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働き方改革 さびつくルール 下 悩めるフリーランス 個の力生かす仕組みを 2017/9/14 本日の日本経済新聞より

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 「当社で副業しませんか」。1月、他社に本業をもちつつ副業先として働く人の募集を始めた企業向けソフト会社のサイボウズ。数人を受け入れる過程で、担当者を悩ませる問題も浮上した。

 希望者が正社員になるか契約社員になるかなどは当人の希望も含めて相談で決める。一部の応募者は社員ではなく業務委託契約を希望したが、募集は業務開発や広報など幅広く、仕事の指示が必要な場合もある。指揮命令ととられると、業務委託契約から逸脱しかねない。「新しい働き方に合った法的枠組みがあればよいのだが」(政策渉外担当の石渡清太氏)

 日本の労働法制は企業で正社員として終身雇用されることを前提に、働く人を保護してきた。自由な立場で働きたい人の増加に、既存の制度はうまくかみ合っていない。

尾崎さんはウーバーイーツ配達員の支援会社を立ち上げた(東京都目黒区)

 「当社の配達員は個人事業主です。損害保険はご自身で見つけてお入りください」。米ウーバーテクノロジーズの料理配送サービス、ウーバーイーツの配達員になった尾崎浩二さん(39)は昨年11月、東京都内の同社相談所でこう告げられた。

 「配達で人をひいてしまったら大変だ」。何社も保険会社を回ったが、個人事業主の業務に使える保険を自力で見つけるのに3カ月かかった。苦労の経験から尾崎さんは今年7月、配達員を支援する会社を自らの手で立ち上げることにした。200人以上の配達員を束ね、「団体で保険に加入できる仕組みを作ったり機動力を生かした仕事を融通したりしたい」。

 自由に働きたい個人が企業と契約しようとすると立場は弱くなりがち。公正取引委員会は8月、既存の労働法制では守れないフリーランスを独占禁止法で守る研究会を設けたが、結論を得るまで時間がかかりそうだ。

 育児の合間など、余裕のある時間だけ働くことを選択する人も増えている。ネット経由で仕事を受発注する「クラウドソーシング」の大手、ランサーズ(東京・渋谷)によると、現在、国内のフリーランスは1122万人。いずれ労働人口の半分を占めるとの試算もある。「働くということが企業から染み出している。シェア経済での働き方に合った制度を考えるときだ」(クラウドワークスの吉田浩一郎社長)

 様々な働き方が生まれ、自立した人と保護が必要な人はひとくくりにできなくなってきた面もある。フリーランスと企業の関係では関連業界による自主ルールづくりが先行するが、水町勇一郎・東京大学教授は「法的保護がないと救済手段もなくなる。実態に合った法改正も忘れてはならない」とくぎを刺す。

 15~64歳の生産年齢人口が毎年数十万人規模で減り続けるなか、日本が競争力を高めるには多様な働き方が必要。1つの企業に縛られず、自由な時間に能力を発揮したい全ての人の力を生かす仕組みが不可欠だ。古いルールのさびを落とし、時代に合う体系に進化させ続けなければならない。



働き方改革さびつくルール(上)成果、働く時間で計れず次の成長、頭脳 戦にあり 2017/9/12 本日の日本経済新聞より

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 日本の雇用慣行を見直す働き方改革関連法案が9月下旬召集の臨時国会で審議される。残業時間規制や非正規労働者との格差是正、「脱時間給」制度の新設など多岐にわたるが、企業の現場では新しい技術やサービスが次々に登場し、働き方は一段と多様化する。ルールは追い付いているか。

トヨタが先取り

 「トヨタ流ホワイトカラーエグゼンプション(脱時間給制度)の実現に向け話し合いたい」。トヨタ自動車の今春の労使交渉で人事担当の上田達郎常務役員(当時)が問題意識をぶつけた。導入を目指すのは裁量労働的に柔軟に働ける新制度だ。

 早ければ12月から、会社が承認した一部係長級に実際の残業時間に関係なく毎月45時間分の手当を支給。超過分も支払うが、時間になるべく縛られずに働けるようにする。現行法で管理するうえ労働組合の懸念もありホワイトカラーエグゼンプションの表現は見送ったものの、成果に応じて賃金を支払う脱時間給の考え方を先取りする。

 日本企業がものづくりで勝負する時代はカイゼンの継続がものをいい、成果は働く時間に比例した。だが国内製造業の王者トヨタも、自動運転など新しい技術の世界に直面。成果は時間で計りきれなくなってきた。「前例なき闘い」。豊田章男社長はグーグルやアップルなどの名を挙げ、競争環境の変化に身構える。

 「残業時間の制約で作業をやめなくてはいけないのはもどかしい」。開発現場の社員からはこんな声も出ていた。

 「トヨタの新制度はウチでも導入できますか」。8月、労働問題に詳しい倉重公太朗弁護士の元に照会が相次いだ。トヨタの新制度を「固定残業代とコアタイム無しのフレックス勤務という既存制度の合わせ技」と解説。「だらだら残業を無くすため、働き方改革で解決を模索する企業は多い」

人事評価に反映

 脱時間給の概念をいち早く取り入れたネスレ日本は、その概念を人事評価にも取り入れる。午後7時以降のオフィスの使用は原則認めない。突発事態への対応など会社都合で発生した時間外労働を除き、労働時間で評価する仕組みを原則撤廃。職務などに応じた役割を踏まえて設定する指標を基に、成果で評価する。

 昨年7月に企画業務型社員に導入すると、同12月の1人あたり売上高は3年前の同月比で2割弱増加。「短時間で成果を上げる意識を段階的に高めてきた」(高岡浩三社長)。今年4月から工場のシフト勤務などを除く全社員に広げた。

 ユニリーバ日本法人も昨年、社員約500人のうち工場勤務や一部営業職を除く400人を対象に、好きな時間に好きな場所で働ける裁量労働制を導入。残業時間を前年比10~15%削減できた。

 生産拠点が新興国に移り、日本の製造業の労働者は昨年までの過去20年で約400万人減った。日本企業の主戦場が頭脳で戦う分野に移ると、長く働くことよりも短時間で結果を出すことが必要になる。既存のルールだけでは対応しきれない。

働き方、まず実態把握を



緊迫北朝鮮(上)誤算続きの米、暴走招く 2017/9/5 本日の日本経 済新聞より

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 北朝鮮が3日、国際社会の制止を振り切って6回目の核実験を強行した。金正恩(キム・ジョンウン)体制の維持を懸けた核ミサイルは世界を「射程」にとらえる。北朝鮮の暴走を止めるために国際社会の一段の覚悟と行動が問われる。

 「米国の完全敗北をあらためて宣告し、最強国に堂々と登り詰めた」。4日の朝鮮労働党機関紙・労働新聞(電子版)は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載する水爆実験の成功を大々的に報じた。金正恩委員長が署名した核実験命令書の写真や、米国を当てこする金己男(キム・ギナム)副委員長の談話などが掲載された。

科学技術で民心

 北朝鮮の核・ミサイル強化は正恩氏の祖父、金日成時代にさかのぼる。先軍政治を掲げた金正日総書記を経て、正恩体制で一気に加速した。なぜか。北朝鮮の国民総所得(GNI)は韓国の45分の1にすぎず、経済力では米国に太刀打ちできない。「核を捨てれば米国にだまされてイラクやリビアのようになる」。昨年5月、首都平壌で北朝鮮当局者らはこう口をそろえた。

 「合法的な核保有国になり、朝鮮半島で米国の影響力を弱化させろ」。金正日氏はこんな遺書を残したとされる。正恩時代に入ると核・ミサイルと体制維持が一体化。平壌では託児所の園庭にまでミサイルの模型や遊具があふれる。昨年1月の「水爆実験」は「民族史に特筆すべき大きな出来事」。経済発展で満足な成果を出せない若い3代目は科学技術で民心のつなぎ留めを図る。

 北朝鮮の暴走を許した背景には、歴代米政権による誤算の連鎖がある。クリントン政権は1994年の第1次核危機で、一時は核施設への限定的空爆を検討しながら、韓国政府の反対もあって最後は対話に転換。核開発の凍結と経済支援を組み合わせた「米朝枠組み合意」をまとめた。

「忍耐」裏目に

 ただ、2003年に北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明し、米朝枠組み合意が完全に崩壊。今度は北朝鮮が核放棄を約束する代わりに米国が攻撃や侵略を意図しないと確認する6カ国協議の共同声明をまとめたが、米国による金融制裁に北朝鮮が反発し、履行は宙に浮いた。

 オバマ前大統領は「戦略的忍耐」を掲げ、核放棄に向けた北朝鮮の自主的な取り組みを待った。「核」を過小評価しすぎた結果、北朝鮮に開発の時間を稼がせてしまった。「ブッシュ、オバマ両政権は北朝鮮が崩壊するのは時間の問題と考えていた」。クリントン政権で北朝鮮と交渉したウィリアム・ペリー元国防長官は指摘する。

 トランプ大統領にも誤算がある。就任時、米本土に届く核弾頭を積んだICBMの完成には約2年かかるとみていたが危機は足元に及ぶ。北朝鮮に中国任せの対応が見透かされ、米国が軍事行動に踏みきる「レッドライン」(越えてはならない一線)の一つとみられてきた核実験を許した。

 米国が「核保有国」と認めるまで、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発をやめる気配はない。米国の主体的な関与なしに解決が難しい事態に陥った。

(ソウル=峯岸博、ワシントン=永沢毅)



世界で税収奪い合い 企業誘致へ税率下げ競う 2017/9/3 本日の日本経済新聞より

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 企業の法人税の負担が下がっている。世界の上場企業が世界中で支払った税金が連結ベースの税引き前利益に占める比率を示す税負担率は、10年前の27.8%から24.6%に低下した。節税を狙いグローバル企業が税率の低い国に拠点を移す動きが加速し、税負担率が全体として下がった。企業をつなぎ留めようと各国が税率の引き下げを競う中、日米企業の負担率が相対的に高くなっている。税収の不均衡を正すために国際協調が不可欠になっている。

 企業の税負担を示す一般的な指標である法人実効税率は各国が定めた課税所得に対する税率だ。これに対し企業の税負担率は連結決算の税引き前利益に対する会計上の税金の比率を示す。本社を置く国の税率が高くても税率の低い国で事業を営み拠点を増やせば全体として企業の税負担率が下がっていく。

 日本経済新聞がQUICK・ファクトセットのデータから集計したところ世界の上場企業の税負担率は10年前から3ポイント低下した。1ポイント下がると990億ドル(11兆円)税収が減る計算だ。

 企業の税負担率が下がったのは、国家間の税率の引き下げ競争の影響が大きい。法人実効税率を比べると日本は第2次安倍政権発足後に36.99%から29.97%に低下した。英国は19%と10年で11ポイント引き下げた。

 税率の引き下げは自国企業の競争力を高めるためだが、低税率の国では外国から企業を誘致して税収を増やす狙いもある。メキシコは税優遇で米国向けに自動車などを製造する企業を誘致し、法人税収は2015年までの10年で4倍に増えた。税率を先進国最低水準の12.5%まで下げたアイルランドは欧米の銀行や米IT(情報技術)企業が拠点を移し、15年の法人税収は69億ユーロと過去最高を更新した。

 日本やドイツは15年の税収が07年を下回り、米国もようやく回復したばかりだ。国ごとに税収の伸びに格差が広がる。

 企業から見ると日本の税負担率は外国企業に比べなお高い。16年度は32%と10年前より10ポイント下がったが主要国で最高の負担率だ。日本と並ぶのは2ポイント下がり32%になった米国になる。

 「米国は仏独にも日本にもメキシコにも後れを取っている。理想を言えば税率を15%まで下げたい」。8月30日、トランプ米大統領は税制改革について演説し法人減税の必要性を訴えた。米議会の中からも「海外勢と競争する米企業は懲罰を科されている」(共和党のライアン下院議長)との声が上がる。

 焦る政府を尻目に米国のIT企業などは低税率の国・地域を使った節税策が盛んだ。米マイクロソフトは業務ソフト「オフィス」などをアイルランドやプエルトリコから販売する。米アップルは通信技術やデザインの研究開発費を米国とアイルランドで負担し、課税所得も両国で分配する。この結果、米企業の税負担率は米国の実効税率(39%)よりも低くなった。

 株式の時価総額上位30社を税負担率の低下幅でランキングすると、首位のマイクロソフトは税負担率を15.0%と10年前の半分以下に引き下げた。アマゾン・ドット・コムなど米IT大手が軒並み上位に並ぶ。

 みずほ総合研究所の高田創氏は「企業が自由に税金を払う国を選ぶ中、従来の制度では課税すべき利益を捉えられなくなっている」と指摘する。産業のIT化が進み、技術やデータなど知的財産から生じた利益や必要経費がどの国で発生したのか分けるのが難しくなっている。

 税の不均衡を正そうとする試みも出てきた。経済協力開発機構(OECD)は15年に情報の共有や国際課税ルールを見直す行動計画を策定。企業がグループ内でどんな取引をし、どこで税を負担したのか国別に報告書を作成するよう求めた。行き過ぎた節税や税の奪い合いに歯止めをかける狙いだ。

 国際税務に詳しいKPMG税理士法人の角田伸広氏は「税収を国が奪い合うのではなく、企業の稼ぎを世界経済の拡大に生かす工夫が必要だ」と話している。(富田美緒、中村亮)



スタートアップ大競争ここまで来た(4)国を鍛える気づけば社会イ ンフラ 2017/8/31 本日の日本経済新聞より

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 メキシコの首都、メキシコシティ。治安も悪く、地元のタクシーでさえ近づかない区画にある公立中学校から、子どもたちの笑い声が聞こえるようになった。教室で子どもたちはパソコンで講義を視聴し、自宅ではスマートフォン(スマホ)で何度も復習できる。模擬試験の点数は以前と比べて約3割向上。多くの子どもが学ぶことの楽しさを知るようになった。

新興国の教育改革を支える(メキシコシティでクイッパーの教材を視聴する中学生)

 スマホなどで視聴できるオンライン講義システムを開発したのは、英クイッパー(ロンドン)。ディー・エヌ・エー(DeNA)創業メンバーの渡辺雅之・最高戦略責任者(CSO)が2010年に設立した。

300万人が学ぶ

 新興国では教師不足が足かせとなり、思うように教育改革が進まない。メキシコは教師不足の世界ランキングで58位。いつでもどこでも手軽に勉強できるクイッパーの講義システムは、教師不足の対策につながる。

 教育は国の成長を支える礎となる。スタートアップの発想と行動力が次代を担う若者の教育改革を支える。クイッパーの教育システムはフィリピンやインドネシアなど6カ国で、300万人以上が利用する。メキシコシティの教育委員会も4月に200校・約3万人で導入することを決めた。「教育改革を担う重責を感じる」。渡辺CSOは語る。

ドローンで薬

 21世紀は人材への投資こそが国の成長を左右し、世界各国が教育や医療などのインフラ整備を急ぐ。新しい発想で事業を生み出すスタートアップ企業こそが次世代のインフラの担い手になる可能性を秘める。

 貧困や紛争にさいなまれてきたアフリカのルワンダ。2011年起業の米ジップライン(カリフォルニア州)が世界初とされるドローンによる商用物流の実験に乗り出した。交通が不便な離村などにある約50カ所の医院に輸血パックや医薬品をドローンが届ける。

 民族紛争や隣国の難民流入を背景にルワンダの財政は逼迫し、国民の保健衛生の向上は待ったなし。ジップラインは政府に代わるインフラ機能を担い、物流網が脆弱な新興国での事業拡大に商機を見いだす。

 インドネシアの首都ジャカルタ。ベンチャー企業で働くステファヌスさん(31)は平日の午後、欲しかった電子機器をインターネット通販で注文した。受取場所をオフィスに指定すると、約2時間半後にはバイクに乗った運転手が商品を届けた。迅速な配達を実現したのが、バイク乗りのシェアサービスを手掛けるゴジェックだ。

 インドネシアではインターネット通販の利用者が急増する一方で、慢性的な渋滞による配達の遅れが日常茶飯事。ゴジェックは町中で無数に走る個人商売のバイクタクシーの中から、最も早く荷物を届けられる運転手を手配する。

 新興国でもネット通販や宅配が生活のインフラとして定着し、サービスの品質は日本を超える。インドネシア政府は消費振興や低所得層の雇用促進策としてもゴジェックに期待する。

 気がつけばスタートアップ企業の製品やサービスが「社会インフラ」として根を張り、世界で眠っていた人材の成長力に命を吹き込む。



スタートアップ大競争ここまで来た(2)20歳、起業は2社目若さ や失敗も原動力に 2017/8/29 本日の日本経済新聞より

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 仁礼彩香さん(20)は一見、ごく普通の女子大生だが、2度の起業経験を持つ「シリアルアントレプレナー」だ。最初の起業は中学2年生だった14歳の時。大学に入った昨年夏、企業向け研修や製品開発を支援する2度目のスタートアップ企業「ハンドC」を設立した。

大学生の仁礼彩香さん(右)は14歳で起業した(都内)

教育制度に疑問

 「どうして答えはひとつなんですか」。起業したきっかけは、画一的な日本の教育制度への疑問だった。子どもが自由に表現したり、発信したりする手助けをしたい――。14歳で起業したグローパスでは、森永製菓とお菓子作りを通じて子どもの創造性を育む講座などを開いた。

 グローパスを中学生の後輩らに託して、ハンドCでは社会人などを対象にしたオンライン教育の事業計画も練る。

 世界の株式時価総額で上位5位内に入るアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、フェイスブック。いずれも創業者が10代後半から20代前半で起業し、世界市場を切り開いてきた。

 中国のネット通販最大手のアリババ集団(浙江省)を率いるジャック・マー会長。アリババを興す前に3度、起業と失敗を繰り返した。

 大学教師から転身して1992年に翻訳会社を設立。運転資金を稼ぐため、贈答用の花や医療機器など売れる商材には何でも手をつけた。競合企業に自分の会社を買収されたこともあった。雌伏の7年を経て、アジア全域に広がる巨大な経済圏を築き上げた。

 世界では若さや失敗はスタートアップの障壁にならない。むしろ、イノベーション(革新)を生み出す原動力となる。

 日本はどうだろうか。年功序列や大企業志向が根強いが、15歳で起業したGNEX(東京・品川)の三上洋一郎社長(19)は「10代での起業は珍しくない」と語る。倒産経験をリスクとしか見なかった「日本株式会社」も変化の兆しを見せる。

倒産経験が資産

 福島銀行は2015年、過去に倒産経験がある経営者の再起を後押しする10億円規模の投資ファンド「福活(ふっかつ)ファンド」を設立した。

 8月には、倒産経験のある起業家が経営するスマートフォン向け動画配信サービス会社に4000万円を出資。訪日外国人客向け観光案内サービスを支援する。「成功や失敗を問わず、起業した経験はスタートアップで重要な資産だ」。福島銀行と組む起業家支援団体、MAKOTO(仙台市)の竹井智宏代表理事は語る。

 「自分にしかできないことを極めたい」。音声認識技術を開発するフェアリーデバイセズ(東京・文京)の藤野真人社長(35)は語る。08年に東京大学大学院医学系研究科を中退。医師になる道を捨て、フェアリーデバイセズを起業した。

 臨床研修で枕元に置いたクマのぬいぐるみに話しかける女の子の姿が、今でも忘れられない。ぬいぐるみが人間のように応答できる技術がビジネスとして花開き、シャープのロボット掃除機など数多くの家電製品に採用される。

 民泊の世界最大手であるエアビーアンドビーは、観光とは無縁の20代のデザイナーたちが起業した。情熱やアイデアがあれば、誰でも起業家になれる。答えは、ひとつではない。



役員給与、アジア勢が上 中国4000万円・日本2700万 円 人材獲得で競り負けも 2017/8/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「役員給与、アジア勢が上 中国4000万円・日本2700万円 人材獲得で競り負けも」です。





 中国やシンガポールでは部長の給料は平均2300万~2400万円、日本は2千万円に届かず、取締役はベトナムにも抜かれる――。企業が支払う給与・報酬を国別にみると、役職が高くなるほど海外が日本を上回り、格差が広がることがわかった。日本は若手から課長まではアジア各国を上回るものの、部長・取締役では抜かれる傾向にある。高度な技術や経験を持つ人材の獲得競争が世界的に激しくなるなか、「買い負け」リスクも指摘されている。

 人事コンサルティング大手の米マーサーが世界125カ国の2万5千社、1500万人以上の2016年度の報酬(予定額)を調べ、平均為替レートで日本円換算した。日本企業も自動車や家電など上場企業を中心に264社を調べた。対象の多くが大手で金額は高めに出る傾向がある。

 各国の現地企業、外資企業をあわせた部長級の年間の平均給与(額面ベース)をみると、シンガポールが2412万円、中国(上海)は2340万円となる一方、日本は1981万円にとどまる。課長の平均給与は日本(1022万円)がシンガポール(1008万円)や中国(668万円)を上回るのと対照的だ。

 日本の人件費は全体としてはなお高い。日本貿易振興機構(ジェトロ)の直近調査によると、一般的な工場労働者の賃金は東京で月額2339ドルなのに対し、上海は558ドル、ホーチミンは214ドル。日本は海外に比べ役職による格差が小さい構図が浮かぶ。

■高い役職ほど格差

 マーサージャパンの栄立土志コンサルタントは「海外は役割の大きさに応じ惜しみなく給与を配分する」と指摘する。日本は同じ部長職なら主力部門から間接部門まで給与水準をそろえる傾向があるが「海外は稼ぐ花形事業の責任者により多く払う」という。

 取締役になると差はさらに広がる。日本では低位の取締役の報酬は2713万円だが中国は4千万円を超えシンガポールも3535万円が支払われる。ベトナムの2803万円にも抜かれる結果となった。部長まで日本を下回る韓国も取締役では超えている。

 アジアの企業は厚待遇を用意して人材を引き付ける。八木一之さん(59)は16年10月に三井物産から中国の長城汽車に転じた。今はグループ会社の董事総経理として北京で働く。「長城汽車の魏建軍董事長は日本の企業文化を学びたいという姿勢が強い」(八木さん)といい、60歳を超えても報酬は三井物産時代と遜色ない見通しという。日本企業の定年後の再雇用での給料維持は難しい。年齢に応じて報酬が決まる硬直化した制度は人材獲得の足かせになる。

 マーサーの調査は国別だが日本企業の海外法人でも役職が高くなるほど給与が伸び悩む傾向が見える。例えば上海の各社の報酬を比べると日本企業の部長給与は1853万円。中国企業(2012万円)、日系を除く外資企業(2394万円)より低い。課長になりたての頃は日本企業、中国企業、日系を除く外資ともに350万~400万円と大差はなかったが、役職の上昇とともに格差が広がる。

■賃金理由に転職

 日本の電機大手から上海の半導体メーカーに移り、転職支援も手がける男性は「日本人が海外へ転職すると年収が2千万~3千万円になることも多く、3倍に増えることもある」と話す。給与水準の差が日本企業の人材獲得の妨げになることもあるという。ただ短期間に技術やノウハウを得た後に退社を迫る「使い捨て」の事例もある。

 英人材大手ヘイズによると賃金を理由に転職を考える人は増加傾向にある。台湾の人工知能ベンチャーに勤める30代男性の年収は1千万円を超えた。3年前まで勤めた楽天時代の1.5倍以上で「裁量が大きく成果を残した分だけ個人に還元される」と話す。

 人口減少で日本国内の市場が縮む中、日本企業のグローバル化は加速する。製造業だけでなく金融やサービス業でも世界各地で競争は激しくなり、企業の盛衰を分けるようなマネジメント層となる人材の需要は高まる見通しだ。

 しかし、十分な報酬を示さずに人材獲得競争で勝ち抜くのは難しい。成果主義を徹底するだけでなく、上に厚い制度への見直しも必要になってくる。

(安西明秀)



閑古鳥鳴く官民ファンド 巨額資金、活用1割未満も 2017/8/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「閑古鳥鳴く官民ファンド 巨額資金、活用1割未満も 」です。





 安倍政権下で2013年以降に設立した官民ファンドが投資先探しに苦慮している。農産物の加工・販売を支援するファンドは投資枠319億円に対し、実際の投資は7月末までの4年半で59億円。総額1千億円強の大学発ベンチャーファンドも利用は1割未満だ。成長戦略で設立を競った各省庁の需要見通しは甘く、国が投じた巨額資金が無駄に眠っている。

 5月、飲食店検索大手のぐるなびの決算短信に簡潔な一文が載った。「ぐるなび6次産業化パートナーズ投資事業有限責任組合は清算結了しています」。農林漁業成長産業化支援機構(A―FIVE)と組んだ地域ファンドのことだ。できて3年半、出資ゼロのまま解散した。

 13年1月発足のA―FIVEは農林漁業の生産者による加工・販売事業を支援するため、各地の地銀や企業とファンドをつくった。ぐるなびは「飲食店など本業の顧客と競合する」と手を引いた理由を明かすが、特殊事例ではない。群馬や大分などのファンドも実績を残さずに消え、その数は53から48に減った。

 元手は財政投融資300億円と民間出資19億円だが、投資先はどこも小粒だ。7月末までの114件を足しても59億円。なぜお金の巡りが悪いのか。

■資本を食いつぶす

 官民の思惑にズレがあるのだ。事業リスクを分離するため、生産者に別会社をつくらせ、そこにファンドが出資する仕組みにした。だが補助金に慣れた生産者の反応は薄い。平岩裕規常務は「自ら出資することに予想以上に慎重だった」と釈明する。

 A―FIVEは役職員数が50人を超し、16年度までの経費は累計40億円強。最終赤字額は同45億円に達した。このままでは資本を食いつぶすだけだ。国に資金を返すには22年度までに総額280億円の投資をこなし、存続期限の32年度末までに1.9倍のリターンを得る必要があるという。農林水産省は5月、農林漁業者に直接出資できるようルールを緩和したが、その効果はまだ見えない。

 文部科学省主導でつくった大学直営ベンチャーキャピタル(VC)にはさらに巨額の資金が眠る。原資は国費1千億円。東北、東京、京都、大阪の国立4大学に割り振ったが、7月末時点の投資実行額は合計54億円。5%しか使っていない。

 予算は13年2月に成立したが、準備に手間取り、運用開始は阪大が15年7月、東大は16年12月だ。政府は法制度で13~17年度を投資の「集中実施期間」としたが、もくろみは外れた。各大学には2号ファンド用で計450億円が残るが、集中実施期間を過ぎれば使えなくなる。



イノベーションとルール(3)主戦場はアジア法「輸出」で市場取り込む 2017/8/24 本日の日本経済新聞より

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 今年、会社法を約100年ぶりに大改正するミャンマー。法整備支援に携わった日本の官僚の1人は今も首をかしげる。「どうしてこんなことになったのか……」

ヤマトホールディングスは小口保冷輸送の国際規格作りを進める(シンガポールの拠点)

主導したはずが

 政権への長年のパイプを生かし、日本は同国証券取引所の開設を主導するなどルール作りでリードしてきた。だが、ビジネスに影響の大きい会社法と倒産法でできた法案は、オーストラリア法を基礎にしたものだった。

 「アジア最後のフロンティア」の同国で、各国が法支援合戦を繰り広げる。成長市場に、自国企業がビジネスしやすい環境を移植する狙いだ。

 会社法では、アジア開発銀行に助言する豪州人弁護士らがミャンマー政府に食い込んでいた。日本企業には「慣れない法体系が欧米企業との競争で不利に働きかねない」(日本政府関係者)。

 会社法の世界にとどまる話ではない。スマートフォンが象徴するように新技術は瞬時に世界へ広がる。イノベーションとルールは同時に広めないと勝負で負けかねない。

 タイで昨年、欧州が得意とするディーゼル車の弱みが薄まった。同国は従来、エンジン排気量に応じて課税していた。だがドイツ自動車工業会が、二酸化炭素(CO2)排出量に応じた税率に改めれば税収全体も増えるとの試算を提示。税制が改正され、ディーゼル車とハイブリッド車との税率格差は縮小した。

 “法の輸出”の主戦場のアジア。守勢の日本も、相手国にも利益になる「ウィンウィン」の関係を訴え、反攻に出る。

 スリランカのコロンボで3月、日本製の医療機器の展示会に長蛇の列ができた。仕掛けたのは日本貿易振興機構(JETRO)。日本では法律が義務付ける社員の健康診断を根付かせる試みだ。制度が根付けば現地で社会問題化する生活習慣病の予防に役立つ一方、日本の高性能機器の需要が増えるとの読みがある。

地デジで存在感

 地上デジタルテレビ放送の規格では日本が一定の存在感を示す。米国に先行されたが、一つの送信機からテレビと携帯電話の両方への放送が可能で、災害時の情報発信機能に強い点をアピール。ブラジルなど中南米のほかフィリピンやスリランカへの導入に成功した。

 ヤマト運輸の「クール宅急便」が国際標準になる日が来るかもしれない。ヤマトホールディングスは自社サービスを基にした小口保冷輸送の国際規格作りに着手。まず今年2月、英国の標準化機関での規格化に成功した。国土交通省などの支援も受けながら、今後はより影響力のある国際標準化機構(ISO)の規格策定も視野に入れる。

 アジアではネット通販の普及で生鮮品の宅配が急増。ヤマトも進出先を広げるが、現地では温度管理がずさんな業者も増えた。日本主導のルールで市場を固めれば、保冷宅配の信頼を高められるうえ日本にも追い風だ。

 東京大学の柏木昇名誉教授は日本の法支援について「国際貢献主眼で、ビジネスに役立てる発想が乏しかった」と話す。発想の転換が必要だ。



イノベーションとルール(2)未知との遭遇、その時「お上が決めて」 脱却を 2017/8/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「イノベーションとルール(2)未知との遭遇、その時「お上が決めて」脱却を」です。





 「ライドシェアにここまでうまく対処できている国はない」。6月下旬、全国ハイヤー・タクシー連合会(東京・千代田)の理事会で川鍋一朗会長が自信を見せた。「対処」とは自家用車に客を有料で乗せるライドシェアの阻止のことだ。

ICO協議会はネットを使う新たな資金調達のルールづくりに知恵を絞る(東京都千代田区)

 一方、対価を得ない長距離ライドシェアを手がけるnotteco(東京・千代田)の東祐太朗社長は言う。「日本は周回遅れどころではない」

日本まず法整備

 ルールが無かった新たなサービスを始めたいとしよう。どうするか。

 まずは試して、法整備はその後。米ウーバーテクノロジーズはこうして約80カ国・600都市以上にサービスを広げてきた。シンガポールは一般人がライドシェアの運転手になれる免許を7月に導入。マレーシアでも同月にライドシェアを合法化する法律が成立した。

 日本は自家用車での有償運送を原則認めない。未知のビジネスと遭遇したら、まず法整備を議論する。根底には法律に対する考えの違いがある。日本は細かい規則を定める成文法の国。英米は細則は定めず、何かあれば裁判で判断する判例法を使う。「一般に英米型の方が、明確に合法と書かれていない事業にも企業は踏み出しやすい」と中町昭人弁護士は話す。

 国内の民泊では、仲介事業を始めると民泊法成立後に表明した楽天でさえ後発組だ。法整備を待つ間に、米エアビーアンドビーは国内5万3千室に年間500万人が泊まる規模に成長している。

 「フィンテックについて教えていただけませんか」。一昨年春、ベンチャー企業のマネーフォワード(東京・港)に一通のメールが届いた。差出人は金融庁。同社の幹部は「お上の力でも対応しきれないことが増えている」と感じたという。

 企業の側にも「決められなければ動けない」という体質はないか。今年5月末に全面施行された改正個人情報保護法。個人を特定できないよう加工すればビッグデータの活用に道が開ける。だが企業の担当者からは「法律だけではどう加工すれば適法か分からない」と二の足を踏む声が出る。

走りながら創造

 変化の芽もある。

 「走りながらルールを創造しよう」。8月、仮想通貨取引所大手のテックビューロ(大阪市)が呼びかけ、「ICO協議会」が発足した。ベンチャーや金融機関などが集まり、道なき道を走る。

 念頭に置くのは「新規仮想通貨公開(ICO)」と呼ぶ資金調達の仕組み。世界で広がるがルールは曖昧だ。「安全な事業モデルとルール作りを我々が進めたい」とテックビューロの朝山貴生社長は意気込む。

 「新技術を想定しない制度だと試行錯誤の機会がなくデータが取れない。データがなければ制度を変えられないニワトリ・タマゴ状態」。安倍晋三首相は5月の未来投資会議で、規制を一時凍結する「サンドボックス制度」を提唱した。試行錯誤を経て最適な制度をつくる。ブロックチェーンを登記に使うなどの案を検討中だ。英米流の「まずやろう」は浸透するか。