Deep Insight インド悩ます中国の弱さ 2018/3/30 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「Deep Insight インド悩ます中国の弱さ 」です。





 世界は中国にどう向き合っていったらよいのか。答えは今後、さらに複雑になるだろう。中国は巨大になると同時に、一党支配の矛盾も深まり、内部がぜい弱になっていくとみられるからだ。

 そうした大国は末端への統制が効きづらく、ときに冷静さを欠いた行動にも出かねない。私たちがこれから備えなければならないのは、そんな「巨大でもろい」中国である。

 共産党の動きだけながめると、中国国内の統率はむしろ強まっているようにみえる。習近平(シー・ジンピン)国家主席は汚職の摘発を重ねて政敵を追い落とし、自らの任期も取っ払った。党中央の権力闘争はおおむね決着し、もはや習主席の指導力を脅かすライバルは見当たらない。

 しかし、同党の党員数は約9000万人にすぎない。習主席が党内の結束を固めたからといって、14億人の人心を掌握したことにはならない。

 社会全体をながめれば、中国内ではむしろ、求心力を弱めかねない火種が広がっている。とてつもなく広がった経済格差、絶えない汚職、新疆ウイグルやチベット自治区でくすぶる不満……。

 人間にたとえれば、中国は財力や腕力こそ強まっているが、内患も深刻になっているように映る。問題は他国とのつき合いに、それがどう影響するのか、だ。

 この点を気にしている国のひとつが、1962年に戦火を交えた過去を持ち、いまなお国境紛争を抱えるインドだろう。

 2月下旬、ニューデリーで安全保障に関する討論会があり、日印や欧州からの参加者が意見を交わした。そこで感じたのは、中国の台頭をめぐり、インドが募らせている不安の大きさだ。

 中国は軍事、経済力だけではなく、情報戦も駆使し、中国を頂点とする秩序を広げようとしている。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を通じて、その流れはさらに加速しかねない――。インドの参加者からはこんな趣旨の声が聞かれた。

 これだけなら、さほど目新しい反応ではない。気になったのは、インドの不安は中国の強さだけでなく、「ぜい弱さ」にも原因があるように感じたからだ。

 別の機会に会ったインドの外交関係者から、興味深い秘話を聞いた。

 2014年9月、習主席が初めてインドを訪れ、友好関係を打ち立てようとした時のことだ。よりによってその数日前、国境が画定していないラダック地方で、中国軍がいきなり実効支配線を越え、インド側に侵入してきた。

 越境した兵士は最大で1000人を超え、習氏のインド滞在中、ずっと居座った。インドをけん制するため、習氏がわざと越境を許したとの説も流れたが、真相はちがった。

 外交関係者によると、到着した習主席を迎えたモディ首相は翌日の公式会談を控え、ひそかにこんな趣旨の会話を交わしたというのである。

 モディ氏 実は、今日は自分の誕生日です。だが、まさかこんな贈り物をもらうとは思わなかった。

 習氏 いったい、何のことでしょう。

 モディ氏 いま、あなたの国の軍が、インド側に越境しているのを知らないのですか。

 モディ氏が状況を説明すると、習主席は見るからに戸惑った表情を浮かべ、「明日までに調べてみる」と応じた。

 そうして迎えた翌日の会談で、彼は「北京に戻ったら事態を収拾する」と約束したという。実際、彼が北京に帰ってから数日後、中国軍は撤収した。

 このやり取りが事実なら、習主席は越境騒ぎが起きていることすらも、知らなかったことになる。越境部隊が所属していた中国軍区には当時、習氏に忠誠を払わない勢力がいて、彼のメンツが丸つぶれになるのを承知で、あえて越境したという噂もある。

 それから3年半。習主席は軍内の掌握を一気に強めた。ただ、その過程で少なからぬ古参幹部を失脚させており、恨みもかなり買っているはずだ。

 昨年6月には中国とブータンの国境で、いきなり中国が道路建設を開始。ブータンの要請を受けたインド軍が出動し、約2カ月半にわたって中印両軍がにらみ合う危機になった。

 最後は習主席とモディ首相の会談で手打ちとなったが、インドは中国側とのやり取りから「きっかけとなった道路建設は最高首脳の命令ではなく、現場の判断による行動だった」という感触を深めたという。

 いくら習主席が党内の指導力を強めたとしても、中国の巨体を隅々まで統制するのは難しい。「内患」が広がれば、脳と末端の神経がうまくつながらず、手足が勝手に動いてしまう状況はさらに増える、とみるべきだろう。

 上の表にもあるように、日本や米国にも、中国軍が予測できない行動に出る事件が起きている。すべてが独断ではないにせよ、日本の安保担当者は「軍首脳の統制が行き渡らず、末端が挑発に動くケースが少なくない」とみる。

 ことは軍事だけにかぎらない。社会が不安定になれば、習指導部は内政上の余裕を失い、その分、外交や経済で他国にかたくなな態度をとる局面も増えるだろう。そんな中国の方が、安定した中国よりもはるかに対応が難しい。



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