Financial Times AI 中国決断と米の油断 ワシントン・ コメンテーターエドワード・ルース 2017/11/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「Financial Times AI 中国決断と米の油断 ワシントン・コメンテーターエドワード・ルース」です。





 60年前、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げて世界を驚かせた。この時、トランプ米大統領は11歳の少年だった。ソ連の優位性を見せつけられた米国は衝撃を受け、科学技術開発にソ連を上回る予算を注ぎ込んだ。そのことがやがて、インターネットや全地球測位システム(GPS)を生み出すことにつながった。

 中国が7月、2030年までに世界の人工知能(AI)産業でトップに立つという計画を明らかにしたことは、今日のいわば「スプートニク・ショック」といえる。だがあの時とは全く異なり、この中国の発表は71歳になったトランプ米大統領の耳をあっさり素通りしたようだ。恐らくツイッターの投稿に忙しすぎて気づかなかったのだろう。

 だが、AIに懸ける中国の野望は、長期的には米国の安全保障にとって北朝鮮の核兵器が米国本土を射程に収める以上に重大な脅威となる。北朝鮮政府は、核を使えば自国が確実に壊滅することになると明言すれば恐らく抑え込める。だが、「米国をりょうがする」という中国の目標には、特に目立つ障害は存在しない。

 ロシアのプーチン大統領は9月に、「誰であれ(AIの分野で)リーダーになった者が世界の支配者になる」と発言した。これは、中国政府が7月にAIの分野で20年までに米国と肩を並べ、25年までに追い越し、その5年後には世界のAI産業を支配するとの長期計画を発表したことを受けた発言だった。

 

6月、中国の全国統一大学試験「高考」の数学の問題に中国のAI「AI‐MATHS」が挑戦したところ、22分で終え150点中105点を記録した=ロイター

 米国の先端をいく技術者たちは、中国は野望を恐らく実現するとみている。米グーグルの親会社である米アルファベットのエリック・シュミット会長は11月1日、「ちょっと立ち止まって考えてほしい。中国政府がそう言った以上、彼らはやるということだ」と述べた。

 スプートニク打ち上げの時と異なり、中国が特定の何か一つをなし遂げたら米国を抜いたことになるわけではない。だが両国の動向を注意深く追っている者には、中国と米国の動きは極めて好対照だ。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、テレビで中国がAIで優位に立つことは戦略的目標だと語ったが、トランプ氏が米国の大志について語ったことはない。だが彼の予算案を見れば何を考えているかは分かる。米国の情報システムに投じる公的資金を11%減らし、連邦政府全体の研究開発費を20%削減したいと考えている。米航空宇宙局(NASA)の予算も縮小される。

 同様にトランプ氏は合法的に流入する移民数も半減させたいと考えている。これは世界最高峰の研究者を集めてきた米国の力に大打撃を与えるだろう。有能な研究者には永住権を与える方が、はるかに理にかなっている。グーグルが主催するプログラミングのコンテストでも中国人学生が優勝することが多い。

 「中国の教育システムでは、私が今話しているような革新的発想ができる学生は生まれない、という偏見をもっているとしたらそれは間違っている」とシュミット氏は指摘した。

 

 米国は、トランプ氏の近視眼的な思考を乗り越えて優位を維持できるだろうか。十分にあり得ることではある。米国のIT(情報技術)大手は今なお世界をリードしている。しかし中国との差は縮まりつつある。

 中国には強みが2つある。まず、オンライン決済されている経済の規模が米国より大きい。世界の電子商取引の40%が中国国内でなされており、その大半はアリババ集団、騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)という中国IT大手3社経由の取引だ。これら大手は、取引を通じて入手した膨大なデータを、法的な制限をほぼ受けずに好きなように扱える。

 中国のIT大手は規模も圧倒的に大きい。騰訊の時価総額は20日に5000億ドル(約56兆円)を突破し、その後米フェイスブック(FB)をも抜いた。オンライン決済や画像認識、音声ソフトウエアなど一部の分野では、中国のIT各社は既に米シリコンバレーのライバル企業を抜いている。自動運転技術でも猛スピードで米国に追いつきつつある。こうした技術は、ほぼすべて軍事目的に転用可能だ。AIを使い大量のドローン編隊を組めば兵器にもなる。

 中国の第2の強みは、官民が一体化している点だ。徹底した自由主義経済を求める者には、欠点に映るかもしれないが、思い出してほしい。シリコンバレーの興隆は、アイゼンハワー大統領(当時)が莫大な資金を投じたことが大きい。中国政府も同様に今、ディープラーニング(深層学習)技術で卓越した立場を確保しようと助成金を投入している。

 しかも、中国のデジタル分野はますます自己完結しつつある。マイクロプロセッサーだけは今なお米国がリードしているものの、ほとんどの電子機器は中国内で生産しているため、世界のサプライチェーンに何か問題が起きても影響を受けにくくなっている。仮に世界で貿易戦争が発生しても、中国はさほど影響を受けずに着々とAI開発を推進できるだろう。つまり、中国がグーグルやFB、ツイッターなどを国内から締め出していることには理由がある、ということだ。

 

 航空宇宙技術の開発についても同じことがいえる。米国の核兵器の責任者、ハイテン戦略軍司令官は18日、大統領からの「違法な命令」は拒否すると発言し、物議をかもした。だがこれは、規則に定められていることを述べたにすぎない。同氏の発言でより衝撃的だったのは、21世紀に入って以降、中国の軍事技術が飛躍的な進歩を遂げているというコメントだ。

 中国の航空宇宙技術開発力については、かつてのソ連のミサイル装備と同様に「実は大したことはない」ということではないかと問われた際、ハイテン氏はこう答えた。「私の見る限り(中国とロシアは)、宇宙においては米国が全く太刀打ちできなくなりそうなほど積極的に軍事力を高めている」

 各国の政策の優先順位を知りたければ、その国の予算を見ればいい。トランプ氏が何より熱望しているのは、米国の法人税率を20%に下げることだ。アイゼンハワー時代の所得税の限界税率は90%に達していた。それでも、米国は官民とも創意の足を止めることなく、ソ連との主導権争いを続けた。

 今日、米国は世界の技術を主導する立場にある。だが、トランプ氏が操縦席に座っている限り、将来はかなり異なった風景になる可能性がある。(23日付)

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