TPPと日本の進路 農業再生、最後のチャンス TPPと日本の進路(上) 2015/10/07 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「TPPと日本の進路 農業再生、最後のチャンス TPPと日本の進路(上)」です。





 世界経済の新たな秩序を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)が実現へと動き出す。これまでの通商ルールを大きく変える巨大な経済圏の誕生は、日本の成長を引っ張る産業と食を支える農業に変容を迫る。両分野の課題を点検する。

 参加12カ国の合意は知的財産や環境の保護など幅広く、日本にとってはとくに農業が交渉の焦点になった。これまで日本の農業は「海外と張り合えない」とされ、広大な農地を持つ国と貿易協定を結ぶのを難しくしてきた。今回ついに米国にオーストラリア、ニュージーランドという世界有数の農業大国も含む経済連携が実現した。

■バラマキの失敗

 合意により、牛肉やチーズなど多くの食品で関税が下がる。消費者や外食産業には、海外の食品を安く手に入れることができる利点がある。一方で安い海外の作物の流入は、国内の農業にとって逆風。最終交渉が開かれた米アトランタでは農業団体が自民党議員団の泊まっているホテルを訪ね「生産者に深刻な打撃になる」と陳情した。

 ではどうやって「深刻な打撃」を防ぐのか。安倍晋三首相は6日の記者会見で「TPPをピンチではなくチャンスにしないといけない」と強調した。だが日本には、農産物市場の開放を理由に膨大な予算を使っても、競争力を強化できなかった苦い経験がある。

 京都市の北の山あいに何年も使われていない2棟の栽培ハウスがある。建設に1億円以上かかったとみられるが、地元の農家によると「要らない備品にお金をかけすぎている」。1993年のガット・ウルグアイ・ラウンド合意への対策事業でつくった施設だ。

 コメ市場の開放を決めたこの合意で、与党は農村票が離反することを恐れた。「最低でも毎年1兆円」。中身を抜きに金額の話が進み、6年で6兆100億円の対策費が決まった。その結果、ずさんな計画でつくった施設が各地で放置され、“廃虚”となった。

 必要なのはこの教訓をTPPで生かすことだ。規模を広げて価格競争力をつける。外国産に負けない味を追求する。加工して付加価値をつける。形は様々だが、国際競争に向き合おうとする経営に政策の支援を集中するしかない。覚悟を決めた経営も登場している。

■大国に勝つ経営

 「顧客をつかめば絶対大丈夫」。北海道十勝地方で牧場を営む大野泰裕氏はそう話す。TPP交渉が始まってから力を入れたのは消費者への情報発信だ。そのために昨年開いたレストランは、32席の昼だけの営業で来店数が年1万人を超す。

 攻めの経営の原点は88年に決まった牛肉の輸入自由化にある。多くの農家が不安におびえるなか、大野氏は“敵情”を知るためにオーストラリアの大型牧場で研修した。「競争できる」。そう確信して規模拡大に挑み頭数を当時の70から4000まで増やした。

 逆に海外に打って出ようとする経営もある。新潟ゆうき(新潟県村上市)は昨年から本格的にコメの輸出に取り組み始めた。佐藤正志社長は近くシンガポールに商談に赴く。TPPでは日本以外の国の農産物関税を撤廃することも決まった。輸出には追い風だ。

 日本の農家はいまや6割強が65歳以上。間近に迫る彼らの引退で、広大な農地が耕作放棄される恐れがある。巨額の補助金をばらまいて、既存の構造を温存することはもう許されない。危機に立ち向かう経営を応援し、TPPを農業再生のチャンスにするしかない。

(編集委員 吉田忠則)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です