FINANCIAL TIMES 米朝首脳誤算のリスク チーフ・フォーリン・ア フェアーズ・コメンテーター ギデオン・ラックマン 2017/4/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「FINANCIAL TIMES 米朝首脳誤算のリスク チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター ギデオン・ラックマン」です。





 1950年、米国の政府高官の不用意な発言と、北朝鮮政府の計算違いが重なったことが、朝鮮戦争の勃発につながった。

金正恩氏も先制攻撃に出る可能性がある=AP

トランプ氏も先制攻撃に出る可能性がある=AP

 今日、米朝両政府が再び誤算を重ね、紛争に突入する危険がある。世界は、朝鮮半島で再び戦争が始まるかどうかを注意深く見守っている。

 多くの歴史学者は、朝鮮戦争勃発のきっかけが、50年1月に当時のアチソン米国務長官がワシントンの記者クラブで行った講演にあったと指摘する。アチソン氏はアジアにおける米国の「防衛線(アチソン・ライン)」に言及し、朝鮮半島はその防衛線の外にあると示唆したのである。

 北朝鮮の当時の指導者だった金日成氏は、この発言から米国は明らかに韓国を防衛しない方針なのだと読み取った。それから5カ月後の6月25日、北朝鮮の大軍が北緯38度線を越え、韓国に侵攻した。

 しかし、金氏は読み違えていた。米国は参戦したのだ。この朝鮮戦争で、少なくとも何十万人もの命が失われ、後に米軍と中国軍が直接衝突する事態にまで発展した。しかも、この戦争は公式には終結していない。今日に至るまで正式な平和協定が結ばれないまま、朝鮮半島の和平は停戦協定のもとで保たれているにすぎない。

 

 アチソン氏の発言には無頓着さが表れていたが、トランプ米大統領の発言からわかるのは決意だ。トランプ氏は何としても北朝鮮の核開発計画を阻止すると公言しており、先制攻撃をも辞さないとの考えを強く示している。

 一方、北朝鮮が再び予想外の動きに出る危険性があることも明白だ。金氏の孫である現在の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、祖父の軍国主義と孤立主義、偏執的な面を受け継いでいる。もし正恩氏が、米国が本気で北朝鮮への攻撃を考えていると判断したら、自分の方から先制攻撃することを考えるだろう。というのも、米国の戦争遂行計画には、早い段階での正恩氏の殺害が含まれているとの報道があるからだ。そうした話は、先に動こうという正恩氏の考えを一層、強めるだけだ。

 北朝鮮の最近の軍事訓練を見れば分かる通り、同国の軍事戦略は、核兵器を先制使用することで自国の敗北や壊滅を回避するというシナリオを想定している。米国の軍事専門家、ジェフリー・ルイス氏は最近、米誌「フォーリン・ポリシー」の電子版で次のように書いた。「正恩氏の戦略は核兵器の早期使用を念頭に置いている。つまり、米国が自分を殺害する前に、あるいは米軍特殊部隊が北朝鮮のミサイル関連施設を発見する前に核を使うということだ。……戦争するなら、先制攻撃が必要というわけだ」

 北朝鮮はまだ、米西海岸を射程に入れた核弾頭搭載ミサイルの開発を終えていないが、韓国や日本に核弾頭を落とせるミサイルは保有している可能性が高い。加えて、北朝鮮国境から35マイルほど(約56キロ)しか離れていない韓国の首都ソウルは、通常兵器による集中砲火を浴びれば壊滅する危険が高い。日韓両国は、北朝鮮が化学兵器を使用する可能性も強く懸念している。

 トランプ氏が北朝鮮への攻撃の可能性をなぜ強くにおわせているかといえば、中国に圧力をかけて同国のいわば属国である北朝鮮に「核開発を諦めさせる」ためだ。この戦略はうまくいくかもしれない。中国政府は北朝鮮情勢に警戒を強めていることを隠していない。そのため今後、北朝鮮政府に一段と強力に圧力をかけるかもしれない。

 同時に、金正恩政権はその傲岸不遜な振る舞いからは到底、うかがえないが、実はおびえており、核開発計画を凍結することも考えられる。

 

 確かに、トランプ政権の強気な戦略が奏功するシナリオも考えられるが、それ以上に北朝鮮が一歩も引かないという可能性が高い。その場合、トランプ政権の戦略は失敗することになるだろう。

 そうなれば、トランプ氏はジレンマに直面する。同氏の言う「極めて強力な艦隊」は、任務を完了しないまま朝鮮半島から離れてしまうのか。あるいは、米国は中国と協力して北朝鮮への経済制裁を強化し、それをもって、トランプ政権が約束してきた「断固たる行動」だと主張するのか。

 トランプ氏は臆することなく平然と前言を翻し、政策を切り替えることができる人物だ。それゆえ、北朝鮮からあっさり手を引くこともあり得る。さもなくば、現状を政権がこれまでずっと追い求めてきた「劇的な変化」だとして受け入れる可能性もある。

 ただ、トランプ氏が北朝鮮に先制攻撃をすることが有効な選択肢だと確信していることも考えられる。そうした判断は、米政府の軍事顧問の標準的な考えとは相いれない。軍の考え方からすると、最初の一撃で北朝鮮の複数の拠点に分散している核施設を「無力化」することは不可能であり、そのような攻撃をすれば、韓国、日本およびこの地域の米軍基地が報復を受ける危険にさらされることになるからだ。

 

 米軍は北朝鮮への先制攻撃が引き起こすこうしたリスクについて、十分認識している。米陸軍中将であるマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が自著の中で、ベトナム戦争中に政治家たちに率直に助言しなかった米軍の将校たちを厳しく批判していることは、心強い材料だ。

 だが、政権発足直後から波乱に満ち、今日に至っているトランプ政権は、軍事行動を起こすことこそが有権者に公約した自らのイメージを「勝ち取る」ことにつながると判断する危険性がある。6日のシリア爆撃で、トランプ氏は共和党からも民主党からも喝采を受けた。その直後の13日にはアフガニスタンに通常兵器では最強の破壊力を持つ大規模爆風爆弾(MOAB)を投下した。この時、トランプ氏の息子、トランプ・ジュニア氏は大喜びでツイッターに投稿した。爆弾の絵文字付きでだ。

 トランプ氏の側近の中には、政権が本気で北朝鮮への先制攻撃を計画していると信じる者が複数いる。しかし、もし正恩氏が同じ結論を出していたとしたら、正恩氏が先に核の引き金に手をかけるかもしれない。

(18日付)



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