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風見鶏 小泉氏は農林族なのか 2018/4/29 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 小泉氏は農林族なのか」です。





 「族議員」という言葉がある。批判的な人は政治の利益誘導を連想し、専門家を自負する当人は言葉の響きに反発する。実態はどうなっているのか。

 4月13日朝、東京・永田町にある自民党本部で、農産物輸出に取り組む生産者や事業者を集めて会合が開かれた。「事業で日々感じていることをぜひ率直に話してほしい」。正面の「ひな壇」中央でそう話したのは小泉進次郎氏だ。

攻めの農家を応援する(福島県の内堀知事とともに福島産の桃をPRする小泉氏(右))=共同

 小泉氏が党農林部会長を退いて8カ月。引き続き農政の核にいるのは確認できたが、気がかりなこともあった。議員席に空きが目立ったのだ。2015年に部会長に就いたころは違った。環太平洋経済連携協定(TPP)対策の会合は大勢の出席者で室内は汗ばむほどで、小泉氏が促すと競い合うように発言した。

 輸出のような「攻め」に関心のある議員は少なく、市場開放におびえる農家を「守る」ことばかり考えているのか。それを小泉氏に聞くと、答えは「アンフェアだ」。「TPPのような国論を二分する問題」と輸出を同列に並べるべきではないというのがその理由。さらに農業と政治のリアルな関係を語った。

 「輸出するような農家は独立独歩で数が少なく、政治の関与はまずない。一方で多くの農家はもうかっていなくて、輸出もしていない。政治がそちらをメインにするのは当然だ」

 ここで昔の農林議員の声を紹介しよう。谷津義男元農相は1986年に初当選したとき、竹下登幹事長に「食べ物のことをT字型で勉強してほしい」と言われたという。他分野は浅くていいが、農業は深く掘り下げろという意味だ。

 谷津氏は「昔は大議論があった」と懐かしむ。党の会議で意見が対立すると、ときに灰皿が飛んだ。思わず相手の胸ぐらをつかみ、逆に背負い投げでたたきつけられた議員もいた。今はTPP関連の会合でさえ、言うだけ言うと部屋を出る議員が少なくない。

 何が変わったのか。谷津氏は「(96年の衆院選で始まった)小選挙区制で専門家が育ちにくくなった」と話す。一般論としては正しいかもしれないが、制度だけが原因だろうか。

 票を投じる側と政治との関係に目を転じてみよう。全国農業協同組合中央会(JA全中)によると、かつては議員への「突き上げ」が中心だった。市場開放への反対集会で煮え切らない態度の議員がいると、激しいヤジが飛んだ。

 今そうした迫力は影を潜めた。農家の数が大幅に減ったうえ、「いくら自由化に反対しても無駄」という諦めムードが広がっているからだ。以前は農林部会に出ない議員に対して農協の幹部たちは「出席してこう発言してほしい」と迫ったが、今は「農業に関心を持ってください」と懇願することが多くなった。

 選挙制度が変わって議員が1分野に特化するのが難しくなり、農家は政治を動かすことが難しくなるほど数が減った。小泉氏が応援する攻めの経営者もまだまだ少数派だ。だが農家が減って生産基盤が弱体化したことで、食料問題はむしろ切実になっている。

 福島大の生源寺真一教授は「国民全体が農業の生産する食と田園風景の受益者であることを、政治は訴えるべきだ」と指摘する。これに関連し小泉氏は「都会のコンクリートジャングルの真ん中で農業を語っても心に響く」と話す。

 正論だろう。だがそう言える人がもっと増えなければ、ものごとは動かない。農業が国民全体に関わるテーマであるのなら、すべての議員が「農林族」であるべきなのだ。

(編集委員 吉田忠則)



北朝鮮制裁の緩み懸念 ラッセル元米国務次官補に聞く南北首脳、 意図的に親密さ示す 2018/4/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「北朝鮮制裁の緩み懸念 ラッセル元米国務次官補に聞く南北首脳、意図的に親密さ示す」です。





 朝鮮半島の「完全な非核化」を実現することなどで合意した27日の南北首脳会談について、米国の元国務次官補(東アジア・太平洋担当)のダニエル・ラッセル氏に聞いた。

ラッセル元米国務次官補

 ――南北首脳が「完全な非核化」をめざす板門店宣言に署名しました。

 「非核化については明確ではない。北朝鮮は過去にはもっと明快に核放棄を約束していた。例えば(核兵器の生産、使用などの禁止を盛った)1992年の南北非核化共同宣言がそうだ。(すべての核兵器と既存の核計画の放棄をうたった)2005年9月の6カ国協議の共同宣言もある。今回の宣言はそれほどの内容ではない」

 「確かに首脳会談が開かれたことは良いステップだ。しかし、だからといってこれまで金正恩(キム・ジョンウン)委員長が国際法や国連安全保障理事会決議に違反する脅威を高めてきたことに責任がある事実を変えることはできない」

 ――会談で両首脳の親密ぶりが印象的でした。

 「両首脳とも意図的に演出しようとしていた。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の場合、任期の早いうちの南北会談によって進歩的な政策の実現に弾みをつける。さらに米国に軍事行動をとらせない狙いがあったとみる」

 「金委員長は自らのイメージを変えようと試みた。兄を殺害し、米国人を拘束している専制主義的な独裁者像から転じ、洗練され、平和を語る分別のある首脳として印象づけようとした。両首脳にとって壮大な見せ物だった」

 ――米朝首脳会談に向けて何が課題ですか。

 「全ての核施設や核計画、核兵器の放棄を宣言するのか。それは信頼できるのか。国際原子力機関(IAEA)の査察など完全な検証を認めるのか。これらが満たされて初めて良い方向に向かっていると言える」

 ――核放棄の完了期限を示すべきでは。

 「仮に合意したとしよう。彼らの戦術は課題を細分化し、一つ一つについて交渉し、激しくやり合って時間を稼ぎ、見返りを引きだそうとするだろう。期限を設定するのはいいが、それは信頼に足るものにしないといけない」

 ――トランプ政権は完全な非核化まで圧力を維持するとしています。

 「言うのは簡単だ。ただ、米朝首脳会談でトランプ大統領が金委員長と握手している場面を世界の国々がみれば、事態が好転しているとの印象を受け、もう心配いらないとなるだろう」

 「この意味で、中朝、南北両首脳会談によって北朝鮮は大きな利益を得たといえる。『最大限の圧力』は『最低限の圧力』になった。制裁の枠組みは残ったが、その履行レベルは落ち続ける。制裁は事実上緩んだ。いったんそうなると再び締めるのは極めて難しい」

 「また、各国の首脳はもろ手を挙げて金委員長と会談したがっている。それは北朝鮮に正当性を与え、実質的に核保有国としての北朝鮮と関係を正常化することになると理解されるだろう」

(聞き手はワシントン=永沢毅)



迫真 勃発貿易戦争(4)安保カードに揺れる 2018/4/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 勃発貿易戦争(4)安保カードに揺れる」です。





 「真意はなにか」。13日早朝、環太平洋経済連携協定(TPP)首席交渉官の梅本和義(66)は慌てて部下に確認を指示した。枕元の携帯電話に米国の友人から米大統領ドナルド・トランプ(71)に関するメールが届いていたためだ。「TPPへの復帰検討を指示したようだ」

トランプ米大統領は安倍首相の隣で「2国間交渉がよい」と言い切った(18日、米フロリダ州)

 米通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(70)は3月下旬に「日本には自由貿易協定(FTA)交渉を求めている」と明言していた。米国抜きの11カ国でまとめたTPP11の内容をトランプがのむことは考えにくい。しかし何らかの理由で翻意し、米国がTPPに戻るなら、2国間交渉への圧力は薄まるかもしれない。

 だが5日後には日本の希望はあっさり打ち砕かれた。「私はTPPには戻りたくない。2国間協定が良い」。トランプがこう言い切ったのは18日の日米首脳会談後の共同記者会見。傍らには首相の安倍晋三(63)が厳しい表情で立っていた。

 米国との2国間交渉が不利なことは歴史をみれば明らかだ。貿易赤字の是正を叫ぶトランプの姿をみるにつれ、経済産業省幹部は1970~80年代の貿易摩擦を思い出す。米国に輸入制限などの強硬策をちらつかされた日本は、まず繊維の輸出自主規制をのんだ。続いて農産物、自動車で摩擦が起き、米国で日本たたきが広がった。

 交渉で日本がどんなに経済合理性を訴えようと、「安全保障を考慮して経済で譲歩を求められるのが過去の苦い現実だった」(米国との交渉に関わってきた元経産省幹部)。いつか来た道をまたたどるのか――。

 米韓FTA再交渉で韓国に不利な条件をのませたのは在韓米軍の撤退を示唆した米国の「安保カード」だった。農林水産省幹部は「日本は北朝鮮や中国を前に丸裸になれない」と同様の展開になることを懸念する。

 安倍は日米首脳会談から帰国後、「あれがあったから踏みとどまった」と周辺に漏らした。「あれ」とは日本が提案した米国との新しい通商対話の枠組みのこと。従来の日米経済対話に不満を持つ米側の矛先を緩める作戦。首相周辺は「今回はなんとかしのげた」と漏らした。

 11月に米中間選挙を控えたトランプが日本から成果を得たいのは間違いない。ひたひたと近づく貿易摩擦の足音に外務省幹部は警戒感を隠さない。「日米経済対話は何もやらなかったという意味でうまくいきすぎた。新たな対話での先送りは許されないだろう」

(敬称略)



月曜経済観測 米中摩擦、中国経済への影響少ない 張燕生 ・中国国際交流センター首席研究員 2018/4/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「月曜経済観測 米中摩擦、中国経済への影響少ない 張燕生・中国国際交流センター首席研究員」です。





 米中の貿易摩擦が激しさを増している。中国経済は無傷でいられるのか。中国のマクロ経済政策を統括する国家発展改革委員会で、長年にわたって政策立案にかかわってきた中国国際経済交流センターの張燕生首席研究員に聞いた。

中国国際経済交流センター首席研究員の張燕生氏

 ――米国との貿易摩擦が激しくなっています。

 「理由は簡単だ。世界に占める米国の国内総生産(GDP)は1990年の26%から、2001年には32%まで上昇した。ところが米同時テロが起き、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した01年を境に低下する。16年には24%台まで落ち込んだ」

 「中国のGDPは10年に日本を抜き、世界2位になった。世界1位と2位の経済大国が差をどんどん縮めているとき、貿易摩擦が起こるのは必然だ。中国は米国と摩擦なしでやっていけるという幻想は抱かず、しっかりと対応する準備をするしかない」

■成長目標は維持

 ――貿易摩擦は中国経済を下押ししませんか。

 「中国のGDP成長に対する輸出の貢献度は2015年、16年と2年続けてマイナスだった。このとき、輸出の不振が中国経済を下押ししたのは確かだ」

 「しかし、17年に輸出の貢献度はかなりのプラスになった。18年は仮に米国との貿易摩擦が激しくなっても17年を少し下回る程度とみている。15~16年のような状況は想定していない。18年のGDP成長率は17年の6.9%に届かないにしても、政府目標である『6.5%前後』の達成は問題ない」

 ――中国経済の内需主導への転換で貿易摩擦の影響は小さくなりますか。

 「習近平(シー・ジンピン)国家主席は昨年10月の共産党大会で、中国経済がすでに質の高い発展の段階に入ったと宣言した。よりよい生活をしたいという人民の要求を満たすのが最終目標の経済だ」

 「こうした経済はもはや輸出主導でなく、内需主導といっていい。中国は国内の消費を拡大し、世界から輸入を増やす。これに加えて巨大経済圏構想『一帯一路』に伴う発展途上国の需要を取り込めば、発展を維持できる」

 ――中国の消費の状況をどうみていますか。

 「すでにGDP成長への貢献度でみると輸出、投資、消費のうち3分の2は消費だ。単に増えているだけでなく、個性を求め、生活の質と流行を追求する多様な消費が勢いづいている。こうした消費が中国経済の構造転換を促す原動力だ。消費の裾野は農村部や中低所得層にも広がっている」

■新段階に突入

 ――投資はもう中国経済の主力ではないですか。

 「過去の投資は製造業、不動産、インフラが中心だった。これからは変わる。外国企業、民営企業、技術革新、環境と民生が投資の主役になり、中国の内側からの発展力を高める。改革開放が始まって40年になる今年、中国経済は新たな段階に入る」

 ――中国の潜在成長率はどのくらいですか。

 「6.5~7%とみている。政府の今年の成長率目標である『6.5%前後』はちょうどいい。インフレは起きないし、行きすぎた雇用や失業の心配もない」

(聞き手は中国総局長 高橋哲史)

 張燕生(ジャン・イエンション) 国家発展改革委員会で対外経済研究所長を務めた。63歳。



迫真 勃発貿易戦争(1)「ディール」世界を翻弄 2018/4/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 勃発貿易戦争(1)「ディール」世界を翻弄」です。





 「中国は開放の門をさらに大きく開く」

トランプ米大統領は同盟国・日本に対しても容赦なく米国第一の交渉姿勢を鮮明にする=ロイター

 4月10日、中国・国家主席の習近平(シー・ジンピン、64)は同国最南端のリゾート地、海南省博鰲(ボーアオ)で、外資規制の緩和など市場開放策を表明してみせた。米政権が500億ドルもの中国製品に追加関税を課す制裁案を公表したのが3月下旬。習が公の場で発言するのはそれ以降で初めてだった。米大統領のドナルド・トランプ(71)はすぐさまツイッターで「習氏の温かい言葉に感謝する」と応じ、世界の金融市場には緊張緩和の期待が広がった。

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 だが、水面下の交渉は全く様相が違う。「米側は中国製造2025の計画停止まで求めてきた。ハイテクを独占するつもりか。絶対に受け入れない」。中国商務省の交渉関係者は激しく憤る。

 「中国製造2025」は、習政権がロボットや航空機分野などに資金を集中投下して、製造業を高度化する政策だ。米政権で通商政策を担当するピーター・ナバロ(68)は「中国は知的財産権の侵害で、人工知能(AI)や自動運転など未来の産業の支配をもくろんでいる」と目の敵にする。

 ナバロは大学教授だった12年に「中国がもたらす死」と題する過激な自作映画を発表。感銘を受けたトランプが16年の大統領選で協力を求め、「中国製品に45%の関税を課す」といった過激公約につながった。今の対中強硬策は、11月の中間選挙をにらんだ公約実現という側面も持つ。

 トランプは3月8日、非難の声を無視して、鉄鋼・アルミニウムの関税引き上げによる輸入制限措置に署名。世界を巻き込む貿易戦争の火蓋が切られた。波紋はすぐさま世界に広がった。

 「鉄鋼に輸出自主規制を敷いてほしい」。米商務長官のウィルバー・ロス(80)は12日、ブラジル外相、アロイジオ・ヌネス(73)にこう告げた。ブラジルは今回の関税から一時的に適用除外されている。一方的に関税を引き上げ、それを武器に相手を脅しあげ、輸出の自主規制をのませる――。米通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(70)が1980年代の日米貿易摩擦時で用いた手法だ。

 80年代との違いは関税引き上げも輸出自主規制の要求も世界貿易機関(WTO)ルールを逸脱した禁じ手であることだ。だが、現実にはトランプ流「ディール(取引)」に各国が屈しつつある。

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 韓国は米国との自由貿易協定(FTA)再交渉を3カ月で妥結する代わりに鉄鋼輸出を直近3年の7割に抑える数量規制をのんだ。ホワイトハウス高官は「歴史的勝利」と歓喜したが、韓国の通商交渉本部長、金鉉宗(58)は「早期に交渉を終わらせる戦略だった」と苦渋の選択を振り返る。

 北朝鮮情勢が緊迫するなか、米国は駐留米軍撤退というカードをちらつかせる。安保をもテーブルに乗せるのをいとわないトランプ流交渉術。日本や、ロシアとの緊張関係を抱える欧州も、是々非々では応じきれず、ディールの世界に絡め取られていく。表向きはWTO違反を手厳しく批判する欧州連合(EU)も、水面下では「追加関税から恒久的に除外するなら、新たな貿易交渉の準備をしてもいい」と米側に持ちかけている。

 「禁じ手」がまかり通り、ルールよりディールが幅を利かせれば、戦後の自由貿易体制は足元から崩れかねない。

 初夏のような強い日差しが差す米フロリダ。日本の首相、安倍晋三はトランプの別荘で17日から2日にわたって談判し、2国間の新通商協議を始めることを決めた。トランプは安倍が求めた鉄鋼・アルミの輸入制限解除を一蹴し、会談に参加したライトハイザーらは返す刀で日本にFTAを持ちかける。同盟国・日本もトランプが仕掛けるディールと無縁ではいられない。

 「対日貿易赤字は690億ドルから1000億ドルだ」。トランプは記者会見で力説したが、対日赤字が年900億ドルを超えたことはない。ルールだけでなく事実までねじ曲げる「米国第一」の行動様式は極めて危うい。

 日本は対米黒字を減らすため、米国から原油を大量輸入して東南アジアに転売する奇策まで検討する。米国も主力輸出品のエタノールに中国から報復関税を課され、ブラジルに「買ってくれ」と押し付け始めた。貿易戦争はまだ序盤だが、世界貿易は早くもゆがみ始めている。

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 米中の対立を軸に、貿易戦争の懸念がにわかに膨らんでいる。トランプのディールに世界は翻弄される。

(敬称略)



風見鶏 「米中和解」への備え 2018/4/22 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 「米中和解」への備え」です。





 10年ぶりに泊まった上海の錦江飯店は、内装を改めたのか、中に入ると以前より現代風のたたずまいを感じさせた。それでも1920年代に完成したゴシック建築は当時のままで、古き時代の上海をいまに伝える外観は変わらない。

錦江飯店の北楼(奥)と小礼堂

 もともとは、この街で暮らす英国人のために建てられた高級マンションだった。49年に新中国が成立したあと、要人向けのホテルに衣替えしてから、数奇な運命をたどる。

 常連のひとりに、建国の指導者である毛沢東氏がいた。よほど気に入ったのだろう。自ら指示し、中庭に重要な会議や宴会を開くための「小礼堂」と呼ばれる施設を設けた。

 ここが宿敵の米国と和解する舞台になるとは、さすがの毛氏も想像できなかったにちがいない。72年2月、訪中した当時のニクソン米大統領は中国の周恩来首相とともに、この小礼堂で両国の敵対関係に終止符を打つ「上海コミュニケ」に調印した。

 日本にとって忘れられないのはその前段である。

 71年7月、ニクソン氏の補佐官だったキッシンジャー氏が極秘に訪中し、周恩来氏と会談した。直後に、ニクソン氏は自身の訪中を電撃的に発表する。同盟国の日本に事前の説明はなかった。いわゆる「ニクソン・ショック」である。

 朝鮮戦争で戦火を交え、互いを激しく批判してきた米中が手を握るとは、当時だれも予想できなかった。慌てた日本は72年9月、田中角栄首相のもとで一気に中国との国交正常化まで突き進んだ。

 歴史を大きく変えた和解から半世紀近くがたち、米中は再び険悪な空気に包まれている。こんどの戦場は「経済」だ。

 今月3日、トランプ米大統領が知的財産の侵害を理由に中国への制裁関税を打ち出すと、中国はすぐさま対抗措置を発表した。報復が報復を呼び、両国は貿易戦争の泥沼にはまる一歩手前まで来ている。

 戦意をあおるような中国メディアの対米批判がすさまじい。「『抗美援朝』の意志でトランプ政権の貿易進攻をたたきつぶせ」。共産党系の環球時報に載った社説の一節である。

 「米国に抵抗して北朝鮮を助ける」という意味の「抗美援朝」は、朝鮮戦争で掲げたスローガンだ。米国が攻撃をやめないかぎり、中国はどんな犠牲を払っても戦い抜く。国民への激しい檄(げき)は、もはや言葉だけとは思えない。

 一方で、習近平(シー・ジンピン)国家主席は米国への批判を控えている。「われわれは片方が勝ち、片方が負けるゼロサムゲームに反対である」。今月半ば、海南省で開いたフォーラムではこう訴えた。

 何を意味するのか。気になるうわさを聞いた。「米国は自由貿易協定(FTA)を中国に働きかけている」。FTAかどうかはともかく、両国が貿易戦争を避けようと水面下で激しい駆け引きをしているのは確かなようだ。習氏の発言は、一定の譲歩をする用意があるというトランプ氏へのメッセージに聞こえる。

 緊迫するシリア情勢が中国に有利に働くかもしれない。ロシアと厳しく対立するトランプ政権は、中国とも貿易で戦う二正面作戦は避けたいはずだ。中国が少しでも譲る構えをみせれば、それに飛びつく可能性はゼロでない。

 日本にとっての悪夢は、米中が自分たちだけ得する合意に動くことだ。安倍晋三首相が蚊帳の外なら、それは第二のニクソン・ショックになりかねない。トランプ氏の出方が予測不能なだけに、「米中和解」への備えは怠れない。

(中国総局長 高橋哲史)



迫真 激震朝鮮半島(3)打算の「血盟」復活 2018/4/18 本日の日本経済新聞より

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 中国・北京の天安門広場にそびえる人民大会堂。その最大の宴会場に3月26日夜、国家主席である習近平(シー・ジンピン、64)の父、習仲勲と北朝鮮の朝鮮労働党委員長である金正恩(キム・ジョンウン)の父、金正日(キム・ジョンイル)が両手を握り合う姿が映し出された。1983年6月、金正日の初訪中時の映像だ。

訪中した金正恩氏(左)を習近平氏は手厚くもてなした=朝鮮中央通信・共同

 習は訪中した金正恩の歓迎演説で思い出を語った。「私の記憶によれば、父が駅で出迎え、猛暑のなか故宮の参観に同行した」。金正恩は「私の初外遊が中国の首都となったのは当然なことだ」と応じた。親子2代にわたる友好の演出だった。

 朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」の社説は「中朝は互いに血と生命を捧げて協力してきた」と、朝鮮戦争からの「血盟」の絆を強調。中国共産党機関紙の人民日報も「中朝は唇と歯のように密接な関係にある」と指摘。冷戦時代に使われた古い表現を持ち出して結束を誇示した。

 関係筋によれば、金正恩の訪中を持ちかけたのは北朝鮮側。米大統領、トランプ(71)との会談前に、後ろ盾となる中国との関係修復が不可欠だったためだ。非核化や6カ国協議への復帰表明という中国の要求に応じたのは訪中実現のためだった。

 もちろん、北朝鮮側の要求もあった。「トランプ米大統領を超える待遇をしてほしい」。3月上旬、北朝鮮の朝鮮労働党が派遣した7人の実務者は最高指導者のメンツを気にした。金正恩訪中を北朝鮮問題で主導権を回復する好機と位置づけていた中国にとってはお安い御用だ。

 習から正恩への贈り物は花瓶や茶器、30年ものの茅台酒など香港紙の推計では240万元(約4千万円)以上。金正恩の車列を先導した白バイは21台でトランプの訪中時と同じ。帰国の際には習自らが車が去るまで見送った。

 もっとも、双方の嫌悪感や警戒感が払拭されたわけではない。中国メディアは会談で習の発言をメモに取る金正恩の様子を放映した。北朝鮮側は中国で政治家が老いの象徴として嫌うメガネ姿の習の映像を流した。

 中国には今回の首脳会談で外交的立場を強化した北朝鮮がかえって非核化の動きを滞らせるとの不信感も根強い。一方、北朝鮮は中国による属国化を警戒する。中朝関係の専門家は語る。「会談でのメモ取りやメガネ姿の放映は、関係改善が短期の戦術的な動きにとどまっていることの証左だ」

(敬称略)



真相深層 東南ア強権親中が助長 「政治の季節」に民主化 逆行の懸念札束外交、各国に影響力 2018/4/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 東南ア強権親中が助長 「政治の季節」に民主化逆行の懸念札束外交、各国に影響力」です。





 マレーシア連邦議会下院選が5月9日に決まり、東南アジア諸国連合(ASEAN)は来年にかけ国政選挙が続く「政治の季節」に突入した。ただ各国は政府の強権ぶりが目立つ。背後に透けるのは圧倒的な経済力で影響を深める中国の存在だ。

ナジブ氏(左)と習氏は蜜月ぶりが際立つ(昨年5月、北京で初開催された一帯一路の国際会議)=ロイター

 「ナジブ政権らしい単刀直入な手口だ」。マレーシア当局が5日、マハティール元首相の野党に書類不備で活動停止を命じると、ASEANの外交官が感想を漏らした。

資金繰りを支援

 野党弾圧は徹底している。7日の下院解散の直前になり、与党に有利な選挙区変更や批判封じの「反フェイク(偽)ニュース法」を成立させた。

 かつて師弟関係だったマハティール氏とナジブ首相。対立の発端は2015年にナジブ氏に浮上した、政府系ファンド「1MDB」の資金流用疑惑だ。野党は「反汚職」を訴えるが、隠れたもう一つの争点が中国だ。

 「中国が工業製品やパーム油を買ってくれなくなれば経済はどうなるか」。ナジブ氏は1日の演説で野党に反論した。

 マハティール氏は最近の中国優遇を「不健全」と批判。マレー半島南端のマラッカ海峡からクアラルンプールを経て、東海岸を北上する縦断鉄道の建設を丸投げしたことをやり玉に挙げ、野党が勝てば見直すと訴える。

 実際、ナジブ政権は中国への肩入れが目立つ。13年10月、習近平(シー・ジンピン)国家主席の公式訪問を合図に、広域経済圏構想「一帯一路」を積極的に受け入れ始めた。進行中のプロジェクトは鉄道や電力、港湾、工業団地など約30件、総工費は9兆円を超す。

 ナジブ氏の父で第2代首相だったラザク氏は1974年5月、ASEAN(当時は5カ国)で最初に中国と国交を樹立した。ただより注目すべきは1MDBとの関連だ。

 肝煎りの1MDBは負債が4年で420億リンギ(約1兆1600億円)に膨らみ、資金繰りに窮した。「助け舟」を出したのが中国だ。15年11月、1MDBの傘下企業が持つ発電所を、国有電力が負債も含め158億リンギで買収。その後、一帯一路の受け入れが加速した。

 マレーシアはASEANの縮図といえる。

 半世紀前に「反共同盟」として発足したASEANは、改革開放で中国経済が急成長すると、今度は輸出市場や外資を奪われる脅威とみなした。

 だが今は関係緊密化にひた走る。05年発効の自由貿易協定(FTA)は95%の品目で関税を撤廃。中国の他のFTAより自由化度が高い。日本総合研究所の大泉啓一郎・上席主任研究員は「世界2位の中国市場はASEANに最も開放されている」と話す。16年の中国の輸入先はASEANが12.7%を占め首位だ。

米国の影薄まる

 対照的に戦後、経済・軍事に介入し、民主化の伝道師も自任した米国は存在感を失いつつある。

 経済発展の果実を気前よくばらまき、人権などにうるさくない中国は、ASEAN各国には都合がいい。だからこそ米中のパワーバランスの変化は強権政治を助長する。

 7月に総選挙を控えるカンボジアは最大野党を解散に追い込んだ。批判する米国との定例合同軍事演習は停止し、16年に演習を始めた中国に傾斜する。カンボジアの対外債務の4割超は中国。フン・セン首相は「中国は口よりも多くのことをしてくれる」と称賛する。

 来年初めに民政復帰への総選挙を行うタイは、軍の政治関与を許す規定を憲法に盛り込んだ。同盟国の米国からの非難は無視し、世論の反対を押し切って中国製の潜水艦や戦車の購入を決めた。

 思い出すのは習氏がマレーシアを訪れた13年秋だ。発足直後の習指導部はアジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジアサミットに合わせ習氏と李克強(リー・クォーチャン)首相がASEAN5カ国を歴訪した。日本の外交筋は「2期10年は自分たちが仕切るとの顔見せ」と受け止めた。

 国家主席の任期撤廃で習体制は長期化が確実。「社会主義現代化強国」を掲げ、米国を抜く野望を抱く中国には、自身と同じ強権国家がくみしやすい。“札束外交”になびくASEANも、国家発展には中国モデルが手本になると感じ始めた。民主化逆行の現実はアジアだけの問題ではない。

(アジア・エディター 高橋徹)



迫真 副業という働き方(2)煮え切らぬ厚労省 2018/4/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 副業という働き方(2)煮え切らぬ厚労省」です。





 4月6日、公正取引委員会が東京都千代田区内で労働組合関係者などを対象に非公開のセミナーを開いた。テーマは組織に属さないフリーランス人材の独占禁止法による保護。公取委は2月、企業がフリーランスに対し不利な取引条件や契約内容を超えた仕事量を押しつければ、「優越的地位の乱用」になる可能性があるという報告書をまとめていた。

厚労省の検討会は副業解禁を打ち出したが…

 「『独禁法違反だ』と経営者に訴えて、本当に相手にしてもらえるのでしょうか」。半信半疑の聴講者もいたが、公取委の担当者は「不利な契約の押しつけなどは違反だとはっきりさせたことで訴訟をしても勝てる可能性は高まった」と訴えた。

 独禁法が制定されてから70年にわたり労働分野で違反を摘発してこなかった公取委。副業や兼業の人も含めるとフリーランスは約1100万人にのぼるとされる。働き方改革の大きな流れが公取委を動かした。

 その一方、働き方改革の司令塔になるはずの厚生労働省は副業に関しては煮え切らない。

 「非常に戸惑っている」。昨年11月20日、副業推進を議論する厚労省の有識者検討会で、委員の弁護士、荒井太一(38)が不満を口にした。厚労省はこの日、企業の就業規則のひな型になる「モデル就業規則」で副業を認める案を提示したが、法令改正の具体論には触れずじまい。昨年末の報告書でも「社会の変化を踏まえて見直す」とするだけで方向性は示さなかった。

 焦点になったのは1947年から一度も見直されてこなかった労働基準法の規定だ。複数の企業で働く人の労働時間は合算して管理する――。仕事を掛け持ちする労働者を守るための規定が、働く人の選択肢を狭めていると批判を浴びる。

 厚労省も一枚岩ではない。本業と副業先の企業が互いに労働時間を把握する仕組みは今でもなく、「合算ルールは絵に描いた餅」(副業を推進する労働関係法課)との声も漏れる。しかし組織防衛の意識がブレーキをかける。「合算をやめれば労働時間が増える。責任を問われたくない」(労働基準局幹部)

 ソフトバンクは昨年11月に社員の副業を認めたが、「他社での勤務時間は把握できない」(人事本部)として副業先と雇用契約を結ぶことは禁じた。合算ルールが企業の制約になる。

 走り出した企業に法令などの制度や行政が追いつかない。巨大官庁に責任を果たす覚悟はあるのだろうか。

(敬称略)



迫真 副業という働き方1 「1企業頼み」の終わり 2018/4/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 副業という働き方1 「1企業頼み」の終わり」です。





 「ハリネズミは繊細な生き物。出勤は20匹ずつ1日交代にしています」。3月下旬、東京都渋谷区の雑居ビル2階にあるハリネズミカフェ。経営者の清水正樹(32)は“従業員”のハリネズミを手のひらで包みながら、店内に目を配らせた。

副業でハリネズミカフェを経営する清水正樹さん(東京都渋谷区のちくちくCAFE)

 昨年12月の開店以来、女性や外国人客らに受け、週末は行列ができる人気ぶり。来客数は多い日で130人、3月の月商は300万円に達した。

 清水にとってこの店の経営は副業の一つにすぎない。本業はネット関連企業「エンファクトリー」の社員だ。同社でオンラインショップの運営を担当しながら、ハリネズミカフェのオーナーなど5つの名刺を持つ。昨年の副収入は数百万円。会社の給与を加えた年収は1千万円を超える。

 「1つの企業に寄りかかって安心できた時代は終わった。自分の可能性を広げる機会は、社外にも広がっている」

 日立製作所や日本マイクロソフトのマーケティング部門で12年以上のキャリアを積んだ河合優香理(37)は昨年2月、フリーランスに転じた。現在は飲料メーカーなど4社から新規事業の立案や商品のマーケティング業務を受託する。

 早朝4時から午後2時まで働き、その後は小学生の娘の子育てや家事の時間だ。「成果を上げなければ次の仕事はない。厳しいけど、働きたい時間に働けるスタイルが自分に合っている」。日本マイクロソフト時代と変わらない収入に対して労働時間は半分になった。

 職務内容や勤務時間、上司や同僚との人間関係……。「会社員時代は自分で決められないことばかり」。不満が募っていたころ、営業職への異動を言い渡され、組織を離れることを決めた。

 4月2日、ユニ・チャームの全社員に1通のメールが届いた。「個人も会社も共に成長しましょう」。入社4年以上の正社員約1500人を対象に副業を解禁。介護やデジタルマーケティングなど本業に隣接する分野を推奨し、ノウハウ獲得を通じた事業領域の拡大を目指す。「どんな業種が認められるのか」「時間管理のルールは」。社員からの問い合わせが相次いでおり、関心は高いという。

 ロート製薬ではすでに70人が副業制度を活用。ソフトバンクなど、ほかにも副業を容認する大手企業が増え始めている。ユニ・チャームは「人手不足の折、社員が多様なスキルを身につけられる環境づくりが企業にとって重要になる」とみる。

 副業やフリーランス、テレワークなど、これまで本流になり得なかった働き方は、将来の就労人口減少に対応する一つのカギになる可能性を秘めている。インターネット経由で単発の仕事を依頼したり受注したりするギグエコノミーも広がりを見せる。

 ただ、多様な働き方を受け入れるための労働法制の整備など、取り組まなければならない課題は多い。例えば、労働基準法は原則1日8時間、週40時間までと労働時間を定めているが、副業・兼業に関する規定はなく、仕事のかけ持ちによる労務管理の責任の所在はあいまいだ。企業側には本業で得た機密情報の漏洩や、同業他社との兼業などトラブルを警戒する意見もある。

 「副業が会社にばれたらどうなりますか」。特定社会保険労務士、太田広江(50)の元には副業をする会社員から相談が舞い込む。昨年11月には30代以上の女性約20人を集めて副業セミナーを開いた。「本業の評価が下がることへの懸念から、はじめの一歩を踏み出せない会社員は多い。隠れて副業すれば企業側に訴訟を起こされるリスクさえある」と指摘する。

 1月、厚生労働省の「モデル就業規則」に画期的な改定があった。労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる――。「柔軟な働き方に関する検討会」の議論を踏まえ、副業解禁の方向性が明記された。

 検討会メンバーの弁護士、荒井太一(38)は「すぐに欧米型の人材流動性が高い働き方を採用するのは不可能に近い」という。そのうえで「新しい働き方をうまく取り入れ、労働生産性を最大限高めることが日本の生き残る道だ」と強調する。

 公正取引委員会がフリーランスの保護を打ち出すなど、多様な働き方の受容に向けた動きが本格化している。長時間労働の解消とは別の「働き方改革」の底流を探る。(敬称略)