カテゴリー別アーカイブ: 第一

生産性孝 危機を好機に(3) 新入社員はロボ 大転換、逃げず に対峙 2017/11/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「生産性孝 危機を好機に(3) 新入社員はロボ 大転換、逃げずに対峙」です。





 「日生ロボ美 趣味…みなさんのお手伝い 特技…タイピング・入力作業」。日本生命保険の職員紹介冊子には一風変わった同僚が載っている。ロボ美はロボットのようにデータ入力などを自動処理するソフト。能力は25人分だ。「私たちの仕事はどうなるんだろう」。日生の事務センターで働く西村あずささんは2014年にロボ美を初めて導入した日を今でも鮮明に思い出す。

日本生命保険の職員紹介冊子には、オフィス業務の自動処理ソフトのキャラクターを掲載している(東京都文京区)

 同社はロボ美を冊子に載せる理由を「一人の仲間として迎え入れるため」と説明するが社員の不安を殊更にあおらないための配慮にも映る。米マッキンゼーは25年までに世界で1億人以上のホワイトカラーの仕事を自動化ソフトが代替すると予測する。

 今後、多くの仕事で人から人工知能(AI)やロボットへの代替が加速する。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「人と同じ量の仕事をするロボットには、人と同じレベルで課税すべきだ」と語る。ロボット税を失業者の支援に回すという発想だ。生産性革命は社会のありようそのものを変えていく。

 金融とIT(情報技術)を融合したフィンテック。米大手銀シティグループは「25年までの10年間で欧米の銀行員の3割が職を奪われる」と予測する。店舗の閉鎖などで雇用減につながるフィンテックに慎重だった国内銀行もようやく重い腰を上げ始めた。

 「1万9000人を実数で減らす」。今月13日のみずほフィナンシャルグループ(FG)の決算記者会見で、佐藤康博社長は打ち出した。他のメガバンクは「業務量」の削減にとどめていたのに対し、みずほは実数に踏み込んだ。「そこまでうちは厳しいのか」。社内に動揺が走った。

 佐藤社長は「決済や送金など伝統的銀行業務が新しい参加者によって侵食されていく」と危機感を隠さない。新たな競合相手に対抗すべくAIなどの活用を加速する。

 ひるんでも技術の進歩に企業は対峙せざるを得ない。例えば、NTTの場合、社員が最も多かったのは1979年(昭和54年)の32万8700人。大半が固定電話事業に携わっていた。

 固定電話の契約者数は97年をピークに減少に転じたが、その前からNTTは自然減で徐々に社員を減らしていく。今では固定電話事業を担うNTT東日本・西日本の社員数は合計約6万人にすぎない。

 一方、2000年以降に情報システムが主力のNTTデータの社員は13倍、携帯電話のNTTドコモは2.4倍に増えた。NTTの連結ベースの社員数は27万5000人(3月末)。単純計算で新事業が20万人規模の雇用を生み出した。

 変化の激しい時代。NTTの時のように自然減でゆっくりと人を減らしていけるとは限らない。それでも技術の進歩は待ってくれない。必要なのは変わる覚悟だ。



生産性考 危機を好機に(2) 週3日休む旅館 非製 造業こそチャンス 2017/11/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「生産性考 危機を好機に(2) 週3日休む旅館 非製造業こそチャンス」です。





 神奈川県に無休から「定休3日」に切り替えながら、社員の平均年収を4割増やした老舗旅館がある。鶴巻温泉の「陣屋」だ。

 「悪循環だった」。オーナーの宮崎富夫氏が経営を引き継いだ2009年、部屋は20室のみだが稼働率は40%台だった。団体客向けに宿泊料を9800円からに設定したが利益は出なかった。「平均単価を上げるしかない」。宮崎氏は14年2月から毎週火・水曜日を休館とし、16年1月からは月曜日も加えた。

神奈川・鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」は無休から定休3日に切り替えたが、社員の年収は4割伸びた

 一方で正社員を20人から25人に増やし、休館日の半日を研修や会議に充て、接客力向上に努めるとともに食事も改めた。その結果、平均客単価は4万5000円にまで上昇。稼働率も80%に高まり、社員の平均年収は288万円から398万円と4割増えた。

 製造業に比べ非製造業の生産性は伸び悩む。日本生産性本部によると1995~2015年の実質労働生産性(就業者1時間当たり)は製造業で74%増えた一方、非製造業では運輸・郵便業が9%減、宿泊・飲食サービス業が5%減、建設業が2%減とそれぞれ落ち込んだ。

 製造業は14業種中10業種で労働生産性が伸びたが、非製造業で改善したのは15業種中8業種のみ。非製造業は国内総生産(GDP)の約8割を占めるだけに影響は大きい。経済産業研究所の森川正之副所長は「個々の企業の努力に加え、非効率な企業の縮小・退出といった新陳代謝が欠かせない」と指摘する。

 09年に発足したみちのりホールディングス(東京・千代田)はこれまでに経営環境が厳しい地方のバス会社6社を次々と傘下に収めながら、経営を立て直し、今では6社とも黒字だ。その中の一社である茨城交通(茨城県水戸市)ではICカードの導入や柔軟な価格戦略による増収効果で、10年度に在籍していた社員の平均年収は16年度までに24%増えた。

 みちのりHDの親会社である経営共創基盤の冨山和彦最高経営責任者(CEO)は「労働集約的な産業こそ、生産性を劇的に向上できる」と断言する。

 従来の常識を打破する動きも出てきた。大成建設が7月に実施したベースアップの対象は若手のみ。30歳代前半までの限定だ。年功序列の賃金体系が続くゼネコン業界では異例。賃上げ幅は平均2万3300円で20~30歳代社員の平均基準内賃金の6.7%にあたる。村田誉之社長は「若手社員を確保するためには賃上げが不可欠」と語る。都内の建築現場で働く末田優子さんは「モチベーションアップにつながる」と笑顔を見せる。

 年功序列も崩しかねないが、仕事量が増える一方の若手にきちんと報いて、生産性を高める狙いだ。日本経済のカギを握る非製造業の生産性。痛みも伴うが常識を一歩踏み出す勇気が必要だ。



教育無償化を問う(下)若者の声応えきれるか大学の質確保もっと目を 2 017/11/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「教育無償化を問う(下)若者の声応えきれるか大学の質確保もっと目を」です。





 「離婚で家を出た父から養育費が届かない」「学費ローンの利息が払えない」――。早稲田、慶応義塾など大都市の有名大学がこぞって拡充する独自の給付型奨学金。申請書類には、様々な事情で学びたくても許されない若者の切実な声があふれる。島根県から上京して早大で学ぶ女子学生は「奨学金がなければここで学べなかった」と話す。

無償化には幅広い議論が必要(奨学金で大学に通う女子学生)

 家庭の経済状態によって進学機会が左右されることは大きな問題だ。大学・短大進学率は6割に迫るが、生活保護世帯に限ればわずか2割。奨学金を借りて進学しても、生活費を稼ぐためアルバイト漬けになったり、卒業後に返済で苦しんだり。そんな教え子を多数見てきた神奈川県立高校の金沢信之教諭は「今の制度では進学が人生のリスクを増やしてしまう」と高等教育の無償化論を歓迎する。

 しかし、首相のトップダウンで始まった議論は迷走気味で、政府内や与党は必ずしも一枚岩ではない。

成績は不問?

 「あり得ない! 高校教育を否定するのか」。高校教員出身の宮川典子文部科学政務官は文科省内の会議で、政府の「人生100年時代構想会議」の報告に声を荒らげた。無償化の条件に高校の成績は問わないという意見が出たからだ。「高校で勉強を頑張らなくてもいいというメッセージになりかねず、大学の質低下に拍車がかかる。スピード重視で金目の話ばかり。これは教育政策ではなく福祉政策だ」

 だが、こうした筋論は「無償化ありき」の議論の中でかき消されがちだ。自民党の人生100年時代戦略本部が22日に示した提言案で挙げた無償化の支援条件は「入学後に勉学に励むこと」だけ。これでは、成績評価が甘い日本の大学で怠学の抑止効果はほとんど期待できない。学ぶ意欲に乏しい学生が今以上にキャンパスに増え、定員割れ大学の救済につながる“二重のモラルハザード”を招く可能性さえある。

 大学にも懐疑的な声が多い。「私大が求めてきたのは国私立の格差是正。そこに突然、中身が曖昧な無償化論が出てきた」。吉岡知哉・立教大総長(日本私立大学連盟副会長)は「国が直接、授業料を私大に投入すると、国の統制が強まり、私大の独自性・自主性が損なわれないか」と懸念する。日本私立大学協会の小出秀文事務局長も「無償化の影響は大きい。やるならば高等教育のあり方を見直す議論が先だ」と言う。

国際競争で苦戦

 大学には進学機会の確保と並ぶ深刻な課題がある。21世紀の知識基盤社会は大学の競争力が国力を左右するとさえいわれるのに、日本は世界の先頭集団から脱落しつつあることだ。浜口道成・科学技術振興機構理事長は「大学の研究力を高めないと大変なことになる」と警告するが、政治の反応はいまひとつだ。

 もちろん、競争力低下の一因は大学の自己改革の遅れにあるが、厳しい国家財政下での予算削減の影響も大きい。そこに降って湧いたように現れた8千億円規模の経済支援。東京工業大の岡田哲男理学部長は「それだけの金額を使うほど無償化の優先度が高いとは思えない。もっと大学に投資すべきだ」と指摘する。

 虎の子の消費税増税分を大学に使うなら、無償化だけでなく、もっと有効な使い道はないのか。拙速な議論を避け、幅広い視野で検討することが必要だ。

 天野由輝子、山本公彦、重田俊介、伴正春、蓑輪星使、矢崎日子、編集委員 横山晋一郎が担当しました。



第1部 異次元の領域(4)やまぬ「利回り狩り」逃げ水の果実、 揺らぐ年金 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「第1部 異次元の領域(4)やまぬ「利回り狩り」逃げ水の果実、揺らぐ年金」です。





 「ゼロでも御の字」。大手銀行幹部は独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が9月に実施した資金調達の入札を振り返る。落札した金融機関は金利「ゼロ%」で札を入れた。

バンクーバーの高層マンションは住人のいない部屋が多い

 日銀がマイナス金利を導入して2年近くがたつ“緩和先進国”の日本。日銀に預けていては損になる銀行にとり、政府保証がつくJOGMECへの融資はだぶつくマネーの置き場としてもってこいというわけだ。

債務不履行でも

 プラスの利回り消滅は欧州でも鮮明だ。スイス、ドイツなど信用力の高い国のほかスペイン、アイルランドなどかつて債務危機にあえいだ国も期間の短い国債の利回りはマイナスだ。

 米国も長期金利は2%半ばで低いまま。景気拡大の持続力は不透明な上、米連邦準備理事会(FRB)議長に来春就くパウエル氏は利上げを急ぎそうにない。10年物米国債と2年物の利回り差は1%もない。横に寝た利回り曲線が右肩上がりに起きる兆しはない。

 イールド・ハンター。カネ余りは世界中で少しでも高い利回りを求める「狩人」を生んだ。アルゼンチンが6月に出した100年国債は募集の3.5倍の応募を集め瞬間蒸発した。過去200年で8回の債務不履行との不名誉な歴史も、7%超の「高利回り」を前には顧みられなかった。落札者には世界最大の運用会社米ブラックロックなどの名がささやかれる。

「4.5京円が不足」

 「この2棟は48時間で完売した」。カナダ、バンクーバー。タクシー運転手のファザーリさんは高層棟を指して話す。主な買い手は中国など海外勢で、住民不在の物件は治安に影を落とす。州は外国人の取得に上乗せ課税するようにしたが相場の騰勢は止まらない。

 2016年末の世界の資産運用残高は70兆ドル(約7900兆円)。年金資産増や新興国の所得増で、残高は金融危機前の07年から5割増えた。世界の国内総生産(GDP)とほぼ同規模に膨らんだ資産残高は、金融のプロの手に余る奔流となって市場にのしかかる。

 50年には日米中など8カ国で退職後に必要な貯蓄が400兆ドル(4.5京円)不足する――。世界経済フォーラムは一段の長寿や今の60~70歳の退職年齢を前提にこうはじく。米国では債券の運用利回りが過去平均の実質3.6%からこの先は同0.15%に下がる見通しで、こうした利回り低下が貯蓄不足を膨らませる。年金や雇用の制度見直しは全世界で待ったなしだ。

 「将来への備え」と消費を抑え資産運用にお金を注げば注ぐほど利回りは下がり、見込める果実は細る。未曽有の規模の年金マネーが逃げ水を追い続ける。



保護主義の防波堤に 2017/11/12 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「保護主義の防波堤に」です。





 世界経済の中心となった東アジアを舞台に、目に見えない陣取り競争が進んでいる。モノの貿易や投資だけでなく、経済価値の源泉となったデジタル情報を自国内に囲い込もうとする新たな保護主義との戦いだ。

 11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP)の本質がここにある。焦点は自動車や農産物などの市場開放でなく、21世紀型の通商ルールだ。情報の流れは国境を越えて自由であるべきではないか。その原則を多国間協定で定めた意義は重い。

 米トランプ政権は2国間のモノの貿易赤字額をあげて、相手国に関税撤廃を迫る。20世紀型の通商政策に回帰する米国と対照的に、日本と東南アジア各国は、情報が主役のあすの通商を見据えていた。その気づきをもたらしたのは中国だ。

 モバイル決済などでグローバルなプレーヤーはアジアでアリババ集団と騰訊控股(テンセント)くらい。いずれも自由な情報流通を遮断された「万里の長城」の内側にある中国企業である。

 その中国は6月、「インターネット安全法」を施行。ネット企業に情報提供を求める権限を政府が握る。技術革新を生むビッグデータは中国内に蓄積し、政府の管理下に置かれる。ベトナムやタイなど、デジタル保護主義のドミノ現象がアジアに広がり始めている。

 中国の「一帯一路」構想は表看板こそインフラ整備だが、TPPに対抗する経済圏づくりの通商政策でもある。電子商取引などで独自ルールを築くのも狙いの一つだ。

 ルールのひな型となるTPPは、どこまで世界に共有されるか。11カ国の経済圏は元の構想の3分の1にすぎない。空席をつくり米国の復帰を待つ期待感こそが、大筋合意の原動力だった。一帯一路に引き寄せられながらも、透明な競争による市場秩序を築きたい。浮かび上がったのは、アジア各国の本音である。

(編集委員 太田泰彦)



アジアの振り子、米に戻るか トランプ氏、関与継続表明中国の影響力 拡大に不安 2017/11/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「アジアの振り子、米に戻るか トランプ氏、関与継続表明中国の影響力拡大に不安 」です。





 トランプ米大統領は10日、訪問先のベトナム・ダナンで演説し「我々はインド太平洋地域のパートナーであり、同盟国だ」と訴え、アジアへの関与を続ける姿勢を鮮明にした。だが「米国第一」は譲らず、多国間交渉を通じて地域全体に自由貿易のルールと理念を広げる先導者の役割には背を向ける。代わりに台頭してきた中国は、大国としての影響力の一段の拡大に余念がない。アジアの主導権を巡る振り子は米に戻るのか。(関連記事総合2、国際面に)

 「全てのインド太平洋諸国との友情の絆と貿易関係の強化に向けて協力するためにここにきた」。アジア政策を初めて包括的に表明したトランプ氏は「『自由で開かれたインド太平洋』というビジョンを共有するのは誇らしい」と、アジアに関与し続ける姿勢を明確にした。

貿易協定、2国間で

 もっとも「全ての国が自国を第一に考えるように、私は米国を第一に考える」とクギを刺した。自身による環太平洋経済連携協定(TPP)離脱の決断を正当化し、「公正で互恵的な貿易という原則を守る国とは2国間の貿易協定を結んでいく」と強調。多国間の枠組みによる国際協調を重視したオバマ前政権との違いを改めて印象付けた。

 自国優先に傾く米国のスキを突き、地域の盟主の座をうかがうのが中国だ。トランプ氏の直後に演説に立った習近平(シー・ジンピン)国家主席は「アジア太平洋の平和と安定、繁栄はアジアの人々に属する」と語った。独自の勢力圏づくりを急ぐ。米中が太平洋を挟んでせめぎ合う構図が深まっている。

 むろん、安全保障面ではなお米国の軍事的な実力が中国を圧倒している。トランプ氏も「力による平和」に大きく傾き、強力な米軍の存在を誇示する。自身のアジア歴訪に合わせ、西太平洋に米空母3隻を同時に展開させる異例の軍事訓練の実施を決め、北朝鮮をけん制した。南シナ海では中国の動きに目を光らせ、「航行の自由」作戦は政権発足から4回を重ねる。

 「戦略的忍耐」と称して北朝鮮の核・ミサイル開発を事実上放置し、「航行の自由」作戦の提案を何度も退けたオバマ前政権との違いがここでも際立つ。

 だが安全保障と両輪であるべき経済外交戦略は乏しい。

 2008年のリーマン・ショック以降、世界経済における米国の存在感は低下し、中国が躍進した。東南アジア主要国をみると、07年にフィリピンやタイの最大の輸入相手は米国や日本だったが、いまや軒並み中国がトップ。中国マネーもアジアに押し寄せる。だがトランプ政権はアジアの「中国化」に歯止めをかけるTPPからの離脱を決め、貿易や投資のルールづくりを主導する座を自ら捨てた。

 米国が中国への警戒感を緩めたわけではない。「『略奪経済』がはびこる無秩序な地域にしてはならない」。ティラーソン米国務長官はこう話す。念頭にあるのは、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」だ。途上国に多額の資金を貸し、返済が滞れば経済権益を得る手法と警戒する。米外交問題評議会のシーラ・スミス氏は「米国はTPPなしで、どうやって経済秩序をつくるのか」と指摘する。

主導権争い激しく

 中国経済は年7%近い成長を続けており、30年代に米国を抜いて世界一の経済大国になるとの見方もある。アジアの中国依存が強まるのは自然な流れだ。だが強引な海洋進出が象徴するように中国はアジア諸国との摩擦をいとわず、アジアでは「中国化」の加速への不安も根強い。タイの英字紙「ネーション」は9日の社説で「トランプ氏は米国第一の立場を緩和しなければならない」と呼びかけた。

 本来なら地域の安定を守るべき米国が秩序を揺さぶるリスクにどう対応するか。ヒントはある。

 トランプ氏はアジア歴訪中に何度も「自由で開かれたインド太平洋地域をめざす」と口にした。法の支配など価値観を共有するオーストラリアやインドを巻き込み、自由貿易や海洋安全保障の枠組みづくりをめざす構想だ。もともと日本が提唱した戦略で、米側が賛同した。日本の外務省幹部は「トランプ政権を多国間の枠組みに引き込んだ意味は大きい」と語る。

 トランプ政権のアジア戦略はいまだ具体策に欠けるだけに、日本やアジアが知恵を絞る余地がある。中国の経済力に期待する半面、「中国化」が歯止めなく進むことに不安を覚えるアジア。トランプ氏はその現実を的確にくみ取れるか。米国がアジアの経済、外交を巡る主導権を今後も握り続けることができるかどうかのカギとなる。

(ダナン=永沢毅、張勇祥、富山篤)



アジアの振り子、米に戻るか トランプ氏、関与継続表明中国の影響力 拡大に不安 2017/11/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「アジアの振り子、米に戻るか トランプ氏、関与継続表明中国の影響力拡大に不安 」です。





 トランプ米大統領は10日、訪問先のベトナム・ダナンで演説し「我々はインド太平洋地域のパートナーであり、同盟国だ」と訴え、アジアへの関与を続ける姿勢を鮮明にした。だが「米国第一」は譲らず、多国間交渉を通じて地域全体に自由貿易のルールと理念を広げる先導者の役割には背を向ける。代わりに台頭してきた中国は、大国としての影響力の一段の拡大に余念がない。アジアの主導権を巡る振り子は米に戻るのか。(関連記事総合2、国際面に)

 「全てのインド太平洋諸国との友情の絆と貿易関係の強化に向けて協力するためにここにきた」。アジア政策を初めて包括的に表明したトランプ氏は「『自由で開かれたインド太平洋』というビジョンを共有するのは誇らしい」と、アジアに関与し続ける姿勢を明確にした。

貿易協定、2国間で

 もっとも「全ての国が自国を第一に考えるように、私は米国を第一に考える」とクギを刺した。自身による環太平洋経済連携協定(TPP)離脱の決断を正当化し、「公正で互恵的な貿易という原則を守る国とは2国間の貿易協定を結んでいく」と強調。多国間の枠組みによる国際協調を重視したオバマ前政権との違いを改めて印象付けた。

 自国優先に傾く米国のスキを突き、地域の盟主の座をうかがうのが中国だ。トランプ氏の直後に演説に立った習近平(シー・ジンピン)国家主席は「アジア太平洋の平和と安定、繁栄はアジアの人々に属する」と語った。独自の勢力圏づくりを急ぐ。米中が太平洋を挟んでせめぎ合う構図が深まっている。

 むろん、安全保障面ではなお米国の軍事的な実力が中国を圧倒している。トランプ氏も「力による平和」に大きく傾き、強力な米軍の存在を誇示する。自身のアジア歴訪に合わせ、西太平洋に米空母3隻を同時に展開させる異例の軍事訓練の実施を決め、北朝鮮をけん制した。南シナ海では中国の動きに目を光らせ、「航行の自由」作戦は政権発足から4回を重ねる。

 「戦略的忍耐」と称して北朝鮮の核・ミサイル開発を事実上放置し、「航行の自由」作戦の提案を何度も退けたオバマ前政権との違いがここでも際立つ。

 だが安全保障と両輪であるべき経済外交戦略は乏しい。

 2008年のリーマン・ショック以降、世界経済における米国の存在感は低下し、中国が躍進した。東南アジア主要国をみると、07年にフィリピンやタイの最大の輸入相手は米国や日本だったが、いまや軒並み中国がトップ。中国マネーもアジアに押し寄せる。だがトランプ政権はアジアの「中国化」に歯止めをかけるTPPからの離脱を決め、貿易や投資のルールづくりを主導する座を自ら捨てた。

 米国が中国への警戒感を緩めたわけではない。「『略奪経済』がはびこる無秩序な地域にしてはならない」。ティラーソン米国務長官はこう話す。念頭にあるのは、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」だ。途上国に多額の資金を貸し、返済が滞れば経済権益を得る手法と警戒する。米外交問題評議会のシーラ・スミス氏は「米国はTPPなしで、どうやって経済秩序をつくるのか」と指摘する。

主導権争い激しく

 中国経済は年7%近い成長を続けており、30年代に米国を抜いて世界一の経済大国になるとの見方もある。アジアの中国依存が強まるのは自然な流れだ。だが強引な海洋進出が象徴するように中国はアジア諸国との摩擦をいとわず、アジアでは「中国化」の加速への不安も根強い。タイの英字紙「ネーション」は9日の社説で「トランプ氏は米国第一の立場を緩和しなければならない」と呼びかけた。

 本来なら地域の安定を守るべき米国が秩序を揺さぶるリスクにどう対応するか。ヒントはある。

 トランプ氏はアジア歴訪中に何度も「自由で開かれたインド太平洋地域をめざす」と口にした。法の支配など価値観を共有するオーストラリアやインドを巻き込み、自由貿易や海洋安全保障の枠組みづくりをめざす構想だ。もともと日本が提唱した戦略で、米側が賛同した。日本の外務省幹部は「トランプ政権を多国間の枠組みに引き込んだ意味は大きい」と語る。

 トランプ政権のアジア戦略はいまだ具体策に欠けるだけに、日本やアジアが知恵を絞る余地がある。中国の経済力に期待する半面、「中国化」が歯止めなく進むことに不安を覚えるアジア。トランプ氏はその現実を的確にくみ取れるか。米国がアジアの経済、外交を巡る主導権を今後も握り続けることができるかどうかのカギとなる。

(ダナン=永沢毅、張勇祥、富山篤)



日本の革新力(4)活路はどこに いびつな起業小国 マネー生かし 新陳代謝 2017/11/4 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「日本の革新力(4)活路はどこに いびつな起業小国 マネー生かし新陳代謝」です。





 「米テスラを超えてみせますよ」。電気自動車(EV)を開発するGLM(京都市)の小間裕康社長の野心的な計画に128億円を投じたのは、香港の投資会社オーラックスホールディングスだった。今年8月のことだ。

GLMが開発中のEVスポーツカー。香港企業が出資する(京都市)

 想定価格4000万円の超高級スポーツEVを開発するGLMは、2010年設立の京都大学発のスタートアップ。海外の大手自動車メーカーも資本参加に意欲を示した気鋭の新興企業だが、日本勢の反応は鈍かった。「投資提案はせいぜい数十億円。投資判断も遅かった」(小間社長)

 いつの時代も、イノベーション(革新)は常識やしがらみにとらわれない新興勢力がけん引する。革新力の衰えを自覚する日本の産業界でも「オープンイノベーション」を掛け声にスタートアップとの連携が広がるが、どうもちぐはぐだ。大企業がスタートアップを買収せず、少額出資を繰り返すばかりなのだ。

 米グーグルは01年以降に約200社、月1社のペースでスタートアップを含む企業を買収してきた。事業を売った起業家は新たなスタートアップの担い手となる。テスラを率いるイーロン・マスク氏は24歳の時に起業したソフト会社を大企業に売却した。得た資金で設立した次の会社を起点に「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」の道を歩んでいる。

 日本の常識では、スタートアップは新規株式公開(IPO)で資金を手に入れる。創業者の晴れ舞台で、支え手のベンチャーキャピタル(VC)も潤う。だが小粒で上場した結果、手堅く利益を確保することに追われ、大きく成長しない例が多い。VCの投資回収の8割以上が大企業による買収である米国と対照的だ。

 日本の開業率は5%と欧米の半分程度に停滞する。起業小国と呼ばれて久しい。スタートアップ支援のクルー(東京・目黒)の伊地知天社長は「大企業による買収や大型出資が活発になれば、日本でも起業家が次の起業をしたり、投資家に回ったりするエコシステム(生態系)が動き始める」と語る。

 カネはある。上場企業3600社の手元資金は過去最高の115兆円。この5年で1.4倍に増えた。

 派手な買収劇で注目を集めるソフトバンクグループ主導の投資ファンドは10兆円規模だが、同社側の実際の資金拠出は3兆円分だ。上場企業の手元資金の半分を動かせば、ソフトバンクの投資ファンドの10~20倍の存在感がある民間投資ファンドができる計算だ。

 変化の芽はある。

 「グローバル展開のために、もっと緊密になりましょう」。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」通信のソラコム(東京・世田谷)。玉川憲社長は自らKDDIに売却を持ちかけた。「通信会社のスピード感ではビジネスモデルの激変に対応できない」。こう痛感していたKDDIにも渡りに船だった。8月に約200億円で買収した。

 オープンイノベーションという聞こえのいい言葉に安住していては革新力の再生は難しい。大企業のマネーを生かせば、新陳代謝の道筋が見えてくる。



ニッポンの革新力(2) 活路はどこに 大企業に眠れる知 解はすぐそばにある 2017/11/2 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「ニッポンの革新力(2) 活路はどこに 大企業に眠れる知 解はすぐそばにある」です。





 森に囲まれた東洋大学川越キャンパス(埼玉県川越市)。「会社に残っていれば、電気自動車(EV)用のモーターの勢力図は変わっていたかもしれない」。2010年まで東芝の技術者だった堺和人教授はこんな思いで研究を続ける。

画像の拡大

外資傘下に入ったことで埋もれかけた技術が日の目を見た(シャープが発売した健康機器のセンサー)

 手がけるのは永久磁石の磁力を自由に変えることで、モーターの効率を大幅に高める技術だ。洗濯機で実用化し大型のハイテク機器への活用を考えた。だが、リーマン・ショック後の業績悪化を背景に、応用は足踏みに。堺教授は研究環境を求めて東芝を去った。

 EV時代が近づき、堺教授のもとにはLG電子など韓国メーカーから共同研究の打診もあった。東芝は将来の成長を担うかもしれないEV用モーターの技術の種を失っていた。

 日本企業は1980年代に半導体や家電で世界を制したが、その後は米国などに後れを取る。研究開発(R&D)が生むリターン(利益)、いわば「ROR(リターン・オン・R&D)」の低迷が止まらない。

 デロイトトーマツコンサルティングは主要国の企業が生んだ5年間の付加価値の平均を、その前の5年間の研究開発費の平均で割ってR&Dの効率を算出した。日本が製造業で競合する国では16年はフランスが49倍、ドイツが42倍、米国が39倍と高く、日本と韓国は32倍で最下位に並んだ。

 「日本企業の研究所は事業化という出口を見据え、技術の種をどう組み合わせるかを考えられていない」。日立製作所で中央研究所長を務めた日本電産中央モーター基礎技術研究所の福永泰所長はこう指摘する。

 解は身近にある。16年8月に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったシャープ。「『会議は来週』ではなく『今から』。判断が段違いに早い」。シャープライフサイエンス(神戸市)の北村和也副社長は感慨深げだ。8月に発売した血中の老化の原因物質の濃度を測る健康機器。血液を採取せずに済み、利用者の不快感を抑えられる。

 シャープの技術者は10年に開発を始め、4回も試作品を完成させた。しかし当時の経営陣は関心が薄く、商品化は遅々として進まなかった。「日本企業の社員は優秀だが、経営の判断に問題がある」(郭台銘董事長)と考える鴻海は買収直後にこの事業を分社。1年で発売にこぎ着けさせた。

 外部の力を生かして「知の死蔵」を避ける動きはじわりと広がっている。

 「ソニー1社のカメラに縛られたくなかった」。監視カメラの映像をクラウド上に録画するサービスを手がけるスタートアップ企業、セーフィー(東京・品川)の佐渡島隆平社長は14年の起業を振り返る。

 佐渡島氏は当時、ソニーグループにいた。会社側は出資で支援する形で送り出した。セーフィーはその後、200種以上のカメラに対応するまでシステムを磨いた。9月末には技術力を評価したオリックスなど5社が10億円近い出資を決め、価値の輪が広がった。

 変化が緩やかな時代には、知をためこむ日本型経営が通用した。変化が激しいデジタルの時代には、自前主義を克服する経営の知恵が革新力を左右する。



習近平の支配 大いなる賭け(下) ライバルは米だけ 中国空母ハワイに迫る日 2017/10/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「習近平の支配 大いなる賭け(下) ライバルは米だけ 中国空母ハワイに迫る日」です。





 本来、公の場に登場しない人物だ。中国空軍パイロット、劉鋭(38)。劉の操る戦略爆撃機「轟6K」は日本列島近くで何度も航空自衛隊機と対峙している。「2年前に年4回だった遠洋訓練。今では1カ月に何度も実施している」。中国共産党大会に合わせて党の宣伝部門が催した22日の記者会見で、劉は軍の拡大路線を誇らしげに語った。

画像の拡大

中国の習近平国家主席は11月、トランプ米大統領と首脳会談に臨む(4月、フロリダ)=ロイター

 10月上旬には、海軍を巡る衝撃が世界を駆け巡った。中国の空母「遼寧」が母港とする山東省青島の海軍基地に、最新鋭の大型補給船「呼倫湖」の姿が確認されたのだ。2カ月以上にわたる航海の給油ができる同艦は、空母が遠からず遠洋航海に出るサインだ。

 鄧小平時代の中国は「韜光養晦(能力を隠して力を蓄える)」と称し、抑制的な外交姿勢を心がけた。2期目を迎えた国家主席、習近平(64)はもはや爪を隠そうともしない。党機関紙の人民日報は1月、空母はいずれ東太平洋にも展開すべきだと主張した。北京の外交筋の間では「空母がハワイまで迫る日は遠くない」との声さえあがる。

■軍から圧力強く

 習の表現を借りれば、1949年の建国から100年の21世紀半ばまでに「世界一流の軍隊を築く」という。国際協力を名目に米軍と肩を並べて世界に部隊を派遣し、同時に自国の権益を追求する未来図だ。列強に侵略された19世紀以降の「暗黒状態」を脱し、大国の誇りを取り戻すことを「中国の夢」だと訴える。

 「習が受ける圧力はすさまじい」と党関係者はいう。「台湾統一を実現できるのか」「南シナ海で米軍を自由に動き回らせていいのか」。軍内では領土や権益の「回復」を必達の目標とする声が強い。その実現を阻むライバルとみているのは、超大国・米国だけだ。

 自由、民主、人権といった価値観を世界戦略の表看板とする米国と、共産党による一党支配を最優先する中国は根っこの部分で相いれない。習が「他国の内政干渉に反対する」と繰り返すのも、中国のやり方に米国は口を挟むな、という願望の裏返しにすぎない。

■トランプ氏訪中

 米軍制服組トップのジョセフ・ダンフォード(61)は9月、米上院で「25年には中国が最大の脅威となる」と述べた。2年前は第1の脅威にロシアを挙げたが、米中間では北朝鮮、台湾、南・東シナ海問題など火種が広がる。両国が互いに威圧や譲歩を繰り返し、協調を探る構図が深まった。

 習は25日、2期目の治世に入った。最高指導部に次世代の後継候補を入れず、長期政権への意欲もにじむ。習1強に花を添えるのは11月8日から北京を訪れる米大統領、ドナルド・トランプ(71)だ。訪中を控え、強権を手にした習を「『中国の王』と呼ぶ人もいるだろう」と持ち上げた。

 一党支配を死守するため、米国に並ぶ強国をめざすとうたい、権威を欲し、政敵を追い落とし、言論を封じ込める。だが習の独裁に近づくほど、体制内の少数の取り巻きだけに頼るもろさが増す。習の支配には、14億人の中国の民の知恵や活力を生かし切れない弱さが潜む。(敬称略)

=おわり

 大越匡洋、高橋哲史、原田逸策、永井央紀が担当しました。