Deep Insight 忍び寄る強権勢力と日本本社コメンテーター秋田浩之 201 7/7/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「Deep Insight 忍び寄る強権勢力と日本本社コメンテーター秋田浩之」です。





 ざっくり言えば、人と人の関係には2つのタイプがある。ひとつは実利でつながる仲間。もうひとつは損得だけでなく、共通の信条で結ばれた同志だ。前者の関係はもろいが、後者はちょっとやそっとでは崩れない。

 国と国にも同じことがいえる。そして安倍晋三首相がかねて強調してきたのは、後者の関係を追求する外交である。

 民主主義や人権、法の支配といった価値を共有する国々と連携を深める――。

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 安倍氏は日ごろからこう訴え、2013年末の国家安全保障戦略にも明記した。この理念は正しいと思う。日本の国力が縮むなか、実利外交だけで競い合っても、中国などにはかなわないからだ。

 ところが、今の安倍氏と世界の要人との関係をながめると、必ずしもこの路線とは一致しない。

 安倍氏にとって、気の合う「友人」はだれか。複数の側近にたずねると、決まって名前が挙がるのが、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、インドのモディ首相だ。会談の回数も多い。

 トランプ米大統領や、昨年6月に就任して以降、相互訪問を含めて早くも3回会談したフィリピンのドゥテルテ大統領も「親しい首脳」(安倍氏側近)という。

 モディ氏を除けば、いずれもこわもての強権型リーダーだ。プーチン氏はウクライナのクリミアの武力併合、エルドアン氏は反政府勢力の弾圧、ドゥテルテ氏は麻薬犯罪取り締まりにおける人権侵害が国際的な非難を浴びる。

 安倍氏が彼らと親しくするのは、むろん理由があってのことだ。領土交渉ではプーチン氏の懐に飛び込まざるを得ない。南シナ海の中国化を防ぐには、ドゥテルテ氏への支援も必要だ。きれいごとばかりでは、外交はできない。

 だが、そう理解したうえでも、自由や民主主義の価値を重視した外交を、日本は今こそ大切にすべきだと思う。日本の繁栄を支えてきた自由な世界秩序が、後退の瀬戸際にあるように映るからだ。

 そんな危険が浮かび上がったのが、7月上旬のドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議だ。

 内幕を知る関係者らによると、議長を務めたドイツのメルケル首相の隣には、前回の議長である中国の習近平国家主席が陣取り、まるで国際秩序の守護者のように振る舞った。

 開放的な世界の経済体制を守らなければならない。世界貿易機関(WTO)の規則に従おう――。習氏はこう訴え、国際ルールの順守を説いた。首脳宣言の水面下の調整でも、中国はこうした原則を繰り返し力説したという。

 本来、これらの言葉は日米欧が中国に投げてきたものだ。ところが内向きなトランプ政権の出現で「米国が壊す秩序を、中国が守っているかのような光景が生まれている」(欧州外交当局者)。

 その資格と能力があるなら、中国の呼びかけを拒む理由はない。しかし、現実は逆である。

 6月下旬、米欧などの当局者や有識者がスウェーデンに集まり、米ジャーマン・マーシャル財団が主催する非公開の会議を開いた。テーマは中国問題。飛び交ったのはまさに中国異質論だ。

 「いずれ中国も市場経済国になると思い、WTOへ迎え入れた。この前提が間違いだった」

 米側がこう指摘し、中国の関税の高さや、政府による国有企業への統制ぶりを問題視した。欧州側からもこんな声が出た。

 「中国は長年、米欧の声に耳を傾けず、成功してきた。もう変わらないだろう」

 一党支配下にある中国の政治体制はさらに異質だ。同国がこのまま世界秩序を動かすようになれば、西側諸国が守ってきた自由や民主主義、法治体制が変質し、骨抜きになる危険がある。

 決して大げさな心配ではない。ほかならぬ米欧でも、民主主義が後退する兆しが出ているのだ。

 米政治学者のロベルト・フォア、ヤーシャ・ムンク両氏が昨年発表した研究結果によると、「軍人の統治」を良いことだと考える米国人は14年に約17%と、1995年の約3倍に増えた。

 この傾向は若者ほど顕著だ。政府が統治力を欠いた場合、軍事クーデターは正当化されるか。こんな問いに対して「ノー」と答えたミレニアル世代の米国人はたったの19%。欧州の同世代への調査でも、36%にとどまった。

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秋田浩之(あきた・ひろゆき) 政治部、北京支局、ワシントン支局などを経て、外交・安全保障担当の編集委員兼論説委員。近著に「乱流 米中日安全保障三国志」

 格差の広がり、党派対立に明け暮れる政治への失望。理由は様々だが、自由な秩序が揺らいだら、日本もただ事では済まない。だからこそ、価値観を共有する国々と連携し、強権主義への防波堤を築いていかなければならない。

 残念ながらどこまでトランプ氏を当てにできるかは分からない。「中国はとても戦略的に動いている」。5月下旬の主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)で、世界への政治力を強める習近平氏の手腕をむしろ評価したという。

 第2次世界大戦は、英米主導の秩序に日独伊が挑むなかで始まった。いま阻止しなければならないのは、中国がロシアなど他の強権国と枢軸を組み、現行秩序を変えようとすることだ。中ロの蜜月にはそんな意図が漂う。両国は米欧を揺さぶるため、先週末からバルト海で共同演習に入った。

 中ロのこれ以上の接近を阻むのに役立つなら、安倍氏とプーチン氏の「友情関係」にも前向きな意味がある。だが、今のところ、そのような効果はみえてこない。



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