし、調達資金を環境分野に使うグリーンボンドなどのグリーンファイナンス、保険、資産運用などでは、層の厚いパリが重要な拠点となる大きなチャンスがある。日本にとってもよい投資機会になると思う」

(聞き手は編集委員 滝田洋一)

 Jean Lemierre 元欧州復興開発銀行総裁で、欧州金融界の論客。67歳。



風見鶏 新元号が映す今の世相 2017/12/3 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 新元号が映す今の世相」です。





 「あの日まで元号を意識したことはなかった」

 岐阜県武儀町(現・関市)の福田尚雄・元町長(74)に話をうかがってきた。「あの日」とは昭和天皇が崩御した1989年1月7日のことだ。発表された新元号と同じ「平成」という地名が同町にあった(読みは「へなり」)。

 

町役場に勤めていた長尾嘉市さん(64)によると、あっという間に全国から見物客が殺到。「平成林道」という道路標識が盗まれる騒ぎまで起きたそうだ。

 新元号を読み上げた小渕恵三官房長官(のち首相)からは「平成」と揮毫(きごう)した額が贈られた。平成集落への入り口に架けた橋は「元号橋」と命名した。「あれ以来、元号は私たちの誇りになった」と福田さんは振り返った。

 当時はバブル景気の真っ盛りだ。国際化が進み、日常生活では西暦しか使わない人が増えていた。

 新聞業界では朝日新聞が76年に日付表記を元号先行から西暦先行に変更した。この頃には主要紙のほとんどが「西暦〇年(元号×年)」になっていた。

 野党第1党だった社会党は「元号は昭和限りにすべきだ」と主張した。新元号は広く浸透するのか。西暦に負けて使われないのではないか。政府内には危惧する声があった。

 蓋を開けると、武儀町以外でも新元号は温かく迎えられた。改元直後に読売新聞が実施した世論調査で、平成に「好感を持っている」(61%)は「なじみにくい感じ」(33%)を大きく上回った。

 なぜ、受け入れられたのか。「平成」に込めた思いが国民に伝わったからではなかろうか。

 「平成には、国の内外にも天地にも平和が達成されるという意味が込められており、これからの時代の元号とするに最もふさわしい」。元号発表の際、小渕氏は出典を説明したにとどまらず、文字に込められた思いまでわざわざ解説した。

 政府の元号選定要領は、(1)書きやすい(2)読みやすい(3)これまで用いられたものでない――など実務的な基準に先立ち、「国民の理想としてふさわしいようなよい意味を持つものであること」と定める。

 理想とは何か。

 人口に占める戦後生まれの割合は、76年にはすでに半数を超えていたが、昭和の終わりを迎えるとき、多くの国民の脳裏に浮かぶのが先の大戦の惨禍であろうことは容易に想像できた。新元号は平和を希求する国民の願いに応えるものでなくてはならなかった。

 一例を挙げれば、異色の法制史研究者として知られた滝川政次郎・国学院大名誉教授は新元号について「『和平』となることを期待する」と提唱していた。

 平成の生みの親、東洋史学者の山本達郎・東大名誉教授は考案者であることを最期まで認めなかった。どういう経緯で平成を思いついたのかは謎のままだ。

 とはいえ、空襲で焼け野原となった東京で終戦を迎えた山本氏の戦争体験が、小渕氏の解説の背後にあったと読むのが自然である。

 平成は1865年、元号を元治から改めたときも候補のひとつだった。

 平成に競り勝った慶応は中国の詩文集「文選」にある「慶雲応輝(よい兆しを告げる雲がいままさに輝く)」が出典だ。勢いが感じられ、風雲急を告げる幕末の雰囲気が伝わってくる。平成では当時の世相と相性があまりよくない。

 昭和の記憶が平成を生んだように、次の元号の語感を決めるのは、いまの世相である。どんな字にするのか、どんな意味を込めるのか。それこそが平成の総決算といえるのではなかろうか。(編集委員 大石格)



あなたの信用いいね!が左右 就職や取引成功 2017/12/2 本日 の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「あなたの信用いいね!が左右 就職や取引成功」です。





 あなたの価値は交流サイト(SNS)の評価で測ります――。そんな社会が現実となりつつある。フェイスブックの「いいね!」やツイッターの「フォロワー」の数が人の信用となり、取引を成立させたり就職につながったり。インターネット社会ならではの指標が新たな経済価値を創り出す一方、現実とかい離した虚構の信用が拡散する危うさも潜む。

タイムバンクに上場するチョコレートくんはフォロワー数7万人

 データ解析のメタップスが9月から始めた「タイムバンク」は、専門家の時間を10秒単位で売買するネット上の取引所サービスだ。陸上元日本代表の為末大さん、幻冬舎社長の見城徹さんなどが「上場」している。為末さんの時価は1秒68円(12月1日昼時点)。時間を買えばキャリア相談や経営アドバイスを受けられる。

 ただ、だれでも上場できるわけではない。「ネット上の影響力」が必要になる。影響力とは、ツイッターのフォロワー数やユーチューブのチャンネル登録者数など。すでに3万人以上が上場申請したが、上場できたのは50人余りだ。

 狭き門である一方で、ネット上の影響力さえあれば、組織を介さずとも自分の価値を効率的に売ることができる。「年功序列にとらわれず、若い人の価値を測る仕組みをつくりたかった」(メタップス)という。

チョコレートくんの「価値」を示すタイムバンクのチャート

 実際に無名の人が上場するケースもある。

 タイムバンクに「チョコレートくん」の名で上場する男性(32)は、普通の会社員だった。チョコレートが好きで、ブログやツイッターで発信するうちにフォロワーが7万人を突破。今はコンサルティングなどで会社員時代より稼ぐ。「個人で仕事をする以上、何でも可能性を追求する」とタイムバンクの活用に意欲的だ。

 もっと身近な生活でもネット上の信用の影響力は無視できない。

 「信用をデザインする」。民泊最大手のエアビーアンドビーの共同創業者、ジョー・ゲビア氏はサービスの本質をこう語っている。日本でも5万件を超す住宅が登録され急速に広がるが、実は全ての物件をだれもが借りられるわけではない。

 サービスを使うときにはフェイスブックとの連動が推奨されている。貸し手の中には、信用できない人に家を貸すのは嫌な人もいる。そんな時に参考になるのが、過去の貸し手による評価とともに、フェイスブックの友達数などだ。「貸し手も借り手も個人のブランディングが欠かせない時代。その時にSNSの評価は参考になる」とエアビーアンドビーの河野真由子さんは話す。

 恋もしかり。米国発の出会いアプリ「ティンダー」や「ペアーズ」など、フェイスブックと連動する出会いアプリが続々と登場している。こうしたアプリをよく使う40代男性(会社経営)は「フェイスブックで友達が100人いないと信用しない。でもあんまり多すぎるとそれも信用できない」と友達数を基準に相手を決める。

 就職では、ファッション各社が写真共有サイト「インスタグラム」のフォロワー数が多い人の採用に乗り出している。フォロワー数がその人の販売力に直結すると見ているためだ。

 組織に属さないクラウドワーカーや個人間のシェアリングエコノミーが広がり、「学歴よりSNS歴のほうが重要」ともいわれる現実の一方で、ネット上の自分の「虚構」も目立ってくる。

 個人の価値をビットコインで株式のように売り買いする「VALU」。その価値もやはりSNSのフォロワー数などが指標となる。しかし、8月中旬に人気ユーチューバーが売り逃げ騒動を起こして炎上。ネット上で信用されている人でも、現実のモラルは別であることが露呈した。

 フォロワー工作も進む。あるフォロワー売買の専用サイトでは、1フォロワーを1円弱で販売し、毎月600件超の依頼があるという。「リアルな友達をつくるより、SNSの友達をつくる方向に若者が変化している」とサイト運営者は話す。

 いいね!がつくるネット上の自分像の後ろには、「虚」がひたひたとついてくる。

◇           ◇

■SNS、「人生が丸裸」懸念 欧州は規制へ

 SNSの交友関係や発言が個人の「信用」を形づくる社会。広くとらえれば「ネット上の情報がつくる自分」が現実の自分を動かしつつあるということだ。

 「フォロワー数などを自分でコントロールして経済効果を生み出すうちはいいと思いますが……」。プライバシーに詳しい慶応義塾大学の山本龍彦教授は危機感を隠さない。「政府や企業が人工知能(AI)などを使い、ネット上のデータをすべて分析するようになったらどうでしょうか。人生が丸裸にされてしまう」

 中国では電子決済の履歴や学歴、そしてSNSの交友関係などをポイント化するアプリ「芝麻信用」が大流行している。「政府も監視しているので、反政府的なコメントをする人とは友達にならない人も増えている」と上海市内の飲食店に勤める女性(28)は話す。

 欧州では2018年からビッグデータ利用について大規模な規制が動き出す。その中には「企業や行政はデータ分析だけで重要な決定をしない」という項目も入っている。「例えばSNSのデータだけで採用の可否を決めてはいけない。最終的に人間の目で評価されることを権利として保障したものと考えられる」と山本教授は指摘する。

 「ネット上の自分」が現実と密にリンクするようになれば、そこには新たな危うさが潜む。「ネット上の自分」が虚なら信用力はいずれはげ落ちていく。チョコレートくんはつぶやく。「10年前はこんなことなかったのに、おかしな世の中になりましたねぇ」

(福山絵里子)



真相深層 国税、富裕層に厳しい目 税逃れ対策全国にPT 2017/12/1 本日の日本経済新聞より

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 国税当局が国内外に多額の資産を持つ富裕層の税逃れを監視する体制を強化している。今夏から富裕層調査を担うプロジェクトチーム(富裕層PT)を全国に配置し、人員も約4倍に増やした。タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴いたパナマ文書などを機に国民の関心が高まるなか、資産隠しや国際的な租税回避への対応力を高める狙いという。

 富裕層PTは2014年、東京、大阪、名古屋の3国税局に設置された。ノウハウを蓄積し17年夏から全国12の国税局・事務所に拡大。メンバーは約200人で、国税庁内に司令塔役として「国際課税企画官」のポストも新設された。

 国税当局は近年、富裕層への課税体制を強化。16事務年度(16年7月~17年6月)の富裕層への調査は4188件あり、約441億円の申告漏れが見つかった。国の借金が1千兆円を超え「取れるところから取る」という姿勢がうかがえる。

 国税当局の富裕層の基準とは。関係者によると、数年前の基準は「経常所得の合計金額1億円以上」「相続(遺贈)財産5億円以上」など。人数の統計はないが、15年の国税庁の申告所得税標本調査によると、所得1億円超は約1万7千人で、高額財産を相続した人らを含めれば「2万人超はいる」(国税OB)。

 国税庁は富裕層PTが手掛けた案件を明らかにしていないが、内部資料から一端が判明した。同庁には全国の国税局・事務所が手掛けた課税処分などから「複雑困難な事案や創意工夫した事案」を選んで長官が表彰する制度がある。

 日本経済新聞は情報公開請求で16年度の表彰関係資料を入手。黒塗り部分が多く処分対象者などは不明だが、大阪国税局の表彰事案には「富裕層による租税回避に厳しい目が向けられる中、厳正な課税処理を行った」との記載があった。

 関係者によると、この事案は電子機器会社の創業者親族による贈与税約1500億円の申告漏れ。創業者らは、電子機器会社の筆頭株主である資産管理会社(非上場)の新株予約権付社債(転換社債)などを利用した出資で、資産管理会社を傘下に持つ新会社(非上場)を設立し、新会社株を親族に贈与した。

 当局は非上場の新会社株の評価が実態とかけ離れていると判断し、約300億円を追徴した。転換社債を使って相続税や贈与税を減らす節税策は「抜け穴」とされていたが、今後は封じられる見通しになった。

 国際的な租税回避への対応では、東京国税局の表彰事案に「意図的な国際的租税回避を把握」との記載があった。事案は海運業者への課税処分。当局は租税回避地のパナマで実質的な子会社として管理する関係会社の所得を意図的に申告しなかったと判断し、約3億円を追徴した。

 国際化、複雑化する富裕層の資産を捕捉するため、国税当局は18年9月までに各国の税務当局間で「CRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)」を始める。CRSは各国の税務当局が金融機関から名前や住所、口座残高、利子・配当の年間受取額などの報告を受け、自動的に交換する仕組みだ。

 こうした国税当局の課税体制強化に対し、節税目的で海外に資産を移して移住する富裕層も目立つ。「数十億円規模の資産家から海外移住を希望する相談が毎月2件ほどある」(国際税務に詳しい弁護士)

 例えば、シンガポールは相続税や贈与税がかからず、投資でもうけた分は非課税で法人税率も20%未満。外務省の統計によると、日本人の長期滞在者は16年10月時点で約3万5千人と4年前と比べ約3割増えており、節税目的の富裕層も含まれているとみられる。

 国税当局の幹部は「富裕層は日本経済をけん引する人材も多く、狙い撃ちにしているつもりはないが、富裕層だけができる手法で税を回避するのは不公平だ」と強調する。一方、富裕層を顧客に持つプライベートバンカーは「稼いでも結局は徴税されるだけという意識になれば、結果的にイノベーションを阻害し経済の活力をそぐのでは」と話す。当局と富裕層のつばぜり合いは続く。(川瀬智浄)



真相深層 ロシア、米の「裏庭」に接近南米ベネズエラ再建、火種 に 軍事協力条件に債務猶予 2017/11/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 ロシア、米の「裏庭」に接近南米ベネズエラ再建、火種に 軍事協力条件に債務猶予」です。





 世界最大規模の石油埋蔵国、南米ベネズエラは1300億ドル(14兆円強)もの債務の自力返済が難しくなった。1999年に誕生した反米左派政権の同国に対し、米国は黙認策をやめ、敵視政策にカジを切った。ベネズエラは債権国ロシアの支援を受け、経済・軍事で結び付きを強める。最大債権国の中国カードもちらつかせる。米国の「裏庭」南米でロシアや中国の存在感が増す。

地政学上の魅力

 「我々は他の国と同じように、ベネズエラ政府と互恵的な関係を発展させている」。ロシアのラブロフ外相は15日、モスクワでの記者会見でベネズエラ支援についてこう語った。支援を続けるかとの質問に「意味が分からない」とけむに巻いたが、額面通りに受け止める向きは少ない。

 ロシア政府は15日、ベネズエラへの融資(約30億ドル)の返済期間を10年間に延長し、当初6年の支払いを最少にする支援策を発表した。13日に米格付け大手のS&Pグローバルと英フィッチ・レーティングスがベネズエラ債券を「部分的な債務不履行」と認定したのを受け、救済に動いた。

 シリアや北朝鮮の問題で米政府を揺さぶるプーチン大統領には、ベネズエラの地政学上の価値が魅力的に映るようだ。

 プーチン氏は返済猶予と引き換えに、ロシア軍艦をベネズエラに停泊させることを要求しているとされる。実現すれば、ロシアは米国の目と鼻の先の南米大陸に軍事拠点を持てる。「ベネズエラは自治権を守るため、ロシアとともに進む」。ベネズエラのマドゥロ大統領は8月、両国の軍事協力を発表。米国に対抗するうえでロシアを戦略的なパートナーとして迎える方針を固めたようだ。

 石油の利権も大きい。ロシア国営石油ロスネフチは、ベネズエラ国営石油会社PDVSAに融資。PDVSAが持つ米製油所に担保を設定したとされる。ロシアはベネズエラの債務問題を通じ、米国の石油産業にも影響力を及ぼせる。プーチン政権で実質ナンバー2とされるロスネフチのセチン社長が、ベネズエラ支援を主導しているとの指摘もある。

 最大の債権国、中国はどうか。中国は過去10年間でベネズエラのインフラ整備などに650億ドルを融資してきた。今もロシアの7倍近い約200億ドルの融資残高を抱えているとされる。近年は返済が滞り、2016年の投資はピーク時の3分の1に減った。石油や鉱山の分野で細々と投融資を続けている。

 「中国は長期展望で投資した。手は引かない」。米インターアメリカン・ダイアログのマーガレット・マイヤーズ氏はこうみる。ベネズエラは中国が精製する重質油を産出する。豊富な資源を見返りに経済支援を期待できる中国は、対米戦略上の切り札になり得る。ただ、中国は16日に「ベネズエラ政府は債務問題を適切に扱う能力があると信じている」(外務省の耿爽副報道局長)としただけで、沈黙を守る。

 ベネズエラは99年に左派政権が誕生し、米国を目の敵としてきた。実は経済面では米国に依存する。資金調達をウォール街に頼り、同国の輸出の95%を占める原油の最大の輸出先は米国だ。米国の金融機関や石油産業抜きに経済は成り立たないのが現実だった。

独裁政権と距離

 ベネズエラの反米政策は歴代の米政権にとって目障りだった。だが、ベネズエラ産原油の輸入はカナダやサウジアラビアに次いで全体の10%弱を占める規模だけに実質的に黙認してきた。

 その米国が敵視政策を始めた。民主的な選挙で選ばれた国会を無効とし、独裁を進めるマドゥロ政権に対し、米財務省は8月に新規の融資や債券発行を禁じる経済制裁に踏み切った。債務再編でも、交渉への参加は米国の経済制裁に抵触すると警告。結局、欧米の機関投資家は大半が参加せず、交渉を破談に追い込んだ。融資や起債で債務を返済する自転車操業に陥ったベネズエラに兵糧攻めを加えた。

 米国の敵視政策でベネズエラは、ロシアや中国への依存を強めざるを得ない。米国はベネズエラを締め付けすぎれば、石油というアキレスけんを中ロに握られかねない。

(サンパウロ=外山尚之)