カテゴリー別アーカイブ: 風見鶏

風見鶏 クリントン氏の対日観 2016/10/16 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 クリントン氏の対日観」です。





 9月8日のラオスのビエンチャン。日米両政府の間でちょっとした「事件」が起きた。いったん固まったはずのオバマ米大統領と安倍晋三首相の首脳会談が中止になったのだ。同地で開いていた東アジア首脳会議が長引いたのが理由とされたが、時期も相まって「米側が断ったのではないか」と臆測を広げた。

 その6日前の9月2日。首相はウラジオストクでロシアのプーチン大統領と会い、12月に地元、山口県長門市での会談で合意した。北方領土問題を含む平和条約交渉が主題となる。2014年のウクライナ危機以降、オバマ、プーチン両氏の関係は最悪だ。主要7カ国(G7)はロシアへの経済制裁を続ける。日米首脳会談の見送りが12月の日ロ首脳会談の意趣返しの文脈で受け止められた。

 領土問題で中立政策を取る米国が立場を明確にしたのが北方領土だ。1956年に日ソ交渉に関する覚書で北方領土は日本の領土と打ち出した。ところがこの60年間、米国が問題解決へ動いた形跡はない。首相が自信を持って領土問題を進める背景にはこの「動かぬ米国」の存在もある。

 その日米の複雑な空気に真っ先に反応したのが米民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン前国務長官(68)だ。国連総会の開催期間中だった9月19日、ニューヨークに首相を訪ね、日ロの接近を「戦略的な知恵だ」と評価した。

 日米同盟強化の重要性も力説。在日米軍の駐留経費の全額負担を求める共和党候補、ドナルド・トランプ氏(70)に差をつけ、日ロ接近ではオバマ氏との違いを際立たせてみせた。大統領就任後に日米でリスクになりそうな問題にまで手を打ったのだ。日本の核武装を容認したトランプ氏と比べ、クリントン氏に安定感があるのは確かだ。

 ただ、夫で元大統領のビル・クリントン氏の政権時代を知る関係者はヒラリー氏の大統領就任にも身構える。90年代、ビル氏は日米包括経済協議で日本に数値目標を迫った。中国重視も鮮明で、中国に9日間滞在したにもかかわらず、日本を素通りして帰国し、ひんしゅくを買った。

 「日本は輸出を増やすため円安誘導している」。クリントン氏は今年2月、大統領になった際に対抗措置を取ると明言した。当時の関係者にはヒラリー氏とビル氏が重なった。国務長官時代のクリントン氏は日本の理解者だったが、長官と大統領は大きく異なる。

 政権運営を第一に考える大統領は内政を基点に外交を練る。大統領選のスタッフがそのまま政権で力を持つのも一因だ。選挙と無関係の日本をはじめとする地域の専門家は政権の中枢から外れる。「クリントン大統領」ならビル氏の首席大統領補佐官も務め、今回の選挙を統括するジョン・ポデスタ氏が外交でも影響を及ぼすとみられている。

 クリントン氏がかつて推進した環太平洋経済連携協定(TPP)について突如反対に転じたのもポデスタ氏の助言だ。党予備選で競り合ったバーニー・サンダース上院議員がTPP反対だったため、争点をつぶす内政上の思惑だった。

 ポデスタ氏はオバマ政権の上級顧問として中国と温暖化ガス削減に関する数値目標を極秘裏にまとめた実績がある。オバマ政権の対中国「弱腰」外交への懸念が「クリントン大統領」で解消されるかは不明だ。

 外交が内政に翻弄される以上、「クリントン大統領」の対日政策は未知数だ。11月8日投票の大統領選まで20日余り。トランプ氏との比較で高まった期待を等身大に戻しながら「クリントン大統領」になった場合の冷静なリスク分析がこれから必要になる。

(ワシントン=吉野直也)



風見鶏 首相の座 待つか攻めるか 2016/10/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 首相の座 待つか攻めるか」です。





 政治家は好きな小説にも個性がでる。印象深かったのは小泉純一郎氏だ。

 首相だった2003年のインタビューで司馬遼太郎の国盗り物語、新史太閤記、関ケ原、城塞の4冊を挙げた。「権力闘争とはこういうものかと分かる。どんな哲学書、政治関係の本よりも面白く、得ることが多かった」と語った。

 小泉氏は自民党総裁選で2度惨敗し、3度目に勝利した。総裁選に関してこう話したこともある。「権力者に挑んで負ければ戦国時代なら打ち首だ。民主主義はいいね。激しく権力闘争をしても命までは取られない」。冗談めかしながら実感がこもっていた。

 政治家は決断力が問われる。なかでもトップの座にどういう手段とタイミングで上り詰めるかの判断は難しい。実力者に反旗を翻して敗れた時のダメージは計り知れないからだ。

 自民党内では次の「天下取り」への戦略を大いに左右する議論が進んでいる。安倍晋三首相の総裁任期は18年9月末。二階俊博幹事長ら執行部は「連続2期6年まで」という上限の延長に動いている。党則改正によって安倍氏が3選を果たせば、21年まで首相を続投する道が開ける。

 「ポスト安倍」に名前が挙がる石破茂前地方創生相や岸田文雄外相、野田聖子元郵政相らは内心穏やかではないはずだ。

 石破氏は9月に講演で任期延長への考え方を質問されると「なるべく私は言わないようにしている」と前置きして続けた。「総裁任期がある限りみんなで目いっぱい支える。だとすれば任期がぎりぎり近づいてからでもいいんじゃないかという考え方もあり得る」

 岸田氏に近いベテラン議員は「権力は必ず腐敗する。派閥の全盛時代ですら総裁任期には上限があった。執行部の力が強い今の制度の下で延長すべきだとは思えない」と漏らす。

 8月の内閣改造で自ら望んで閣外に出た石破氏は「主戦論」、外相として引き続き政権を支える岸田氏は「禅譲論」に傾いているように映る。次の総裁選をにらんだ駆け引きはすでに始まっている。

 かつて「首相の座に最も近い」といわれた加藤紘一元幹事長が亡くなって1カ月が過ぎた。9月15日に都内で営まれた告別式では、反・経世会(旧竹下派)を掲げて「YKKトリオ」を組んだ山崎拓、小泉両氏が遺影の前で言葉を交わす場面があった。

 小泉氏は記者団に「なぜ首相になれなかったのか不思議だ。若い頃から非常に優秀だった。惜しい人を亡くした」と振り返った。

 加藤氏は1999年の総裁選に周囲の反対を押し切って出馬し、小渕恵三首相と決定的に対立。それが伏線となって1年後の森内閣で野党提出の内閣不信任決議案に同調する「加藤の乱」を起こし、鎮圧されて返り咲きの芽をつぶした。

 主流派との2度の対決を悔やんでいるかを晩年に尋ねたことがある。加藤氏はしばらく考えて答えた。

 「経世会の用意した御輿(みこし)に乗って首相になっても思うような政治はできないという思いがあった。でも仲間に迷惑をかけたし、甘かったと言われればそうだね」

 党内力学に従って機が熟すのをじっと待つか、それとも信じる政策の旗を掲げて果敢に攻めるか――。今も昔も選択は難しい。

 民進党の中堅議員の声も紹介したい。「自民党が安倍首相のまま限界まで引っ張るというのなら歓迎だ。『ポスト安倍』は再び与野党をまたぐ政権交代になる可能性が高まる」。何が正解かは、後になってみないと分からない。

(編集委員 坂本英二)



風見鶏 効くか、寸止めの圧力 2016/07/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 効くか、寸止めの圧力」です。





 南シナ海をめぐり、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は今月12日、中国の主張をことごとく退ける判決を下した。その2日後、米国のバイデン副大統領は、ハワイで開かれた日米韓の外務次官協議に出席した。

 閣僚より格下の次官級会議に副大統領が出ることなど、ふつうなら考えられない。異例だったのは、それだけではなかった。

 その冒頭、約50分の長広舌をふるい、伏せられていた習近平・中国国家主席との会談の一部を、暴露してしまったのだ。

 バイデン氏が2013年12月初め、訪中した際のやり取りである。テーマはこの直前、日中台に囲まれた東シナ海に中国が「防空識別圏」を設定し、外国機の出入りを監視しようとした問題だった。

 この措置を批判したバイデン氏に、習近平氏は「では、私にどうしろと言うのか」と開き直った。そこでバイデン氏は「あなたがどうするか、さほど期待していない」と切り捨て、こう警告したという。

 「米軍は(最近、中国への通知なしに防空識別圏内に)B52爆撃機を飛ばした。我々はこれからも、飛び続ける。中国の『防空識別圏』を認めることはない」

 実際、米軍はその後も、中国が設けた「防空識別圏」を無視し、自由に飛んでいる。バイデン氏はこの発言をあえて公表することで、南シナ海でも、中国の強引な行動は認めない決意を示したのだった。

 米政府は中国に対し、南シナ海でも「防空識別圏」を設定したら、強い対抗措置に出る、と水面下で伝えているという。

 先週、ラオスで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の会合でも、米国は日本と組み、中国に仲裁判決の受け入れを迫った。

 ところが、総じてみると、米国の対応はなぜか、いたって穏便だ。オバマ大統領は仲裁判決への発言を控えている。米国防総省でもいま、軍事圧力を強めることには慎重論が多いらしい。

 仲裁判決を受け、かさにかかって中国を責めるというより、刺激しすぎないよう、“寸止め”の圧力にとどめているようなのだ。どうしてなのか。

 内情を知る複数の外交筋はこう解説する。

 「中国は法的に完敗し、内心、かなり焦っている。さらにたたくより、静かに諭したほうが、前向きな行動を引き出しやすい

 米国にかぎったことではない。安倍政権の対応も似たところがある。

 今月15日、モンゴルで開かれた安倍晋三首相と李克強中国首相の会談。安倍氏は日本周辺での中国軍の動きなどをけん制したが、南シナ海問題には短くふれる程度にとどめたという。

 会談の前半では、9月初めに中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議を成功させるため、最大限、協力するとも伝えた。

 「言うべきことは言うが、経済やテロ対策では中国との協力を進めていく」。周辺によると、安倍氏はこんな意向を示している。中国が窮地にある今こそ、日中打開の好機とみているフシすらある。

 この路線がうまくいくかどうか、日米両政府内ではなお、議論が割れる。要約すると、こんな具合だ。

 南シナ海の軍事化を主導しているのが習近平氏なら、対話によって彼らの行動を変えられるかもしれない。だが、軍が主導し、習氏が追認しているのだとすれば、融和策はほとんど効かないだろう――。

 このどちらかで、処方箋は全く異なる。答えを知るには、中国の言動にさらに目を凝らし、権力中枢の実態を探るしかない。

(編集委員 秋田浩之)



風見鶏 安倍氏、ついに「虎穴」へ 2016/05/22 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 安倍氏、ついに「虎穴」へ」です。





 日本は長年、経済協力をテコに、ロシアとの北方領土交渉を動かそうとしてきた。だが、いまだに領土が戻る兆しはない。

 ならば、やり方をがらりと変えるしかない。安倍晋三首相はこう確信し、プーチン・ロシア大統領に「新しいアプローチ」にかじを切る決意を伝え、合意を取りつけた。

 安倍氏周辺によると、これが5月6日、ロシアの保養地ソチで約3時間におよんだ首脳会談の本質だ。

 では、新しいアプローチとは何か。これは主に、安倍氏とプーチン氏が2人だけで会った35分間に話された。領土交渉の核心にかかわる極秘であり、両政府は一切、やり取りを公表していない。

 複数の関係者によると、その輪郭はこうだ。

 アジアの地政学図をながめると、日ロは安全保障上、協力できる余地が多い。まずはそうした協力を動かし、信頼を築いていく。そのうえで両首脳のトップダウンにより、領土問題を一気に決着させる――。

 日本はこれまで、まず領土問題を打開し、関係を前進させるとの発想だった。この順序を逆さまにして、まず大きな戦略で手を握り、“良き隣人”になってから、一緒に領土問題に対処しようというわけだ。

 安倍氏がこの路線を決断したのは、強大な中国に向き合うには対ロ関係の安定が急務だと信じるからだ。周辺はこう明かす。

 「彼は領土問題の解決に熱意を傾けているが、『返還実現』だけが目的なわけではない。いちばんの狙いは日ロの距離を縮めて、外交の選択肢を広げ、中国台頭に対応できる足場を固めることにある」

 これはプーチン氏にも悪い話ではない。ロシアは国内総生産(GDP)で中国の5分の1以下、人口では約10分の1に落ち込んだ。膨張する中国に内心、脅威を感じている。

 安倍氏がどこまで領土交渉で譲るつもりなのか、プーチン氏は真剣に見極めようとしている。

 内情に通じた日ロ関係筋によると、ソチでの会談に先立ち、彼は3時間半のブリーフを2回、ラブロフ外相から受けたという。6日の首脳会談の途中で、安倍氏がプーチン氏と2人だけで話したいと持ちかけたとき、ラブロフ氏も同席しようとしたが、プーチン氏はあえて退けた。

 プーチン氏はさらに、ロシア極東での9月の再会談を提案した。次は自分が訪日する番なのに訪ロを促したのにも、ひそかな思惑がある。同関係筋は語る。

 「彼はもう一度、安倍氏と2人だけで話し、本気度を見定めたいと考えている。盗聴器が仕掛けられかねない日本では、本音の話ができない。ロシアならその心配はないうえ、会話をそっと録音できる」

 両首脳の歯車がかみ合えば、プーチン氏は12月にも来日し、交渉が動きだす。だが、リスクもかなり大きい。彼の本音は歯舞、色丹の2島返還決着にあるようにみえるからだ。そこには安保上の事情も絡む。

 南を上にした地図をみていただきたい。ロシア軍は米核戦力に対抗する切り札として、オホーツク海に核ミサイル搭載型の原子力潜水艦を置いている。

 それらが太平洋に出るうえで「北方領土はとても大切な通り道だ」(ロシアの軍事専門家)。米ロの対立が深まれば、北方領土の重要性はもっと高まる。

 虎穴に入らずんば、虎児を得ず。この成句にたとえれば、安倍氏はプーチン氏の虎穴に踏み込もうとしている。相手はスパイ機関の元トップだ。一筋縄でいく相手ではないことだけは、分かっている。

(編集委員 秋田浩之)



風見鶏 検証なき国は廃れる 2016/04/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 検証なき国は廃れる」です。





 市場の競争にさらされる企業は失敗から教訓を学び、生かさなければ、廃れてしまう。国も同じだ。

失敗から学ぶ力が試されている(独立調査委でイラク戦争の証言をするブレア元英首相)=AP

「特定秘密」の乱用をチェックする衆院情報監視審査会の額賀会長(左)

 その意味で、日本として注目すべきできごとが近く、英国である。2003年、イラクが大量破壊兵器を隠しているとして、当時のブレア英首相は世論の猛反対を押し切り、米国とイラク戦争を始めた。だが、結局、そんな兵器は見つからなかった。

 だれが、どこで、なぜ、間違ったのか。英政府が09年に設けた独立調査委員会が今月、8年越しの検証を終え、6月にも結果を公表するのだという。ブレア氏をはじめ、尋問に応じた当時の要人や軍幹部は百数十人にのぼる。

 「あの戦争は英国民に、英米同盟への強い疑念を植え付けてしまった。その後遺症は癒えていない」。当時を知る英政府の元高官はこう自省する。それでも英国にはなお、失敗から学ぼうとする能力がある。

 一方、米政府はイラク戦争だけでなく、01年の同時テロの教訓も独立調査委で洗い出し、それぞれ約600ページの報告書を10年ほど前に出している。

 では、日本はどうか。残念ながら、あまりにもお粗末と言うほかない。

 小泉政権(当時)は大量破壊兵器があるという前提でイラク戦争を支持し、復興に自衛隊も送った。支持を決めた経緯については、民主党政権の指示を受けた外務省が調査し、12年12月に結果をまとめた。

 しかし、発表されたのは、たった4ページの要約だけ。同省は「これ以上、公表すると、各国との信頼関係を損ないかねない情報がある」と説明する。

 むろん、日本は戦争を始めたわけではない。だが、攻撃に参加しなかったオランダも、戦争を支持したことが正しかったかどうか調査し、約550ページの結果を発表している。

 日本はなぜか、失敗を深く分析し、次につなげるのが苦手だ。「小切手外交」とやゆされた1991年の湾岸戦争、安保理常任理事国入りに失敗した05年の国連外交、小泉純一郎首相による2度の北朝鮮訪問。外交だけでも、検証すべきできごとはたくさんある。

 だが、元幹部を含めた複数の外務省関係者によると、これらを正式に調べ、総括したことはないという。多くの人が原因にあげるのが次の2点だ。

 *日本人の性格上、失敗の責任者を特定し、批判するのを好まない。

 *これからも同じ組織で働く上司や同僚の責任を追及し、恨まれたくないという心理がみなに働く。

 同省にかぎらない。日本の組織には多かれ少なかれ、こうした「ムラ的」な風土がある。ならば、ときには第三者が必要な検証をしていくしかない。国家の場合、その役割をになうべきなのは立法府である。

 ひとつの試金石になるのが、約1年前、衆参両院にできた情報監視審査会だ。メンバーは与野党の議員。政府が「特定秘密」の指定を乱用し、開示すべき情報を隠していないか、チェックするのが役目だ。

 特定秘密とは、漏れたら安全保障が脅かされる情報で、漏洩には厳罰が科せられる。政府は約19万点の文書を指定ずみだ。まず審査会が知ろうとしたのが、この大まかな実態だ。

 ところが「政府側は19万点の文書の件名も、すべては明かそうとしない」(審査会メンバー)という。

 衆院審査会の額賀福志郎会長(自民)は「1年目は改善を要求するにとどめたが、対応が改められなければより重みがある勧告権を発動する」と語る。

 日本は先の大戦で、自国民だけで約310万人の命を失った。再び、国策を誤ることはないのか。国の検証力の貧しさを考えると、不安になる。

(編集委員 秋田浩之)



風見鶏 「寸止め」という選択肢 2016/04/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 「寸止め」という選択肢」です。





 消費増税で景気が後退する来年4月以降の衆院選は自民党に不利である。参院選での野党共闘にひびを入れるには衆院選をぶつけるのがいちばん簡単だ。今年夏は衆参同日選があると読むのが政治の常識である。

76年7月、ロッキード事件で逮捕された田中角栄氏

83年12月、衆院選を受けて記者会見する中曽根康弘氏

 1983年も似たような年だった。干支(えと)は亥(い)年。12年にいちど春の統一地方選と夏の参院選が重なる年だ。次の選挙まで間がある地方議員の動きが鈍り、亥年の参院選で自民党はいつも苦戦を強いられてきた。

 秋にはロッキード事件で起訴された田中角栄元首相の一審判決がある。有罪は必至である。その前に衆院選を終えたい、というのが自民党の大勢だった。

 この2つをみたす解は夏の衆参同日選しかない。当時の中曽根康弘首相は就任直前の82年秋に最大派閥のオーナーである田中氏と会った際、早々と「6月にダブル選をせよ」と厳命されたそうだ。

 それだけに中曽根氏が83年4月に「解散見送り」を表明すると、野党も含めて政界は耳を疑った。

 自民党は6月の参院選はダブル選で圧勝した3年前を1つ下回るにとどめた。だが、10月の田中有罪判決を受けた12月の衆院選は案の定、勝てなかった。単独過半数を6議席も下回り、新自由クラブとの連立でかろうじて政権を維持した。

 なぜ中曽根氏はあえて不利な戦いを選んだのか。同日選見送りを表明する前日の日記にこう書き残している。「ここで解散をやれば鈴木氏の権威は落ちる」。中曽根氏の前の首相で、鈴木派を率いる鈴木善幸氏は田中支配が強まると福田赳夫氏との角福戦争で党が空中分解すると懸念。同日選に内々、反対していた。

 選挙後、中曽根氏はいわゆる田中影響力排除声明を出し、幹事長を田中派の二階堂進氏から鈴木派の田中六助氏に交代させる。田中派で竹下登氏による代替わり狙いのクーデターが起きるのはこの1年後だ。

 中曽根氏は選挙に負けることで自身を首相に押し上げた恩人の田中氏の力をそぎ、政局の主導権を握って長期政権への道を開いた。恐るべき深謀遠慮である。

 3月の本欄で今年夏の参院選の見通しについて(1)衆院選との同日選(2)消費増税の先送り――などの後押しがあれば、改憲勢力が3分の2に「達しない方が驚きである」と書いた。

 達したら改憲を求める声はいまの比ではすまない。保守派は安倍晋三首相の強力な応援団だが、2年以上も靖国神社に参拝しないなど現実路線をとっていることにはかなりの不満を抱いている。改憲の国会発議を可能にするだけの議席を持ちながら「様子をみよう」で納得するだろうか。

 問題はさらにその先だ。国政選ではアベノミクスに期待して自民党に投票したが、改憲は反対という有権者は少なくない。国民投票で改憲案が否決されたら、ときの首相の退陣は避けがたい。吉田松陰に心酔する安倍首相でも確たる見通しなしに「無志はおのずから引き去る」ではあるまい。

 改憲勢力が3分の2に届かなければ保守派との摩擦は起きない。自民党が改選51議席を上回りさえすればいちおうの勝利であり、政権への打撃にはならない。長期政権への一番の近道は「寸止め」である。そう考えれば、同日選である必要はなくなる。

 現職議員が大型連休に選挙区を走り回ったら解散風は止められなくなる。だから中曽根氏はその前に決断した。安倍首相はどうするだろうか。24日の衆院補欠選挙に敗れて「おじけ付いて見送った」では格好が付かない。決断は意外に早いかもしれない。

(編集委員 大石格)



風見鶏 日本も巻き込む新冷戦 2016/03/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 日本も巻き込む新冷戦」です。





 北朝鮮が“水爆”を搭載した長距離弾道ミサイルを発射。大海を越えて米国とみられる大陸に着弾し大音響と共に陸地が沈み行く。

 衝撃的な宣伝映像は昨年末、北京でひときわ目立つ銀色のドーム、国家大劇院で上映されるはずだった。美女で名をはせた北朝鮮のモランボン楽団の軽快な演奏と共に。公演は土壇場で中止され美女らは足早に北京を去った。直前に金正恩第1書記が“水爆”保有を宣言したのが中国の習近平国家主席の怒りを買った。

 周辺環境が厳しい中国は北朝鮮に秋波を送っていた。南シナ海で米国と対峙する中、朝鮮半島での影響力維持は重要だ。ミサイル映像だけなら容認できる。先に訪朝した序列5位の劉雲山氏も平壌で似た映像を見た。中国側は名は伏せつつ、「指導者」が公演を鑑賞すると約束していた。

 金第1書記は期待したという。「最高指導部7人の誰かだ。習主席の可能性もある」と。それなら中国が北朝鮮の核保有を事実上、認めたことになる。

 だが“水爆”発言に衝撃を受けた中国は国家大劇院に出向く指導者のレベルを一気に落とし、最後は某省次官が出席すると伝えた。今度は金第1書記が怒り、楽団を引き揚げた。そして数日後に命令書に署名し、年明けに“水爆”とミサイル発射の実験に突っ走る。

 国連の対北朝鮮制裁は中国の怒りもあって厳しい。それでも民生品を外したため中国が北朝鮮経済を支える構造は同じだ。美女楽団のドタバタ劇が示すように中国は北朝鮮に手を焼く。しかし地政学上、見捨てる選択肢はない。今も中朝は形の上では同盟関係だ。

 核実験とミサイル発射は中国と韓国の蜜月関係にくさびを打ち込み、中国の意図を超えてアジアに新たな冷戦構造を生み出した。

 朝鮮半島を巡る中朝ロと日米韓の対峙だ。米軍の地上配備型高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備問題がそれを象徴する。中国は自らの核ミサイルも無力化されると反発し、ロシアも同調した。

 中国は“対韓制裁”もにおわせる。中国で人気の韓国ドラマ、音楽の流入を事実上、制限する巧妙な手だ。中国は南シナ海問題でフィリピン産バナナ輸入を制限。中国の民主活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞を贈ったノルウェー産サーモン輸入を絞った実績がある。

 新たな冷戦構造は米中がさや当てを演じる南シナ海問題と連動する。米空母が南シナ海で中国の動きをけん制した後、朝鮮半島付近での米韓合同演習に参加した。習主席は国内で軍改革が佳境の今、朝鮮半島でも、南シナ海でも譲れない。

 本音を言えば北と南の二正面作戦は厳しい。南シナ海での対峙は米国、ベトナム、フィリピンに限りたい。もし米国と組む日本が関与すればゲームが複雑化し、中国に不利だ。日本の安全保障法も気になる。

 中国当局者らが日本にくぎを刺す。「南シナ海に日本は関係ない」。最近、中国の研究機構関係者が日本人を前に奇妙な論理を口にした。「日本が南シナ海問題で騒ぐと訪日中国人観光客が減りますよ」と。

 安倍晋三首相が進めるベトナム、フィリピンなどとの連携をけん制する観測気球である。まだ本気ではない。中国の李克強首相は「(対日関係は)改善の動きがあるが、なお脆弱」と語った。似た趣旨だ。

 中国は日本での閣僚級の日中ハイレベル経済対話、日中韓首脳会談の早期開催にも留保を付ける。南シナ海が理由だ。アジアの新冷戦は日本も巻き込みつつある。ワシントンで始まる核安全サミットでの日米中首脳の動きを注視したい。

(編集委員 中沢克二)



風見鶏 米、2つの対中政策 2015/11/29 本日の日本経済新聞より

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 首都ワシントンに駐在する各国の大使に会わないことで有名なスーザン・ライス米大統領補佐官(51)がホワイトハウスの自室で定期的に懇談する人物がいる。ニクソン政権時代に大統領補佐官として米中の国交正常化に道筋をつけたへンリー・キッシンジャー氏(92)だ。

 ライス氏と同じ国家安全保障を担当していたキッシンジャー氏はその後、国務長官を兼務し、フォード政権でも外交全般を掌握した。ライス氏は、ヒラリー・クリントン氏(68)が国務長官から外れた2期目のオバマ政権の外交を仕切る。そのライス氏が対中政策の薫陶を受けているのがキッシンジャー氏なのだ。

 ライス氏もそれを隠していない。9月下旬の米中首脳会談直前の講演では「米中の歴史から話を始めたい」と断ったうえで1971年のキッシンジャー氏の極秘訪中に時間を割いた。補佐官就任後の3回の中国訪問に触れ「いまや中国を訪れることが秘密でも何でもなくなった」と米中関係の進展をたたえた。

 ライス氏の外交について「冷戦下のパワーポリティクスに考え方が近い」という評価がある。冷戦下は、旧ソ連とどう対峙するかが米外交を組み立てる際の起点だった。今であれば、中国との間合いが、米外交のそれに当たる。

 冷戦下の旧ソ連には封じ込め政策を取ることができた。経済を中心に相互依存が深まる現在の米中関係でそれは難しい。ライス氏が主導権を握った2期目のオバマ政権が中国との協調に傾いたのは、キッシンジャー氏との関係と併せ自然な流れだった。

 その対中協調路線は東シナ海上空の防空識別圏の設定や南シナ海の岩礁埋め立てという中国の増長を招いた。政権内外の批判にさらされたオバマ米大統領は先月下旬、「航行の自由」のために中国の人工島12カイリ(約22キロ)以内に米駆逐艦を出さざるを得なくなった。

 米国の対中政策のもうひとつの潮流は、1期目のオバマ政権でクリントン氏を支えたカート・キャンベル前国務次官補(58)らだ。キャンベル氏に連なるのはリチャード・アーミテージ元国務副長官(70)やマイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長(54)。

 キャンベル氏らに共通するのは目の前の脅威に対処しようという姿勢だ。「いかなる一方的な行為にも反対する」。クリントン氏が長官退任間近に打ち出した沖縄県尖閣諸島付近で挑発を繰り返す中国に対する米国の統一見解は、キャンベル氏らがつくった。

 ある外交官はライス氏を「理念派」、キャンベル氏らを「実務派」と整理する。ライス氏が、中国が唱える米中で世界を動かす「新しい形の大国関係」に理解を示し、同盟国や友好国に関する発言が少ないのも、そうした分析と重なる。

 次期米大統領が対中政策を「理念派」と「実務派」のどちらに軸足を置くかは、日本にも影響する。民主党の本命候補、クリントン氏が大統領になれば、「実務派」台頭の可能性がある。混戦の共和党は、有力候補がまだみえないが、安倍晋三首相(61)と会談したことがあるマルコ・ルビオ上院議員(44)は「尖閣は日本の領土」と明言する。

 ワシントンの中国専門家から、こんな話を聞いた。「中国共産党関係者がブッシュ家のお膝元、米テキサス州に頻繁に出向き、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)の周辺に近づこうとしている」。来年11月の米大統領選まで残り1年を切った。大統領選に向けて水面下の中国の動きも慌ただしくなっている。

(ワシントン=吉野直也)



風見鶏 どう戦前に向き合うか 2015/08/02 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 どう戦前に向き合うか」です。





 あの敗戦からまもなく70年になる。勝てる見込みがない対米開戦には、陸・海軍にも異を唱える幹部がいた。海軍でいえば、後に真珠湾攻撃を指揮した山本五十六や、海軍次官を務めたリベラル派の井上成美らが一例だ。

 井上は1942年、海軍兵学校(広島県江田島市)の校長となり、驚くべき行動に出る。軍事に偏りがちな指導を改め、敵の言語として使用が自粛されていた英語や、一般教養の教育にも力を入れたのだ。

 まもなく日本は戦争に負けるにちがいない。日本の復興を担う少年に最低限の教養を与えなければならない――。井上はそう考え、軍内の反対を押し切ったという(「井上成美」阿川弘之著、新潮文庫)。

 そんな江田島を先月、訪れてみると、昔日の面影が残されていた。

 旧海軍兵学校の敷地には、海上自衛隊の幹部候補生学校がたたずみ、赤レンガの校舎もそっくり受け継がれている。朝6時に起き、上半身裸で体操する日課も戦前と同じ。海軍の伝統を教えるため、36年、敷地内に建てられた「教育参考館」も当時のままだ。

 同館では明治以降の武将らの奮闘ぶりなどが紹介され、東郷平八郎や山本五十六の遺髪が安置されている。今も「幹部候補生が歴史を学ぶ場として、使われている」(海自幹部)。

 ここからは旧海軍の伝統を継承していこうという姿勢がうかがえる。これに対し、正反対といってもいいのが陸上自衛隊だ。

 陸自の施設で、東条英機ら昭和の陸軍首脳の書や写真を目にすることはほとんどない。陸自幹部候補生学校(福岡県久留米市)では戦前史が展示されているが、教育参考館の規模とは比べものにならない。

 陸自は旧陸軍との関係をあえて断ち切り、今に至っているようにみえる。なぜなのか。防衛大学校1期生で、旧陸軍・陸自幹部OBでつくる公益財団法人「偕行社」の深山明敏・副理事長(80)に聞いてみた。

 「東京裁判で裁かれた軍人の大半が旧陸軍首脳だったこともあって、敗戦後、国内では陸軍悪玉論が根強かった。こうしたなか国民に認知してもらうためにも、陸自は旧陸軍との関係をいったん断絶し、まったく新しい組織として出発せざるを得なかった」

 どちらが正しいのかという単純な話ではない。陸自が旧陸軍との関係を断ったからといって、失敗を清算したことにはならない。一方で、海自についても「対米開戦に断固反対しなかった旧海軍首脳の責任も直視すべきでは」(軍事史家)との声がある。

 2005~09年に海上幕僚長、統合幕僚長を歴任した斎藤隆氏(67)は「旧海軍の良き伝統を残すことは大切だが、形式的に伝承すればよいわけではない。その失敗も含めて検証し、次に生かしていく努力が欠かせない」と語る。

 「戦前」にどう向き合うか。この命題への解を、日本はまだ描き切れていない。陸自や海自の歩みは他人ごとではなく、戦後、日本人自身が引きずってきた矛盾そのものといえる。

 「暴走した軍部と一部の政治家が悪かった」。日本は戦争の原因を半ばこう片づけ、何を、どう誤ったのか、国として冷徹に検証する努力を置き去りにしてきた。何を間違えたのかを突き詰め、心から納得しなければ、本当の反省にはつながらない。

 安倍晋三首相が今月、発表する戦後70年の談話の文言をめぐり、国内外の関心が集まっている。字面より大切なのは、日本として何を反省しているのか、明確に語ることだ。

(編集委員 秋田浩之)



風見鶏 米演説を辞退した「変人」 2015/05/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 米演説を辞退した「変人」」です。

小泉元首相の人柄がうかがい知れるエピソードを交えて、今回の安倍首相の訪米並びに米議会での演説を表した記事です。





 日本の首相として初めて、安倍晋三首相が米議会の上下両院合同会議で演説してから、1週間あまりたった5月上旬。ハスタート元米下院議長が東京にやってきた。政財界の日米対話に出席するためだ。

 「安倍演説はよかった。本人が望めば、コイズミもあそこで演説できた」。親日家の彼は、談笑の場でこうつぶやいたという。

 2006年、小泉純一郎首相が訪米した際、彼は下院議長だった。そのとき、靖国神社参拝を理由に、ハイド下院外交委員長が小泉首相の議会演説に反対する書簡を、ハスタート議長に送る騒ぎがあった。

 このため、小泉演説は靖国問題が原因で見送られたと考えられていた。最近も本紙など主要紙がそう報じ、本欄でも先月、小泉氏が演説することに「一部から異論が出た」と書いた。

 だが、ハスタート氏は小泉演説は実現できたと言い切る。内幕はどうだったのか。当時、駐日大使だったシーファー氏が最近、来日した際に聞いてみた。

 小泉首相を上下両院合同会議に招き、演説してもらいたい。本人に打診してほしい――。シーファー氏によると、ハスタート議長は06年春、ブッシュ大統領にひそかにこう打診し、演説を実現することにした。

 合同会議にだれを招くかは事実上、下院議長が決める。シーファー氏はさっそく、首相官邸にその提案を伝えた。ところが側近を介し、小泉氏からあった返事は「辞退させていただきたい」だった。ブッシュ大統領主催の晩さん会での演説を最優先したい、という趣旨だったという。

 「ブッシュ、小泉両氏は大親友だった。議会には大統領は出席できない。だから晴れ舞台の演説はホワイトハウスで、と小泉氏は考えた」(シーファー氏)。

 実際、当時の駐米大使の加藤良三氏も「米議会演説に関する訓令は一切、受けたことがなかった」。

 なぜ、小泉氏は日本の首相初となる演説の機会を、あえて辞退したのか。コメントを要請したが、回答はなかった。

 小泉氏は織田信長を尊敬し、戦国武将に自らを重ねた。「執念を燃やしたのは政敵を倒し、『古い自民党』を壊すこと。日米関係を重視したが、外交で歴史的な成果をあげる野心はなく、淡々としていた」。同氏の周辺はこう説く。

 彼と師弟関係にありながら、対極に映るのが安倍首相だ。彼は「米議会合同会議での演説に、強い意欲を持っていた」(周辺)。

 安倍氏は、憲法改正や「独立自衛」を唱えた岸信介元首相の保守DNAを継ぐ。敗戦で失った日本の地位や名誉を取り戻す。そんなこだわりがうかがえる。

 同会議では同じ敗戦国だったドイツ、イタリアが5~6回演説している。安倍氏はこの「不平等」を改めることに意義を感じた。

 集団的自衛権を使えるようにし、日米同盟を一歩、対等に近づける。占領下に起草された憲法の改正をめざす。これらに通底するのも、同じ執念だろう。

 「相撲の極意は相手より一瞬、あとに立ち上がりながらも、組み手では先をとることだ。米国は大横綱なんだから、そんな横綱相撲をとればいい」

 ブッシュ氏と初対面のころ、小泉氏はいきなり、派手な身ぶりで力士の動きを熱く説いた。こうした瞬間芸でブッシュ氏の心をつかみ、蜜月の日米関係につなげていった。

 「変人」を自称してはばからない小泉氏の流儀は、まねできるものではない。安倍氏は独自の路線で築いた外交のパイプを、どう次に生かすか。そのお手本はどこにもない。

(編集委員 秋田浩之)