2015/02/21 本日の日本経済新聞より「景気好循環への助走 (下)世界経済 米消費が支え 中国・欧州に波乱の芽」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合2面にある「景気好循環への助走 (下)世界経済 米消費が支え 中国・欧州に波乱の芽」です。





 フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードが作った米ミシガン州の巨大工場が昨年11月、数十年ぶりに生まれ変わった。投資額は8億4300万ドル(約1000億円)と自動車工場をひとつ新設できる規模だ。

米フォードの新型ピックアップトラックは販売開始以来、絶好調だ(ニューヨーク市郊外のフォード店)

米新車が活況

 ここで生産するピックアップトラックの新モデルの売れ行きは年末の販売開始以来、絶好調だ。2月上旬、ニューヨーク市郊外の販売店には展示車もなかった。早速フォードは1000人以上雇って増産する。

 ガソリン安を追い風に米国の1月の新車販売は9年ぶりの高水準となった。国際通貨基金(IMF)の1月の予測では、米国の2015年の実質成長率は3.6%に高まる。実現すれば10年ぶりの3%成長となる。

 米国の旺盛な内需の恩恵は日本にも届く。1月の米国向け輸出額は前年比17%も伸びた。販売の6割強が北米向けの富士重工業は今期に過去最高の連結純利益を見込む。米国向け輸出増の効果で10~12月の国内総生産(GDP)は前期比の伸びの3分の1が海外需要だった。

 IMFの予測では15年の世界の実質成長率は3.5%と14年より0.2ポイント高まる。米国の高成長が中国の減速を補うという見立てだ。ただ、米国はシェールガス革命や製造業の国内回帰の影響で輸入増の勢いは鈍い。消費が活況でも以前ほど他国の外需に波及しない。

 米国外にもリスクは潜む。一つは減速する中国経済が軟着陸できるかどうかだ。

 「平日の残業もほとんどない」。コマツの中国工場で、ため息が漏れる。中国の油圧ショベル販売は前年と比べ3割超の減少が続く。例年は地方政府が新年度予算を執行し始める春節(旧正月)明けがかき入れ時だが、今年は活気が乏しい。

海運市況は不振

 7%程度への成長鈍化を「新常態(ニューノーマル)」と容認する習近平指導部が公共事業のアクセルを踏む気配はない。金融市場では、2月に金融緩和したばかりの中国人民銀行が追加緩和するとの観測が早くも浮上している。

 資源の輸入大国である中国の減速で、鉄鉱石など資源を運ぶ船の運賃市況を示すバルチック海運指数は過去最低水準で推移している。資源輸出に頼る新興国の経済の足取りも重くなっている。

 より深刻なリスクはデフレの瀬戸際に立つユーロ圏だ。欧州中央銀行が量的金融緩和を決めたことで金融市場は小康を保っているが、ギリシャの債務交渉やウクライナ問題は長期化しつつある。想定外の事態が起これば、市場の動揺が広がる可能性がある。

 もう一つの波乱の芽は米国の金融政策だ。景気が好調な米国は今夏にも金融引き締めに転じるとみられている。量的緩和を続ける日欧と米国の金融政策が逆向きになると、金融市場で思わぬ混乱を招きかねない。

 世界経済が安定成長を続ければ日本の外需が伸び、自律回復の好循環に移れる。そのリスクとなる欧州、中国と米国の金融政策には目をこらす必要がある。

(景気動向研究班)

2015/02/20 本日の日本経済新聞より「大機小機 経済論議の三不思議」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「経済論議の三不思議」です。





 最近の経済論議で不思議なことが3つある。

 第1は、アベノミクス第1の矢の低評価だ。日銀の金融緩和政策については、いまだに誤解や低評価が絶えない。

 日銀のインフレ目標設定を「気合インフレ率」と評する向きもあるようだが、現在の日銀が行っている政策は世界の他の中央銀行が実行しているものだ。金融政策の目標は物価予想に働きかけることであり、だからこそインフレ目標を標準装備として各国の中銀はデフレ懸念がある時には非伝統的といわれる政策を実施している。1月22日に欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策に乗り出したのは例外ではない。

 確かに消費増税と原油価格下落の影響を見誤ったのは日銀の責任である。しかし、こうした過ちは取り戻すことができる。追加緩和をしたことは正しい。

 また追加緩和の副作用が目立つという意見もあるが、それは何か。就業者が増え、失業者が減り、倒産件数が減っている。円安で企業収益は好調であり、国内生産回帰の動きも起きてきた。これを金融政策の成果でないと言うことは難しいのではないか。

 不思議の第2は論壇での消費増税の論じ方だ。まるで腫れ物に触るかのごとき取り扱いである。例えば2月16日に発表された国民経済計算の一次速報では、内需、ことに消費、設備投資、住宅投資の回復の遅れが顕著だった。他方、輸出は伸びている。

 普通に見れば、消費増税の影響が長引いている一方、輸出については円安の効果が出てきたとなるはずだ。現に英フィナンシャル・タイムズ紙の17日付記事は、消費の弱さの原因として消費増税の影響を指摘している。しかし、我が国で消費増税の負の効果に触れる解説が少ないのはどういうことだろうか。

 不思議の第3は、普通の経済学がごく普通に経済を説明できることがないがしろにされていることだ。マクロ経済政策を緩和すれば景気は良くなり、引き締めれば景気は悪くなる。消費増税は実質所得を押し下げて消費を減らす。このことは別にケインズ理論の立場をとらなくても言える。

 金融緩和の正の効果は否定しながら、緊縮財政の負の効果を否定する。こういう議論にはかなりの無理がある。論壇の不思議が消えるのはいつの日だろうか。

(カトー)

経済論議の三不思議 2015/02/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「経済論議の三不思議」です。





最近の経済論議で不思議なことが3つある。

第1は、アベノミクス第1の矢の低評価だ。日銀の金融緩和政策については、いまだに誤解や低評価が絶えない。

日銀のインフレ目標設定を「気合インフレ率」と評する向きもあるようだが、現在の日銀が行っている政策は世界の他の中央銀行が実行しているものだ。金融政策の目標は物価予想に働きかけることであり、だからこそインフレ目標を標準装備として各国の中銀はデフレ懸念がある時には非伝統的といわれる政策を実施している。1月22日に欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策に乗り出したのは例外ではない。

確かに消費増税と原油価格下落の影響を見誤ったのは日銀の責任である。しかし、こうした過ちは取り戻すことができる。追加緩和をしたことは正しい。

また追加緩和の副作用が目立つという意見もあるが、それは何か。就業者が増え、失業者が減り、倒産件数が減っている。円安で企業収益は好調であり、国内生産回帰の動きも起きてきた。これを金融政策の成果でないと言うことは難しいのではないか。

不思議の第2は論壇での消費増税の論じ方だ。まるで腫れ物に触るかのごとき取り扱いである。例えば2月16日に発表された国民経済計算の一次速報では、内需、ことに消費、設備投資、住宅投資の回復の遅れが顕著だった。他方、輸出は伸びている。

普通に見れば、消費増税の影響が長引いている一方、輸出については円安の効果が出てきたとなるはずだ。現に英フィナンシャル・タイムズ紙の17日付記事は、消費の弱さの原因として消費増税の影響を指摘している。しかし、我が国で消費増税の負の効果に触れる解説が少ないのはどういうことだろうか。

不思議の第3は、普通の経済学がごく普通に経済を説明できることがないがしろにされていることだ。マクロ経済政策を緩和すれば景気は良くなり、引き締めれば景気は悪くなる。消費増税は実質所得を押し下げて消費を減らす。このことは別にケインズ理論の立場をとらなくても言える。

金融緩和の正の効果は否定しながら、緊縮財政の負の効果を否定する。こういう議論にはかなりの無理がある。論壇の不思議が消えるのはいつの日だろうか。

(カトー)



2015/02/18 本日の日本経済新聞より「迫真 金利異変(2)低くて高い2.5%社債」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「金利異変(2)低くて高い2.5%社債」です。





 「金利2.5%? そんなに低いなんて信じられない」。昨年12月19日と今年2月9日、立て続けに個人向け社債を発行して計8500億円を調達したソフトバンク。拡大路線を「金庫番」として支える取締役の後藤芳光(52)は、投資家訪問した米国と欧州で驚かれた。

ソフトバンクは巨額の資金調達をテコに成長を目指す(10日、決算発表する孫社長)

 今回の7年物社債は「劣後特約付き」で、普通社債などより返済順位が後回しになる。破綻すれば元本が目減りするリスクが大きく、米国などの劣後債では2ケタ金利も珍しくない。

 長期金利が史上最低の日本ならではの条件。まとまった資金が欲しい同社には2.5%は魅力的な「低さ」だ。後藤は「歴史的な低金利局面。長期資金を貪欲に取りにいく」と話す。

 このソフトバンク社債に大勢の投資家が飛びついた。「瞬間蒸発」――。証券会社の社債担当者は、条件決定後すぐに売り切れる人気ぶりを、こんな業界用語で言い表す。大和証券では1人で1億円買った客もいた。

 今月発行の4500億円のうち840億円を完売した大和の債券営業部副部長、岡村洋之(47)は「魅力的な利回りに関心が集まった」と説明する。同時期に出た住友不動産の7年債は0.392%。7年間ソフトバンクは潰れないと思えば、金利の「高さ」は圧倒的だ。

 2.5%は低くもあり、高くもあるという矛盾する相場観。金利異変が生んだ現象だ。

 「30年債で悩むとは」。東京ガスの最高財務責任者、吉野和雄(64)は苦笑いする。社債金利は、基準となる国債利回りに会社の信用力に応じた金利を上乗せして決める。期間が長いほど金利は高い。高格付けで上乗せが小さい東ガス債は、30年国債の利回り低下に伴って社債金利が抑えられてしまうため、投資家が集まらず発行できない。

 2年国債がマイナス金利になるなど、短期の社債への影響はもっと深刻だ。「通常の条件決定方式が難しくなった」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券デット・キャピタル・マーケット部長の諏訪一(49)は、社債金利の下限を先に決めて企業と投資家の希望を擦り合わせる手法を新たに取り入れた。

 投資家に買ってもらえそうな金利にしようとすれば、必要以上に上乗せ分を払わなくてはならない場合もある。高くつくなら無理はしない。機関投資家向けの3年物社債は2カ月以上も途絶えたまま。市場の機能が低下し始めている。

(敬称略)

2015/02/17 本日の日本経済新聞より「迫真 金利異変(1)家計の味方か」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「金利異変(1)家計の味方か」です。





 東京湾を一望する東京・晴海の49階建てタワーマンション。高層の3LDKを昨年暮れに購入した立川和夫(53、仮名)は全額を手元資金で賄う当初計画をやめ、あえて3000万円の住宅ローンを組んだ。

住宅ローンは減税制度も使えば事実上のマイナス金利も

 立川の借り入れ条件は変動金利で年0.775%。初年度の利息は23万円だが、住宅ローン減税を使えば約30万円の税金還付がある。差し引きの7万円は借り手がお金をもらえる事実上のマイナス金利だ。資産運用が趣味の立川は考えた。「手元に残った3千万円で内外の株や債券に分散して投資すれば年100万円の利益も夢ではない」

□  □

 低金利の円資金を調達して高金利通貨で運用するキャリートレード。機関投資家の常とう手段だが、マイナス金利も味方につけた立川の手法はまさに住宅ローン版キャリートレード。ファイナンシャルプランナー(FP)の藤川太(46)は「繰り上げ返済をやめて資産運用に回す人が増えている」と言う。

 お金の値段を示す金利が異常な低水準でさまよっている。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは今年1月、一時史上最低の0.195%まで下げた。起点となった異次元緩和を主導する日銀総裁の黒田東彦(70)は「名目金利が下がっていくことは政策の効果だ」と言い切る。

 奈良県大和高田市に住む中本幸秀(45)は10年前に借りた住宅ローンの借り換え手続き中だ。残債は約1680万円。新しい借入金利は1%を切り、返済額は月1万円強減る。「消費税も上がったしね。高校に進学する子どもの学費に充てたい」と中本は言う。

 日銀によると、住宅ローン残高は約115兆円。借入金利が1%下がれば家計が使えるお金は1兆円以上増える。「浮いたお金でハイブリッド車を買ったわ」。この7年で2度住宅ローンを借り換えた千葉市の主婦はこう言う。金利低下が家計の活動を刺激すれば日本経済の歯車は回りやすくなる。

 だが、金利低下が進むほど危うさも目立ってきた。長期金利は2月に入り反発。わずか3週間で2倍の0.4%に上がった。「頭金ゼロで変動金利の住宅ローンをめいっぱい借りる個人が心配だ」と語るのはFPの紀平正幸(73)だ。

 金利0.775%なら、毎月10万円台の返済がぎりぎりの人でも35年返済で4千万円借りられる。しかし、3年後から金利が段階的に2%上がれば返済額は15万円弱に膨らむ。なんとか返済を続けても、老後のお金が足りなくなる恐れもある。

 「住宅ローン業務に関する調査」。1月下旬、全国の銀行に金融庁からこんなペーパーが送られてきた。ローン実行額や平均金利、返済遅延率に加え、2030年度までの長期収益の予想を示すよう求める緊急調査だ。

 四半世紀前のバブル期。貸出先に困った銀行は不動産担保の価値を甘めに見積もり大企業向けの低利融資を競った結果、不良債権の山をつくった。「今、家計向け融資で同じようなことが起きていないだろうか」(金融庁幹部)。借り手の収入に対する住宅ローン残高の倍率はこの10年で最高水準になっている。

 真実は細部に宿るのかもしれない。「わずか半年でこんなに条件が緩くなるとは……」。都内の会社員、狩山誠(仮名、57)は1月、無担保個人ローンを勧める銀行の条件に驚いた。

 個人ローン市場は融資残高で8兆円ほどの小さな市場だが、12年6月に増加に転じ年10%近い伸びを示している。海外出張が頻繁な狩山は自由に出し入れできる口座が必要で、ある銀行から700万円を金利9%で借りていた。昨年後半からメガバンクを含む3つの銀行から勧誘が相次ぎ、金利は半年で3.5%まで下がった。

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 「複数の部署から電話をかけてくる銀行もある」と狩山。集めたお金の運用先に悩む銀行が、他行だけでなく自行内でも貸出先を奪い合う。それが金利の低下に拍車をかける構図だ。

 変動金利で3000万円を借りた立川はこんな計算もしている。「金利上昇時には株価も上がるはず。もし金利が上がれば資産を売って完済できる」。シナリオ通りに進むだろうか。危うさをはらみながら、金利の異変が家計に本格的に及ぼうとしている。

 経済の体温を示す長期金利は1619年のイタリアのジェノバでつけた1.125%が世界史に残る最低記録とされてきた。1998年に日本が379年ぶりに最低を更新してから17年。短期金利のマイナスが日常となった日本では、金利の振れも日を追って激しくなってきた。未踏の領域をさまよう金利の異変を追う。

(敬称略)

2015/02/17 本日の日本経済新聞より「経営書を読む フェファーら著「なぜ、わかっていても実行できないのか」 (2)計画だけで未来は来ない」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のキャリアアップ面にある「フェファーら著「なぜ、わかっていても実行できないのか」 (2)計画だけで未来は来ない」です。





 「計画だけで未来はやってこないのだ」と本書の著者、フェファーらは断言します。何か行動を起こすために議論し、計画を練り、データを収集し分析する、といった作業は必要です。組織はそうしたことをするために存在するとも言えます。

 しかし、フェファーらは「多くの組織が話し合っただけで行動した気になってしまう」と指摘します。問題点を綿密に話し合い、対策について全員が賛成するまで徹底的に議論を重ねるうち、問題が解決したような錯覚に陥るケースは少なくありません。意思決定した内容が実現したかどうかを確かめるメカニズムが欠けているのです。

 進捗状況や成果を確認するプロセスにも注意が必要です。会議やリポート作成のための時間ばかりが増え、Eメールを読むので精いっぱい、というのでは肝心の作業が進みません。

 特にマネジメントの間では、気の利いた発言や発言の多さばかりが評価されがちなことも指摘しています。声の大きい発言はその場で認められるが、行動した結果が評価されるには時間がかかるからです。難解な専門用語でステータスを誇示したり、批判的な発言をしたりすることで相手より優位に立とうとする、という人もいるでしょう。

 意思決定を現場の行動に確実につなげるため、「知識もあり、仕事もするリーダー」の存在が必要だと、フェファーらは主張しています。リーダーが伝える原理原則は単純明快な方が良く、組織が大きくなるほど、その方が末端まで確実に伝わり、実践可能なものとなります。

 過去のやり方にこだわると、積極的な行動ができません。人も組織も、成功体験を重ねると満足して学習意欲を失いがちですが、将来の行動を過去に照らして判断していたのでは、革新的な製品やサービスは生まれません。前例を乗り越える勇気を持つこと、組織がそれを許容する雰囲気を持つことが重要なのです。

(ケーススタディーなど全文を「日経Bizアカデミー」に掲載)

2015/02/17 本日の日本経済新聞より「経済教室 財務戦略より利益拡大を ROE、万能にあらず 宮川壽夫 大阪市立大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「財務戦略より利益拡大を ROE、万能にあらず 宮川壽夫 大阪市立大学教授」です。

ROEを重視した経営がなぜ不適切なのか、分かりやすく解説された記事です。





 株式会社という仕組みは便利だが、危険に満ちている。ひとたび経営者となれば小口で大量の資金を集め、ヒトとモノを支配下に置き事業を始められる。経営者に才覚があれば、それらの資源を最大化し、一国の経済成長に貢献する。才覚がなければ、大きな非効率が生じ、修正は容易ではない。その深刻さは1社の問題にとどまらない。

 出資金の源は年金や個人の資金であり、一般労働者の将来生活を担保する財産を意味する。誰が限られた資源を最大化できるのか、つまり誰に支配を任せるべきか、そのシンプルな判断基準の一つが自己資本利益率(ROE)だ。

 ROEは当期純利益を、株主が出資した自己資本で割る。分子の当期純利益は株主が受け取る額、すなわち債権者への利息や税金が全て支払われた後の純粋な株主の取り分である。株主には自分が出資した資本をどれくらい増やせる企業なのか、企業には出資を仰いだ株主にどれだけ報いることができるのか、その能力を万人に示す指標だ。

 ただし、ROEはモノサシにすぎず、目的ではない。株式会社の目的は企業価値の最大化だ。企業価値とは企業が将来獲得すると予想されるキャッシュフローを資本コストで割り引いた現在価値をいう。割り引く資本コストは、予想したキャッシュが獲得できないリスクの見返りとして、出資者が企業に課した最低限のハードルを意味する。

 したがって出資者は資本コストに見合うリターン(収益)を企業に要求し、企業には資本コストがノルマとなる。企業価値は分子の予想キャッシュが増えるか分母の資本コストが低下しない限り、拡大することはない。企業が価値を創造するのは、資本コストを上回るリターンを生む事業機会に投資し、キャッシュを獲得する場合のみだ。

 ROEを改善しようと思えば、自己資本を縮小すればよいかにみえる。しかし、その手法によって企業価値の拡大につながることを期待するのは、明らかに間違っている。企業価値の拡大は獲得する予想キャッシュの現在価値を高める以外に方法はない。

 よく耳にする誤解は、自己株取得によって自己資本を減少させ、負債を増やしてレバレッジ(負債をテコにした資産拡大)をかければ、コストの高い自己資本の比率が低下し、加重平均した資本コストが低くなるというものだ。社債を発行して自己株取得をすればROEは改善し、EPS(1株利益)も増加して2度おいしいというわけである。

 確かに自己株取得で1株利益を増やせば、PER(株価収益率)が一定なら株価は上昇するだろう。しかし、そうは問屋が卸さない。負債比率が高まると株主が得るキャッシュフローの不確実性が高まるため、株主はより高い資本コストを要求することになる。その結果、株価次第でPERは低下し、1株利益の上昇は打ち消される。

 資本構成を変えても、企業が獲得する将来のキャッシュが増えない限り、企業価値の創造は起こらない。これが原則だ。負債には節税効果がある。また、収益性が高い企業が負債を調達してさらに事業を拡大することで、獲得するキャッシュの増加が事業リスクの上昇を上回るならば、企業価値は拡大する。財務戦略は極めて重要だが、企業価値との関係を正しく理解し、自社の事業に整合的な手段を各企業で考える必要がある。

 日本企業の現状をデータでみてみよう。ROEは売上高利益率、総資産回転率(売上高/総資産)、財務レバレッジ(総資産/自己資本)に分解される。筆者が過去30年を分析したところ、ROEに影響を及ぼすのは売上高利益率がほとんどで回転率やレバレッジの説明力は極めて低い。財務戦略を変えても実際の効果には限界があるようだ。

 図は、より本業の成果に近い営業利益を用いた総資産利益率(ROA)の推移を示した。ROAはROEの重要な構成要素であり、売上高利益率と総資産回転率に分解できる。そこで縦軸に売上高営業利益率、横軸に回転率をとり、国内全上場企業の過去30年(1985~2014年の中央値)の推移を線で結んだ。ROAが3~6%となる利益率と回転率の組み合わせを示した無差別曲線も加えた。

 00年までは回転率が悪化していき、プロットは徐々に左に移動した。回転率は00年の1.0回近辺で底を打ち、その後は、線が縦に大きく上下している。回転率の悪化が止まり、売上高利益率が大きく動くことによって、ROAが変化していることがわかる。

 この図から、標準的な日本企業は、回転率1.0回がほぼ定常状態であり、営業利益率5%が当面の壁とすると、ROAは5%(税引き後で3%)が限界となる。税引き後の営業利益ベースで2ケタのROEを達成するための自己資本比率は30%程度と計算され、これは日本企業にとってかなりのハードルだ。

 現状では日本企業のROEが平均で10%に迫ることはほぼ不可能だろう。ROEを改善するうえで財務戦略の工夫や資産のリストラは引き続き必要な条件だ。しかし、それ以上に売上高利益率という本業のビジネスモデルへの対応が根本的問題といえる。

 ROEは、資本コストとの比較に意味がある。リスクを上回るリターンを獲得したとき、企業価値が創造される。リターンであるROEの絶対値が高い企業はそれだけリスクも高い。株主はリスク以上のリターンが稼げない経営者には資本を委託しない。

 そこで問題はROEが資本コストを上回っているかどうかにある。結論だけを示せば、株価モデルを展開すると資本コストとROEが等しい企業のPBR(株価純資産倍率)は1になることが証明できる。つまりPBR1倍割れはROEが資本コストを下回っていることを意味する。

 筆者の分析では、14年9月末のデータが取得可能な国内上場企業約2300社のうちほぼ60%がPBR1倍割れとなっている。つまり、日本の株式市場にはビジネスリスクに応じたリターンを獲得できていない企業が、それだけ上場しているというわけだ。

 しかもROEが資本コストを上回るほど株価も上昇するというのが株価モデルの理屈だが、ただ、筆者の最近の研究によれば、日本企業の場合、PBR1倍割れの企業はROEがいくら改善しても株価に反応しないという「PBR1倍の非対称性」が実証されている。すべての企業がROE自体を上昇させればいいというわけではないのだ。

 ROEは、それを高めるための具体的な事業戦略なしに経営目標とするには単純にすぎる。低ROEが日本企業に突きつけているのは、それぞれのビジネスリスクに応じた社会的要求を満たすだけの基礎体力がないという現実だ。

 だとすれば、株主との対話も大事だが、そもそも日本企業が長年「走りながら考えてきた」伝統的ビジネスモデル自体を根本から改めて見直す余地はないだろうか。そのうえで経営者は「将来どのような会社になりたいか」という夢でなく「そのような会社になれる合理的な理由は何か」をじっくり思考したい。

 一方、経済社会が事業に要求するハードルを越えられない企業、つまりサステナブル(持続可能)ではない企業が半数以上を占める日本市場の存在は尋常ではない。逆説的だが、これは単に企業の努力不足という一点だけでは説明がつきにくい。ROEの数値のみを眺めるのではなく、多面的な解明が求められるミステリーといえる。昨今のROEブームが突きつけているものは一筋縄ではなさそうだ。

<ポイント>○ROE向上でも企業価値拡大とは限らず○資本コストを上回るリターンが最重要に○ROEが資本コスト割る企業が多く問題

 みやがわ・ひさお 60年生まれ。筑波大博士(経営学)。専門は企業金融の実証研究

2015/02/16 本日の日本経済新聞より「グローバルオピニオン イスラムに広がる「屈辱」 仏国際関係研究所特別顧問 ドミニク・モイジ氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「イスラムに広がる「屈辱」 仏国際関係研究所特別顧問 ドミニク・モイジ氏」です。

日本の人口ピラミッドが人工オーナスに陥っている中で、労働者の多様な働き方を認めるだけでは底上げが難しいとの議論の延長線上で、外国人労働者の活用について議論がされています。欧米諸国にはかつて奴隷制度があったこともあり、異文化を比較的受け入れやすい素地があったと考えられ、日本と比べ、広く移民を受け入れてきました。しかし、この記事によると、連帯は受容となっておらず、心理障壁が政治、経済、性、文化で表面化しているとのことです。

わが国では異文化を取り入れ、戦後成長につなげました。しかし、日本には、はるか昔から身分上の差別制度が存在し、今でも同和問題として社会に存在していること否定できません。日本に移民の異文化を受容できるだけの素地があったとしても、乗り越えるには欧米以上の社会問題が生じるのではないか、このように懸念されます。





 フランスの風刺週刊紙シャルリエブドへの襲撃は「フランスの9.11」といえる。標的は米国の(国際テロ組織アルカイダによる同時テロ事件の)9.11が「ニューヨーク、資本主義、ツインタワー」で、フランスの事件が「パリ、表現の自由、メディア」だった。規模は異なるが、いずれも象徴的な意味があった。

 フランスは事件後、国民の「同化」、つまり連帯、平等に問題があると気づいた。バルス首相が都市郊外の貧しい一帯を「アパルトヘイト(人種隔離)状態」と指摘したことは驚きだが、現実である。

 2005年に仏各地で移民系の若者らの暴動が起きた際、教え子の1人が背景を説明してくれた。(若者らは)政治、経済、性、文化という4つの側面で疎外されているという。路上で話しているだけで警察官の職務質問を受ける。(移民とわかる)名前で郊外に住んでいるだけで就職できない。将来が見えないから結婚相手が見つからない。どの都市も美しいが、自分たちのためではない。あれから状況はさらに悪化している。

 フランスは(公の場で宗教色を排除する)ライシテ(政教分離の原則)を掲げているが、これ自体が宗教だともいえる。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教に次ぐ第4の宗教というわけだ。ほかの宗教と同じく非寛容になり得る。

 政教分離は教会が非寛容で抑圧的だった時代の産物だ。思想家ボルテールがいた18世紀末のあたりは、宗教がいまほど広まっていなかった。21世紀の現代の方が宗教の存在感は大きい。物質文明が発達し、格差と不平等が広がり、多くの人が自分の価値やアイデンティティーを測る基準を求めているためだ。だから(政教分離の原則があるからといって)イスラムの人たちを侮辱すると、穏健派の人たちは離れ、過激派は増長する。

 (恐怖、屈辱、希望という感情の文化がどう世界を変えるかという)私が定めた類型に照らせば、アラブのイスラム世界は「屈辱の文化」だ。それが欲求不満の若者に人生の意味を与え、熱狂させる。

 欧米では恐怖の感情が高まっている。中東の屈辱の文化は「(反政府運動)アラブの春」の失敗で増幅され、チュニジアを除きイスラム原理主義が広がり、地域が不安定になる「冬」につながった。

 アジアでの希望はやや後退した。経済状況は以前ほどよくないし、新たな紛争のような状況が起きる恐れがある。日中首脳会談で両国が歩み寄る兆しはみられるものの、日韓関係はなお緊張している。

 感情だけで世界を語るのは傲慢な考え方だとは思う。そのほかに安全保障、経済、不平等という要素を考慮に入れなければいけないが、感情を語らずに最近の世界は理解できなくなっている。

(談)

Dominique Moisi フランスを代表する国際政治学者。仏国際関係研究所の設立に参加。パリ政治学院教授など歴任。欧米メディアに幅広く寄稿。68歳。

2015/02/16 本日の日本経済新聞より「月曜経済観測 ドラッグストア、消費変化は 訪日客、新たな市場生む マツモトキヨシ社長 成田一夫氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・経済面にある「ドラッグストア、消費変化は 訪日客、新たな市場生む マツモトキヨシ社長 成田一夫氏」です。





 消費増税は先送りとなったが、消費者の節約志向は根強い。ドラッグストア最大手、マツモトキヨシの成田一夫社長に化粧品や日用品などの市場に映る消費の変化を聞いた。

反動減が長期化

 ――売り上げ動向から見た個人消費の動きはどうですか。

 「2014年4月の消費増税の後遺症がかなり影響した。増税前の3月に半年分の化粧品を購入した人もいた。当初、駆け込み需要の反動減は3カ月ぐらいで収まると想定していたが、梅雨は長く、大型台風もたくさん発生し、長期化した。しかも地方経済が不況色を強め、既存店売上高のマイナスが続いた」

 「地方の既存店売上高はマイナスのまま。ただ、首都圏の既存店売上高は12月に回復し、今はプラスに転じている。インフルエンザが流行したこともあり、足元では医薬品などの売れ行きはまずまずだ」

 ――回復の理由は。

 「大きかったのは訪日外国人の増加に伴う市場の拡大だ。14年10月に免税対象品が化粧品にも広がり、ドラッグストアは恩恵を受けた。当社で訪日外国人が購入した金額を比較した場合、12年度を100とすると、13年度は200、14年度は途中ながら600になる。売上比率で見ても5%程度で、15年度には10%程度まで高まりそうだ。明らかに新しいマーケットが生まれた印象で、20年までは順調に成長するだろう

 「商品構成は化粧品と医薬品で95%を占める。グループで展開している1500店のうち、免税に対応した80店の売り上げは5割増だ。昨年末までは客の10%の外国人が売り上げの50%を占めた店もある。外国人客は来日前から購入する商品を決めているようで、1人が3~5箱を買って帰る。日本製品に対する安全・安心への信頼度が高いためだ。2月下旬にメーカーに対して、外国人消費の実態を説明し、専用商品の開発をお願いする

価格より機能

 ――少子高齢化が進む日本人の市場はどうですか。

 「首都圏だけを見ると、約1600円、約2700円で売っているオーガニックシャンプーやサプリメントなどが売れている。美と健康については価格より機能・効能を重視している。一方、トイレットペーパーなど日用品は相変わらず価格競争が激しい。特に地方店は価格志向が強く、食品を手厚くした低価格店舗への転換も始めている」

 「かつて若者がマツキヨへ行くことが一つのスタイルとして定着していたが、今はLINEなどを使った販促を進めないと、容易には反応しない。高齢者需要もまだ大きなボリュームではない。だが調査をすると腰や膝などの痛みを訴える声が多く、購買分析を反映した対応が必要だ」

 ――今後の市場拡大の条件は。

 「少なくとも首都圏については5月には回復軌道に乗るとみている。医療費削減の観点から店頭での血液検査などが可能になった。中長期的には規制緩和でこうした検査項目が増え、サプリメントなどを適切に提供できれば、ドラッグストアの役割は高まり、持続的に成長できる」

(聞き手は編集委員

中村直文)

 なりた・かずお カード会員の顧客情報を生かした営業を推進。64歳

2015/02/15 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 死亡率、地域で格差 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「死亡率、地域で格差 中川恵一」です。





 2013年の日本人女性の平均寿命は過去最高の86.61歳で、2年連続の世界一になりました。男性も80.21歳と初めて80歳を超え、4位でした。平均寿命とは0歳における平均余命のことで、その年に生まれた赤ちゃんが何歳まで生きるかの期待値です。

イラスト・中村久美

 日本人の平均寿命は、明治元年(1868年)で30代後半、大正元年(1912年)でやっと40代前半でした。平均寿命が50歳を超えたのは、第2次世界大戦後の1947年になってのことです。

 平均寿命が延びたのは、経済発展による栄養や衛生状態の改善とともに、がんなどの病気の死亡率の減少が大きな理由です。日本は男女とも「人生80年時代」に突入しましたが、がんの予防や治療がさらに進めば、平均寿命はさらに延びる余地がありそうです。

 ただ地域別では、平均寿命をはじめとする健康指標に大きなばらつきがあります。厚生労働省は5年に1回、都道府県別の平均寿命を公表していますが、2010年は長野が男性80.88歳、女性87.18歳でともに1位でした。長野は、男性が1990年から5回連続トップ、女性は今回が初の1位です。女性では、1975年からトップを誇った沖縄が3位に転落しました。

 沖縄は長寿県の代名詞で、1985年時点では男女とも平均寿命が1位でした。しかし、男性は1990年に5位、2000年は26位、2010年は30位と急降下しました。

 2010年の都道府県別で最も短命なのは青森県で、男性77.28歳、女性85.34歳です。男性は1975年から、女性も2000年から最下位です。長野と比べると、男性で3.6歳、女性で1.84歳短く、全国平均と比べても男性で2.31歳、女性で1.01歳の開きがあります。また、男女差は8歳を超えて全国最大で、男性の短命が目立ちます。

 がん死亡についても長野がベストで、青森がワーストです。都道府県ごとの年齢構成を考慮した人口10万人あたりのがん死亡数(年齢調整がん死亡率)は2013年で、青森が99.6人と、66.1人の長野より5割も多い計算です。

 がん死亡率にこれほど差が出るのは、がんの原因の半分から3分の2が生活習慣によるものだからです。長生きする生活習慣を持つ人は、がんで死ぬことも少なくなるわけです。(東京大学病院准教授)

日本経済新聞の本日の記事から