Deep Insight 巨熊ロシア 暴れさせぬ策本社コメンテーター 秋田浩之 2017/4/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「Deep Insight 巨熊ロシア 暴れさせぬ策本社コメンテーター 秋田浩之」です。





 前半生の大半を、ロシア(ソ連)のスパイ機関ですごしたプーチン大統領。相手に警戒を解かず、本心を明かさない人物として知られる。彼にとって、安倍晋三首相は主要国の首脳の中でも、数少ない友人のひとりだ。

 そんなプーチン氏は27日、通算17回目となる会談のため、モスクワに安倍氏を迎えた。「両者は互いの考えを知り尽くし、本音で語り合える仲だ」(首相周辺)。

 ところが、舞台裏に光を当てると、プーチン政権の態度はむしろ日本に対してとげとげしくなっている。原因は日本自身というより、強まる米国への警戒心にある。

 3月下旬に来日したラブロフ外相とショイグ国防相は、日本が米国と進めているミサイル防衛協力にこう不満をぶつけたという。

 「米主導のミサイル防衛網によってロシアは包囲されている。西はポーランドとルーマニア、東側は日本と韓国だ。このままではわが国の核抑止力が傷ついてしまうではないか」

 日本のミサイル防衛網は北朝鮮をにらんだものであって、ロシアを狙っているわけではない。ロシアはそれでも、自分たちの封じ込めに利用されると疑っている。

 日ロ関係筋によると、プーチン氏の懐刀であるパトルシェフ安全保障会議書記は、昨年11月に訪ロした谷内正太郎・国家安全保障局長にこうも迫った。

 「在日米軍のミサイル防衛システムのレーダーはロシアにも向けることができる。そうじゃないと日本は言うが、米軍のシステムを制御できるのか? できないはずだ」

 米ロが対立を深めたのは、ロシアによる2014年のクリミア併合がきっかけだ。親ロ的なトランプ大統領の就任で雪解けするかにみえたが、米軍のシリア空爆にロシアが猛反発し「過去最低の状態」(トランプ氏)に冷えた。

 ロシアは米国と同盟を結ぶ欧州諸国にも軍事挑発を強める。日米のミサイル防衛協力を敵視するのも、同じ流れだ。ロシアは世界最大の国土を持ち、強大な核戦力も抱える。本気で暴れたら、世界は混乱してしまう。彼らと、どうつき合ったらよいのか。

 その手掛かりは、なぜそこまで彼らが米国に疑心暗鬼を募らせるのかを、考えることにある。日米欧の専門家らによると、ロシアは米国に限らず「いつも、敵対国に包囲されている」との強迫観念を抱き続けているという。

 それは歴史に根ざしたトラウマだ。ロシアは13世紀から約240年間、モンゴル人の支配を受けた。19世紀にはナポレオン軍、第2次世界大戦ではナチスドイツに攻め込まれた。米ソ冷戦では西側諸国に封じ込められ、1991年に旧ソ連は崩壊した。

 そしていま、北大西洋条約機構(NATO)と日米同盟を足場にして、米国が再びロシアを包囲しようとしている。プーチン氏はそう考え、激しく押し返そうとしているというわけだ。

 ロシアは時に熊にたとえられる。体が大きく、警戒心が強い。普段はおとなしいが、縄張りを侵されると牙をむき、凶暴になる。そんなロシアに対応する選択肢は3つに分かれる。

 【路線(1)封じ込める】外交や軍事圧力を使い、東欧などに挑発を強めたり、縄張りを広げたりできないよう、厳しく対抗する。米国の議会保守派や国防総省で聞かれる戦略だ。

 【路線(2)融和策で友人になる】首脳間の交流や経済交流を深め、友好的パートナーになろうとする。安倍路線はこれに通じる。

 【路線(3)信用せず、つき合う】友好的パートナーになるとの期待は抱かず、強い警戒心を絶やさない。ただし追い詰めることもせず、必要な協力は保つ。「今のドイツがこれに近い」(欧州外交筋)。

 いずれも短所がある。封じ込め路線を突き進めば米ロ冷戦が再燃し、ロシアはさらに凶暴になるだろう。欧州でのロシア軍による挑発の現状は「冷戦後、最大の規模」(英軍事専門家)。シリアや北朝鮮問題での協力も難しくなる。

 かといって融和路線も限界がある。安倍政権は経済協力を提示しているが、ロシアは北方領土での軍拡をやめようとしない。そもそも強権国が自由や「法の支配」という民主主義の価値を共有するパートナーになれるのか、疑問だ。

 だとすれば、いちばん現実的なのが、(3)の中間路線だ。実は、ロシアの危なさを最もよく知り、この政策を忠実に実行しているのが、中国である。

 「ロシアとは長い国境を接している。両国はいまは友好国だが、いつまで続くのかわからない」

秋田浩之(あきた・ひろゆき) 政治部、北京支局、ワシントン支局などを経て、外交・安全保障担当の編集委員兼論説委員。近著に「乱流 米中日安全保障三国志」

 中国当局者はこう打ち明ける。1960年代末に中ロは戦火も交えた。両国は蜜月を強調しながらも、胸の内では決して警戒を解かず、つき合っている。

 そんな中国とロシアがしたたかに連携し、既存の国際秩序を崩しにかかるような展開は、阻まなければならない。中ロにくさびを打つには日米欧が足並みをそろえ、中国よりも巧みに、融和策でも、封じ込めでもない、現実的な対ロ戦略を再構築する必要がある。

 人気スパイ映画の007シリーズで、主人公の所属機関として描かれる英秘密情報部(通称、MI6)。2年半前までそのトップを務めたジョン・サワーズ前長官も、そんな外交を提唱する。

 「ロシアは危ないと思えば、むしろ危険な行動に出かねない。とはいえ(融和策が)行きすぎるのも危険だ」。彼は長官当時、ロシアによるクリミア併合危機に対処した。そんな経験に裏打ちされた現実論だけに、重みがある。



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